白いろ猫
設定ミスで連載作品になっていますが、短編です。
ご了承くださいm(_ _)m
〔1章 孤児院〕
い、いたたた、、、、。
周りを見るとどうやら森の中。そして、、、私の手は幼い子供の手。
私はどうやら転生したようだった。
「る、ぅ?」
喋ろうとしても口が発達してなくてうまく喋れない。
「こ、ぉ、ど、こ、、」
ここどこ、と言おうとした結果がこれである。
母親は近くに居ない。どうやら私は森に捨てられたようだった。
「る、ぅ、、。う、うあああああ!」
私はついに本能で泣いてしまった。すると誰かが走って来た。
「ママ!見て。赤ちゃんがいるよ。」
その誰かは黒髪で瞳も黒色。どうやら日本人のようだ。つまり、私はまた日本に生まれたということだ。
「あれ、捨てられた子なのかな、、、。孤児院に連れていこう。」
お母さんはそう言うと私を抱き上げた。私は安心してしまって
「ふぁあ、、、、」
と声を出してしまった。
「可愛いね、その子。」
女の子はそう言った。
「そう、、だね、、でも、、、瞳の色が黄色、、、。」
女の子のお母さんがそういった。どうやら私の瞳の色は黄色らしい。私のお母さんは気味が悪くなって捨ててしまったのだろうか。
「ついたよ、笑花。」
えみか、と呼ばれた女の子はぴょんっと跳ねると玄関チャイムを鳴らした。
「はーい、、、。」
「すみません。捨て子を拾いまして、こちらで預かっていただけないでしょうか。」
笑花のお母さんがそういうと
「まぁ、可愛い子ですね。こういう子は大歓迎です。捨て子を拾ってくださり、ありがとうございます。」
と30歳くらいのお姉さんが出てきていった。
私はそのお姉さんに渡されると振り返る間もなく孤児院の中に入った。小さい子がたくさん遊んでいる。
「あなたの名前はなんていうの?」
お姉さんがそう聞いてくる。私が答えるはずも無いのに。まぁでも、私の前世の名前を答えるか、と
「はな、はなしゃと、うら、、ぁ」
と言った。前世は花里小春という名前だったのだ。なのに、何を間違えたのかお姉さんは
「はなさとゆらって言うのね?」
と言ったのだ。
「はなしゃと、うらあ!」
と怒ったように言ってみたが
「そうよ、はなさとゆら、でしょう?名前が答えられるのは2歳くらいかしらね。けど、小さいし、1歳?賢い子なのかしら。」
お姉さんはそう言ったのだ。
「る、ぅ?」
私の口からはよく、『る、ぅ?』という言葉が出る。もしかしたら口癖なのかもしれない。
「ふふ、名前の漢字がわからないし、当て字で、、、」
お姉さんは私を赤ちゃん用の椅子に乗せ、机においてある名簿帳のようなものに私の名前、〔花里結良〕と書いた。これで”はなさとゆら”と読むらしい。
「結良ちゃん。よろしくね。」
お姉さんは優しく微笑むと私をにぎやかな部屋のベビーベッドへ乗せた。すると、
「わぁ!見て、新しい子だよ!お母さん。」
小さい男の子が走ってきた。
「ほんとねぇ。でもこの子、、、なんだか気味が悪いわ、、。」
と小さい子のお母さんが言った。
「じゃあ、こっちは?」
「うーん、この子ならいいかしら。」
うるさいなぁ、、、
そんな事を考えているうちにすやぁ、と眠ってしまった。
私は預けられて5年が経ち、6歳になった。花里結良という名前にも慣れたころ、私をもらいたいという人が現れた。
「すみません、この子にします。」
その人は紫色の瞳だったがすごく優しそうだった。
「あ、、、よ、よろしくお願いします、愛織さん。」
私は愛織という女の人に貰われた。髪の毛はミルクベージュで、その中に少し金色が混ざっている。
「敬語が上手だし、、、何年もこの施設にいるんですよね?」
「はい。あの、私で良いんですか?私は誕生日も無いし、元捨て子ですし、、、、」
「え?私は6歳くらいの子を育てたいの。だからあなたがいいのよ。それにあなたは可愛いし。」
愛織さんはそう言うと私を車に乗せた。
「車って、、、初めてです。」
「そうなの?でも私の家はここから近いからドライブは楽しめないかも。」
愛織さんが言ったように家はすぐ近くだった。
「お、お邪魔します。」
私が丁寧に言うと
「今日からここがあなたのお家。自己紹介、もう一回するね。」
と愛織さん。
「私は花里愛織、24歳。今日から子供を育てるお母さん。子供を育てた経験無し!」
愛織さんは元気よくいうとニコッと笑った。さっきまでの喋り方は他人行儀だったのかもしれない。
「あ、わ、私は、花里、、ユラ、、、です。まだ小学生じゃないけど、自分の名前は書けます。」
私が自己紹介すると
「結良ちゃん、すごいね。孤児院でも天才って呼ばれてたんでしょ?私と似てるのに、、、才覚は全然違うんだね。」
と愛織さんが言った。
「あの、、、私と愛織さんって似てますか?」
「うん。とっても似てる。鏡を見ればわかるよ。」
愛織さんはそう言うと洗面所(らしき場所)の鏡に私を写した。鏡に映る二人は瓜二つ、というか一緒といっても過言ではない。違うところといえば身長差くらいだ。
「私も、、、髪色が明るかったんですね、、、。」
唖然としてそうつぶやくと
「まぁ、違うのは瞳の色くらいだよね。」
そう言うと愛織さんは話題変更をし、
「結良ちゃんの誕生日、私、4月25日が良いと思うの。」
と言ってきた。
「4月、、、25、、、ですか?」
「うん!私の彼氏の誕生日をアナグラムした日なの。」
愛織さんはそう言って、うつむいた。
「アナグラム、、、入れ替えたってことですか?」
私が言うと
「そういうこと。やっぱり賢いね。」
と愛織さん。怪しまれないようにしないと、、、。賢いわけじゃなくて転生前の知識だから。
「私の彼氏は5月24日が誕生日なの。今日は居ないけどね。結婚はしたくないけど、ずっと結婚したみたいに付き合うつもり。でも子供が生まれたら困るんだよね。最初から育てるのも大変だからあなたをもらったの。」
愛織さんは私をもらった理由を話した。
「あの、、、どうなんですか?」
「なにが?」
「愛織さんは、、、私のお母さんってことで良いんでしょうか。」
私が聞くと
「うん、そういうこと。でもまだ彼氏だからなぁ〜ちょっと恥ずかしいかも。」
と言った。
「私は6歳で、もうすぐ、4月25日だから、7歳ですよね。7歳なら学校ですか?」
「うーん、そうだね。でも、恥ずかしいんだけど、、、私、結良ちゃんを育てるお金で精一杯かも。彼氏とのお金を合わせても、学校には通えないかもしれない、、、。」
愛織さんは苦笑いでそう言った。
「そう、、ですか。大丈夫です、家でも十分勉強はできますし。」
私がそう言うと愛織さんは笑って、
「さぁ、結良ちゃんの部屋に案内するね。彼氏と私の部屋の前だよ。」
と言った。私はドアを開けて部屋に入る。
「る、ぅ、、、。」
感激でいつもの癖が出てしまった私は
「す、すごいです、、、。」
と言って隠した。でも
「今、結良ちゃんるぅ、って言った!?ちょーかわいいんですけど!」
と愛織さん。さっきのテンションとは全く別の、明るい愛織さんだ。すると
「ただいまー、、、。」
と玄関から声が聞こえた。
「あ!ちぐ、おかえり!」
愛織がパタパタと走っていく
「ん、、、誰か来てんのか?」
その誰かは私の靴を見てそういった。
「えーっと、、、。孤児院の子。私達の子供。」
愛織さんは気まずそうに私の方を見るとそういった。
「あぁ、、、。名前、なに?」
「あ、私、花里、結良です。」
「ふぅん、、、本当に"花里"なんだね。俺は夕凪千草。ったく、俺だけ名字ちげーじゃん。」
千草くんはそう言うと愛織さんのほうを見た。
「そっか。まぁ仕方ないね。結良ちゃん、ちぐのこと、なんて呼ぶ?」
「えーっと、、、、千草くん、って呼んでも、、、?」
「別に。」
千草くんは興味なさそうにそういった。
「愛織さん、千草くん、、、。よろしくお願いします。」
私がもう一度丁寧に挨拶すると
「うんっ!」
と元気よく返してくれた愛織さんと
「ちょっと来い。話がある。」
と相変わらずつまらなそうな千草くんの返事が同時に来た。
「話、、、ですか。」
「すぐ終わる。愛織、夕飯の準備しといて。」
「オッケー任せて!」
機嫌がいいのか、愛織さんは鼻歌を歌いながらキッチンの方へ向かっていった。つまり、千草くんと二人だ。すると、
「あのさ。転生したんだよな?お前。」
と千草くんが直球で聞いてきた。
「え、あ、あ、、、えと、、、。」
「大丈夫。ここに愛織は居ない。正直に話せ、お前は転生したのか?」
命令のように言う千草くんから逃れることはできないようで
「、、、はい、、、そうです、けど、、。」
と答えた。
「、、、あ、そ。」
でも千草くんはやっぱりつまんなそうな返事をした。
「あの、、、千草くんって何者ですか。私は話しちゃって良かったんでしょうか、、、。」
不安になって聞くと
「まぁ、別に。でも、俺も転生したことがある。転生というか、、生まれ変わったというか、、、そんな感じだ。」
私は驚きが隠せず
「るぅ、、、。」
とつぶやく。千草くんが生まれ変わり?ここってどうなってるの?すると千草くんがまた口を開いて
「お前が7歳のときにだけ、ナナイロが見える。」
と言った。
「ナナイロって、、、?」
と聞くと
「猫の名前だ。真っ白な毛色の。意味は、、、まぁ、あの人が説明してくれるだろう。助言はここまでって決まりだ。俺は戻れなかった。お前は、戻るんだぞ、必ず。」
と教えてくれた。最後の方はよくわからなかったけど、何でわかったんだろう?
「あ、あの、、、お邪魔しました。ありがとうございました。」
私が言うと
「あ、、、俺からの命令。お前は今日からこの家ではずっと敬語でいろ。んじゃ」
と千草くん。いや、、、はぁー!?『んじゃ』じゃないし!意味わからん!
〔2章 えみちゃん〕
「ねぇ、ちぐぅ、どうやって起こせばいいかなぁ?起きないよぅ、結良ちゃん」
そんな愛織さんの声で私は
「ふあぁ。」
と声を上げながら起きた。
「起きたじゃねぇか。」
という眠そうな千草くんの声が薄く聞こえる。
「あ、あの、お、おはようございます。」
私は敬語で話す。昨日、千草くんの"命令"によって私は
"孤児院で敬語を習った子供"という新しい設定が加わったのだ。
「おはよう、結良ちゃん。ところでさ、敬語以外で喋れないの?」
いきなり突っ込んできた愛織さんを
「え、えぇ、と、、、な、習っていたのがこれで、、、。他は慣れてなくて、、、。」
と変な言い訳をして流す。千草くんはというとやっぱりつまんなそうにしていた。
「へぇ。そうなんだ、、。あ、そういえばさ、、、。今日は私もちぐも仕事なんだけど、、、一人になっちゃうから私の友達の家に預かってもらうんだけどいいかな?あなたの3つ年上の子が居るお家なの、、、。」
愛織さんが気まずそうに言うので私は快く
「良いですよ。」
と答えた。
「ありがとう。じゃあ、ご飯早く食べてね。」
愛織さんはそう言うと千草くんを送り出し、部屋にこもって準備を始めた。私も一人、ご飯を食べ始めた。
食べ終わったときにはもう愛織さんは玄関で待っていた。
「行ってきます。」
私は誰も居ない家にそう言って愛織さんの車に乗り込んだ。
「すぐ着くよー」
愛織さんがそう言ってから5分、愛織さんのお友達の家についた。このときは7時30分。
「じゃあ、玄関チャイムを押して入ってね!」
愛織さんは私に念を押すと車に乗り、早々に行ってしまった。私は愛織さんに言われた通り、玄関チャイムを背伸びして押した。
「はぁい。」
中から子供の声が聞こえ、しばらくしてドアが開いた。立っていたのは小学3年生くらいの女の子。
「す、すいません、花里愛織の娘、結良です。」
私が言うと
「笑花、誰だったの?」
と奥の方から大人の人の声が聞こえる。
「愛織さんの娘だって。」
「あぁ、ユラちゃん。」
大人の人は出てくるなり、私を見てびっくりしたような顔をした。
「あ、あなた、、、もしかして、、、。」
私の瞳にびっくりしているのだろうか?視線の先には私の瞳が写っている。
「お邪魔します。花里結良です。」
私が自己紹介すると
「愛織にそっくり。本当に親子みたい。」
とその人。
「はい、よく言われます。」
「でも本当の家族ではないんでしょ?まぁ、あまり触れないようにするね。私はユカ。その子は私の娘で笑花。」
ユカさんはそういった。
「笑花です。えみちゃんって呼んでね。」
笑花ことえみちゃんもそう自己紹介した。
「ごめんね、ユラちゃん、早速なんだけど笑花は学校なの。じゃあ、いってらっしゃい、笑花。」
ユカさんはそう言ってえみちゃんを送り出した。
私はユカさんの家に入るとちょこんとリビングの床に座った。
「ねぇ、、、あなたはあの子なの?孤児院に届けた。黄色の瞳だし、、、その髪色だって、あなたが赤ちゃんの頃と変わっていない。」
ユカさんはそう言った。
「えぇと、、、。」
確かに、身に覚えはあった。ユカさんと同じような顔と、笑花という名前。
「花里結良っていう名前は孤児院でもらったのかな?やっぱり、そうだよね、あの日拾った子。」
ユカさんは不思議そうに、わかんないよね、というようにそういった。でも、私にはわかってしまった。ユカさんの言った言葉で全て思い出してしまった。
思い出すというよりは、私の中にいる、私じゃない"誰か"が語りかけてくるようだった。
転生する前日、、、
あの日、お母さんが怒って飛び出して行って、でも私は気にも止めずにずっと読書をしていた。
お母さんは、、、私に対して怒っていて、、でも、知らんぷり、、、そんなこと、よくしていたからその日も別に罪悪感とか無くて。でも、、、お母さんは交通事故で亡くなった。信号無視の車に跳ねられて、そのまま病院に搬送されたけど、すぐに息を引き取った、とお父さんに言われた。お父さんは泣きながら私にそう伝えてくれた。
私は、言われたあと、泣きじゃくって、決心した。
謝れなかったのが、悔しくて、、、、自殺しようとした。とても馬鹿なことをした。お父さんが可哀想なんて、これっぽっちも思わなくて、、、。あのときの私は、死んだらお母さんに謝れると思ったのかもしれない。けど、、そんなことなかった。転生してしまった。
それで、、転生したら、この体のお母さんに捨てられた、ということ。そして、、、ユカさんに拾われて、、孤児院でここまで育った。
「あは、、、全部思い出しました。」
私は苦笑いしてそういった。
「え、、、何が?っていうか、ユラちゃん泣いてる!」
ユカさんが慌てて私の涙を拭いた。
「ユカさん、ってまだ幼い私を拾ってくれた人ですよね。えみちゃんに見つけてもらった、、、。思い出しました。」
私はそう言ってニコッと笑った。けれど今度はユカさんが不思議そうな顔をして
「え、、、、え、、、えぇ?」
と言った。まぁ、そりゃそうだ。小さな頃のキオクがあるのは怖い。
「まぁ、、でも、、、ユラちゃんにはユラちゃんの事情があるんだよね、、、。やっぱり、あのときの、、、。」
ユカさんは不思議そうにつぶやきながら
「お菓子持ってくるね」
と言ってキッチンのほうへ行ってしまった。
その後、お菓子をいただいてえみちゃんの本を必死に読んでいた。
「ただいまー。」
えみちゃんの声が聞こえ、私は見ていた本を閉じた。
「おかえりなさい。ほら、ユラちゃんを部屋に案内してあげて。あの子、ずっとリビングに居たんだからね。」
「本当?じゃあ、お菓子ちょうだい。」
えみちゃんは意地悪っぽく笑ってユカさんからお菓子を受け取ると
「行こう、ユラちゃん。」
と言って私の手を繋いで部屋まで案内してくれた。
「ここが私の部屋。ベッドに座って待ってて。宿題終わらせるから。」
えみちゃんはそう言って宿題を始める。でも算数で突っかかっているのかなかなか終わらない。
「えみちゃん、、、ここは、どうするの?」
私が聞くと
「これはねー、、、あ!わかったかも!」
とひらめいたように言って、スラスラ問題を解き始めた。私は、えみちゃんに
「ねぇ、えみちゃん、、、あの、、、お友達になってくれないかな、、、?」
と言ってみる。
「え、、、?良いよ!良いに決まってるじゃん!」
えみちゃんはびっくりするぐらい大きな声を出してそう言った。
「あ、、ありがとう。」
「実は、私、友達が全然居なくて、、、。友達がお家に来るの、羨ましかったんだよね。あの、、また、遊びに来てくれる?」
えみちゃんは不安そうな顔でそういった。
「もちろん!」
私は子供らしくぴょこんと跳ねた。
「可愛いね。妹が居たらこんな感じなのかなぁ。」
えみちゃんはそう言うと椅子からぴょんっと飛び降りて
「ねぇ、森行こっか。」
と言った。私はこういうときくらい、、と元気に
「うんっ!」
と言った。
「ママ〜?お散歩行ってくるね〜」
「早めに帰ってきてね」
ユカさんは忙しそうにそう言った。私達は許可を得て外に出た。
森に到着し、えみちゃんと遊び始めた。
「ユラちゃん、この木の実、たくさん集めてくれる?」
「うんっ、良いけど、何に使うの?」
「ん?ヒミツ。」
えみちゃんは口元に人差し指をあてていたずらっぽく笑った。
私の小さな体では木の実をたくさん集めるのは一苦労で、気づかないうちに森の奥まで行ってしまっていた。
「あ、、、あ、、、え、えみちゃん、、、?あれ、、、、ここ、どこ、、、。」
私は迷子になってしまったようで、あたりを見渡してもえみちゃんが見当たらない。それに空はもうオレンジ色に染まりかけている。
「えみちゃ〜ん!どこぉ〜!」
大声で叫ぶけど、その声は森に消えていく。すると毛並みが白色で、黄色と紫色の瞳をしたきれいな猫が私のそばで止まった。まるで、ついてきて、とでも言うように。
「あなたの名前は?」
私が聞くと白猫は首を傾げスタスタあるきはじめてしまった。
「あ、待って!」
必死に追いかけると白猫は一人の人の前で止まった。不思議な格好をした魔法使いのようなお姉さんだ。
「花里結良で合っているかしら?」
と聞かれたので
「はいっ、、、、な、なんでしょう、、、。」
私が答えると
「そう。やはりあなたはこの世界のものでは無いわよね。何年ぶりかしら、、、。彼はもう24歳。でも、、、実際はまだ15歳。」
その人は意味がわからない言葉をいうと
「ごめんなさい。私は桜雨彩葉よ。」
と言った。
桜雨さんは私を現実世界に戻す "案内人"で、千草くんもこの人に会った事があるらしい。こちらの世界に来て1年だけ、現実世界に戻れると説明してくれた。
「あの、桜雨さん。ここってどんな世界なんですか?」
「ここは、転生者の世界。大体、1年に何人か、悔いのある人生を送った、選ばれた人が、もう一度生まれ変われる、そんな夢みたいな世界。」
桜雨さんはそう言うと白猫を抱いた。
「ナナイロっていうの、この子。」
「ナナイロ、ですか。」
白猫の名前はナナイロ、というらしい。桜雨さんはナナイロを優しく撫でて
「じゃあ、また明日ナナイロにここへ連れてきてもらって。」
と言い、森の奥へ帰っていった。するとナナイロは私の方へよってきて
「ナー。」
と鳴いた。ナナイロはてくてくとさっきと違う方向へ歩いていく。まるで、ついてきてと言うように。
「ナナイロ。ついていけばいいの?」
私が聞くと
「ナー?ナー」
ナナイロは急に止まった。そこにはうずくまっているえみちゃんが居た。
「えみちゃん!」
私が声をかけると
「あ、、、ユ、ユラちゃん、、、?」
とえみちゃん。
「ご、、、ごめんね!ユラちゃん!私のせいで迷子になっちゃって。」
えみちゃんは泣きながら必死に謝っている。
「だ、大丈夫。」
私がそう言うと
「このこと、ヒミツにしてくれる?お母さんに。怒られるのは怖いし、ユラちゃんのお母さんに心配かけたくないんだ。一回会ったことがあるんだけど、すーごく若くて仕事とかも頑張りすぎてるみたいだったし、、、。」
そう言うえみちゃんは人差し指を唇にそっと当てて優しく笑った。
多分、えみちゃんは優しいが故に心配症なんだろうなぁ。
「ありがとう。ヒミツ、守るよ。」
私はそう言うとまっすぐ家に帰った。
〔3章 カギ〕
次の日も私はえみちゃんの家に連れてこられた。ただ愛織さんは今日は帰りが早いらしく、えみちゃんが帰って来ないうちに迎えに来ると言っていた。
「えみちゃん、じゃあね。いってらっしゃい。」
私はそう言ってえみちゃんを送るとえみちゃんの部屋へ行った。
「じゃあ、笑花の部屋で遊んでいてね。昨日のお散歩、楽しかったらしいじゃない?また行ってきても良いのよ。」
ユカさんはそう言うと部屋から出ていった。
「ありがとうございます。」
お礼をつぶやくとえみちゃんの部屋の本棚をあさる。不思議な本を見つけたのでそっと出してみると本に似せた絵が書いてある缶ケースだった。
「なに、これ。」
ホコリを被っていて、えみちゃんが使ったとは思えないほど古かった。
そっとホコリをどけると“Here’s the key for you”(君のためのカギはここ)と書いてあった。
「カギ、、、。」
そしてそぉっと開ける。すると小さな金色のカギが入っていた。
「なんのカギ、、、。もしかして!」
私はカギを持って急いで部屋を飛び出した。
「ユカさん!森へ、、、、お散歩へ行ってきます。道は昨日えみちゃんに教えてもらったので、大丈夫です。必ず、戻ります。」
私はそう言うと家を飛び出した。
「ナナイロ〜、ナナイロ〜!」
そういうとひょこっとナナイロが出てきた。
「ナナイロ!桜雨さんのところへ連れてって!」
私がそう言うと
「ナー。」
とそんなに言わなくても、という顔で見てきた。
「ナー。ナー。」
ナナイロが私を森へ連れて行ってくれる。でも、ナナイロは昨日より近い場所で止まった。そこには桜雨さんが居た。
「桜雨さん、こんにちは。」
「こんにちは、結良。」
「あの、このカギって。」
「どこにあったの?それはあなたの世界のカギ。ゲートはどこかにあるはず。案内役の私に頼ってもいいし、彼に聞いても良いんじゃない?」
彼、、、、もしかして、千草くん、、。
「ありがとうございます。」
私はそう言ってお辞儀をするとえみちゃんの家へ行った。えみちゃんの部屋を片付けてしたへ行くと、もうお迎えがきていて、私はユカさんに手を振り、大事な鍵を握りしめた。
「ねぇ、愛織さん。」
「ん、どうしたの?ユラちゃん。」
「今日は、なんで早かったんですか?えみちゃんと遊びたかったんですけど、、、。」
私が珍しくわがままを言うと
「えぇ〜?まぁ、今日の私の仕事、ラクだったから」
と子供っぽく言う愛織さん。
「ラク、、、愛織さんはどんな仕事をしてるんですか?」
私が聞くと
「えぇーっと、、、事務業。」
つまんないでしょ、と笑う。
「愛織さん、、、愛織さんって転生したことありますか?」
私が不思議な質問をすると
「ううん、ないよ。でもね、ちぐはしたことあるんだよ。ちぐは結構前に出会ったけど、最初はここ、どこ?って。頭おかしい人かと思ったんだよ。
でもちぐ、優しくて、笑顔が明るくて、いい子だったんだよ。でも転生って分かったら結婚はコワイし、そこでユラちゃんをもらったんだ。このことを話すと”そんな訳無い”って言われる。でも私はちぐのこと、信じたいから。」
と愛織さんはそう言った。ゆっくり、はっきり。
「愛織さん、私も、本当のこと、話していいですか?」
と私は言った。すると
「本当のこと、、、?」
と愛織さん。
「信じてくれなくても良いんです。ただ、、、私も千草くんと同じ、ってことなんです。」
私は正直に話す。
「私、元の世界に帰るんです。」
もう一言付け足すと愛織さんはコクリとうなずいて
「そっか。ユラちゃんは私の子供じゃなくなっちゃうんだ。」
と寂しそうに言った。
「ごめんなさい、、、。でも、本当は愛織さんに、私のお母さんで居てほしかったです。私、ちゃんとしたお母さんって初めてで。この体を産んでくれたお母さんも分からないし、元の世界のお母さんとはケンカしてばっかりで。私、お母さんっていうのに縁がなくて。」
私も泣きそうになりながら話した。
私は愛織さんがお母さんになってくれたこと、すごく嬉しかったんだ。
お母さんって、よくわかんなかった。ずっとケンカしてたし、仲が良かったキオクなんてなかった。
この世界のお母さんもどんな人なのかも分からないし。
だから、優しい愛織さんは私にとってすごく良いお母さんだった。嬉しかった。でも愛織さんは言った。
「でもさ。ユラちゃんの元の世界のお母さんもユラちゃんを産んでくれたお母さんもきっと、ユラちゃんのこと好きだったと思うよ。」
私は愛織さんの言葉に涙が溢れてきた。
「きっとさ。ユラちゃんがわかってくれないの、悔しかったと思うよ。好きなのに素直になれないの。きっとユラちゃんのこと、愛してたと思う。」
愛織さんはそういうと、ついたよ、とつぶやくように言って車から降りていった。
私は千草くんに話してみようと思った。元の世界に、どうやったら戻れるか。
〔4章 元の世界と両親〕
「千草くん。」
私が千草くんの部屋の前でそう言うと
「なんだ。」
とそっけない言葉が返ってきた。
「カギ、見つけた。」
と私が言うと
「カギ穴を探してるのか?俺が知ってるとでも?」
と千草くん。
「ううん、私は千草くんが好きって言いに来たの。千草くん、ユウキくんだったでしょ。」
と私はゆっくり言った。すると千草くんは
「は!?」
とびっくりしたように言った。ドア越しでも響く声。
「前世は、ユウキくんでしょ。近所に住んでたおにいちゃん。急にいなくなっちゃって寂しかった。私の前世の名前は小春だよ。」
私が言うと
「小春、、、。まじかよ。」
千草くん、、いや、ユウキくんの呟く声が聞こえた。
「私、帰るね。元の世界に。ユウキくんも帰る?愛織さんと一緒に。わかるんだ、カギ穴は。思い出した。私のユウキくんとの最後のキオク。家の庭の柵を開けるシーン。」
私が言うと
「あぁ、そうだな。」
と素っ気なく言うユウキくん。
「帰る?一緒に。」
私が言うと
「いや。良い。俺はずっとここで暮らす。愛織と一緒に。そして、本当の子供を作る。小春じゃねぇヤツ。」
とユウキくん。元気よく。前のユウキくんみたいに。
「うん、頑張って。愛織さんには帰ること、伝えた。えみちゃんとユカさんによろしく、、、。」
私はそう言うと庭に出た。
「さようなら、ありがとう。」
とペコリとお辞儀をして。カギ穴に鍵をさすと私は光に包まれて、いつの間にか元の花里小春に戻っていた。時間が少し戻っている。お母さんとケンカして、事故を起こしたあの日の朝だ。
「おはよう、お母さん。」
私がいうと
「おはよう、小春。今日は珍しくおはようって言ってくれたじゃない。」
とお母さんはニコリと笑った。
「お母さん、、、お母さん、、、、。」
私はお母さんと言いながら泣き崩れた。お母さんが居る、、、。
「ごめんなさい、お母さん。」
私は謝った。愛織さんが言うようにお母さんが私を好きなら、、、、。
「どうしたの?急に。小春、、、私も、怒ってばっかでごめんね。」
お母さんは謝ってくれた。
その後、私が謝ったあと、私達は仲がいい家族になれた。今ではケンカもほとんどしない。でも、ユウキくんのことが気になった。ユウキくんの誕生日は、もうすぐ。
私は試しにユウキくんの家へ行ってみた。
「すみませ〜ん。ユウキくん居ますか?」
家の前でそう言うと
「はい、、、。」
とユウキくんのお母さんがでてきた。
「ユウキくん、居ますか?」
と聞くと
「ユウキ?今は、居ないよ。ねぇ、小春ちゃんだよね。よくユウキと遊んでた、、。覚えててくれて、ありがとう。ユウキはあの日、、、神隠しで消えちゃって。それ以来、会ってもないし、見てもない。探したけど、、、。」
とユウキくんのお母さんは言った。
「神隠し、、、。ユウキくん、帰ってきてくれると思いますか?」
「へ?帰ってきてくれることを信じてる。けど、帰ってこないと思う。きっと向こうの世界で大事な人でも見つけちゃったのよね。私は、ユウキのことは好きだけど、もう一人子供が生まれたし、ユウキのことを頭に入れつつ、今の生活に慣れていこうと思ってるの。」
ユウキくんのお母さんはちょっと寂しそうに、でもちょっと元気よく言った。言ったことは大体当たっているし、やっぱりお母さんってすごいなって思う。
私はもう一度ユウキくんにあいたいと思う。寂しい。
ただ、寂しい。そんなことを思っていたある日のことだった。
「小春。」
「ユラちゃん。」
愛織さんとユウキくんの声が聞こえた。
「・・・あおりさんっ? ゆうきくんっ?」
「ただいま、小春。」
「へぇーここが異世界かぁー」
愛織さんがまるで旅行へ来たようにそういった。
「え、と。」
私が困っていると
「だいぶ大きくなってるじゃん、ユラちゃん。何歳?」
と愛織さんがびっくりしたように言ってきた。
「えーと、16歳です。」
「えぇー!本当?6歳、だったよね?10歳も大人だったんだ〜。」
愛織さんがまたびっくりしてそう言った。
「あ、ねぇ、ユウキくん、今日誕生日だよねっ!お母さんのとこ行ったら?」
私が元気よくいうと
「そっか、誕生日、、、。母さん、元気?」
とユウキくん。
「うん、元気だよ!あと〜もう一人子供が生まれたって。そういえばさ。愛織さんと"千草くん"って結婚したんですか〜?」
と私がノリノリで聞くと
「えぇっ。あ、ま、まぁ。」
と愛織さんが赤面してそういった。
「ん〜、微妙な反応だけどまぁいっか。頑張ってね、ユウキくん!」
私はユウキくんの背中をぽんっと叩くと
「じゃあ、また。さようなら〜!」
と手を振って家の方へあるき出した。
上を見上げれば、とても明るいスカイブルーの空が広がっていた。