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実在しうる転生シリーズ

邪龍転生~でも生肉ムリなので、生贄少女と文明ライフで善龍目指します!~

作者: KVIN

 ──目が覚めたらドラゴンでした。 


 真っ黒な鱗、刃みたいな爪、翼まで生えてる、ちょっと穴が空いてるけど。それにしても──


 腹ペコだ! でも生肉とかムリ!



 パニックで軽くえたら、ふもとの村が震え上がったらしく、牛車に乗ったエルフの少女が“生贄”として連行されてきた。 どうにかコミュニケーションを取ろうと声を出すが、


 \ グ、グオオオオオオ! /


 村人は半泣きで逃走、残されたのは怯える少女と、ぽつんと残された牛車。少女は震え、牛は泡を吹いて気絶している。


「…………」

「…………」

 気まずい沈黙。 


 試しに「大丈夫だよ」って声をかけようとしたら、


 \ ガァアアアア! /


 自分でもビビる轟音ごうおん。少女は「ヒッ」と小さく悲鳴をあげ、目をぎゅっとつむる。あ、これダメなヤツだ。 


(落ち着け俺! まずは筆談!)


 爪で地面に『安心しろ 食わない』と書く──が、どうやら少女は文字が読めないらしい! 首をコテンっと横に倒しこちらをチラチラ見ている。


 自分でも驚くくらいガックシ項垂うなだれた。何なんだこのハードモードは!?


「…………あ、今のは分かった気がします! えーっと、『お前、字が読めないのかよ!?』……であってます?」


 予想外の訳し方をされて思わず頭を抱える。邪龍とコミュ障は紙一重である。しかし、そこまで大ハズレではない。顔を上げ、怯えさせないようにゆっくり頷くドラゴン。


「ふふっ」と笑う少女。

「もしかして、善いドラゴンさんですか?」


 そのとき、俺の腹が──


 \ グゥゥゥゥゥ /


 地鳴りレベルの音を立てた。


「ヒッ」と短い悲鳴。

「やっぱり食べます??」


 ブンブン首を振るドラゴン。

(腹が減ったからって人間なんか食えるかーー、っていうか生肉も嫌じゃー)


 ※転生ドラゴン、まず腹ごしらえで詰むのだった。


 ──あ

 うし

 さっき村人が置き去りにしたやつ。

 牛と少女を交互に見る。


「もしかして、あの牛を食べるのです??」


 恐る恐る頷くドラゴン。


「そうなのですね!? ささ、パクッといっちゃってください!」


 ブンブン首を振るドラゴン。

 コテンっと首を傾げる少女。


(料理! 料理してほしい!! せめて焼くとか!)

 少女を見つめるドラゴン。


(そうだ! 火、火吹けるよね? ドラゴンだし!)

(どうやるんだ?)

(こ、こうかな?)

 フーー。


 \ ゴォオオオオオオ!! /


(ぎゃーー)

「ひゃーー」

(大火事だーー)


 急いで尻尾で木をなぎ倒し火を消すドラゴン。ゴロゴロ情けなく転がり、草に燃え移った火を消す。


「あははは、ご、こめんなさい。アハハ……」

 大慌てのドラゴンを見てお腹をかかえて笑う少女。


「もしかして料理です??」

 ブンブン頷くドラゴン。


「私、猟師の娘なのでさばけますよ」

 頼もしい! 生贄ちゃん!


「でもシメるのは私一人じゃ……」

 ごめんなさい。心の中で叫び、牛をシメる。


「えとっ、ナイフは…………あ、」


 ドラゴンの後脚に剣が刺さっている。ドラゴンの身体から剣を引き抜く少女。既に傷は塞がって久しいようだ。


 その剣で器用に牛を捌いていく。その間、俺は木を組み上げる。さながらキャンプファイヤーだ。


 ※ドラゴンとエルフの即席 BBQである。


 牛肉を焼き、少女と一緒に肉を食べる。その日の夜は翼の下に少女をかばい、一緒に寝た。


(村へ行きたい)

(文明的な暮らしがしたい)

(あぁ……塩味が恋しい)


 ──翌朝、翼の穴は塞がっていた。ドラゴンの再生力すごい。


「ふぁぁぁぁ、おはようございます。リューさん」

 いつの間にか俺の名前はリューさんになっていた。


(飛べるかな? 少女の村に行きたい)


 どうにかコミュニケーションを取りたい。文字が読めないなら絵はどうだ?


 鋭い爪で、地面に絵を描く。

 人をひとり、ふたり……

「生贄……?」

(断じて違う!)

 首をブンブンふる。


 家をひとつ、ふたつ……

「お家を、買う……?」

(それダメなヤツっ!)

 ブンブン! ブンブン! 全力で首をふる。


 人と家を四角く囲み、そこから伸びる道を描くと、


「もしかして、私の村に行きたいです?」

 ブンブンと首を縦にふる。


「うーん、困りました……でも、このリューさんなら平気かも?」


 頭を垂れ、爪で傷つけないように慎重に少女を側に引き寄せる。


「わわっ」

「……頭に、乗るです??」


 ゆっくり瞬きし、騎乗を促す。少女が恐る恐るドラゴンの頭に乗ると、


「角、掴んでも大丈夫ですか? 左の、ちょっと欠けてるけど……」


「クルゥゥ」慎重に静かに唸る。


「ふふ、なんだかリューさんの言葉が分かってきました♪」

(そうだろう、そうだろう)


 小高い丘に登ると勢いをつけ、一気に飛び立つ!

「ひあーー」

(わあーー)


 斜面に沿って滑空する。

(やばい、本当に飛んでる! このあとどうするの!?)


 やがて風を掴むと、大空に大きく羽ばたいた!

(こう? こうなの? 良かった! 身体が覚えてたみたいだ!!)


 眼下に広がったのは──


 どこまでもどこまでも続く広大な森林。その地平の先から朝日が顔を出し、世界を照らした。


「綺麗……」


 少女の瞳が、朝焼けの空を映し、橙色にきらめく。

(すごい……こんな景色、転生前は見たこともないよ)


「あ、あの川の手前! あの辺りに隠れ里があります!」


 村を巨大な影が通り抜ける!


(よーーっし……あれ? 着陸ってどうすんだ??)


 ドラゴンが村の広場を目掛けて滑空、翼を折りたたむと……一気に失速する。


「わーー」

(わーー)


 慌てて翼を広げる。大きく広げた翼が太陽を覆い尽くす!!

(着陸!? 着陸ってどうするのーー!?)


 滑空の勢いそのままに、広場に……タッチダァァァァウンッ!!!!


 \ ドォオオオオオオ!! /


 凄まじい粉塵ふんじん

 耳をつんざく轟音!

 逃げ惑う人々!


 ガッ


 着陸の拍子に岩に小指をぶつける!!


 \ グォオオオオオオ!! /

    (いたーーーい)


 痛みに耐える声が、咆哮ほうこうとなって森に木霊こだまする!!


 あ、勢いあまって口から火が出た。

 天空を突き刺す紅蓮ぐれんの炎!!


 熱気で凄まじい上昇気流が発生し、瞬く間に黒雲に覆われる大地!! 稲光が天を劈き、禍々しいドラゴンの影を地上に映した!!


 それはさながら、神話のワンシーン!!


 ※まさに邪龍。第一印象、最悪極まる。


 村長が呟く、

「あぁ……これはこの国に伝わる神話と全く同じ、邪龍の降臨じゃ!」


 ※それは全くの偶然だ。


 咆哮が収まると、ドラゴンは前を見据える。腰を抜かし動けぬ人々! 泣き叫ぶ子ども! 犬は恐怖で失神している!


(…………)←まだ小指が痛い。


「うーー、イタタ……」

「あっ、みんなーー、ただいまーー」


 エルフの少女が、ドラゴンの頭の上から無邪気に手を振る。


「──あれ??」


 † † †


(で? なんでこの子を生贄にしたんだ?)

 爪で地面に文字を書き、村長と筆談する。


 ※筆談ドラゴンの爆誕である。


「村の伝承では、その昔、この地に邪龍が降り立ったとき、同じようにエルフの少女を生贄にして、その怒りをしずめたと……」


(──ッ!! そのエルフは……)


「ええ……邪龍の身の回りの世話をしたあとは、無事に村に帰ってきたと……」


 \ グォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!! /

(ただのエルフフェチじゃねーか!?)


「ひいいいいい、お許しをー」


(あぁ、この姿じゃツッコむこともできない……ファンタジーのドラゴンってイケメンに変身できるんじゃないの!?)


「それじゃあ、私がリューさんのお世話をするよっ」

「おー、やってくれるか。お主はこれより神龍の巫女じゃー」


(まったく……調子がいい……でも助かった! ありがとう、生贄ちゃん!)


 エルフの少女をその背に乗せて村を飛び立つ。


「しっかりお世話をするのじゃぞーー」

 村の皆が手を振り見送る。誤解が解けて良かった。


 でも文明社会で暮らすには、この姿は不便だな。帰ったらイケメンに変身する練習をしないと……


 ※もちろん無理である。


「村の人、いっぱいお供え物をくれたねっ」

 クルゥゥ♪


「何かお礼が出来るといいんだけど」

 クルゥゥ、クルゥゥ♪


「ふふ、帰ったらご飯にしましょう」


 あぁ、大昔の邪龍とやら……気持ち、分かるぞ。エルフはいいな……ところでこの子の名前は何だろう? まあ、いいか。


 やがて巨龍の影は夕焼けの空ににじんで消えていくのだった。


 † † †


 ドドドドッ──森を割るように鹿の群が走る走る!

 その上空を滑る黒い影!


 \ ズッドーーーーンッ!! /


 獲ったどぉおおお! ドラゴンの前脚が一匹の鹿をガッチリとホールドしている。


「よーー、リューの旦那! 今日は鹿肉のステーキかい?」


 ドラゴンに転生して早一ヶ月。もうすっかり村にも馴染んた。鹿や野牛の肉を提供する代わりに、その肉や毛皮を加工してもらう。


 手頃な洞穴の壁をドラゴンブレスで焼いてリフォーム! 毛皮のふかふかベッドで快眠快眠!


 しかし、いま深刻な問題に直面していた……


 満面の笑みで出迎える生贄ちゃん、


「おかえり! リューさんっ、牛肉にする? 鹿肉にする? それともイ・ノ・シ・シ?」


 肉しかねぇ……


 文化的な生活、それは豊かな食生活だろ!? いくら意識高い系ドラゴンの俺だって、毎日ジビエは喰わんわ!


 ※だいぶ意識の低い勘違いである。


 ──こうなったら


 食を求めて空を飛ぶ──

『ぶらり龍グルメ旅〜糖と脂を求めて〜』、いざ開幕じゃー!


「リューさん、今日はずいぶん遠くまで飛ぶのですね?」


 川に沿って下流を目指そう! きっと街がある。街がなくても川の先は海だ。海と言えば──魚! 寿司! 天ぷら! 海鮮焼き!


(文明の味が、俺を呼んでいるッ!!)


 森を抜け平野に出ると──あたり一面、黄金色に輝く小麦畑が眼下に広がった。


「リューさん、あれ見てください! 畑です!」


 キターー!! パン! ラーメン! うどん! 食の夢が広がる!


 お♪ あれは……


 第一村人発見!!


 (よぉーーっし! いざ、突撃! グオーーッと行って、バーーンと話をつけて、美味いもんにありつく!!)


 ※前の村で得た、間違った成功体験の再来である。


 が――


「侵入者だ! 邪龍の襲撃だーー!! 攻撃準備ッ!」


 \ ビュン! ビュン! ビュビュン! /


 矢の雨が空を裂き、俺の鱗を弾く! ちょっ!! 出会って五秒で即バリスタ!? 大型兵器はヤメテーー!?


「リューさんッ!! あっぶなーーい!!」


 † † †


(はぁ、はぁ、はぁ……)


 飛び疲れて山の頂で休む。


(ダメだ……どこに行っても邪龍扱い。俺は食事をしたいだけなのに……さっきの冒険者なんて、『龍の心臓は最高級品だ!』なんて言ってなかった!? むしろ、俺、食材扱い!?)


「うーーん、なんでみんなリューさんを攻撃するんだろう? リューさんが善いドラゴンだってみんなに伝われば……」


 \ ガゥガゥガー! /

  (それだーー!!)


 † † †


 ──とある田舎の冒険者ギルド


 そしてその前に佇むエルフの少女──


 「たのもぉーー!! …………ふぎゃっ!」

 入室から叩き出されるまでわずか十五秒!! 瞬殺にも程があるぞ、生贄ちゃん!


「イタタ……うぅー、冒険者登録させてもらえませんでした。馬鹿にしてんのか!って……」


 仕方ない……


 \ ガオガォオオオ!! /

  (たのもぉーーーー!!)


 扉を突き破り、ドラゴンが冒険者ギルドに頭を突っ込む!


「ヒィィィ!!」

「なんだなん、ギャーー」

「戦闘準備だ!! 急げ!!」

「タスケテーー」


 ※まさに大惨事である。


 † † †


(いやーー、ホント、スンマセン。)


 冒険者達を軽くした後、命乞いをするギルドマスターを何とかなだめて筆談に持ち込む。


(いやー、ウチの子が!? 全く!? 話を聞いてもらえなかったとかで!? ついつい……)


 ※モンペドラゴンの爆誕である。

(モンペ=モンスターペアレント)


「こ、こ、こちらこそ申し訳ごらいまへんッッ!!」


(声が震えたり、裏返ったり、忙しいギルドマスターだなぁ……)


 ※モンペドラゴンはカスハラドラゴンでもあった。

(カスハラ=カスタマーハラスメント)


「お、お、お嬢様の冒険者登録をご希望とのことれ……ご迷惑をかけたお詫びに、試験は免除させていたらきましゅ! と、登録料も免除させてくらはいッ!」


(おぉ、なかなか器のでかいギルマスだな!!)


 ※もはや言葉もないよ。


 そう! 人助けだ! 冒険者として名声をあげれば、誤解も解けるだろう。Sランク冒険者になれば、むしろ街では大歓迎だろう!? 待ってろ! 俺の文明ライフッ!! 


「本当に私が登録しちゃってもいいんですか?」


「え、えぇ、えぇ、もちろんでごらいましゅ。職業はいかがいたしますか? 龍使い様?? それともドラゴンライダー様!?」


「うーーん……邪龍の生贄? ……いえ! 神龍の巫女でお願いします!」


 そのとき──


「ふぉっふぉっふぉっ。まさか生きているうちに、しかもこんな片田舎で貴方様にお目にかかれるとは……」


 真っ白な眉毛と口ひげを蓄えた、モッフモフの老人がこちらに向かって歩いてくる。


「あ、あの方は、もしや! 大賢者マリーン様では!?」


 大賢者マリーンと呼ばれた老人は、ドラゴンの前に進み出ると、ゆっくりとひざまずこうべを垂れる。


「貴方様は最果さいはての山脈に住まうとされる、叡智えいち異界龍いかいりゅう様でございますな?」


 叡智の異界龍──


 人類がはじめて異界龍と接触したのは、数百年前。大冒険の末、最果ての山脈に辿り着いた勇者がその龍を目撃した。異界龍は自らの足で辿り着いた勇者をたたえ、太陽を中心とする宇宙の真の姿を教えた。


 次に確認されたのはそれから百年後。身体中に膿を伴う発疹ができる奇病により、王国が壊滅的な被害を受けた。王はわらにもすがる思いで、伝説の異界龍の叡智を頼り、最強の冒険者達を使者として派遣した。異界龍は、身分にかかわらず治療をすることを条件に、叡智を授けた。「牛飼いを良く観察しろ」と。


 † † †


 その夜、俺と少女は丘の上で夜空を見上げた。満天の星がきらきら輝いている。


「リューさん。あなたはすごい知識を持ってるけど……もしかして、どこか遠くの世界から来た人なんですか?」


(…………)


 彼女の瞳が、夜空の星を映している。その光に、胸がチクリとした。


 たしかに、俺の頭の中には『記憶』がある。ガラス張りの高層ビル、執事が運転するリムジン。書斎には洋書とグランドピアノ、社交界に株式会議。完璧な笑顔でレディに紅茶を差し出し、冷静沈着に企業をいくつも動かす。そう、二十一世紀の日本の、どこにでもいる『ごく普通のサラリーマン』の記憶が──。


(でも、それって、本当に俺だったのか?)


 今、俺はドラゴンだ。異界龍と呼ばれ、神話に記される存在だった。俺の住んでた“最果ての山脈”には、見たこともない技術で建設された古代の神殿があるという。そして、そこには──記憶にまつわる何かがあるらしい。


 うなだれるドラゴンの瞳がさみしげに揺れる。


「リューさんは、迷子のリューさんだったのですね……」


 ※人生、いや龍生りゅうせいの迷子である。


「私と一緒に行ってみませんか?」


 ドラゴンがゆっくりと顔を上げる。


「最果ての山脈……リューさんの故郷に。私には何もできないかもしれないけど、見届けることはできますよ」


(生贄ちゃん……)

 ※生贄ちゃん……


 † † †


 翌朝、遥か地平の先、最果ての山脈に向けて飛び立つドラゴン。その背には小さなエルフの少女。


 やがて辿り着く最果ての山脈。


(あぁ……そうだ……俺はこの場所を“知って”いる……)


 山脈の奥深く、山の合間の開けた台地を旋回すると、やがて巨大な楠木くすのきの根元に降り立った。そこから少し離れたところに、ひっそりと口を開けた洞窟の入り口があった。


「ここが……リューさんのお家……?」


 洞窟を少し進むと、まるで金属の筒のような回廊かいろうがどこまでも続いていた。明らかに人工物であるそれは、この世界の技術では到底到達できないと確信させる凄みがあった。


(継ぎ目のない、チタンアルミニウム合金の回廊。そして──)


 その内部は外観からは想像も出来ないほど広く、そこには奇妙な文字が刻まれた無数の石板が散らばっていた。


(人工言語が刻まれた、窒化ちっかケイ素の石板か……)


 それは一千万年前、超古代文明の遺跡。遠い未来へ、二十一世紀の地球の文明を伝える図書館であった。当時の文化、生活、科学、そして小説も。文学、ミステリー、学校での青春や異世界転生まで。


 この数百年。この図書館の本を読み漁った。そうして得られた二十一世紀の知識。夢中になった小説の数々。


 そして、あの日──


 森の上を飛んでいた俺の耳の中に……


 一匹のセミが飛び込んだ!!


 ガサガサガサガサガサ……


 頭の中に響くガサガサ音! 空中でパニックにおちいる俺! ──そして……


 ミンミンミンミンミンミンミーーーーン!! ミンミンミンミンミンミンミンミンミーーーーン!! ミンミンミンミンミンミンミンミンミーーーーン!! ミンミンミンミンミンミンミンミンミーーーー……


 俺の記憶はそこで途絶えた……


 あぁ、そのまま気絶して森に墜落したのか……


 閉鎖性頭部外傷による、前頭葉・側頭葉の機能攪乱きのうさくらん。それに伴う記憶障害……


 そして傷つけないよう、慎重に一枚の石板を拾い上げた。


『アナ☆アニ 〜兄貴と親友と俺〜』……その登場人物でダンディな会社員の御堂智久みどうともひさ……これが俺の『前世』の正体か……


 ※腐女子の化石である。


 俺が『前世の記憶』と思っていたものは、全てこの図書館の小説で読んだ……


「わぁー、これ全部文字?? 一体何が書いてあるんだろ?」


 その石板には……ん……料理の、レシピ? プ、プ、プ、


 \ グオオオオオオ!! /

  (プリーーーーンッ!!)


 あの!? 小説で読んだ!? 文明の極み!! プディーーングッ!?


「わぁ! ビックリしたぁ……」


 いくら探しても見つからなかった伝説のレシピを! 生贄ちゃんが……! ありがとう! 本当にありがとう!!


「この石板……そんなに重大なことが……!? ひあっ!?」


 生贄ちゃんを優しくくわえて洞窟を出る! ──そしてその背に乗せると夕焼けの空に飛び立った!!


(これは一刻も早く食さねば……! マリーンがまだあの村にいるだろう! 叡智を授けてやろう! そう! プリンの叡智だ!!)


 ※もちろん自分が食べたいだけである。


「リューさん……! こんなに急いで……一体あの石板にはどんな重大な事実が!?」


 ※プリンである。


 夕焼けの空に滲む巨龍の影。その背にはエルフの少女。


 この空の下、今日も腹ペコな黒き龍と、生贄……じゃなかった、神龍の巫女の文明ライフはまだまだ続いていく。


(終)

お読みいただき、ありがとうございました。良かったら☆マークで評価いただければと存じます。


現実に「実在しうる転生」シリーズの第三弾。男子高校生⇒エルフ、女子高校生⇒公爵令嬢に続き、おっさん⇒ドラゴンでした。この作品に興味を持っていただけたなら、他の作品も読んでいただけると嬉しいです!

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