序章〈旅立ち〉 第一話
初投稿です。
温かい目で見守っていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
「ねぇねぇ、師匠!」
「どうした、グラディウス」
「僕ね、師匠のことずっと大好きだよ!」
「…そうか、私も大好きだぞ!!」
毎日のようにこの会話をして、そのたびに頭をわしゃわしゃと温かく大きな手で撫でてくれた師匠が
死んだ。
僕が買い物に言っている間に、師匠と僕だけが住んでいる家の台所で倒れていた。
師匠は料理の途中だったらしく、火にかけてあった鍋からは水が沸騰してこぼれていた。
台所に置いてある食材を見てみると、師匠はシチューを作っていたみたいだ。
師匠は料理が苦手なのに、僕が師匠のつくる料理で唯一美味しいと言ったシチューを僕の誕生日のたびに作ってくれる。
普段行かない買い物に行かせたと思ったら、サプライズがしたかったのか僕が出掛ける前にはなかったプレゼントのような大きな箱が、リビングの机の上にあった。
箱の中を見てみると、僕への手紙と、ずいぶん前に僕が「いいな…」と小さな声で言って欲しがっていた従魔の卵。
あの時、師匠には「なにか言った?」って聞かれたけど、「なんでもない!」って誤魔化してた。
聞こえていないと思ってたのに、僕の声は全部ていて気にしてない顔して覚えていてくれてたんだ…。
卵は王侯貴族でも持っている人は少ないのに、そんななかでも図鑑でもみたことがないものをくれるなんて…。
そして手紙には
『グラディウスへ
12歳の誕生日おめでとう。
ここまで元気に育ってくれて私は嬉しいよ。
プレゼントの卵はこれからの君に必要だと思って、まぁまぁ苦労して友人から貰ってきたんだ。大切に育てくれよ。
そしてお前は私より才能がある。が、それでも私を超えられるかはお前次第だ。努力を怠るなよ。
お前は褒めるとすぐ調子に乗るからな。まぁ冗談だが、お前がどんな奴だったとしても、学校ではチヤホヤする人よりもライバルになれるような人と友達になると良いぞ!
そんなこと分かっているとは思うが、やはり心配なのだよ。もしかしたら恋人もできるんじゃないかと、私はグラディウスの未来への期待で胸がいっぱいだよ。
困ったことがあればいつでも頼ってくれて良い。
私の弟子はグラディウス、お前一人だけだ。私の愛弟子、これからも元気に育っておくれ。
師匠より』
……こんなに愛してもらってて、守れなかった。最期に側にいられなかった。
自責の念、俺の心の中で黒い感情が渦巻いている。
喪失感。
あぁ…無理だ冷静になれない。これは無理だ。
( し、ししょうが、いない…いないいないいないいないいないいないいないいないいないいない!!!!!!!!!!
どこ?!どこに、いない、ありえない…ありえない!!!!!!!ずっと一緒のはず、やくそく、おおおおおかしいだめだ。だめなのよ。ああああぁぁぁぁぁ…め……み…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
何もない。なにもみえないきこえない。いかないで…俺をおいてかないで…。死なないってゆったじゃん、私は強いんだってお前より先に死なないって!!!うううそ…ちがうちがうちがう。…あぁ、いやだ。 )
落ち着かないと、落ち着け俺。冷静に、冷静に…。考えろ。
師匠はどんな時も冷静だった。弟子の僕もそうあるべきだ。
………師匠はなぜ死んでしまった?
死因を考えても分からない。
師匠は28歳だ、寿命ではない。
病気もない、ほとんどが魔法で治せるから。
怪我も病気と同じだ。治療が間に合わないような外傷によるものではない。
しかし、死体付近には魔法の気配が残っている。誰が何の魔法を何のために行使したか分からない、無色の魔力の残骸がそこにはあった。
家の中を調べても、遺書やそれらしいものはなかった。
自殺の可能性もほぼない。
ただそれだけ。それしか分からなかった。
師匠は帝国所属の魔法使いのため、国にも報告して僕も後の調査に協力した。
最先端の魔法の知識・技術を持つ帝国魔法協会に調べてもらっても、師匠の死因は分からなかった。
ただ、そこのトップは師匠でその弟子は俺しかいない。
師匠がなぜ死んでしまったのか、それを解明できるのは多分僕だけだ。
それに、本当の最先端の魔法知識は僕の頭と体に叩き込まれている。
世界最強の魔法使い【賢者】の師匠がなぜ死んだのか。
最強と思われていた存在を越える者がいるかもしれない。
これは世界の危機でもある。
僕は知る必要がある。
5歳のとき、師匠に拾われた。
それ以前の記憶はない。家族は師匠だけだ。
父のように広い背中で生き様を見せてくれた。
友人のように軽口を叩きあって、ケンカもした。
家事が本当にできなくて、それらは全部僕がやった。
魔法以外はダメダメで、でも魔法はすごくて。
師匠の隣を歩きたくて、師匠を超えたくて、ずっと努力してきた。
師匠以外はどうでもいい。僕にとって師匠が全てだ。
師匠のことを知るために、僕は苦悩しながらも戦い続ける。
一人になり、前より広くて静かな家で僕は椅子に座り考えていた。
(最初にどこへ行こうか……あぁ、そういえば今年から学院に通う予定だったな。)
手紙でも師匠に友達を作ってこいって言われてたな…。
どうするべきだろう。
学院へ行くか、行かずに師匠の死因を調べることだけに集中するか。
分からない…。
思い返してみれば大体は言われたことをやるだけで、魔法のこと以外では自分でやりたいことをした記憶がない。
師匠が喜んでくれるのはどちらか。いつもそれしか考えていなかった。
今回もそれで考えるとしよう。
…まぁ、友達作ってこいって言われたし、あの学院の図書室は魔法に関する本の量が世界で一番多いらしいし、行って損はないな。
決めた。まずは学院へ行こう。
僕は、少しのヒントも逃さないように家ごとマジックボックスに入れて、隣国にある魔法学院へ旅立つことにした。
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モゾモゾ…
(……ここはどこだ。あぁ、そういえばやつらと約束をしたのだったな。)
彼は歓喜した。少し狭いが前にいた場所とは違い、暖かくて懐かしい魔力を感じるから。
また目を閉じる。彼が太陽を目にする日も近いだろう。
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彼が目覚めた音がした。
彼は狭く暗い場所で一人ぼっち。
彼と約束したあいつは、広く暗い場所で一人ぼっち。
私たちの約束は果たされるだろう。
(これでいいのよ、これで……。)
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ご清覧ありがとうございます。