ロジハラ幼馴染にハラスメントし返す
結局、ほとんど僕がティーセットの用意をすることになった。
まあ、パワラとロジリーは腐ってもSランク冒険者だ。一度見れば覚えてすぐ使えるようになるだろう。
洗濯魔道具に関しても、問題なく今日は使えていそうだし……いやあれ、そういえば洗濯物確認してなかったな。後で確認しておこう。
ともかく、今日の茶菓子は一味違う。
たまたま、王都からこちらに出向いて出店していた、高級洋菓子店『リッポンギルマノール』のクッキー。
一缶3万ゴールドと相当値が張ったが、SSランクダンジョンを攻略したご褒美として奮発した。
もっとも、王都で【英雄クラン】の称号を授与された際にはそれなりの特典が貰えるので、この程度の出費、屁でもなくなるだろうが。
高級感のある紙袋から、30cm平方程のロイヤリティ溢れるデザインの缶を取り出す。
そして、コーヒーが用意されたテーブルの中央にそれを配置する。
三人が期待の眼差しを向ける中、缶の蓋を開けるとそこには、多種多様で凝った見た目のクッキーが入っていた。
「す、すごいです……! 今まで食べていたのとは見た目だけで別格と分かりますね! これ、いくらしたんですか!?」
「え? 一缶3万ゴールドだよ」
それを聞いてロジリーはクッキーの枚数を指折り数え始める。
「1、2、3、……10、20、30……と、いうことは一枚千ゴールドですか!? やばいですね! こんなの買って大丈夫なんですか!?」
ロジリーちゃんは、こういうところだけはしっかりしている。
無駄にお金を気にする性質なのだ。
でも冷静に考えて、この小さいクッキーが一枚千ゴールドは確かにやばい。
王都から離れたこの辺鄙な町に、一体どれだけこれを買える人間がいるのだろうか。
考えられるとすれば、左遷された貴族とか、辺境貴族くらいだろう。
「まあ、SSランクダンジョンを攻略したお祝いだよ。英雄クランになったら、たくさんお金貰えるだろうしね」
【英雄クラン】になれば、ほとんどの金銭的融通が効く。
個人で贅沢する分には使いきれないだろう程のお金が、国から恒久的に支給されるのだ。
ただし、それには条件が大きく3つある。
1.国の政治に関わらないこと。
2.国の軍事に関わらないこと。
3.公共の福祉を守ること。
要するに、『大人しくしていれば悪いようにはしない』ということだ。
また、国に仕えるタイプの英雄クラン【王神騎士】になればより多くの特権が得られるらしい。
うちのその辺りの方針については今後要相談である。
「そういえばカイル、あれの鑑定結果はまだなの? 正直、それが終わるまで安心できないわ」
「ああ、あれね。攻略当日に渡したから、もうそろそろじゃないかな。明日、アンナちゃんに聞いてみるよ」
あれとはダンジョンクリアメダルを指す。
つまり、SSランクダンジョンをクリアした証跡だ。
ダンジョンの最深部には特殊な、加工変形不可能な金属で出来たメダルが置かれている。
それを持ち帰り、冒険者ギルドへ提示することで攻略の証明となる。
メダルは提出後、偽装を防ぐためにギルド側で鑑定が行われる。
問題なく鑑定が終われば報酬の授与や階級の昇格が行われるが、今はその結果待ちというわけだ。
「もぐもぐ……まあ、心配無いですよパワラさん、ぱく、仮に何かの間違いで、もぐ、鑑定が認められなくても、ぱく、いざとなればカイルさんが漆黒の究極龍を召喚すれば、もぐ、一発で証明できます、ぱく」
ロジリーちゃんはひょいぱくひょいぱくとクッキーを取っては食べ、取っては食べている。
彼女は本当に甘いものに目が無い。
「もぐもぐもぐもぐ……ああ゛〜〜とても美味です! 美味しいです! これからは毎日こんなものが食べられるなんて、私はなんて幸せ者なんでしょう! 今まで頑張ってきた甲斐がありましたぁ」
と、幸せそうに涙を浮かべながら言うロジリー。
言いながらも、彼女の手は止まらない。
……別に、一人何枚とは決めていなかったけど取りすぎではなかろうか。
それに結構カロリー高そうだし、太りそうだ。
そういえばロジリーちゃん、最近ちょっとむっちりしている気がするんだよなぁ。特に、ふとももお尻あたりとか。
顔周りは変わっていないから、ぱっと見だと分かりにくいけど。(顔はあまり太らない体質なんだろう)
「てい」
僕はおもむろにロジリーちゃんの脇腹を両手でつまむ。
そして、メイド服越しに揉みしだく……うん、やっぱりちょっと太ってる気がする。むにむにだ。
「ひゃぅっ!?」
ロジリーはビクッと肩を震わせる。
顔を真っ赤にしながらガタリと席を立ち、なにかとんでもないことをされたような感じで、大声で僕に言った。
「な、な、な、な、なななな何してるんですか!? カイルさん!!!!」
「あ、ごめん。つい」
「つい、じゃないですよ!! これはセクハラです! 完全なるセクハラです!!!」
何も考えずにセクハラしてしまった。
そんなつもりは無かったんだけど。
まあ僕はロジリーちゃんから日頃ロジハラされていたし、お互い様だろう。
「いやあ、ちょっとロジリーちゃんのお腹が気になって。ロジリーちゃんさあ、最近ちょっと太ったよね? お菓子はあんまり食べすぎない方がいいんじゃないかなあ」
「は……はい!? そ、そんなことありません、失礼ですね! 確かに最近体重はほんのちょっぴりだけ増えた気は、しないでもないでもないでもないですけど――」
「《使役対象能力表示》!!!」
僕は唐突にスキルを発動する。
これはテイム対象のステータスを確認するスキルだ。
表示されたステータスウィンドウを見る。
「BMIは22.5……ちょい上よりの標準か……。でも体脂肪率は……えっ!? もうすぐ30行っちゃうじゃん! う〜ん、これはちょっとまずいんじゃないかなあ、ロジリーちゃん。やっぱり、お菓子は少し控えないと。このまま油断していると、将来生活習慣病とか糖尿病になっちゃうかもしれないよ。今はとっても可愛らしいその見栄えだって、悪くなっちゃうかもしれない。まあ僕は、すこしぽっちゃりしているくらいが好きなんだけど――」
「ああああああああああああああああああああ!!!」
ロジリーちゃんが悲鳴のような叫び声を上げ、僕に突進してきた。
それにより僕は床に倒れ、ロジリーちゃんが馬乗りになる。
そしてロジリーちゃんは顔を真っ赤にし涙目になりながら僕をポカポカと殴ってきた。
「痛い! やめてよロジリーちゃん!」
とは言いつつ、ロジリーちゃんの【筋力】ステータスはとても低いため、あまり痛くは無い。
「フーーーー! フーーーー! 殺す! コロス!! 殺してやる!!! カイルさんを殺して私も死にます!!!」
「いたい、いたい! パワラちゃん、モラハお姉ちゃん、助けて~! ロジリーちゃんを止めて~!」
席に座り優雅にティータイムを嗜んでいる二人に僕は助けを求めた。
「……カイル、あんたデリカシーってもんが無いの? さすがに今のはドン引きだわ」
パワラは冷めた目で僕を見下ろしながら、クッキーをつまんでいる。
「カイル君、今のはさすがにどうかと思うなぁ……。そのスキル、私に使ったら怒るからね?」
モラハお姉ちゃんは穏やかな笑みを浮かべながら、優雅にティーカップを持ち上げた。
しかし、その瞳はまるで笑っていない。
そんな感じで二人はロジリーちゃんの暴走を静観していた。
つまり、僕の味方はいなかった。
カクヨムと更新日を合わせるため、明日お休みいたします。
(今なろうが先行してます。)