パワハラ幼馴染にハラスメントし返す
買い物から帰宅し、リビングの扉を開けると、言いつけ通りに床を雑巾掛けしているパワラが見えた。
「おっ、パワラちゃん、ちゃんと掃除頑張ってるねえ。えらいえらい!」
声をかけると、パワラはピクリと肩を震わせた。
そして、ゆっくりと僕の方を振り向き――
「……………ちっ」
露骨に嫌な顔をして、舌打ちする。
その後立ち上がり、僕が今通ってきた廊下の方に抜けようとした。
「パワラちゃん、どこに行くんだい?」
「どこって、廊下よ。廊下を掃除しに行くの。リビングはもう終わったわ。何よ、何か文句でもあるの?」
あからさまに僕を避ける動き。
本当にリビングの掃除は、全部できてるのかなぁ?
そういえば前に、リビングの窓の縁の埃を指摘されて、ガチ詰めされたことがあったな。
僕は試しに、窓の縁に指を這わせる。
「はぁ……。パワラちゃんさあ……、窓の縁のここ、ぜんぜん掃除できてないよ? 埃が指についちゃったよ」
指先についた灰色の埃を見せつけるように、ひらひらと振る。
「……はあ? そんな細かい所どうでもいいでしょ!?」
「あのさあ! 僕が前にここ掃除しなかったとき、パワラちゃん鬼のように激詰めしたよねぇ!? 確か『ここの埃を吸い込んで、私たちがハウスダストアレルギーになったらどうするつもり!? 戦闘中に呼吸不全を起こしたらどうするの!? 役に立たないだけじゃ無く私たちを殺す気なの!?』って」
「そ、そんなことあったかしら。覚えてないわね」
パワラちゃんは顔をそらす。
「やられた方はずっと覚えているんだよ。とにかく、やり直し。窓の縁じゃ無くてリビング全部ね。パワラちゃんの掃除、全然信用できないや」
「はあ!? 窓だけやり直せばいいでしょ!? そんなの理不尽だわ!」
「え? パワラちゃん僕に逆らうつもり? パワラちゃんは『対等じゃないと意見を言う権利は無い』って言ってたと思うけど、パワラちゃんはもう僕と、『対等』になったのかなあ?」
僕がそう言うと、パワラの顔が悔しそうに歪む。
「ぐっ……。分かったわよ! やり直せばいいんでしょ!? やり直せば!」
雑巾を乱暴に掴み、床に膝をつくパワラちゃん。
ぶつぶつ文句を言いながらも、やり直し始める。
パワラちゃんは意外と筋を通すところがある。
その性質のせいで、過去の言動が今裏目に出まくっているが。
故にテイマースキルなしで、今のところ僕の言うことはなんでも聞いてくれている(態度は悪いが)。
なんて……なんて気持ちいいんだ!
「あ、カイルさんお帰りなさいです。今洗濯物干し終わりました」
ロジリーちゃんがベランダからリビングに入ってくる。頼んでいた洗濯が終わったようだ。
「ロジリーちゃん、お疲れ様。ところで、今日はパワラちゃん、ロジリーちゃんにプレゼントがあるんだ。今買ってきたこれなんだけど」
僕は持っていた2つの紙袋を掲げる。
「え? 本当ですか!? カイルさん!」
ぱぁっとロジリーちゃんの顔が輝く。
「……なによ、飴と鞭のつもり? それくらいで私を懐柔できると思ったら大間違いよ!」
ツンとした態度のパワラちゃん。
けれど、微妙に口元が綻んでいる。
「うん、とってもとっても可愛いお洋服だよ。絶対に二人に似合うと思うから、今からこれを着てほしいな」
と言って僕はそれぞれに紙袋を手渡した。
♦
「ってこれ、メイド服じゃない!」
「期待した私がバカでした……」
二人は着替えから戻ってくると、各々不安を口にする。
なんでだろう、喜んでもらえると思ったのに。
「ていうかこれ、サイズ小さすぎない!? ピチピチだし、スカート短すぎ! 下着見えそうなんだけど!」
パワラちゃんが頬を赤くしながら、裾をぎゅっと押さえる。
黒地に白のレースが施されたメイド服が、彼女のしなやかな身体にぴっちりフィットしていた。えっちな感じだ。
「そうですか? 私は逆に、なんだかダボダボな感じです……」
ロジリーちゃんは、袖を持ち上げてひらひらと揺らす。
サイズが合っていないせいで、肩の部分が少し落ち、鎖骨がちらちらと見えている。これもこれでえっちな感じだ。
あれ、なんでだ。
パワラちゃん、ロジリーちゃんにぴったりのサイズを買ったつもりだったのだが――
「……あ!」
しまった!
パワラちゃんのメイド服とロジリーちゃんのメイド服を間違えて渡してしまった!
「……ふん。その間抜けヅラから察するに、間違えて渡したようね。力を持っても馬鹿カイルは馬鹿カイルね。愚図で間抜けなところはちっとも変わってないわ」
なんだと!
「な、何を勘違いしているのかなパワラちゃん。僕が間違えて渡すわけないだろう。全然全然間違ってないよ。パワラちゃんは体のラインが強調されて、えっちな感じだし、ロジリーちゃんはロリっぽい感じが強調されていてとっても似合っている。僕の見立ては間違っていなかったね」
「な、な、ななななな!? 何言ってるのよあんた!? 変態! セクハラ!!」
顔を真っ赤にしながら、パワラちゃんがスカートをバッと押さえる。
「カイルさん今、私のことロリって言いました……?」
ロジリーちゃんがジト目で僕を見る。
しまった。焦って本音が。
「そ、それより二人とも、 服と一緒にお菓子も買ってきたんだ! 家事は一旦休憩して、ティータイムにしようよ!」
「ほんと!? カイルの癖に気が効くじゃない!」
「あ! その横にある袋、超高級洋菓子店の『リッポンギルマノール』の紙袋じゃないですか! カイルさん太っ腹です! 流石です!」
よし、誤魔化せた!
ちょろいぜ。
「じゃあ僕はモラハお姉ちゃんを起こしてくるから、二人ともコーヒー沸かして準備しててね」