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豹変

 夕食が終わり、洗い物が片付いた後、僕はみんなをリビングの卓に招集した。

 そして、アンナから受け取った書類と共に先ほどの出来事を説明した。


「と、言うことなんだよ」


 一通りの説明が終わると、まず、パワラが機嫌悪げに口を開いた。


「ふうん。アンナちゃん、来てたんだ。私たちに何も言わずに帰っちゃうなんて、水臭いわね」


「ああ……。僕も一応中に招こうとしたんだけど、さっさと帰りたそうだったね」


 アンナちゃんは人当たりが良く、多くの冒険者と良い関係を築いている。もしかしたら、仲が良いと思ってるの僕たちの方だけなのかもしれない。あるいは本当に早く帰りたかったのか。


「そんなことより、遂にこのクラン”ベレスティガ”が英雄クランになって、王都に召集されたってことですか!? 来るところまで来たって感じですね!」


 ロジリーがぱあっと目を輝かせる。


「でも、喜んでばかりではいられないよ。結局、英雄クランって言うのは向こうからしたら国を脅かしかねない強大な力を持っている厄介な存在なんだ。最大限警戒されるだろうし、何か行き違いがあれば敵対することだってあり得るかもしれない。僕たちはそうならないように慎重に振る舞わないといけないんだ」


 とは言っても、敵対しないようにするためにこう言った制度があるのだが。国側も英雄クランと敵対すれば損をする方が多いと踏んで、合理的で友好的な提案をしているのだ。


「え? そんな必要、あるのかしら。何かあればカイルご自慢の、その卑劣で下劣で最悪なスキル、《理外の強制使役》で王様でもなんでも従えちゃえば良いじゃない。だって、アンリミテッドなテイムスキルなんでしょ? 国民全員をテイムしてこの国を乗っ取ることだって出来るでしょうに」


 パワラが悪びれもせず、さも当たり前と言った様子で物騒な事を言う。


「いやいや。《理外の強制使役》は強いけど、何もかも思い通りにできるほど万能じゃないよ。確かに使役対象の制限は無いけどテイム行動そのものの仕様は今までと変わっていない。僕の視界に入っていてかつ、かざした手の周囲、半径5m以内にいる対象にしかスキルは使えないんだ。だから最強じゃないし、例えば遠距離から攻撃をされたら僕は成す術なくあっさりやられると思うよ」


 と、言い終わってから気付いたのだが、僕が話している最中パワラはいつの間にやらメモ帳を取り出し、熱心に何かを書き込んでいた。


「……パワラちゃん、何をメモしているの? ていうか今までパワラちゃんがメモしてる所なんて、見たことなかったんだけど」


「え? カイルが間抜けにも自らの弱点を話してくれたから、それをメモっているだけよ。テイムが解除されたら、即、カイルのことをぶっ殺せるように」


 こいつ……! 


「……ともかく、物騒な事態にならない様穏便に事を進めつつ、最大限こちらが有利になる様に進めたいね。舐められたら舐められたで、得られる恩恵が少なくなりそうだし」


「まあ、その辺りの駆け引きとかやり取りはカイルに任せるわ。あんたそういうの得意でしょ? 外面だけは無駄に良いし。ロジリー、モラハ姉もそれで良いわよね?」


 お、何だか珍しい。

 パワラちゃんが僕のことを褒めるなんて何年振りだろうか。それにちゃんとした役を任せてくれるなんて。意外と信頼してくれていたのか……?


「はい。私は特に異論ないです」


 ロジリーはパワラの問いに対して軽く頷く。あまり深くは考えていない様だ。


「……私は、少し反対かな」


 対して、モラハお姉ちゃんがポツリと否定する。


「だって、相手はこの国の偉い人たちなんだよね? 普段の、ギルドの事務手続きとかはカイル君にいつもやって貰っているけど、今回はそれとは訳が違うと思う。もし王様から強く言われちゃったら、カイル君その場で泣き出しちゃうかもしれないし……」


 モラハお姉ちゃんからは逆に、この辺りの信頼はない様だ。

 まあ、僕がこれまで彼女に見せていた振る舞いを考えれば無理もない。


 でもだからこそ、ここでもう一度、僕の決意を見せて、信頼を取り戻さないといけない。


「モラハお姉ちゃん、それにパワラちゃん、ロジリーちゃんにもだけど、みんなに改めて、言いたいことがあるんだ」


 僕は神妙に切り出した。


「僕は今まで、不遇職であることに甘えて、みんなと一緒に戦うことを放棄していた。自分が一緒に戦っても足手纏いだって決めつけて、勝手に自信を失っていた」


 目を閉じ、深呼吸し一拍起く。そして続ける。


「でも、そうじゃなかったんだ。《理外の強制使役》を手に入れたからって調子のいいことを言ってるって思われるかもしれないけど、そんなものなくても、僕はみんなを守れるんだってこの前にダンジョンで分かった。僕に足りなかったのはみんなを守りたいっていう強い意思だって気付いたんだ」


「…………カイル君?」


「俺は、これからはもう戦うことから逃げない。どんな人やモンスターが相手だろうと、泣き出したりしない。俺がみんなのことを守って、導いてみせる。だからモラハ姉さん、交渉は俺に任せてくれないか?」


 そう言うと、パワラ、ロジリーははっと驚いた様に、目を見開いて僕の方を向いた。


「カイル……!」


「カイルさん……!」


 まるで長年待ち続けていたものが唐突に現れたかの様な表情だ。


 まあ、今言ったことは僕の本音だ。

 それを二人が快く受け取ってくれるなら、僕もその期待に応えないと――


「やっぱりダメだよ!!!」


 モラハお姉ちゃんが急に声を張り上げ、立ち上がった。

 表情を見ると少し動揺している様だ。何故だろう。


「モ、モラハ姉さん……?」


「だってカイル君、アガリ症でしょ? それにおっちょこちょいだし、気が弱いし、そんな大役任せちゃいけないと思うなあ! その役はお姉ちゃんに任せて欲しいかな〜!」


 いや、やはり何か様子がおかしい。

 特に今の流れで何か大きな事があった訳でも無いと思うのだけれど。


「そんなに心配しなくても、大丈夫だよモラハ姉さん。俺はここ一番大事な時には結構、力を発揮できるんだ。確かに最近はちょっと頼りなかったかもしれないけど、今回は俺に任せてくれないか?」


 僕は落ち着かせる様モラハお姉ちゃんの手を両手で優しく握った。

 しかし、僕の思惑とは裏腹にモラハお姉ちゃんは更に表情が悪くなる。


「離して!!!」


 手を振り払われた。


 一瞬時が止まる。

 そしてモラハお姉ちゃんははっと我を取り戻した様になる。


「ご、ごめんなさい。ちょっと私、まだ具合が悪いみたい。部屋に戻るね。申し訳ないけど、この話はまた明日しましょう」


 そう言ってモラハお姉ちゃんは逃げるようにしてリビングから出ていった。


「どうしたんだ……モラハ姉さん」


 僕は何が起きたかわからず、その場で立ち尽くしていた。


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