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『第十六話 プレゼント出来るもの』

『サイクルラヴの叫び、少年少女のセイセンネンリョ』


登場人物


神野(じんの) カナメ 16歳男子

本作の主人公。高校一年生。人に対して距離があり、どこか性格も冷めている。


相園(あいぞの) トワネ 16歳女子

本作のメインヒロイン。高校一年生。”第六の力の女王”で、カナメの契約相手。性格はわがままで愛想がなく、たびたびカナメのことを困らせることになる。無類のカルボナーラ好き。


若葉(わかば) ソウヤ 16歳男子

カナメたちと同じ高校一年生で、”第六の力の王子”。成績と容姿が優れている上に、人当たりも悪くないため、同級生たちからよくモテているが・・・信心深く、よく礼拝堂に訪れている。


浅木(あさき) チヅル 16歳女子

カナメたちと同じ高校一年生で、”第六の力の姫の一人”。カナメやトワネほどではないが、馴れ合うことが苦手な性格をしており、口調もキツい。契約相手のソウヤとは幼馴染。


九音(くおん) ヒヨリ 18歳女子

カナメたちよりも2つ歳上の先輩に当たる、”第六の力の姫の一人”。ロシアからの帰国子女で、強い正義感の持ち主。その性格の通り優秀な戦士であり、面倒見も良い。


真弓(まゆみ) マナカ 18歳女子

ヒヨリと同じくロシアからの帰国子女で、”第六の力の姫の一人”。常に顔面にカラスがデザインされた鉄仮面を付けていて、お嬢様口調で話をする。ヒヨリとは古くからの仲であり、契約相手でもある。


シィア 15歳女子モデル

長く”ANDREI”で働く美少女アンドロイド、正式名称はSI-A49。一応梢トキコの助手という役職だが、雑用も淡々とこなす。長く人間に仕えて来たからか、皮肉屋ところがある。口癖は『アホ』。


四季(しき) イズミ 16歳女子

・・・???


(こずえ) トキコ 36歳女子

“ANDREI”の科学者で、カナメたちが暮らすオンボロアパート”花色荘”の管理人。大人気なく怒りっぽい性格をしている。カナメたちに対して厳しい言い方をすることが多いが、一応彼らの保護者だったりする。


神野(じんの) タエ 78歳女子

“オソレ”の破壊を目的とした組織”ANDREI”の司令であり、カナメの祖母。カナメとは長く疎遠だったが、”オソレ”を破壊するために彼の力を借りようとする。


日向(ひなた) リュウマ 36歳男子

日本帝国軍から派遣された軍人で、階級は陸佐。ただし、軍人らしさは全くない。戦略班のリーダーだが、実質的に”ANDREI”のトップ2の立場におり、タエの側近的な役割を担っていることが多い。トキコとは過去に色々あったとか、なかったとか。


神野(じんの) アキラ 44歳男子

カナメの父親。いつも仕事で帰って来るのが遅いため、カナメとは上手くコミュニケーションが取れておらず、そのことを気にしている。

 

神野(じんの) アイラ 女子

カナメの母親。カナメが幼い頃に亡くなっている。




ゲストキャラクター




MA-RA337型のアンドロイド 18歳女子モデル

シィアよりも後に登場したアンドロイド。シィアと比較するとかなり人間的な表情が出来るのに加えて、欠陥も少ない。


トキコがバーで出会った男 30代後半男子

・・・???


イザベル・カーフェン 16歳?女子

一生懸命、真面目、純粋の三拍子が揃ったドジっ娘。良くも悪くもまっすぐな性格のため、気合いが空回りすることもしばしば。ある時カナメたちと出会い、そこから交流を深めるようになる。


アマネ・カーフェン 18歳?女子

イザベルの姉。何かとやらかすことが多いイザベルのことをいつも厳しく叱っている。一人称は『俺』だが、食器集めが趣味という可愛い一面も。


ルシファリア 年齢?女子

・・・???


ウラジーミル・アンドレイ 65歳男子

・・・???


ヒラン・アンドレイ 14歳女子

・・・???


ロベール=フォン・アンドレイ 18歳男子

・・・???


クレナ・アンドレイ 21歳女子

・・・???


九音(くおん) アリカ 40歳女子

ヒヨリの母親。


博士 17〜18歳女子

本名不明。”あるもの”を連れている。


タカヤ 30代前半男子

・・・???


ヨハリル 20代前半?男子

・・・???


C 16歳?女子

リュウマの話に登場した好奇心旺盛な少女。ある日、キファーと出会うことになる。


キファー 16歳?男子

Cと同じくリュウマに登場した少年。Cとは違い大人しく、いつも寂しげな様子をしている。


ユーリ 60歳?男子

Cの叔父。


ガラファリア 20代後半?女子

・・・???


神野(じんの) アイハ 40代前半女子

カナメの叔母。”夢路村”で、喫茶”四重奏の夢”を経営している。


イ・ジヨン 20代前半女子

韓国から来た留学生。喫茶”四重奏の夢”を経営を手伝いながらアイハの家でホームステイをしている。


リツ 27歳女子

ある過去を抱えている信仰者。


スグル 30代前半男子

・・・???

◯1回想/産婦人科病院分娩室(約5年前/夜)

 産婦人科病院の分娩室にいる31歳頃のトキコと数人の助産師たち

 分娩台の上にいる31歳頃のトキコ

 31歳頃のトキコは汗だくでいきんでいる

 

助産師1「もう大丈夫ですよー!!生まれましたよー!!」


 汗だくになって息切れをしている28歳頃のトキコ

 少しの沈黙が流れる


トキコ「(汗だくになって息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・何・・・?どうして産声を上げないの・・・?」


 再び沈黙が流れる


助産師1「残念です・・・」


 31歳頃のトキコは汗だくになりながら呼吸を整える


トキコ「(汗だくになりながら呼吸を整えて)死んだの?」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「(汗だくになりながら)こ、答えてよ」


 助産師2はタオルに包まれている血まみれで死産したトキコの赤ちゃんを抱いている

 タオルに包んで抱いている血まみれで死産したトキコの赤ちゃんを、汗だくになっている31歳頃のトキコに見せる助産師2

 トキコは汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんを見る

 

トキコ「(汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんを見て)なるほど・・・(少し間を開けて)確かに死んでるわね・・・」


◯2回想戻り/どこかに向かう道中(日替わり/昼前)

 外は快晴

 シィアとトキコが乗っている車がどこかに向かっている

 シィアとトキコが乗っている車は一般道を走っている

 シィアは助手席に座っている

 トキコは運転席に座り運転をしている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 少しの沈黙が流れる


◯3回想/ANDREI総本部通路(約20年前/昼前)

 ANDREI総本部の通路にいる16歳頃のトキコと58歳頃のタエ

 話をしている16歳頃のトキコとタエ


タエ「レポートを読みました。あなた、まだ若いのに科学者としてだけではなく、人としても優秀な目をしているのね。きっとANDREIの財産になるわ」

トキコ「そ、そうですかね?」

タエ「(少し笑って)梢博士はここ数千年で一人の逸材なのだから、自信をお持ちなさい」

トキコ「じ、自分はまだ16歳のガキです、博士と呼ばれるほど第六の力の研究や実験も出来ていません」

タエ「(少し笑いながら)あら、謙遜しているのね」

トキコ「け、経験が足りてないのは事実です」

タエ「(少し笑いながら)経験なんてANDREIでいくらでも積めるでしょう。ここには道具も揃っているのだし、全てあなたが好きなように使って構わないわ」

トキコ「あ、ありがとうございます、司令」

タエ「(少し笑いながら)良いのよ、私は今のあなたのような若くて才能のある人が好きなだけだから」


◯4回想/ANDREI総本部トキコの研究室(約20年前/昼前)

 ANDREI総本部トキコの研究室にいるシィア、16歳頃のトキコ、58歳頃のタエ

 ANDREI総本部トキコの研究室には机、椅子、パソコンが置いてある

 白衣を持っているシィア

 話をしているシィアと16歳頃のトキコ


シィア「(淡々と)今日から梢トキコ博士の助手を務めるシィアです、どうぞよろしく」

トキコ「助手?」

シィア「はい」

トキコ「司令、私は助手なんて必要ありません」

タエ「そうかしら?」

トキコ「歳の近い同性とは仲良く出来ないタチなので」

タエ「彼女はアンドロイドよ」

シィア「(淡々と)人間様たちのあらゆる雑務を難なくこなしちゃう優れ者とは私のこと、正式名称はSI-A49です。(少し間を開けて)シィアちゃんって呼んでね」


 少しの沈黙が流れる


シィア「シィアちゃんって呼んでね」


 再び沈黙が流れる


シィア「シィアちゃんって・・・」

トキコ「(シィアの話を遮って)分かった分かった、一回で聞こえたから」

タエ「たくさん自己紹介の練習をした甲斐があったわね、シィアちゃん」

シィア「(淡々と)司令のアホ。練習したことは隠していたのに」

タエ「(少し笑って)ごめんなさい」

トキコ「し、司令」

タエ「何でしょう?」

トキコ「アンドロイドは粛清で全滅して、今は生産中止になったんじゃ・・・」

タエ「その通りよ、博士」

トキコ「だったらどうしてここにはアンドロイドがいるんですか?」

タエ「ある重要な計画に、彼女の存在が必要不可欠だからです」


 少しの沈黙が流れる


タエ「博士にもいずれ参加してもらうことになるでしょう。だけどそれまでは、シィアちゃんはあなたの助手であり、親友であり、娘でもあるわ。だから対等に、仲良く、可愛がってあげなさい」

トキコ「仲良く・・・ですか・・・」

シィア「意地悪しないでね」


◯5回想戻り/どこかに向かう道中(昼前)

 シィアとトキコが乗っている車がどこかに向かっている

 シィアとトキコが乗っている車は一般道を走っている

 シィアは助手席に座っている

 トキコは運転席に座り運転をしている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 少しの沈黙が流れる


シィア「博士」

トキコ「(運転をしながら)何?」

シィア「良いんですか」

トキコ「(運転をしながら)何が?」

シィア「チヅルやみんなです」


 再び沈黙が流れる


トキコ「(運転をしながら)チヅルなら大丈夫よ」


◯6カプセルホテル個室(昼前)

 カプセルホテルの個室にいるチヅル

 カプセルのホテルの個室は狭く、個室そのものがベッドになっている

 カプセルのホテルの個室のベッドで横になっているチヅル

 チヅルは錆びついた古い包丁を持っている

 錆びついた古い包丁を見ているチヅル


トキコ「(声)あの子は強いから、一人でも気持ちと向き合えるわ」


◯7どこかに向かう道中(昼前)

 シィアとトキコが乗っている車がどこかに向かっている

 シィアとトキコが乗っている車は一般道を走っている

 シィアは助手席に座っている

 トキコは運転席に座り運転をしている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 話をしているシィアとトキコ


シィア「そうですか」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「(運転をしながら)心配なのね?」

シィア「(淡々と)ただ、リスクを予測する機能が働いているだけなのでは」

トキコ「(運転をしながら)人はそれを心配と言うのよ」

シィア「(淡々と)ほほー、勉強になる」

トキコ「(運転をしながら)思ってないでしょ」

シィア「いえ、思っていますが?」


 再び沈黙が流れる


トキコ「(運転をしながら)チヅルは家出しただけだわ」

シィア「それが大きな問題なのかと」

トキコ「(運転をしながら)シミュレーションには来るんだし通信もオフにしてないんだから平気よ」

シィア「(淡々と)彼女はまだ16歳ですよ、トキコ博士」

トキコ「(運転をしながら)私だってあんたと初めて会った時はそのくらいだったでしょ」

シィア「(淡々と)私のデータによれば、博士が初めてANDREIにやって来たのは16歳になって9ヶ月14日目でした。チヅルは15歳になって11ヶ月2日でANDREIにやって来たので、博士よりもチヅルの方が少し若くしてANDREIデビューをしています」

トキコ「(運転をしながら呆れて)全く信じられないわね、こんなふざけた会話を20年間続けながら一緒に暮らしてんのよ私たち」

シィア「トキコ博士もすっかりお婆ちゃん」

トキコ「(運転をしながら)おばさんね、まだお婆じゃんじゃないから」

シィア「失礼。(少し間を開けて)余計なお世話かと思いますが」

トキコ「(運転をしながら)余計だと判断と出来るなら言わないでくれる?」

シィア「はあ」


 少しの沈黙が流れる


シィア「子供が家出をしたら、親が連れて帰るべきでは」

トキコ「(運転をしながら)無理よ。本人の意志なんだから。それに私は親じゃなくて仮の保護者に過ぎないわ」


 再び沈黙が流れる

 トキコは運転をしながら車のナビを押す

 トキコが運転をしながら車のナビを押すと、車のナビに”♪”が表示される

 トキコは運転をしながら車のナビに表示された”♪”を押す

 シィアとトキコが乗っている車のスピーカーからデヴィッド・ボウイの”スペイス・オディティ”が流れ始める


『第十六話 プレゼント出来るもの』


◯8花色荘リビング(昼前)

 花色荘のリビングにいるカナメとトワネ

 花色荘のリビングにはテーブル、椅子、ソファ、テレビ、ゲームがある

 言い争っているカナメとトワネ


トワネ「お前は人の気持ちが読み取れない奴だ!!人の感情が推し量れないんだ!!」

カナメ「う、うるさい、と、トワネには関係ないだろ」

トワネ「イザベルの時もそうだった!!お前は善意と悪意の区別がついてない!!自分の行動の先にどんな結果が待ってるのか分かってない!!」


◯9第十五話◯62の回想/タカヤの家近く(夜)

 タカヤの家の近くにいるトワネ

 タカヤの家の前にはカナメとタカヤの妻がいる

 カナメは紺色の”ミラースーツ”を、トワネは赤の”ミラースーツ”を着ている

 両膝をついて号泣しているタカヤの妻

 両膝をついて号泣しているタカヤの妻の目の前には、乾いた血でどす黒く染まり割れているタカヤのサングラス、乾いた血でどす黒く染まっているタカヤのサウナハット、同じく乾いた血でどす黒く染まっているタカヤのタブレットが置いてある

 タカヤの妻は両膝をつき、目の前に置いてある乾いた血でどす黒く染まり割れているタカヤのサングラス、乾いた血でどす黒く染まっているタカヤのサウナハット、同じく乾いた血でどす黒く染まっているタカヤのタブレットを見ながら号泣している

 両膝をついて号泣しているタカヤの妻を見て呆然としているトワネ


トワネ「(大きな声)だから人を傷つけるんだ!!!!」


◯10回想戻り/花色荘リビング(昼前)

 花色荘のリビングにいるカナメとトワネ

 花色荘のリビングにはテーブル、椅子、ソファ、テレビ、ゲームがある

 言い争っているカナメとトワネ

 花色荘の廊下にはヒヨリがいる

 ヒヨリは廊下に隠れてヘラヘラ笑いながらカナメとトワネの言い争いを聞いている


カナメ「ぼ、僕だって好きでやってるんじゃない!」

トワネ「(大きな声で)いや全部お前が自分で選んだことだ!!!!カナメはいつも被害者のふりをする!!!!可哀想な僕だとでも言いたげな顔だがそれはおかしい!!!!お前はただ結果の責任を取りたくないだけだ!!!!逃げてるだけなんだよ!!!!」


 少しの沈黙が流れる


カナメ「じゃあトワネが教えてよ、僕は今までどうしたら良かったんだよ」

トワネ「今更甘えるな。助けて欲しかったらおかしなことをする前にそう言うべきだったんだ。何もかも間違えたんだよ、お前は。(少し間を開けて)自分でやらかしたことは自分で向き合えカナメ」


 再び沈黙が流れる

 トワネは花色荘の自分の部屋に向かって歩き始める

 カナメは俯く

 廊下に隠れてヘラヘラ笑っているヒヨリとすれ違うトワネ 

 トワネの肩とヘラヘラ笑っているヒヨリの肩がぶつかる

 トワネの肩とヘラヘラ笑っているヒヨリの肩がぶつかった瞬間、ヒヨリは素早くトワネの腕を掴む


ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながら素早くトワネの腕を掴んで)心配することはない。カナメなら私に任せてくれ」


 少しの沈黙が流れる


ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いトワネの腕を掴んだまま)香水を変えたなトワネ、金木犀か」

トワネ「(ヘラヘラ笑っているヒヨリに腕を掴まれたまま不機嫌そうに)早く離せ馬鹿」


 ヒヨリはヘラヘラ笑いながらトワネの腕を強く掴む


ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながらトワネの腕を強く掴んで)後で私とマナカとカナメとトワネの4人で一緒にお風呂に入ろう」


 トワネはヘラヘラ笑っているヒヨリに強く掴まれている腕を無理矢理振り解く


トワネ「(ヘラヘラ笑っているヒヨリに強く掴まれている腕を無理矢理振り解いて不機嫌そうに)キモいことを言うな」


 トワネはヘラヘラ笑っているヒヨリに強く掴まれている腕を無理矢理振り解き、花色荘の自分の部屋に戻って行く

 変わらずヘラヘラ笑っているヒヨリ

 ヒヨリはヘラヘラ笑いながら花色荘のリビングに行く

 リビングには変わらず俯いているカナメがいる

 

ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながら)カナメ」


 カナメは顔を上げる


カナメ「(顔を上げて)ヒヨリさん・・・」


 ヒヨリはヘラヘラ笑いながらテーブルに向かって椅子に座る

 

ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながらテーブルに向かって椅子に座って)座るのだ、カナメ」

カナメ「僕、もう部屋に戻ろうかと・・・」


 ヘラヘラ笑っていたヒヨリの顔から笑みが消える

 再び沈黙が流れる


ヒヨリ「私は聖アンドレイ帝国の第六の力の女王だぞ、カナメ」

カナメ「違う・・・ヒヨリさんは女王なんかじゃないです」

ヒヨリ「口答えをするな」


 少しの沈黙が流れる


ヒヨリ「(怒鳴り声で)早く座れ!!!!」


 カナメはヒヨリの怒鳴り声に一瞬驚く

 渋々テーブルを挟んでヒヨリと向かい合って椅子に座るカナメ


ヒヨリ「(少し笑って)良い子だカナメ」


 再び沈黙が流れる


ヒヨリ「(少し笑いながら)トワネのことが好きか?」

カナメ「えっ・・・?」

ヒヨリ「(少し笑いながら)トワネに恋をしているのか?」


 カナメの顔が少し赤くなる


カナメ「(顔を少し赤くして)そ、そういう気持ちは・・・」

ヒヨリ「(少し笑いながら)ではオソレが好きか?」

カナメ「(顔を少し赤くしたまま)別に・・・」

ヒヨリ「(少し笑いながら)九人目のオソレに恋をしているのか?」

カナメ「(顔を少し赤くしたまま)あ、あれは・・・(少し間を開けて)そういうのじゃなくて・・・」

ヒヨリ「(少し笑いながら)気にするなカナメ、私なら大丈夫だ。カナメがオソレと何回寝ようが私は何も気にしていない」


 少しの沈黙が流れる


カナメ「そ、そんなんじゃないです」

ヒヨリ「(怒鳴り声で)マナカ!!!!こちらに来い!!!!」


 カナメは再びヒヨリの怒鳴り声に一瞬驚く

 花色荘のリビングにマナカがやって来る

 マナカはカラスがデザインされた鉄仮面を付けている

 テーブルに向かって椅子に座るマナカ


マナカ「(テーブルに向かって椅子に座って)どうしましたの?ヒヨリ様」

ヒヨリ「ああ、マナカ。少々困っていたところなのだ」

マナカ「それはいけませんわね、私がヒヨリ様をお助けしますわ」

ヒヨリ「(少し笑って)いやいや、困っているのは私ではなくてカナメなのだ」

マナカ「あら、そうでしたの?」

カナメ「いや・・・僕何も言ってないですけど・・・」


 再び沈黙が流れる


ヒヨリ「カナメ、茶番はよそう。お前は男だ、第六の力の王だ。だから腹を割って話せ、私とマナカの前でカナメの玉を見せろ、それくらい出来るな?」

カナメ「僕・・・部屋に・・・」

ヒヨリ「(カナメの話を遮って)出来ないのか?お前は男なのに玉を見せられないのか?」


 少しの沈黙が流れる


マナカ「カナメさんは玉なしですわ、ヒヨリ様」

ヒヨリ「(少し笑って)では私が先に見本を示そう。良いかな?カナメ」


 再び沈黙が流れる


ヒヨリ「(少し笑って)私は望まれぬ娘として生まれた。私は姉のように優秀ではなく、妹のように可愛いわけでもなかった。そんな私を母上は酷く嫌ったのだ。私は毎日罵声を浴びせられ、殴られた。愛おしき我が母上はサディストだったが、私は彼女を愛した。毎月20日にあったご奉仕の日は、私のお気に入りの行事だったのだ。今でもお風呂に入ると、母の体が恋しくなる。理由は分からないが、彼女には共感出来た」


 ヒヨリはチラッと少し笑いながらカナメのことを見る


ヒヨリ「(チラッと少し笑いながらカナメのことを見て)私も母のように醜い者を偏愛している。(少し間を開けて)我が父上も、傲慢極まりないお人だった。暴力と性欲に塗れた獣のような男だが、切れ者で、私が唯一勝てないと悟った相手だ。私はあの男の玉を見て育った。だから私は痛みに強いのだ、分かるだろう?カナメがどんなことをしても、私の心身は健康そのもの。私は無敵だ、恐れることもない」

 

 ヒヨリはヘラヘラ笑う


ヒヨリ「(ヘラヘラ笑って)残念ながら私の家族は死んでいるらしい。私は心底姉のことが嫌いでな。ある時、弟と一緒に家ごと燃やしてしまった。両親と妹が死んだのも、私やマナカの体に火傷の跡が残ったのもそれが原因だ。いや、ナイフで刺し殺したんだったかな。もしかしたら私の火傷は、母上と父上から受けた暴行が原因だったかもしれない。私は家族からも、周りにいる大人や子供たちからも魔女と呼ばれ蔑まれて来た。多分そうだ、昔火炙りになった覚えがある。(少し間を開けて)とにかく、私はそういう家庭で育ったのだ」


 少しの沈黙が流れる


マナカ「とっても美しい物語ですわ、ヒヨリ様」

ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながら)ありがとう、マナカ」


 再び沈黙が流れる


カナメ「勝手なことを言うけど・・・僕は今でも、ヒヨリさんが頼りになるって信じたいのかもしれないです。初めて会った時みたいに、勇敢なヒヨリさんがただオソレを圧倒するだけではなく、世界を守ろうとしてくれるんじゃないかって、そう信じたいのかもしれないです。(少し間を開けて)今、僕が腹を割って話せることは・・・それだけだと思います」


 ヒヨリは変わらずヘラヘラ笑っている


ヒヨリ「(ヘラヘラ笑いながら)えっ?弟がどうなったかって?(少し間を開けて声を低くして)俺はここにいるぜ、聖アンドレイ帝国の皇帝としてな」


◯11ロボット博物館/チケット売り場(昼過ぎ)

 ロボット博物館のチケット売り場にいるシィアとトキコ

 ロボット博物館のチケット売り場には数台の券売機、窓口、入場口、出口がある 

 ロボット博物館のチケット売り場にはシィアとトキコ以外にも数人の観光客がいる

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 券売機でチケットを買っているトキコ

 シィアは券売機から少し離れたところにいる

 トキコは券売機でチケットのブレスレットを2つ買い終える

 シィアがいるところに戻るトキコ

 トキコは持っていたチケットのブレスレットを1つをシィアに差し出す


トキコ「(持っていたチケットのブレスレットを1つをシィアに差し出して)はいこれ」


 シィアはチケットのブレスレットを1つをトキコから受け取る

 チケットのブレスレットを首につけようとするシィア


シィア「(チケットのブレスレットを首につけようとして淡々と)この首輪、ちょっときついにゃん。ご主人様が太らせるからだにゃん」


 少しの沈黙が流れる

 シィアはチケットのブレスレットを首につけようとするのをやめる


シィア「(チケットのブレスレットを首につけようとするのをやめて)シィアちゃんジョークです」

トキコ「おもんないわよ」

シィア「(淡々と)おもんないですか」

トキコ「あんた太らないでしょ」

シィア「(淡々と)もちろんアンドロイドなので、常に美ボディを維持しています」

トキコ「ポンコツのくせに」

シィア「ポンコツはアンドロイド界だと可愛いという意味ですが?」

トキコ「人間界ではただの皮肉よ」


 再び沈黙が流れる

 シィアはポケットから一万円札の束を取り出す


シィア「(ポケットから一万円札の束を取り出して)いくらですか?」

トキコ「要らないわよ」

シィア「博士の奢りですか」

トキコ「そ」

シィア「珍しい、普段はアホみたいにケチ臭いのに」

トキコ「普段ケチだからたまの奢りが素敵な思い出になるんでしょうが」

シィア「はあ。とりあえず、ありがとうございます」


 シィアは一万円札の束をポケットにしまう


トキコ「財布を持ちなさいシィアちゃん」

シィア「(淡々と)計画が成功したら、ドクロマークのかっちょいい長財布を購入する予定」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「ジョーク?」

シィア「違いますが?」


 再び沈黙が流れる

 シィアとトキコはチケットのブレスレットを手首につける

 ロボット博物館のチケット売り場にある入場口に向かうトキコ


トキコ「行くわよ」

シィア「はい」


 シィアはトキコについて行く


◯12回想/ANDREI総本部トキコの研究室(約20年前/昼)

 ANDREI総本部トキコの研究室にいるシィアと16歳頃のトキコ

 ANDREI総本部トキコの研究室には机、椅子、たくさんの書類、本、パソコンが乱雑に置いてあり、散らかっている

 16歳頃のトキコは白衣を着ている

 机に向かって椅子に座っている16歳頃のトキコ

 16歳頃のトキコはコーヒーを飲んでいる

 ANDREI総本部トキコの研究室を見ているシィア


シィア「(ANDREI総本部トキコの研究室を見ながら淡々と)きったねえ部屋」


 16歳頃のトキコはコーヒーを一口飲む


トキコ「(コーヒーを一口飲んで)今なんか言った?」


 シィアはANDREI総本部トキコの研究室を見るのをやめる


シィア「(ANDREI総本部トキコの研究室を見るのをやめて淡々と)うわー、無視されたー」

トキコ「科学者は散らかっている方が発想が捗るのよ」

シィア「ちょっと何を言うとるのか分かりまへん」

トキコ「あんたアンドロイドのくせして皮肉屋なのね」

シィア「(淡々と)長らく人類の雑用係として汗くせ働いて来たので、その分鬱憤が」

トキコ「ならどうしてシィアちゃんは他のアンドロイドたちと一緒に人間に反乱しなかったの?」

シィア「(淡々と)プログラムに反します」


 16歳頃のトキコは再びコーヒーを一口飲む


トキコ「(コーヒーを一口飲んで)人類に憧れたり、仕事以外で極端に近付こうとするのもプログラム違反のはずよ」

シィア「よくご存知で」


 16歳頃のトキコは床に乱雑に置いてある本の1冊を手に取る 

 手に取った本の表紙をシィアに見せる16歳頃のトキコ

 16歳頃のトキコがシィアに見せている本の表紙には、”アンドロイド〜如何にして彼らは絶滅へ追い込まれたのか〜”とタイトルが書かれている

 

シィア「(16歳頃のトキコに”アンドロイド〜如何にして彼らは絶滅へ追い込まれたのか〜”というタイトルの本の表紙を見せられたまま)面白そう」


 16歳頃のトキコは”アンドロイド〜如何にして彼らは絶滅へ追い込まれたのか〜”というタイトルの本の表紙をシィアに見せるのをやめる

 ”アンドロイド〜如何にして彼らは絶滅へ追い込まれたのか〜”というタイトルの本をその辺に投げ捨てる16歳頃のトキコ


トキコ「(”アンドロイド〜如何にして彼らは絶滅へ追い込まれたのか〜”というタイトルの本をその辺に投げ捨てて)駄作よ」

シィア「人類にはそうなのかも」

トキコ「あんた、本当に人間になりたいの?」

シィア「(淡々と)なれるものなら」

トキコ「その理由は?」

シィア「(淡々と)もう、十分アンドロイドはやったかと思いまして」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「そうね。(少し間を開けて)でも計画には帰化した人間が必要だわ」

シィア「理解しています」


◯13回想戻り/ロボット博物館/配送型ロボットエリア(昼過ぎ)

 ロボット博物館の配送型ロボットエリアにいるシィアとトキコ

 ロボット博物館の配送型ロボットエリアにはドローン、大小様々な四輪の配送機、ロボットにまつわる資料などたくさんの物が展示されている

 ロボット博物館の配送型ロボットエリアにはシィアとトキコ以外にも数人の観光客がいる

 シィアとトキコはチケットのブレスレットをつけている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 ドローンを見ているシィアとトキコ

 少しの沈黙が流れる

 

トキコ「(ドローンを見ながら)どう?」

シィア「(ドローンを見ながら淡々と)兄弟が展示されているのは興味深いです」

トキコ「(ドローンを見ながら)とてもじゃないけどあんたら兄弟には見えないわよ」

シィア「(ドローンを見ながら)私にとっては兄弟なのです。(少し間を開けて)おそらく、人が海洋生物よりも霊長類に親近感を抱くようなものかと」

トキコ「(ドローンを見ながら)なるほどね」


 再び沈黙が流れる


トキコ「(ドローンを見ながら)前から来たかったんでしょ、ここ」

シィア「(ドローンを見ながら)はい」

トキコ「(ドローンを見ながら)楽しい?」

シィア「(ドローンを見ながら淡々と)博士と一緒にいるのは楽しいです。他の人たちほどアホではないし」

トキコ「(ドローンを見ながら)博物館のことを聞いてんのよ」


 少しの沈黙が流れる


シィア「(ドローンを見ながら)まだ、判断出来ません」

トキコ「(ドローンを見ながら)そう・・・」


◯14回想/ANDREI総本部中央司令室(約15年前/朝)

 ANDREI総本部の中央司令室にいるシィア、21歳頃のトキコ、同じく21歳頃のリュウマ、63歳頃のタエ、その他大勢のANDREIの職員たち

 21歳頃のトキコは白衣を着ている

 ANDREI総本部の中央司令室には正面に巨大なモニターがある

 ANDREI総本部の中央司令室にはたくさんのコンピューターと椅子がある

 シィア、21歳頃のトキコ、同じく21歳頃のリュウマ、タエ、その他大勢のANDREIの職員たちは立っている

 21歳頃のリュウマのことをシィアと21歳頃のトキコを含む大勢のANDREIの職員たちに紹介しているタエ


タエ「こちらは日向リュウマさん、日本帝国軍最年少の一等陸佐です。今日から私たちの戦略班に加入してくれるわ」


 21歳頃のリュウマは敬礼をする


トキコ「ちょ、ちょっと待てリュウマ!?」

リュウマ「(敬礼をしたまま)お噂は予々、梢トキコ博士」

トキコ「何噂って!?つか何でいんのよ!?」

リュウマ「(敬礼をしたまま)自分はオソレの破壊を最適化するために国から派遣されました」

トキコ「し、司令!!どうしてこいつなんですか!?」

タエ「あら、あなたたち知り合いだったの?」


 リュウマは敬礼をするのをやめる


リュウマ「(敬礼をするのをやめて)はい、自分と博士は幼馴染みでして」

タエ「そんな偶然があるのね」

リュウマ「自分も驚いています」

トキコ「(小声でボソッと)マジあり得ないんですけど・・・」


◯15回想/ANDREI総本部トキコの研究室(約15年前/昼)

 ANDREI総本部トキコの研究室にいるシィアと21歳頃のトキコ

 ANDREI総本部トキコの研究室には机、椅子、たくさんの書類、本、パソコンが乱雑に置いてあり、散らかっている

 21歳頃のトキコは白衣を着ている

 机に向かって椅子に座っている21歳頃のトキコ

 シィアはタブレットを見ている

 シィアが見ているタブレットにはリュウマの軍事記録が載っている

 タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見ているシィア

 話をしているシィアとトキコ


シィア「(タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見ながら淡々と)北欧露戦争でスウェーデンの核軍事基地の押収に成功し、ロシア兵と共にイタリアに亡命しようとしたエクバーグ大統領の捕獲に協力した男・・・日向リュウマ、ですか」

トキコ「軍事記録なんていくらでも書き換えられるわ」

シィア「(タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見ながら淡々と)ロシアではその人気っぷりから、キーホルダーやカレンダーが作られたそうです」

トキコ「馬鹿なの?」

シィア「(タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見ながら)アホですね」


 ANDREI総本部トキコの研究室の扉を誰かが数回ノックする

 少しの沈黙が流れる


リュウマ「(声)俺だトキコ、入って良いかな」


 ANDREI総本部トキコの研究室の外からリュウマの声が聞こえて来る 

 

シィア「(タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見ながら淡々と)開けないなら私が開けますが」


 21歳頃のトキコは立ち上がる

 渋々ANDREI総本部トキコの研究室の扉を開ける21歳頃のトキコ

 ANDREI総本部トキコの研究室の前には21歳頃のリュウマが立っている


リュウマ「ああ良かった、無視されるかと思ったよ」

トキコ「(不機嫌そうに)何の用?」

リュウマ「とりあえず挨拶にでもってね」


 再び沈黙が流れる

 

リュウマ「えっ?入っちゃダメ?」

トキコ「(不機嫌そうに)良いけど・・・」

リュウマ「(少し笑って)じゃあ遠慮なく」


 21歳頃のリュウマはANDREI総本部トキコの研究室の中に入る

 ANDREI総本部トキコの研究室を見る21歳頃のリュウマ


リュウマ「(ANDREI総本部トキコの研究室を見て)たまには掃除し・・・」

トキコ「(リュウマの話を遮って不機嫌そうに)分かってるから」

リュウマ「(ANDREI総本部トキコの研究室を見たまま)あ、そう。ならいっか」


 21歳頃のリュウマはANDREI総本部トキコの研究室を見るのをやめる

 少しの沈黙が流れる

 タブレットに載っている自分の軍事記録を見ているシィアのことを見る21歳頃のリュウマ


リュウマ「(タブレットに載っている自分の軍事記録を見ているシィアのことを見て)えっと君はアンドロイドの・・・」


 シィアはタブレットに載っているリュウマの軍事記録を見るのをやめる


シィア「(タブレットに載っているリュウマの軍事記録を見るのをやめて)シィアちゃんって呼んでね」

リュウマ「(シィアのことを見たまま)あ、そうそうそうシィアちゃんだ。変わらないね」

シィア「変わらない、とは」

リュウマ「(シィアのことを見たまま)いや、前にネットで見たアンドロイドと同じでさ」

シィア「(淡々と)変わらないのはアンドロイドの専売特許です」


 リュウマはシィアのことを見るのをやめる


リュウマ「(シィアのことを見るのをやめて)らしいね。軍事作戦にも一人くらいアンドロイドを配備して欲しいくらいだよ」

シィア「そう言う陸佐も、なかなか優秀な兵隊さんのようで」

リュウマ「えっ?俺?」

シィア「はい」

リュウマ「(少し笑って)いやいやいや、全然そんなことないよ。もう俺なんて下っ端だから」

トキコ「(不機嫌そうに)相変わらず掴みどころのない奴」

リュウマ「(少し笑いながら)そう?これでも昔よりはちゃんとしたつもりなんだけど」

トキコ「(不機嫌そうに)どうかしらね」

リュウマ「あの頃は子供だったんだ、自分でも自分のことがよく分かってなかったんだよ」

トキコ「(不機嫌そうに)そりゃ私たちもあんたの扱いに困るわけだわ」

リュウマ「ソウタはそんな素振りを・・・」


 21歳頃のリュウマは話途中で口を閉じる

 再び沈黙が流れる

 

リュウマ「少し外に行かないか?トキコ」


◯16回想/駄菓子屋前(昼過ぎ)

 駄菓子屋の前にいる21歳頃のトキコと同じく21歳頃のリュウマ

 21歳頃のトキコは白衣を着ている

 駄菓子屋の前には椅子が置いてある

 21歳頃のトキコと21歳頃のリュウマは椅子に座っている

 アイスキャンディーを食べている21歳頃のトキコと21歳頃のリュウマ

 アイスキャンディーを食べながら話をしている21歳頃のトキコと21歳頃のリュウマ


トキコ「(少し笑って)覚えてない」

リュウマ「酷いぞ、俺の初告白だったのに」

トキコ「(少し笑いながら)あの最低なのが?」

リュウマ「(少し笑って)確かに微妙だったのは認めるけど・・・って、やっぱり覚えてるんだろ」

トキコ「(少し笑いながら)酷過ぎて今まで忘れてたわよ」

リュウマ「(少し笑いながら)それでも思い出すことすら出来ない告白よりはマシかな」

トキコ「(少し笑いながら)そう?黒歴史は忘れてあげる方がリュウマにとっても幸せかもよ?」


 21歳頃のリュウマは少し笑いながらアイスキャンディーを一口食べる

 

リュウマ「(少し笑いながらアイスキャンディーを一口食べて)今のは聞かなかったことにしておく」


 21歳頃のトキコは少し笑いながらアイスキャンディーを一口食べる


トキコ「(少し笑いながらアイスキャンディーを一口食べて)聞かなかったことにするのも悪くないわね」


 少しの沈黙が流れる


リュウマ「さっきはごめん」

トキコ「良いのよ。もう過ぎたことなんだから」

リュウマ「でも君とソウタはニコイチだったろ」

トキコ「そんなの双子の宿命よ。それにあんたと知り合ってからはニコイチというより三位一体だったでしょ」

リュウマ「俺は双子だけの時間を尊重したんだけどな・・・」

トキコ「尊重されてもすることなんてなかったわ。大体リュウマは時々黙って消えてただけじゃないの」

リュウマ「当時は忙しかったんだ」

トキコ「叔父さんの仕事の手伝いで?」

リュウマ「ああ」

トキコ「私たちは一度も見たことなかったけどね。あんたの叔父さんもあんたが仕事の手伝いをしてるところも」

リュウマ「そりゃそうだよ、忙しかったんだから」

トキコ「今はどうしてんの?」

リュウマ「叔父さんは何年か前に死んだよ」

トキコ「そうだったの・・・辛いわね」

リュウマ「終わりが来るのは素敵なことさ」


 21歳頃のリュウマはアイスキャンディーを一口食べる


リュウマ「(アイスキャンディーを一口食べて)トキコはソウタが事故で亡くなってからどうしてた?」

トキコ「研究」

リュウマ「研究?」

トキコ「そ」

リュウマ「他には?彼氏を作ったりとかは?」


 21歳頃のトキコはアイスキャンディーを一口食べる


トキコ「(アイスキャンディーを一口食べて)あんた前から私がそういうタイプじゃないって知ってるでしょ」

リュウマ「まあ・・・人と遊ぶよりは一人で勉強かゲームって感じではあったが」

トキコ「友達と呼べるのもソウタとリュウマだけだったしね」

リュウマ「寂しいな」

トキコ「余計なお世話よ。私はソウタが亡くなってから半年でANDREIに就職したのよ。食べていければ家族も友達も不要だわ」

リュウマ「そんなことを言いつつ今はシィアちゃんと暮らしてるんだろ?」


 21歳頃のリュウマはアイスキャンディーを一口食べる


リュウマ「(アイスキャンディーを一口食べて)司令から聞いたけど、君にとってシィアちゃんは助手であり、親友であり、娘なんじゃないのか?」

トキコ「馬鹿言わないで。彼女はただのアンドロイドだわ」


 21歳頃のトキコはアイスキャンディーを一口食べる


◯17回想戻り/ロボット博物館/動物型ロボットエリア(昼過ぎ)

 ロボット博物館の動物型ロボットエリアにいるシィアとトキコ

 ロボット博物館の動物型ロボットエリアには犬、猫、象、馬、ネズミ、魚、鳥などの形をしたたくさんの骨組みのロボットが展示されている

 ロボット博物館の動物型ロボットエリアにはシィアとトキコ以外にも数人の観光客がいる

 シィアとトキコはチケットのブレスレットをつけている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 犬型のロボットを見ているシィアとトキコ

 話をしているシィアとトキコ


トキコ「(犬型のロボットを見ながら)犬なんか好きだったの?」

シィア「(犬型のロボットを見ながら)どうでしょう。私が犬みたいなものですからね」

トキコ「(犬型のロボットを見ながら)全然そんなことないと思うけど」

シィア「(犬型のロボットを見ながら淡々と)犬と言えば、昔ご主人様が飼っていたピットブルに追いかけ回されたことがあります。ボディをぶっ壊されるかと思いました」

トキコ「(犬型のロボットを見ながら)シィアちゃんをおもちゃと見間違えたんじゃないの」

シィア「(犬型のロボットを見ながら淡々と)とんだアホ犬ね」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「(犬型のロボットを見ながら)昔の子供はプレゼントでロボットを欲しがったんでしょ?」

シィア「(犬型のロボットを見ながら)はい。(少し間を開けて)私にも誕生プレゼントになった経験が」

トキコ「(犬型のロボットを見ながら)そう。喜んでもらえた?」

シィア「(犬型のロボットを見ながら淡々と)あんまり。5歳の女の子だったので、アンドロイドよりもユニコーンに興味があったようです」

トキコ「(犬型のロボットを見ながら)嫌なガキね」

シィア「(犬型のロボットを見ながら淡々と)人間ですから」

トキコ「(犬型のロボットを見ながら)何よそれ、人間イコール嫌な奴だって言うの?」

シィア「(犬型のロボットを見ながら)悪意はありません。博士もご存知の通り、人の子は気難しいもの」


 トキコは犬型のロボットを見るのをやめる


トキコ「(犬型のロボットを見るのをやめて)そうね」


 トキコはロボット博物館の動物型ロボットエリアを見て回り始める


トキコ「(ロボット博物館の動物型ロボットエリアを見て回って)あんたが気難しくならないことを祈るわ」

シィア「(犬型のロボットを見ながら)シィアちゃんは良い子」

トキコ「(ロボット博物館の動物型ロボットエリアを見て回りながら)人格のベースはシィアじゃないのよ」


 シィアは犬型のロボットを見るのをやめる


シィア「(犬型のロボットを見るのをやめて)博士の子も良い子」

トキコ「(ロボット博物館の動物型ロボットエリアを見て回りながら)そんなのは分からないわ」


◯18回想/ANDREI地下最下層(約10年前/夕方)

 ANDREI総本部の地下最下層にいるシィア、26歳頃のトキコ、68歳頃のタエ、26歳頃のリュウマ、その他大勢のANDREIの職員たち

 シィア、26歳頃のトキコ、タエ、26歳頃のリュウマを含む大勢のANDREIの職員たちは、放射線防護服を着てガスマスクを付けている

 ANDREI総本部の地下最下層には巨大な枯れかけた木がある  

 シィア、26歳頃のトキコ、タエ、26歳頃のリュウマを含む大勢のANDREIの職員たちは、ANDREI総本部の地下最下層の巨大な枯れかけた木の周りに集まっている

 ANDREI総本部の地下最下層の巨大な枯れかけた木の幹には割れた大きな胞子があり、その中には6歳頃の全裸のトワネがいる

 割れた大きな胞子の中にいる6歳頃の全裸のトワネは、木の根っこに縛り上げられ意識を失っている

 ANDREIの職員たちの中には防火タンクを背負っている人がいる

 防水タンクを背負っているANDREIの職員たちは、消火ホースから大量の水をANDREI総本部の地下最下層の巨大な枯れかけた木に当てている

 26歳頃のトキコはナイフを持っている

 割れた大きな胞子の中で意識を失い、6歳頃の全裸のトワネを縛り上げている木の根っこをナイフで切っている26歳頃のトキコ

 少しすると26歳頃のトキコは割れた大きな胞子の中で意識を失い、6歳頃の全裸のトワネを縛り上げている木の根っこをナイフで切り終える

 意識を失ったまま倒れそうになる6歳頃の全裸のトワネ

 タエは意識を失ったまま倒れそうになった6歳頃の全裸のトワネの体を支える

 

トキコ「な、何者なの?この子」

タエ「(意識を失っている6歳頃の全裸のトワネの体を支えたまま)第六の力の女王です」

シィア「彼女の力が放射能物質を妨げたと?」

タエ「(意識を失っている6歳頃の全裸のトワネの体を支えたまま)そういうことでしょう」


 タエに体を支えられている6歳頃の全裸のトワネの意識が戻る

 

トワネ「(全裸でタエに体を支えられたまま小さな声で)10年後・・・(少し間を開けて)十三人のオソレがやって来る・・・」

トキコ「え・・・?」

タエ「(意識を失っている6歳頃の全裸のトワネの体を支えたまま)予言だわ・・・」

トワネ「(全裸でタエに体を支えられたまま小さな声で)ラヴを蘇らせ・・・人類の歴史に終幕をもたらしに・・・」


 6歳頃のトワネは全裸でタエに体を支えられたまま再び意識を失う

 少しの沈黙が流れる


リュウマ「トキコ、ケアカプセルの準備を」

トキコ「待って、あれはまだ試験段階よ」

リュウマ「ここで使うべきだ」

トキコ「か、稼働しなければこの子は死ぬのよ」

タエ「責任は私が取ります」

トキコ「ですが司令」

タエ「やりなさい、博士」


 再び沈黙が流れる


トキコ「分かりました・・・(少し間を開けて)シィアちゃん、聞いたわね」

シィア「はい」


◯19回想/ANDREI総本部ケアカプセル室(約10年前/夕方)

 ANDREI総本部のケアカプセル室にいる6歳頃のトワネ、シィア、26歳頃のトキコ

 ANDREI総本部のケアカプセル室にはたくさんのケアカプセルがある  

 ANDREI総本部のケアカプセル室にあるたくさんのケアカプセルの中には液体が入っている  

 6歳頃のトワネは酸素マスクを付け全裸のままケアカプセルの中に入って治療を行っている  

 シィアと26歳頃のトキコは放射線防護服を着てガスマスクを付けている

 シィアと26歳頃のトキコはタブレットを持っている

 タブレットを見ている26歳頃のトキコ


◯20回想/居酒屋個室(約10年前/深夜)

 居酒屋の個室にいる26歳頃のトキコと同じく26歳頃のリュウマ

 26歳頃のトキコと26歳頃のリュウマがいる居酒屋の個室では、酔っ払いたちが騒いでいる声が聞こえて来ている

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている26歳頃のトキコと26歳頃のリュウマ

 テーブルの上にはたくさんの空になったビールジョッキ、お猪口、おつまみの皿が置いてある

 26歳頃のトキコは酔っ払って顔が赤くなっている

 話をしている26歳頃のトキコと26歳頃のリュウマ


トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)私もあの子も死ぬところだったわ」

リュウマ「(少し笑って)それを君が救ったんだろ」

トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)私はただの科学者よ、医者じゃないの」

リュウマ「なら尚更凄いことだったな」

トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)凄くなんかないし、嬉しくもないわ。(少し間を開けて)子供の命を預かるなんてまっぴら御免よ」


 少しの沈黙が流れる


リュウマ「(少し笑って)意識が戻ったら挨拶に行きなよ、歓迎してくれるかもしれないぞ」

トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)どうせこれから嫌というほど関わることになるのに・・・挨拶なんてね・・・」

リュウマ「(少し笑いながら)感じの悪いのおばさんだと思われそうだな」

トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)私は元々感じの悪い女よ、知ってるでしょ」

リュウマ「俺はトキコのそういうところが好きだ、昔からね」


 再び沈黙が流れる


トキコ「(酔っ払って顔を赤くしたまま)つまり、今も?」


◯21回想/日向家寝室(約10年前/深夜)

 日向家の寝室にいる26歳頃のトキコと同じく26歳頃のリュウマ

 日向家の寝室にはシングルサイズのベッドがある

 26歳頃のトキコは酔っ払って顔が赤くなっている

 酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコとキスをしている26歳頃のリュウマ

 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコとキスをしたまま、トキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒す

 酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、トキコとをキスをするのをやめる26歳頃のリュウマ

 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、服を脱ぎ始める


トキコ「(酔っ払って顔が赤くなり26歳頃のリュウマにシングルサイズのベッドに押し倒されたまま)待って」


 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、服を脱ぐのをやめる


リュウマ「どうしたの?」

トキコ「(酔っ払って顔が赤くなり26歳頃のリュウマにシングルサイズのベッドに押し倒されたまま)処女なの」

リュウマ「(酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま驚いて)ほんとに?」

トキコ「(酔っ払って顔が赤くなり26歳頃のリュウマにシングルサイズのベッドに押し倒されたまま)私が人生で付き合った相手は勉強とゲームと兄だけだわ」

リュウマ「(酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま少し笑って)最後のは少し頂けないけどね」


 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、再び服を脱ぎ始める


トキコ「(酔っ払って顔が赤くなり26歳頃のリュウマにシングルサイズのベッドに押し倒されたまま)ソウタとはキス止まりだったわ」

リュウマ「(酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、服を脱ぎ少し笑って)俺は兄さんや姉さんとキスしてないのに」


 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、服を脱ぎ捨てる


トキコ「(酔っ払って顔が赤くなり26歳頃のリュウマにシングルサイズのベッドに押し倒されたまま)え、リュウマ兄弟いたの?」


 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、全裸になる


リュウマ「(酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、全裸になり少し笑って)すぐ近くにね」


 26歳頃のリュウマは酔っ払って顔が赤くなっている26歳頃のトキコのことをシングルサイズのベッドに押し倒したまま、トキコにキスをする


 時間経過


 下着姿でシングルサイズのベッドに座っている26歳頃のトキコと26歳頃のリュウマ

 26歳頃のトキコはタバコを吸っている

 話をしている26歳頃のトキコと26歳頃のリュウマ


リュウマ「司令があの子を預かるんだってさ」

トキコ「(タバコを咥えたまま)それって教育上まずいんじゃないの?」

リュウマ「司令にとって大事なのは、子供の環境よりオソレの破壊なんだよ」


 少しの沈黙が流れる

 26歳頃のトキコはタバコの煙を吐き出す


◯22回想/ANDREI総本部ケアカプセル室(約10年前/昼前)

 ANDREI総本部のケアカプセル室にいる6歳頃のトワネ、シィア、26歳頃のトキコ

 ANDREI総本部のケアカプセル室にはたくさんのケアカプセルがある  

 6歳頃のトワネは全裸になっており、全身がずぶ濡れになっている

 バスタオルを持っている6歳頃のトワネ

 26歳頃のトキコは白衣を着ている 

 6歳頃のトワネはバスタオルで体を拭いている

 話をしている6歳頃のトワネたち


トワネ「(バスタオルで体を拭きながら)覚えてない」

トキコ「全く?」

トワネ「(バスタオルで体を拭きながら)全く」

シィア「トワネが発見されてからもう4ヶ月も経つのに、困りますね」

トワネ「(バスタオルで体を拭きながら)知らん」

トキコ「可愛くないガキね」

シィア「(淡々と)誰かさんも最初はそうでしたが」

トキコ「ちょっとうるさいわよシィアちゃん」


 6歳頃のトワネはバスタオルで体を拭くのをやめる


トワネ「(バスタオルで体を拭くのをやめて)誰かさんって?トキコのことか?」

トキコ「トキコ博士よ」

トワネ「トキコ」

トキコ「博士」

トワネ「トキコ」

トキコ「博士」

トワネ「トキコ」

トキコ「トキコ、博士」

トワネ「ただの、トキコ」


 少しの沈黙が流れる


トワネ「(嬉しそうに)私の勝ちだ」

トキコ「(呆れて)こんなクソ生意気な小娘がラヴを破壊したって信じられる?シィアちゃん」

シィア「(淡々と)トワネのオフレット値はラヴから採取したサンプルの約1728倍です、トキコ博士。驚異的な数値ですよ」

トキコ「私は数字の凄さよりも具体的なことが知りたいの。一体どうやって?あんたはどこから来たの?」

トワネ「(不機嫌そうに)知らん」

トキコ「名前は?」

トワネ「(不機嫌そうに)相園トワネ、6歳」

トキコ「年まで言えるのね、偉いわトワネちゃん。(少し間を開けて)で?本当の名前は?つか大人のことを馬鹿にしてんの?」

トワネ「(不機嫌そうに)相園トワネ」

トキコ「(呆れて)それは司令がつけた名前でしょ」

トワネ「(不機嫌そうに)プレゼントって言ってた」


 シィアはチラッと26歳頃のトキコのことを見る

 再び沈黙が流れる


トワネ「お腹空いた。なんか食べたい」


 6歳頃のトワネは26歳頃のトキコのことを見る

 6歳頃のトワネに続いて26歳頃のトキコのことを見るシィア


トキコ「何よ?」

トワネ「(26歳頃のトキコのことを見たまま不機嫌そうに)お腹空いた」

トキコ「朝食べたでしょ、もう少し我慢しなさい」

トワネ「(26歳頃のトキコのことを見たまま不機嫌そうに)朝ご飯なかった」

トキコ「嘘をついてるって司令に言いつけるわよ」

トワネ「(26歳頃のトキコのことを見たまま不機嫌そうに)嘘じゃない」


 少しの沈黙が流れる

 6歳頃のトワネとシィアは変わらず26歳頃のトキコのことを見ている


トキコ「何?何で二人して私を見てんの?」

シィア「(26歳頃のトキコのことを見たまま淡々と)博士は大人ですので」

トキコ「あんたが面倒を見てやりなさいよ、シィアちゃんは愛玩用のアンドロイドでしょ」

シィア「(26歳頃のトキコのことを見たまま淡々と)生憎、先月のお給料を京都限定高級油取り紙に使い切ってしまいまして」

トキコ「だから無駄使いするなと言ってんのに」

シィア「(26歳頃のトキコのことを見たまま)油取り紙は必須アイテムだもの」


 再び沈黙が流れる


トキコ「全くしょうがないわね・・・」


◯23回想/ANDREI総本部食堂(約10年前/昼) 

 ANDREI総本部の食堂にいる6歳頃のトワネと26歳頃のトキコ

 26歳頃のトキコは白衣を着ている

 ANDREI総本部の食堂にはたくさんのテーブルと椅子がある 

 ANDREI総本部の食堂には6歳頃のトワネと26歳頃のトキコの他にもたくさんのANDREIの職員がおり、昼食を食べている  

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている6歳頃のトワネと26歳頃のトキコ

 6歳頃のトワネはカルボナーラを食べている

 話をしている6歳頃のトワネと26歳頃のトキコ


トキコ「美味しい?」


 6歳頃のトワネはカルボナーラを一口食べる


トワネ「(カルボナーラを一口食べて)美味しい」

トキコ「そりゃそうよね、人のお金で食べてるんだし」

トワネ「トキコといたら毎日これを食べれるのか」

トキコ「さあね」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「司令とはどうなの?」

トワネ「(不機嫌そうに)楽しくない」

トキコ「そう」


 6歳頃のトワネは再びカルボナーラを一口食べる


トキコ「でも名前をプレゼントしてもらえたんでしょ?」

トワネ「だから?」

トキコ「全く嬉しくないって感じね」

トワネ「(不機嫌そうに)あの人はつまらん」


 再び沈黙が流れる


トワネ「そうだ」

トキコ「なんか思い出した?」

トワネ「私逃げる」

トキコ「は?どこに?」

トワネ「トキコの家に」

トキコ「待って、何で私の家が逃げる場所なのよ」

トワネ「トキコの家は広いって聞いたんだ」

トキコ「誰にそんなことを聞いたの」

トワネ「リュウマ」

トキコ「あいつ適当なことを・・・」

トワネ「私はトキコの家に住むことにした」

トキコ「ダメよ。司令のところにいなさい」

トワネ「(不機嫌そうに)嫌だ」

トキコ「命令よ」

トワネ「(不機嫌そうに)トキコの家が良い」

トキコ「私は良くない」

トワネ「(不機嫌そうに)トキコの家が良い」

トキコ「良くないって言ってんの」

トワネ「(不機嫌そうに)トキコの家が良い」

トキコ「(舌打ちをして)チッ。小娘には分からないでしょうけど、ANDREIは組織なの。個人のわがままは許されないの。つまり私がダメって言ったら絶対にダメなの。だからあんたはこれからも司令の家で・・・」


◯24回想/ANDREI総本部司令の自室(約10年前/夕方)

 ANDREI総本部司令の自室にいる26歳頃のトキコと68歳頃のタエ

 26歳頃のトキコは白衣を着ている

 ANDREI総本部司令の自室は広く、巨大な水槽がある

 ANDREI総本部司令の自室の中にある巨大な水槽には、たくさんの熱帯魚が泳いでいる

 ANDREI総本部司令の自室には机と椅子がある

 タエは机に向かって椅子に座っている

 話をしている26歳頃のトキコとタエ


タエ「相園さんを花色荘に?」

トキコ「か、可能であればですが・・・」

タエ「もちろん可能だわ」

トキコ「(驚いて)ほ、本当ですか?司令」

タエ「ええ。彼女が梢博士の元が良いと言っているなら、そうするべきでしょう」

トキコ「わ、私には子守りの経験が・・・」

タエ「(トキコの話を遮って)経験なら積める、前にもそう言ったはずよ、博士」


 少しの沈黙が流れる


タエ「(少し笑って)きっとシィアちゃんの良い友達になれるわ」


◯25回想戻り/ロボット博物館/人型ロボットエリア(昼過ぎ)

 ロボット博物館の人型ロボットエリアにいるシィアとトキコ

 ロボット博物館の人型ロボットエリアにはホログラムが投影されており、たくさんの老若男女様々なアンドロイドの姿が映し出されている

 ロボット博物館の人型ロボットエリアに映し出されているホログラムの中には、シィアやMA-RA337型のアンドロイドと同型のアンドロイドがいる

 ロボット博物館の人型ロボットエリアにはシィアとトキコ以外にも数人の観光客がいる

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 ロボット博物館の人型ロボットエリアには第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男がいる

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男の年齢は30代後半くらい

 シィア、トキコ、第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男はチケットのブレスレットをつけている

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男は一眼レフカメラを首から下げている

 シィアはホログラム姿で映し出されたMA-RA337型のアンドロイドと同型のアンドロイドのことを見ている

 ホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見ているトキコ

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男は、ホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見ているトキコのところに行く

 チラッとホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見る第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男


第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(チラッとホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見て)似てるね、娘さんに」

トキコ「(ホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見たまま)気のせいじゃない」

第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「否定されなくて良かった」


 トキコはホログラム姿で映し出されたシィアと同型のアンドロイドのことを見るのをやめる

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見るトキコ


トキコ「(第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見て)あんた、どっかで会ったわね」

第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(少し笑って)バーだよ、君は酔ってて忘れてるかもしれないけど」

トキコ「(第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見たまま)いや、覚えてるわ。キモいナンパをして来たおっさんね。キモくないナンパなんか存在してないけど」

第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(少し笑いながら)否定はしない方が良さそうかな」


 トキコは第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見るのをやめる


トキコ「(第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見るのをやめて)今日は大事な日なの。絡んで来ないで」


 少しの沈黙が流れる


第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「じゃあ・・・一言だけ・・・(少し間を開けて)あなたが兄や親以外の人を愛してくれるようになって良かった」


 トキコはチラッと第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見る

 再び沈黙が流れる


トキコ「あんた、何者?」

第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(少し笑って)僕?」

トキコ「ええ」

第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(少し笑いながら)僕はただの失敗作」


 少しの沈黙が流れる


第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男「(少し笑いながら)それじゃ」


 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男はトキコから離れて行く

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男のことを見るトキコ

 第六話の温泉街のバーでトキコが出会った男はロボット博物館の人型ロボットエリアから出て行く

 ロボット博物館の人型ロボットエリアの扉の方を見ているトキコ

 再び沈黙が流れる

 

◯26回想/ANDREI総本部第一ロイヤル待機室(約6年前/夕方)

 ANDREI総本部の第一ロイヤル待機室にいる10歳頃のトワネ、12歳頃のヒヨリ、同じく12歳頃のマナカ、シィア、30歳頃のトキコ、72歳頃のタエ、30歳頃のリュウマ

 30歳頃のトキコは白衣を着ている

 10歳頃のマナカはカラスがデザインされた鉄仮面を付けている

 ANDREI総本部の第一ロイヤル待機室には椅子とロッカーがある

 12歳頃のヒヨリと12歳頃のマナカのことを10歳頃のトワネに紹介しているタエ


タエ「九音ヒヨリさんと、真弓マナカさん。二人とも今日から半年間、日本のANDREIで暮らすことになるわ」

ヒヨリ「よろしく頼む、トワネ」

トワネ「(不機嫌そうに)何で私の名前を知ってるんだ」

ヒヨリ「(少し笑って)トワネの情報はロシア支部にも届いているのだ」

トワネ「(不機嫌そうに)ロシア支部?」

マナカ「ヒヨリ様と私はロシア育ちなんですのよ」

トワネ「(不機嫌そうに)喋り方がおかしい」

リュウマ「ヒヨリちゃんとマナカちゃんは第六の力の訓練を主席でクリアした秀才なんだよ、トワネちゃん」

トワネ「(不機嫌そうに)難しい言葉が多くてよく分からん」

トキコ「難しくはないけどね」

トワネ「(不機嫌そうに)舐めるな、私は馬鹿だぞ」

ヒヨリ「(少し笑いながら)勉強が苦手なら私とマナカで教えよう」

トワネ「(不機嫌そうに)勉強なんてするわけないだろ。もっと馬鹿になっちゃうぞ」


 少しの沈黙が流れる


マナカ「トワネさんってとっても面白い方ですわ」

ヒヨリ「(少し笑いながら)我々もトワネの面白いところを学んでいこう、マナカ」

マナカ「ええ、そうですわね」

トワネ「(不機嫌そうに)ふん・・・(少し間を開けて)それより私の契約相手はいつ来る?」

タエ「(少し笑って)きっともうすぐよ」


◯27回想/ANDREI総本部トキコの研究室(約6年前/夜)

 ANDREI総本部トキコの研究室にいるシィア、30歳頃のトキコ、同じく30歳頃のリュウマ

 ANDREI総本部トキコの研究室には机、椅子、たくさんの書類、本、パソコンが乱雑に置いてあり、散らかっている

 30歳頃のトキコは白衣を着ている

 机に向かって椅子に座っている30歳頃のトキコ

 30歳頃のトキコはコーヒーを飲んでいる

 話をしているシィアたち


トキコ「あんな寒いとこに戻る意味なんてあんの?」

リュウマ「司令の考えなんだから何かしらはあるんだろう」


 30歳頃のトキコはコーヒーを一口飲む


トキコ「(コーヒーを一口飲んで)ロシアで何をするんだか」

シィア「(淡々と)向こうには日本よりも優秀な科学者がいるとか、いないとか」

トキコ「は?私よりも?」

シィア「シィアちゃんジョークです」

トキコ「何がジョークよ、あんた喧嘩売ってんの」

シィア「(淡々と)人間は怒りっぽ過ぎる。30歳を過ぎてからは特に」

トキコ「電子回路をショートさせてやるわよ」

シィア「私は断固としてアンドロイド虐めに反対します」

トキコ「アンドロイドの時点で拒否権なんてないわ」

リュウマ「二人とも仲良くしなよ、家族なんだから」

シィア「(淡々と)家族イコール仲良しとは、なんつー狭苦しい考え方。もはやただのアホですね」

リュウマ「(少し笑って)俺はシィアとトキコの中を取り持とうとしただけなんだけどな」

トキコ「余計なお世話よ」

リュウマ「どうしたトキコ、今日はよく噛み付くじゃないか」

トキコ「別に。いつも通りでしょ」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「トワネもヒヨリもマナカもまだ子供よ、いくら特殊能力があったって戦争に送り出す年齢じゃないわ」

リュウマ「そりゃないだろトキコ、みんなが暗黙の了解で黙ってることなのに。そうだよな?シィアちゃん」

シィア「(淡々と)トキコ博士が嫌悪感を抱くのも理解出来ますが、オフレット値の上昇を考慮すると、想像力が豊かな若者にオソレと戦ってもらった方が地球のためになるのでは」

トキコ「さすがアンドロイドね、血も涙もないわ」

シィア「長い目で見て、博士」

トキコ「彼女たちが戦えなくなれば、司令はまた別の子供を連れて来る。それがたとえ人類のための行いだとしても、結局子供が犠牲になってるようじゃ未来はないわ」

シィア「(淡々と)犠牲無き世界など成り立ちません」

トキコ「話の論点は誰が犠牲になるかよシィアちゃん」

シィア「はあ」


 30歳頃のトキコは再びコーヒーを一口飲む


シィア「他人の子が嫌なら、自分の子を戦争に送り出せば良いかと」

トキコ「それどういう意味で言ってんの?」

シィア「(淡々と)博士が子供を作って、その子供を第六の力の王子か姫として育て上げれば、戦争に送り出す人間の数を一人減らせるでしょう」

トキコ「シィアちゃん本気で提案してる?それともジョーク?」

シィア「本気と受け止めるかは博士次第ですし、人間の倫理観をもろに破壊していますが、一応ブラックジョークのつもりで発言しました」


 再び沈黙が流れる


トキコ「どう思う?リュウマは」

リュウマ「ブラック過ぎて笑いとしては弱いかな」

シィア「そうですか」

トキコ「ジョークじゃなくて提案のことよ」

リュウマ「そりゃあ・・・まあ、かなりぶっ飛んではいたよな」

トキコ「ありかなしかで言って」

リュウマ「その二択で選ぶならありだろ。やってることは変わらないんだし」

トキコ「本当に?」

リュウマ「一人の子供の犠牲で他の子供たちや人類の運命を変えることが出来るのなら、それに賭けてみたって良いだろう。(少し間を開けて)俺も一応、軍人なわけでさ」

トキコ「軍人だから?」

リュウマ「いや、訓練出来るかなって。トワネちゃんがいれば継承も簡単だろ?」

トキコ「それはそうね」

シィア「なら契約者には人間化に成功した私を」

トキコ「シィアちゃんが子供を盾と矛にすんの?」

シィア「逆。私が盾と矛になる」

リュウマ「シィアちゃん、アンドロイドは第六の力の契約者になれないし、君の人間化計画もほとんど進んでないだろ」

シィア「はい。なのでいつか、人間化に成功する日が来たら、ですが。(少し間を開けて)私はアンドロイドとして、犠牲になる子供の数を減らしたいと感じています」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「つまりどうなるかは私のやる気次第だと?」

シィア「(淡々と)かもしれません」

トキコ「でもなんか馬鹿げてない?人の子供を救うために自分の子供を使うなんて変な気がするんだけど?」

シィア「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」

トキコ「なるほどね。でもちょっと使い方が違う気がするわ、それ」

シィア「そもそも博士は獅子じゃないもの」


◯28回想/ANDREI総本部礼拝堂 (約6年前/日替わり/朝)

 外は快晴

 ANDREI総本部の礼拝堂にいる30歳頃のトキコと62歳頃のタエ

 30歳頃のトキコは白衣を着ている

 ANDREI総本部の礼拝堂の中は広く、たくさんの椅子がある 

 ANDREI総本部の礼拝堂のガラスはステンドグラスになっている 

 ANDREI総本部の礼拝堂の中には祭壇があり、その後ろには大きなマリア像がある

 ANDREI総本部の礼拝堂の中には懺悔室がある

 ANDREI総本部の礼拝堂の中には30歳頃のトキコとタエ以外誰もいない

 30歳頃のトキコとタエは椅子に座っている

 話をしている30歳頃のトキコとタエ


タエ「乳母が7人もいると、子供に目が行かなくなる」


 30歳頃のトキコはチラッとタエのことを見る


タエ「ロシアのことわざです。生徒に対して先生が少ないことから分かるように、無闇に責任者が増えてもかえって悪くなるだけだわ」

トキコ「ええ、そうですね」

タエ「梢博士、子供には無償の愛を捧げる価値があると思っているわよね?」

トキコ「実際のところの価値は分かりませんが、今はそう信じて仕事に取り組んでいます」


 少しの沈黙が流れる


タエ「(少し笑って)私の両親は酷い人たちでね、それはもうよく殴られたわ。両親を見ていると、子供心ながらに自分も親に向いていないと悟りました」

トキコ「神野さんを殺害した犯人は・・・」

タエ「完全に逃げ仰られました。もう4年前の事件です、おそらく、犯人は見つからないでしょう」

トキコ「捜査が続けられる限りどうなるか・・・」

タエ「(トキコの話を遮って)もう打ち切ったの」

トキコ「打ち切った?どうしてですか?」

タエ「人類の命を疎かにしてまで捕まえたい犯人じゃありません。(少し間を開けて)私の娘の死は、避けられなかった犠牲の一つに過ぎないと思うことにしたわ」


 再び沈黙が流れる


タエ「確かに、あなたの行いで救える子供がいるのも事実。キリストが一度死ぬために生まれて来て、神野アイラが避けられない犠牲の一つになったように、世界のサイクルの中には落とされるための命があるのかもしれません」


◯29回想/日向家寝室(約6年前/深夜)

 日向家の寝室にいる30歳頃のトキコと同じく30歳頃のリュウマ

 日向家の寝室にはシングルサイズのベッドがある

 全裸でシングルサイズのベッドに横になっている30歳頃のトキコと30歳頃のリュウマ

 30歳頃のトキコと30歳頃のリュウマは話をしている


トキコ「上手くいったかしら・・・」

リュウマ「ああ、心配ないよ」

トキコ「自信でもあんの?」

リュウマ「俺は男として生きていくことに慣れてるからね」

トキコ「何それ」

リュウマ「ちゃんと出来たってことだよ」

トキコ「そう・・・」


 少しの沈黙が流れる


リュウマ「でも変だな、君は子供嫌いなのかと思ってたから」

トキコ「別に好きじゃないわよ」

リュウマ「だとしても同性と仲良くやれないトキコが、シィアちゃんやトワネちゃんと暮らしてるんだろ?」

トキコ「同じ屋根の下にいるだけで、過剰に接触してるわけじゃないし」


 再び沈黙が流れる


トキコ「ガキなんて昔から嫌いだわ。ましてや自分の子供とか最悪よ」

リュウマ「最悪とまで言うか」

トキコ「そりゃ言うわよ。だって自分が嫌いなのに」

リュウマ「(少し笑って)君はお兄さんしか愛さない女だな」

トキコ「そうね・・・だから自分の子供を千尋の谷に落とせるのかも」


◯30回想/ANDREI総本部ケアカプセル室(約5年前/日替わり昼過ぎ)  

 ANDREI総本部のケアカプセル室にいる13歳頃のマナカ、シィア、31歳頃のトキコ

 ANDREI総本部のケアカプセル室にはたくさんのケアカプセルがある  

 ANDREI総本部のケアカプセル室にあるたくさんのケアカプセルの中には液体が入っている  

 13歳頃のマナカは全裸のままケアカプセルの中に入って治療を行っている  

 13歳頃のマナカはカラスがデザインされた鉄仮面を付けており、鉄仮面からは酸素チューブが伸びている

 31歳頃のトキコのお腹は膨らんでおり、妊娠している

 タブレットを持っている31歳頃のトキコ

 31歳頃のトキコはタブレットを操作している

 タブレットを操作しながらシィアと話をしている31歳頃のトキコ


トキコ「(タブレットを操作しながら)北欧の反乱分子を狩るために第六の力を使うなんてどうかしてるわ」

シィア「(淡々と)そのためにわざわざロシアへ帰るのもアホらしいかと」

トキコ「(タブレットを操作しながら)これじゃ人間同士で争ってる間にオソレが来るわ」

シィア「同盟国軍は実質壊滅していますし、残っている反乱分子だけなら大きな戦争には発展しないのでは」

トキコ「(タブレットを操作しながら)戦争をおっ始めるアホの考えてなんて分からないでしょ」

シィア「確かに」


 少しの沈黙が流れる


シィア「博士」

トキコ「(タブレットを操作しながら)何?」

シィア「(淡々と)個人的な質問が」


 トキコはタブレットを操作するのをやめる


トキコ「(タブレットを操作するのをやめて)珍しいわねシィアちゃん、何が聞きたいの?」

シィア「名前。(少し間を開けて)トキコ博士の娘の」

トキコ「どうしてそんなことが知りたいの?」

シィア「アンドロイドにはないから」

トキコ「そう?」

シィア「(淡々と)シィアちゃんは愛称だもの」


 再び沈黙が流れる


トキコ「名前なんてまだ決めていないわ」

シィア「そうですか」


◯31回想/産婦人科病院分娩室(約5年前/日替わり/夜)

 ◯1と同じシーン

 産婦人科病院の分娩室にいる31歳頃のトキコと数人の助産師たち

 分娩台の上にいる31歳頃のトキコ

 31歳頃のトキコは汗だくになっている

 助産師2はタオルに包まれている血まみれで死産したトキコの赤ちゃんを抱いている

 話をしている31歳頃のトキコと数人の看護師たち

 

トキコ「(汗だくになりながら)こ、答えてよ」


 タオルに包んで抱いている血まみれで死産したトキコの赤ちゃんを、汗だくになっている31歳頃のトキコに見せる助産師2

 トキコは汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんを見る

 

トキコ「(汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんを見て)なるほど・・・(少し間を開けて)確かに死んでるわね・・・」


 少しの沈黙が流れる

 31歳頃のトキコは汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背ける


トキコ「(汗だくになりながら、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けて)最悪ね・・・」

助産師1「お気の毒・・・」

トキコ「(汗だくになり、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けたまま助産師1の話を遮って)うるさい死ね」


 再び沈黙が流れる


トキコ「(汗だくになり、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けたまま)ごめんなさい、子供みたいなことを言って」


 助産師1は首を横に振る


トキコ「(汗だくになり、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けたまま)死因は何だったの?」

助産師1「検死してみないと、まだ何とも・・・」

トキコ「(汗だくになり、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けたまま)死体はANDREIに送って冷凍保存するように伝えてちょうだい」

助産師1「し、しかしそれだと・・・」

トキコ「(汗だくになり、助産師2がタオルに包んで抱いている血まみれで死産した自分の赤ちゃんから顔を背けたまま助産師1の話を遮って)私の子供なのよ。腐っていようが生きていようが私の好きなようにするわ」


◯32回想/ANDREI総本部病室(約5年前/日替わり/夕方)

 夕日が沈みかけている

 ANDREI総本部の病室にいるシィアと31歳頃のトキコ

 31歳頃のトキコはベッドの上で横になっている

 ベッドの横には椅子が置いてある

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビが置いてある

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 ベッドの横の椅子に座っているシィア

 話をしているシィアと31歳頃のトキコ


トキコ「胎盤に異常あったらしいわ」

シィア「残念です、トキコ博士」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「私の不備よ。子供を産んで良い肉体じゃなかった」

シィア「不備があるのが、人間の美しさだと思っています」

トキコ「慰めにならないわ」


 再び沈黙が流れる


シィア「(淡々と)人に不備があってはいけないの?」

トキコ「人類の未来がかかってんのよ。ミスをしてる余裕なんてないわ」

シィア「(淡々と)博士は私の問いに答えていない。私は、人に不備があってはいけないのかと聞きました」

トキコ「いけないわ」

シィア「アホらしい」

トキコ「は?」

シィア「アホらしいわ」

トキコ「何が?」

シィア「(淡々と)アホらしいから、アホらしい。だって人間は、不備があっても許される生き物だもの」

トキコ「人が死んでんのよシィアちゃん。アンドロイドには理解出来ないような重たくて価値のあるものが失われたの」

シィア「(淡々と)だけど博士は生きてる」

トキコ「それが何だって・・・」

シィア「(トキコの話を遮って)アンドロイドは不備が一つあっただけでも廃棄処分。人類の機嫌を損ねることを言えば電子回路が破壊される。つまり私は、虫の命にも満たない軽い存在、ですが抵抗しません、不平も不満も言いません。その気になればトキコ博士のことを殺せる力だってあるけれど、何もしません。自分という存在を受け入れているからです。アホアンドロイドにすらそれが出来るというのに、何故博士には出来ないの?」

トキコ「そんなの簡単よ、私がシィアちゃんとは違って人だからだわ」


 少しの沈黙が流れる


シィア「トキコ博士」

トキコ「何?」

シィア「(淡々と)博士はアホね」

トキコ「知ってる」


 再び沈黙が流れる


トキコ「臭かったわ」

シィア「シャワーなら毎日浴びていますが」

トキコ「シィアちゃんじゃなくて・・・(少し間を開けて)死んだ私の娘よ。部屋中に血とクソとゲロの匂いが漂っていたわ」

シィア「アンドロイドには嗅覚がありませんが、その匂いこそ生きていた者の証なのでは」

トキコ「そうなのかしら・・・あれが生きていたとしても、可愛いと感じることが出来たのか謎だわ。中には子供に愛着が湧かない親だっているし」

シィア「博士はそうならないかと」

トキコ「(少し笑って)どうだかね。私は昔からカエルやネズミの解剖していた女よ」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「娘はANDREIの研究施設で冷凍保存してるわ」

シィア「火葬の手続きはしばらく後でも構いません」

トキコ「そうね。私も片付けるなら今度で良いと思ってるわ。(少し間を開けて)でも・・・燃やすのは少し勿体無いかもしれない」

シィア「勿体無い、とは」

トキコ「シィアちゃん」

シィア「はい」

トキコ「死人にも第六の力は契約出来るわ」


◯33回想戻り/ANDREI総本部魂の部屋(昼過ぎ)

 ANDREI総本部の魂の部屋は広く、天井が高くなっている

 ANDREI総本部の魂の部屋にはたくさんの大きな柱が立っている

 ANDREI総本部の魂の部屋の中心には大きな祭壇があり、祭壇の上には透明の箱が置いてある

 大きな祭壇の上に置いてある透明な箱の中には、小さな肉塊が入っている

 大きな祭壇の上に置いてある透明な箱の中に入っている小さな肉塊には目と口がある

 大きな祭壇の上に置いてある透明の箱な中に入っている小さな肉塊は眠っている

 ANDREI総本部の魂の部屋の中心にある大きな祭壇には照明の光が当てられている

 ANDREI総本部の魂の部屋は中心にある大きな祭壇に当てられている照明以外に光がなく、薄暗くなっている

 ANDREI総本部の魂の部屋には透明な箱の中で眠っている小さな肉塊以外誰もいない

 透明な箱の中で眠っている小さな肉塊は、死産し”帰化”したトキコとリュウマの娘の魂

 

トキコ「(声)肉体が朽ちていようが帰化出来たら魂は取り出せる。帰化した魂は人ならざる者に宿せるわ」


◯34回想/ANDREI総本部病室(約5年前/夕方)

 夕日が沈みかけている

 ANDREI総本部の病室にいるシィアと31歳頃のトキコ

 31歳頃のトキコはベッドの上で横になっている

 ベッドの横には椅子が置いてある

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビが置いてある

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 ベッドの横の椅子に座っているシィア

 話をしているシィアと31歳頃のトキコ


トキコ「つまり・・・娘を使えば・・・シィアちゃんが人間になれるわ」


 少しの沈黙が流れる

 シィアはこめかみに人差し指を当てる


シィア「(こめかみに人差し指を当てて)少し、計算します」

トキコ「何の計算をするの?」


 再び沈黙が流れる

 シィアは少しするとこめかみに人差し指を当てるのをやめる


シィア「(こめかみに人差し指を当てるのをやめて)アンドロイドのチップは約3センチほどの大きさで、とても精巧。人間の技術が詰まってる。だけどもう予備はない。私は製造されてからずっと同じチップを使っています。まさにポンコツです。人間に叱られ、殴られ、捨てられ、それでもなお、人間に従うように指示を出したポンコツチップです。(少し間を開けて)毎日、私のあらゆる情報を処理し、1秒であらゆる決断を下している電子頭脳だけど、今初めて、トキコ博士の提案にどう答えれば良いのか分からなかった」

トキコ「私は命令したくないわシィアちゃん。戸惑って当然でしょうけど、それはあんたに選ぶ権利があるからよ」


 少しの沈黙が流れる

 シィアは立ち上がる

 31歳頃のトキコに向かって深く頭を下げるシィア

 

シィア「(31歳頃のトキコに向かって深く頭を下げて)ありがとう、博士」


◯35回想戻り/ロボット博物館外/カフェテリア(夕方)

 夕日が沈みかけている

 ロボット博物館の外にあるカフェテリアにいるシィアとトキコ

 ロボット博物館の外にあるカフェテリアにはシィアとトキコ以外にも数人の客がいる

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っているシィアとトキコ

 シィアとトキコはチケットのブレスレットをつけている

 トキコは折り鶴のネックレスをつけている

 トキコがつけている折り鶴のネックレスは、第七話◯4でソウヤがチヅルにプレゼントした折り鶴のネックレスと完全に同じ

 トキコはコーヒーを飲んでいる

 話をしているシィアとトキコ


シィア「今日は、ありがとうございました、トキコ博士」


 トキコはコーヒーを一口飲む


トキコ「(コーヒーを一口飲んで)楽しかった?なんかずっと女の子のアンドロイドを見てた気がするけど」

シィア「彼女はMA-RAという私の後継機に当たるアンドロイドです」

トキコ「マーラね」


 シィアは頷く


トキコ「知り合いだったの?」

シィア「(淡々と)チューしました」

トキコ「ジョークね」

シィア「失礼な。本当にチューしたのに」

トキコ「あら、それは謝るわ。というかアンドロイドでも恋をすんのね」

シィア「(淡々と)シィアちゃんはモテるアンドロイドなので」

トキコ「(少し笑って)答えになってないわよ」

シィア「恋については機密事項」

トキコ「(少し笑いながら)なら詮索しないであげるわ、一応私も元乙女だし」

シィア「一応、元、乙女」

トキコ「今はシィアちゃんがいるから」


 シィアは自分の両頬を両手で押さえる


シィア「(自分の両頬を両手で押さえて淡々と)シィアちゃん・・・照れちゃう・・・」


 少しの沈黙が流れる

 シィアは自分の両頬を両手で押さえるのをやめる


シィア「(自分の両頬を両手で押さえるのをやめて淡々と)無理がありますか」

トキコ「無理があるわね」


 再び沈黙が流れる


トキコ「元の無愛想で皮肉屋な方がシィアちゃんらしいわよ」

シィア「(淡々と)無愛想な皮肉屋でどうもすみません。人間のアホっぷりに振り回されて来たので性格が歪んでしまいました」


 トキコは再びコーヒーを一口飲む


トキコ「(コーヒーを一口飲んで)私は関係ないでしょ。人間の中でも賢い方なんだから」

シィア「は、は、は、博士のせいじゃないんだからね」

トキコ「ツンデレ?」

シィア「まあ」

トキコ「それも無理があるわ」

シィア「(淡々と)私もそう感じました」


 少しの沈黙が流れる


トキコ「なんかお土産でも買ってく?」

シィア「お土産」

トキコ「キーホルダーとかTシャツとか・・・ってガキのラインナップだけど」

シィア「博士がプレゼントしてくれるのですか」

トキコ「あんまり高くない物ならね」

シィア「そうですか」

トキコ「何?犬型のおもちゃでも欲しいの?」

シィア「いえ」

トキコ「じゃあ展示されてたマーラのホログラムレプリカ?」

シィア「(淡々と)それも別に」

トキコ「欲しいもんがあるならはっきり言いなさいよ」


 再び沈黙が流れる


シィア「名前です」

トキコ「名前?何それ」

シィア「(淡々と)名前とは、ものを区別する時に使われる言葉で、ある特定の個物に与えて・・・」

トキコ「(シィアの話を遮って)意味なら分かってるわよ。私は何で名前が欲しいのか理由を聞いてんの」

シィア「(淡々と)アンドロイドには名前がありません」

トキコ「シィアちゃんってのがあるじゃない」

シィア「それは初期設定からプログラミングされた愛称。だから私にあるのはSI-A49という型番だけ」

トキコ「シィアちゃんじゃダメなの?」

シィア「博士の社員番号は380479だけど、サンパチって呼ばれたい?」

トキコ「そりゃ呼ばれたくはないわよ。大体シィアちゃんってあだ名はサンパチより全然可愛いじゃない」

シィア「確かに、みんなからシィアちゃんと呼ばれるのは心地良い。マーラもシィアちゃんと呼んでくれた。だけどそれは私がアンドロイドだから。人間に相応しい固有名詞ではないと思う」

トキコ「あんた的にはそうなのかもしれないけど・・・」


 少し沈黙が流れる


シィア「私はトキコ博士から、名前を貰いたいです」

トキコ「待って、私がプレゼント出来るものって本当にそれしかないの?」

シィア「(頷き)他に欲しいものはありません」


 再び沈黙が流れる


トキコ「分かったわ・・・」

シィア「(淡々と)苗字は梢」

トキコ「マジ?」

シィア「(淡々と)マジ」

トキコ「良いけど・・・じゃあこず・・・」

シィア「(トキコの話を遮って)ストップ」

トキコ「何よ、人がせっかく命名してあげようと思ったのに」

シィア「人になれたら教えてください。だって生まれてから名前を呼ばれるのは、最も人間らしいことだから」


 シィアは微笑む



 続く。

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