群れはぐれのイッカク|心のぬくもり幻想舎
カナダのバフィン島に訪れ、友人のクルーズで海に出ていたときに、たまたまクジラを見つけた。
「見て、ホッキョククジラの群れよ」
「本当!大きいのねぇ」
広くて冷たい海を物ともせず、悠々と泳ぐ姿はとても美しい。
「ねぇ、あそこに一匹だけ角が生えてる子がいるんだけど、同じクジラなのかしら?」
よく目を凝らすと、体にはアザラシに似た模様があり、ユニコーンのように一本の角を長く生やしている個体が見えた。
「あれはイッカクね、クジラの仲間だけど別の生物よ」
はぐれちゃったのかしら、と心配そうに顔を曇らせ周囲を見渡す友人に、私も広大な海へと目を向ける。
しかし、イッカクの仲間は見当たらない。
「元の群れに帰れなくなったの?」
「どうなんだろう...」
「案外、自分から群れを出たのかもしれないね」
「思い切った行動を取っちゃった感じ?」
「だって見て...」
そこには群れの中で、仲睦まじく体をすり合わせながら泳ぐイッカクの姿があった。
「種の壁を超えてコミュニケーションができるなんて素敵だわ」
fin.
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こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を
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大野