第2話【旅立ちの日に花束を】
あれから数年が経ち、俺は15歳になった。
俺は今日も父と剣の打ち合いをしていた。
「星牙、お前に話がある」
「何? 父さん」
父はいつになく真剣な顔をしていた。
「お前は、帝都学院に行く気はないか?」
帝都学院とは、優れた『知力』『技能』『才能』を持つ者だけが入学を許される帝国一の学校である。
「あの場所は実力主義だ。毎年退学者も出る。だが、お前ならきっと大丈夫だ。お前には、その剣があるからな」
「剣……か」
俺はその時思い出した。あの人の事を……
『私が君に教える事はない。私の剣術を真似したところで、君は私を超える事はできないのだからな』
「父さん、俺にも超えられない人がいたんだ。俺の剣は完璧じゃない。それでも──」
『君は剣を振れ』
「俺は剣を振る」
「……良い顔してるじゃねぇか。第一試験は明日だ。準備しておけよ、星牙!」
「……え? 明日?」
「そうだ」
「……嘘でしょ?」
「信じてるぜ!俺の自慢の息子よ!」
「は、はぁぁぁぁぁ!?」
父は嘘をついた。本当は忘れていたのだ。明日が試験当日だという事を……
試験当日
「これより、帝都学院入学の第一試験を行う! 内容は試験官と一体一の模擬戦を行い勝利する事! では候補生諸君の健闘を祈る!」
「……これは一体どういう事だ? 父さん」
「今の俺は試験官だ」
「はぁ……手加減は必要ですか? 試験官殿」
「どの口が言ってんだか。手加減無用! 俺も今日は本気でいくぞ……!」
戦いは数分間続いた。そして、試験官の父は言った。
「本気を出せ! お前の強さはそんなものではないはずだ!」
『本気をだせ! 君の強さはそんなものではない!』
なぜ父と剣を打ち合うと、あの人の言葉を思い出すのだろうか。
でも今は、そんな事はどうでもいい!
「父さん……全力で行くよ!」
やはり父の剣の腕は一流だった。だから1発目は防がれてしまったが、返しの2発目で剣を叩き落とし俺の勝利となった。俺が剣を叩き落とす直前、父は言った。「さすが、俺の息子だ!」と。
こうして俺は第一試験を通過した……と思ったのだが
「君が最強の試験官を倒した期待の候補生か」
どうしてこうなった!?
「えーと、最強の……試験官とは?」
「君の父親の事だ」
は? いやちょっと待て初耳だよおい!
「君の父親に勝利した者はこの数年で数人しかいない。彼は才能のある者を見分ける目を持っている。勝利しなくとも彼と戦える者は基本的に第一試験通過となる。」
……あれ? 俺が全力出したのって、無駄じゃね?
「今、君は全力を出した事が無駄だと思っているな? だが、もしあのタイミングで全力を出さなければ、君はこの試験に落ちていたよ」
「なぜ貴方は今、俺にそんな事を?」
「私は君に興味が湧いただけさ。君には是非、我が校に入学してもらいたい。次の試験も頑張りたまえ」
帰宅して早々、俺は父を問い詰めた。
「いやぁ、黙っててすまなかったなぁ!」
「絶対思ってないだろそんな事!」
「ははは!まぁな。あ、そういえば学長はどうだった? 上手くやれそうか?」
……は? 学長ってまさか……さっきのオッサンか!?
「おっと知らなかったって顔してるなぁ!」
そう言って父は笑うが、俺としてはそれどころではない。良い父親だと思っていたが、今日だけは思い切りぶん殴りたい気分だ。
「星牙、次の試験は帝都で行われる。俺に勝ったから実技試験はパスできる。良かったな」
「次の試験の日と内容は?」
「次の試験は2ヶ月後。内容は歴史や兵器学の筆記試験。そして面接だ。絶対に合格しろよ」
「ああ、もちろん」
それから1ヶ月が経ち、俺が帝都へ出発する日がきた。
「星牙ちゃん、本当に行っちゃうのね……」
「母さんやめてよその呼び方」
「ははは! まぁ良いじゃないか! 言っただろ。お前は俺たちの大切な子供だと。」
今の俺があるのは2人のおかげだ。本当に感謝している。
それを伝えるんだ、今……!
「父さん! 母さん! 俺と家族になってくれてありがとう! 家族というものを教えてくれてありがとう! 愛してくれて……ありがとう!」
俺はそう言って、用意していた絵を手渡す。
「星牙ちゃん、これは?」
「花はいつか枯れてしまう。それでも思い出は枯れない。色褪せたとしても……ね。俺は目に見える思い出が欲しかったんだ」
「3人の似顔絵と花……か。ありがとな、星牙! お前は俺たちの最高の息子だ!」
「父さんそれ何回も聞いたって!」
「良いだろ何回言ったって!」
「……じゃあ、また」
「おう! 元気でな!」
「いつでも帰ってきて良いからね!」
そう何気ない普通の会話をして、俺は生まれ育った家を去った。
そして試験当日……彼はまた、出会う事となる。
新たな友人と、最も大切な人に──