第1話【転生と小さな幸せ】
俺は転生した。ここは150年後の帝国のようだ。
「星牙ちゃん〜 ご飯ですよ〜」
この人間は今の俺の母親のようだ。
偶然か否か、俺は前世と同じ名を付けられた。
俺は見た目こそ赤子だが、中身は28歳だ!
甘やかされるのは不本意だ。母親だろうと関係ない。本当なら拒絶したい。
だが、この体の主導権は、俺にはない!
この赤子(仮)がこの体の主導権を握っているのだ!
今でも奴は悪魔のような笑みを浮かべている!
※これは彼のネガティブ思考が生み出した被害妄想である。だが、体の主導権に関しては事実である。
「星牙ー! 今日も元気だなぁ!」
これは俺の父親らしい。
家にいる事が少ないため何をしているのか知らない。
だが、おそらく剣の腕は一流だ。
正直、両親は鬱陶しい。でも今の俺はきっと恵まれているのだろう。でも俺は──
どう向き合っていけば良いのかわからない。
そして自我が芽生える頃、この体の主導権はようやく俺に移った。ずっと貴様に主導権を奪われていた屈辱は、一生忘れる事はないだろう。
じゃあな名も無き赤子。なんだかんだ楽しかったよ。
※もう一度言うが、これは彼のネガティブ思考が生み出した被害妄想である。ただし、体の主導権に関しては事実である。
こうして俺は今度こそ、新しい人生のスタートを切った……のだが、問題は山積みだ。
前世の俺には家族がいなかった。
俺が捨てられたのか親が死んだのか、理由はわからない。物心が付いた頃には、俺は貧民街暮らしだった。物乞いで食いつないで生き延びる日々。
だから俺は、家族とは何かわからない。
どうやって向き合うのが正解なのかも。
ただ、俺はある事に気づいた。それは……
『プライドを捨て、子供らしく振る舞う事だ!』
俺は転生し、子供らしく振る舞う術を得た。
「良いぞ星牙! 良い構えだ!」
「父さん! 今日こそ僕が勝つよ!」
最近は毎日、父に剣の指南を受けている。もちろん本気を出せば勝てる相手だ。ただ、それではきっと面倒な事になる。それだけは絶対に避けたい。
しかし、このまま逃げ続けて何になる?
絶対に過去は消えない。彼女を失った事も、俺が奪った命も、消える事はない。いくら辛くても向き合うしかないのだ。それなのに……俺は……
「どうした星牙? 悩みでもあるのか? あるなら父さんに話せ! 何でも良いぞ! 俺が解決してやる!」
ああ……そうか。俺はもう、1人じゃないんだな。
「父さん、僕はずっと隠してた事がある。それは母さんにも話していない事なんだ。だから……今から2人に話すよ」
「父さん、母さん、信じてもらえないかもしれないけど、僕……いや俺は、この時代の人間じゃない」
2人は真剣な顔をして俺の話を聞いてくれた。
忘れたくても忘れられない前世の事を。大切な弟子がいた事、多くの人間を殺した事、辛くても忘れられない事を一緒に受け止めてくれた。
「星牙……実はな、父さんと母さんにも隠してた事があるんだ」
「私たちは気づいてたのよ。あなたが普通の子とは違う事に」
「きっといつか、お前から話してくれると信じて気づかないふりをしていた。辛い思いをさせて、本当にすまなかった」
2人は俺に深く頭を下げる。
「なんで……2人が謝るんだよ。悪いのは俺だ! ずっと隠してた俺が……」
母が急に立ち上がり、俺の頬を叩く。
いつも笑っていた母親の顔は涙で濡れていた。
「ふざけないで! 何で自分だけが悪いと思ってるの! 私たちは、あなたの親よ! あなたがこの時代の人間じゃないとか、そんなの関係ない! 私たちにとって……」
母はその場に塞ぎ込む。
俺にはわからなかった。なぜ母が泣いているのか。怒っているのか。何一つとして理解できなかった。
「……星牙、お前にはまだわからないかもしれないが、親にとって子は何よりも大切な宝物なんだ。それが例え過去の人間だったとしてもな」
俺はこの瞬間、初めて家族というものを知った。
「……ありがとう。父さん! 母さん!」
父は溜め息をつき「やっと、本気でそう呼んでくれたな」と笑顔で言った。
これが家族か……温かい……
俺は帝国に復讐するために転生した。
だが、もう少しだけ、ゆっくりしていこう──
一方、その頃の帝城では──
「皇女様! いたら返事して下さい! 皇女様ー!」
「……ふふふ、私を見つけられるのはただ1人、先生だけよ。また先生に会いたいなぁ」
数年後、少年少女は自らの想いを胸に剣を取り戦う事となるのだが、今はまだスタートラインだ。
あともう少しだけ、ここに記そう。まだ剣士ではない者たちの物語を──