プロローグ【絶望という名の復讐前マイナス1ページ目】
君は俺にとっての希望だった──
『先生、大好き! 結婚して!』
「君が大人になっても、その気持ちが変わっていなければな」
『大人って何歳?』
「20歳」
『えー! そんな待てないよ!』
「じゃあ18歳か。その頃には俺も立派なおじさんだ」
『あと8年だね! 楽しみだなぁ!』
無邪気な君に出会い
『先生! 5年前の約束、覚えてますか?』
「ああ、覚えてるよ」
『あと3年ですね! 先生、浮気しちゃダメですよ? 先生は顔が良いんですから! 私は……先生の優しいところが好きですけどね』
師として君の成長を見てきた。
『先生……私、18歳になりました。ずっと私の気持ちは変わってません! 先生……好きです!』
「俺はもう28歳だ。お前からしたらおじさんだろう。それでも良いのか?」
『私は……先生が、良いんです』
「……俺も、君が弟子で良かった。君の笑顔に俺は救われていた。こんな俺で良ければ、よろしく頼むよ」
君が傍にいてくれたから、俺は俺でいられた。
それでも、本当に大切なモノは失ってから気づく。
「《帝国に仇なす者に粛清を!》」
銃声が響く。俺は目の前で倒れ込む君を、見ているだけしかできなかった。
俺は無自覚の内に浮かれていたのかもしれない。油断していたのかもしれない。
なぜ助けられなかったんだ。俺なら助けられたはずだ。
そんな後悔が一瞬で押し寄せる。
しかし、どんなに後悔しても取り戻す事はできない。
ある人が言っていた。『どんなに辛くても、前を向いて歩いていくしかないのだよ。君にもいつか、その意味を知る時がくる』と。
残念だが、俺は前を向いて歩くために剣を握る事はできないみたいだ。
「すまない──咲那。俺は敵を斬るよ。君はきっと喜ばない。それでも、俺は奴らを許せない」
俺は我を忘れ、近くにいた何人もの帝国兵を斬った。
悲鳴と怨嗟の声が入り交じる血の海。
気づけばそこは地獄絵図と化していた。
一瞬、空が光った。そして辺りは無数の爆発に包まれた。
最期に微かに声が聞こえた。
「やれやれ……帝国最強と謳われた剣士といえど、最新の兵器には劣るか。しかしこれで、皇帝の邪魔をする者はいなくなった」
その程度の事で彼女は命を奪われたのか。俺は生まれ変わったとしても、絶対に奴らを許さない。
──薄れゆく意識の中で何かが見える。これは俺の記憶か。
『ッ来るな! 妹にその剣を向けてみろ! 俺がお前たちの喉を掻き切ってやる!』
これが……走馬灯というものか。
滑稽だな。皮肉にも俺は奴らと同じだった。
罪を犯した者に神罰が下った。ただそれだけの事だ。
ただ、もし生まれ変わりというものがあるならば──
もう一度、彼女に会いたい。
次は師弟としてではなく、友人として
いや、もっと特別で大切な何かとして──
ここは……どこだ?
「あ、起きた! 私たちの大切な赤ちゃん!」
赤子などどこに……
「ばぁぶ」
ん? 一体今、どこから声が……
俺はその時に気づいた。俺の手が小さい事に。
「そろそろご飯の時間だねー」
嘘……だろ…… 待て! 俺はこんなの望んでない!
俺は最強の剣士だ!
こんなの……屈辱だぁぁぁぁぁ!
こうして、俺の……いや、俺たちの第二の人生が幕を開けた。俺だけが最悪の形で。