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第9話 退職祝い!と良い子なフクマロ

 「「かんぱ~い!」」

「クゥ~ン!」


 俺たち三人(二人と一匹?)は、盛大に乾杯を上げた。

 右手に持つのは、もちろんキンキンに冷えたビールだ。


「それにしても良かったじゃねえか! 会長さんといい人でよ」


 相手はえりと、そして隣にはフクマロだ。

 ちなみにフクマロも、子供用コップに入ったオレンジジュースを片手に持っている(・・・・・)

 フェンリルってまじで賢いんだなあ。


「俺も退職届を叩きつけるつもりで行ったんだけどなあ。それが思いの外軽くてさ」

「嘘つけ! お前にそんな勇気ないだろ」

「ははっ、だな」


 冗談も交えつつ、始まったこの飲み会を楽しむ。


 ここは近所の居酒屋。

 魔物同室オッケーという、今時らしい飲み屋だ。

 もちろんおとなしい魔物に限るけどね。

 

 メンバーは俺、えりと、フクマロ。

 いわゆる“退職祝い”ってやつだな。


 昨日、俺は無事に会社を退職。

 今は有給を消化中ってやつだ。


 それをえりとに伝え、「その内飲みに行こう」と言っていたのだが、今日に予定を入れてきた。

 本当にフットワークが軽い奴だ。

 

「けどま、そういうことなら今後会長からも仕事が舞い込んでくるんじゃないか?」

「ああ、そうだと嬉しいな」


 ブラック過ぎてやめてやる! 的な退職じゃなかった為、安東会長とは良好な関係を保てるんじゃないかと思う。


 社員さんには「悲しい」「寂しい」といった言葉をもらったけど、応援してくれるみたいだった。

 今度フクマロと訪れます、と言った時の喜びようは、思い出すとまだ少しふふっとなる。

 

 そうして、


「キャンッ!」

「お、何か食べたいのかフクマロ。どれだ?」

「クンっ」

「またからあげか! ほんと好きだなあ」

「ハフッ。クゥ〜ン」


 えりとと話はしながらも、お腹が空いたらしいフクマロにも食べ物を与える。


「ふふっ」

「クゥン?」


 そんなフクマロを見てると思わず笑みが(こぼ)れる。


「やすひろ、お前ますます親バカの顔になってんぞ」

「いいだろー別に。今日からはずっとフクマロと一緒なんだ。なー?」

「キャンッ!」


 フクマロの嬉しい時の高い返事だ。

 こんな可愛い子が懐いてくれて本当に良かった。


「じゃあ早速だけど、明日にでも案件動画撮ってみるか?」


 えりとが切り出した。


「おお、良いな! って、でも明日は水曜……」

「俺は水曜日は休みだぞ」

「はっ!」


 そういえばそうだった。

 こいつのとこは土日()が休みとかいう、ホワイトオブホワイト企業なのだった。

 それだけでこいつの勝ち組具合が分かる。


「だから今日も来れたんだぜ。さすがに酒臭いまま職場ってわけにはいかないだろ」

「ま、まあ」

「てことで、もっかい資料見ようぜ」

 

 えりとに促されて、俺のスマホに入った案件資料のデータを二人で眺める。


 案件を頂いたのは『ダンジョンヘルス(株)』。

 主に、ダンジョンで使用する『ペット用回復薬』を扱っている大手企業さんだそう。

 

 今回頼まれたのは「俺がフクマロに回復薬を上げるシーン」を撮ってほしいとのことだった。


「編集などはあっちがやってくれるんだな」

「ああ、そうらしい」


 前に確認した通り、編集などはあちらがやって下さるので、俺たちは撮影のみだ。


 仕事ができなくてえりとはちょっと残念そう。

 まあこれから色々やってもらいたいし、今回は我慢してもらおう。


「フクマロ、明日は頑張れるか?」

「クンッ!」

「よしよし、良い子だ」

 

 隣でハフハフ食べ続けているフクマロを撫でる。

 フクマロもやる気一杯みたいだ。


「んじゃ、明日な」

「おう頼む!」


 そう言いながら、二杯目のビールを乾杯。


「てことで、ペース上げてくぞー!」

「クゥーン!!」

「しゃあねえ、俺も付き合うぜ!」


 そうして、俺は久しぶりにフラフラになるまで飲み続けた。

 脱サラ最高!






 次の日。


「ぐっ、頭が」

「ばーか。分かってたことじゃねえか」


 俺が頭を抑えていると、えりとにツッコまれる。


 時間はちょうどお昼を回ったところ。

 えりとが俺の家に来て、今から案件動画の撮影を始めるところだ。


 というか、なんでこいつは平気なんだ。

 俺より飲んでいなかったか?


 まあいい、早速撮影を始めるとするか。


 俺は今回の商品を取り出して確認する。

 これが『ペット回復薬』か。


 手の平サイズのビンに入った、使い勝手の良さそうな回復薬だ。

 ダンジョン内に傷ついたペットに対して、そのままぶっかけるか飲ませるという用途らしい。


「この『ペット回復薬』をフクマロにあげるとこを撮ればいいんだよな?」

「そうだ」

「クンッ!」


 フクマロもやる気満々みたい。

 小さな体をおすわりさせて、キリっとした目で俺を見つめてくる。


「じゃ、俺がカメラを回すからとりあえずやってみてくれ。順に改善していこう」

「了解。……いや」


 だがその前に!

 俺は手に持っている回復薬をグビっといった。


「はあ!?」


 それを見た俺にえりとが声を上げた。

 何をそんなに驚くことがあるんだ。


「お前何やってんだ!?」

「バカ野郎! フクマロに何かあればどうする!」

「バカ野郎はどっちだよ……。それでお前に何かあったらどうすんだよ……」

「その時はその時だ!」

「過保護もここまでいくと怖えな」

 

 えりとにため息をつかれた。

 俺、そんな変なことしたかな?


「で結局、問題なかったのか?」

「ああ、大丈夫そうだ! ……うぷ」


 『ペット回復薬』は、回復薬の中のペットフード的なもの。


 人間も飲めなくもないけど、飲むのはうーん、みたいなそんな回復薬らしい。

 美味しくはなかった。


「はいはい。じゃあ撮るぞー」

「よし。いけるか? フクマロ」

「クゥン!」


 そうして、撮影は何度か行った。

 いくつか良いものができたので、企業さんにはそれらをまとめて持っていくことにする。


 フクマロもすごく頑張ってくれたなあ。


「えらいえらい」

「クゥ〜ン」


 なでなでをしてあげると、フクマロは尻尾をふりふりして喜ぶ。


 小犬よりは大きく長い尻尾だが、これはこれで可愛い。

 戦闘では使ったりするのかな?

 

「なあ、やすひろ」

「ん?」


 そして撮影終了後、フクマロと遊んでいるところにえりとが話を持ちかけてくる。


「ダンジョン配信をしてみないか?」


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