第1話 白いモフモフと出会いました
新作です!
3/17より先行してカクヨムで連載していた為、10万字までストックがあります!
ハイペースで更新していきますので、よろしくお願いします!
「今日もこんな時間か……」
真っ暗な夜道を一人で歩く。
スマホで時間を確認すると、とっくに日付は跨いでいた。
こんな時間になっているのは、今日も半強制的にさせられた残業のせいだ。
俺は『低目野やすひろ』。
今年で二十七歳になる、ブラック企業勤めの会社員だ。
「はぁ……」
ため息をつきながら、帰り道のコンビニで買った袋を開ける。
入っているのは弁当一つと水だけ。
朝から深夜まで働いているのに、もらえるのは安月給だからだ。
それもこれも、全部サービス残業とかいう風習のせいだろう。
会社は好きじゃないけど、俺みたいな能力が低めの人間を他が拾ってくれる保証はない。
だから辞めるという選択肢も選べず、結局この年までズルズルときてしまった。
俺自身に能力がないのも悪いのだろう。
だからまあ、それはかろうじて受け入れよう。
でもそんな俺にも願いはある。
「癒しが欲しい」
強く“癒し”を望んでいた。
この会社と家を往復するだけの苦痛の日々に、ただ癒しが欲しかった。
それでもって、願わくは脱サラしたい!
「……ははっ。なんてな」
まあ、そんな願いが叶うはずもないけど。
大体、脱サラしたところでお金はどうする。
馬鹿なことを考えないでさっさと家に帰ろう。
明日(すでに今日)は貴重な休みだ。
そんなことを考え、自嘲地味に笑いながら道を歩いていると、
「なんだあれ」
見つけたのは電柱の下に置かれた段ボール。
しかも、何かが入っているのが遠目にも分かる。
俺は恐る恐るその段ボールに近づいた。
「え、小犬?」
中を覗き見ると、入っていたのは小さな犬。
俺に気づいたのか、小犬もこちらに目線を向けてくる。
「クゥン」
「……!」
小さな体に、白くてモフモフな毛。
ポメラニアンみたいな小犬だ。
犬にしては目はどこかキリッと細長で、尻尾も長い気がするけど……。
でも!
かわいい~!
なんだこの癒しの生き物は。
だけど、じっくりこの子を観察するとある事に気づく。
「君……」
よく見たら足をケガをしている。
その上捨てられているだなんて。
「どうしよう」
何か出来ることがないかと考えていると、小犬はクンクンと鼻を鳴らしてコンビニ袋に顔を近づけてくる。
興味があるのかな。
「これが気になるのか?」
「クン」
弱弱しい返事に心が痛みながらも、コンビニ袋から中の物を取り出す。
弁当と水を広げて見せると、小犬は水を飲みたそうにした。
「クゥン……」
「そっか。相当弱ってるんだな」
俺はペットボトルのキャップを開けて、水をそーっと差し出す。
「飲むか?」
俺の大切な水ではあるけど、やっぱり放っておけない。
小犬はすぐに口をつけた。
「んぎゅっ、んぎゅっ」
「ははっ。よっぽど喉が渇いていたんだな」
「キャン!」
ひとしきり飲み終えた小犬は、元気に高い声で返事をしてくれた。
かわいい……。
しかも、
「え! 足のケガが!」
「キャンッ!」
さっきまで出ていた血はなくなり、ケガがなくなっている。
どういうことだ!?
困惑すると同時に、ある疑問が浮かんできた?
「もしかして君、魔物なの?」
魔物とは、動物ならざる生き物のこと。
昔、突如として世界中に現れたダンジョン。
そこに出現するのが魔物だ。
種族は実に様々で、魔物とはまさにファンタジーな生き物なのだ。
そんな魔物も、イレギュラー的にダンジョンから出てきてしまうことがあるとか。
魔物であるならこの回復力も頷ける。
「そうだ。せっかくあれをもらったし確認してみるか」
俺は思い至り、鞄から『魔物図鑑』を取り出す。
これは友達からもらったものだ。
このスマホのような形をした魔物図鑑。
これを通して魔物を覗くと、目の前の生き物が魔物かどうか、またどんな魔物かが確認できる。
十万ボルトを放つ黄色の電気ネズミが出てくる育成ゲーム、あの中の図鑑が現実化された感じだ。
俺は初めてのことにドキドキしながら魔物図鑑超しに小犬を見る。
すると、
「あれ!」
魔物図鑑が反応を示した。
「やっぱり魔物なのか!」
「クゥン!」
俺の言葉を理解したように、小犬は元気な返事をした。
「これは……」
胸がドクンと高鳴るのを感じた。
もしこの子がただの野良犬なら勝手に持ち帰るのはまずいが、魔物なら見つけた者がテイムすることができる。
魔物をテイムをするのは、基本『探索者』に限る。
最近になって、ようやく一般人にもスライムなどの弱い魔物はペットとして飼われ始めたけど、俺には関係ない話だと思っていた。
でも、こんな可愛らしい魔物なら俺にも飼えるんじゃないか。
見た目なんて小犬にしか見えないし。
「……」
この時点で俺の心は決まっていたように思う。
この子、飼います。
「俺と一緒に来てくれるか?」
「クンッ!」
しっぽをぷりぷりと振った白いモフモフは、舌をへっへっと出しながら付いて来てくれた。
★
温かい水を当てながら、モフモフな毛をわしゃわしゃと洗う。
「お~よしよし。気持ち良いか?」
「クゥ~ン」
さっき道端で見つけた小犬にシャワーを浴びせてあげている。
見た目はすごく綺麗だったけど、一応捨てられたいたわけだし。
それと、裸の付き合いってやつだ。
テイムの基本は『友情を深めること』とネット記事に書いてあったからな。
そうして毛をわしゃわしゃとしていると、色々と気づくことがある。
「へえ」
「クゥン?」
たしかに毛はモフモフだ。
めちゃくちゃ気持ち良い。
でも、その下に隠れた筋肉とかは意外としっかりしていて、やっぱり魔物なんだなと思わせられる。
キリっとした目とか、長めの尻尾もそう。
所々、やっぱりただの小犬ではない箇所がある。
まあ、俺としては可愛ければなんでもよし!
なんだけどね。
「そろそろ上がるか!」
「キャンッ!」
風呂から上がり、寝る準備もしたところで、
「お~よしよし。こっちおいで~」
あとは寝るまで戯れよう。
「キャウッ!」
「おわっ!」
俺が手招きすると、小犬は俺に大胆にダイブしてくる。
「ははっ。すっかり元気になったな」
「キャウ! キャウッ!」
「もっと遊んでってか?」
「クゥ〜ン!」
「よーし、いくらでもこいっ」
小犬はすっかり元気になった。
水をあげただけでケガも治ったし、シャワーをしただけで元気を取り戻す。
魔物の生命力ってやっぱりすごいんだなあ。
「君……って、あ」
小犬を呼びかけようとして、ふと気づく。
そういえば名前を決めてあげないと。
「ふむ……」
「クゥン?」
「ちょいと失礼」
「ク、クゥ~ン」
俺がモフモフな毛並みを堪能すると、小犬は「いや~ん」みたいな声を出した。
気持ち良いのかな。
だとしたらwin-winだな。
俺もこのモフモフに埋もれて気持ち良いし。
そうして、俺の中にビビっとくるものがある。
「よし! 君は今日から『フクマロ』だ!」
「ワォフワフォ?」
この白くてふわふわとしたモフモフ。
それを考えていると、思い浮かんだのは「大福」と「マシュマロ」。
その後半部分をそれぞれ取って、フクマロだ。
「フクマロ。君の名前だよ」
「ワォンッ!」
「お、おおっ!」
教えてあげると、フクマロはまた俺の元に飛び込んで来る。
言葉を理解したのかな。
魔物って賢いんだなあ。
「ははっ。これからよろしくな、フクマロ」
「クゥンッ!」
フクマロに会うまではいつも通りぐったり歩いていた。
だけど、気がつけばこうして元気なフクマロと一緒に戯れている。
元気なったのはフクマロだけじゃない。
むしろ俺の方こそ、生きる活力をもらったんだと思う。
まさに、俺の苦痛の日々に癒しが生まれた瞬間だった。
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