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親友の魔術  作者: ルト
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第四話:はじまりのつぎへ

 その後談笑しているうちに時間は過ぎ、ヒロたちは入学式に参加した。ウォーラム校は入学式といっても大層なことをするわけではなく、むしろ学生生活についての説明会という毛色のほうが強いようだ。校長の演説のあとは学業についての心得や規則の説明、ハウス共通のルールなどの簡単な説明が続くらしい。

 式の間さりげなく周囲をうかがったヒロは、カオルの姿を認めることができたがすでにしっかりと友人を作れているようでその人と歓談していた。その姿を教員がにらんでいたことに肝を冷やした。また、アキトのほうはというと目を開けて寝ていた。実益のないことには一切力を注がない彼らしい態度に苦笑をするしかない。ルームメイトたちはというと、リックは暇そうにあちこちキョロキョロしていたくらいで、フェナーもジェレミーも真剣に話を聞いているようだった。ヒロはというと、英語のボキャブラリーはまだ日常生活を問題なく過ごせる程度でしかないため、古風なイディオムを多用する校長の話は重要な部分が分からないのでこうして暇をつぶすしかないのだった。


 そして入学式のあとはハウスごとの集団で学校内を案内された。プリフェクトの兄貴分レナードと、手続きの時に部屋に案内していた青年が先導して学校内を案内していく。各教室と特別教室、講話ホールなどの学校生活で用いる部屋に、食堂などの毎日使用するだろう部屋。また校舎横手の運動場や、蔵書が何十万とあるらしい大きな図書館、チャペル(礼拝堂)など様々な施設を見て周り、最後に食堂に戻ってきた。このまま夕食を摂るようだ。

 天井が妙に高く、なにやら絵が描かれている天井から吊るされた無数の小規模なシャンデリアが照明として使われている。ダンスパーティだって開けそうな巨大な広間だ。そこに大きな机がハウスの数だけ並べられていて、ハウスごとに上級生から上座に着いて行き、下級生は下座に着いていく。年功序列なのである。ヒロたちは何とも無しにルームメイト同士で固まった。そして専門らしい老若男女入り混じる給仕たちによって食事が手際よくサーブされ、ヒロの前にも配膳される。


「……ん?」


 しかし、メニューは、こう言っては何だが貧相だった。悪いというわけではなく、あくまで質素な食事というレベルではあるが、お貴族の子息が通う学校としてこれでいいのかというくらいに野菜と芋が目立つ献立である。ヒロが首をひねっていると校長が音頭を取り食前の礼が行われ、慌てて周りにならった。礼が終わって食器のぶつかるカチャカチャという音が響き始めるなか、ヒロがこそりと周りをうかがってみる。

 リックは量に不服そうな顔をして、フェナーはメニューに対して複雑そうな表情を浮かべ、ジェレミーに至っては量やメニューはもちろん味に対しても不快そうな表情を見せる。ヒロ自身は日本では和食中心の家庭だったため肉の少ない食事には慣れている。

 上級生たちは慣れた様子で普通に手が進んでいるようだったが、美味しそうに食べているという人になると探し出すのに苦労する。イギリスはもともとランチがメインであるため夕食が豪華でないのは分かるが、だからといってその夕食がこのランクとなると昼食もあまり期待できたものではない。もともとイギリス人は食事に頓着しない気風があるため、味の面ではなおさら期待できないなあ、とポテトを頬張りながらヒロは思った。


 やがて食事が終わり寮に帰るのだが、新入生たちは談話室に集められ、ハウスの具体的な規則や設備の使い方、またケンプハウス独特のルールなどを簡単に説明された。ついでにハウスマスターの奥さんも紹介された。小じわが目立ち始める年頃ではあったが美人さんだ。また、そのあとは歓迎会が催される。先輩たちによるケンプハウスのフットボールにおける強豪さの演説、ハウスでの生活の中で許される悪戯を匂わせるような冗句、学校生活の過ごし方のアドバイスや心構えのほかに簡単なゲームも行われ、ルームメイト同士・ハウスメイト同士・先輩後輩同士・はたまたハウスマスターと生徒の交流が深められた。

 結局各人が部屋に戻ったのは21時半ごろだった。


「うあー、なんか疲れちゃった」


 ヒロは部屋に戻るなりどさりと椅子に座り込む。リックは苦笑して隣の椅子を引いて前後逆にして、背もたれに腕を乗せて座った。


「まあ楽しそうなハウスでよかったよ。ハウスマスターも優しそうだったしな」

「確かにそうだね。ただ、奥さんの惚気話には困ったよ」

「ははっ、言えてる」


 リックは気さくで人当たりもよく、快活な人柄だった。さっきのゲームでもフェナーと話して笑っていたのを目撃している。


「そういえば、みんなってプレップスクール出身だよね? ずっとウォーラムなの?」


 ヒロが椅子をずらしてみんなのほうを振り向き問いかけた。リックも首をめぐらせて向かいに座るフェナーとジェレミーを見る。ジェレミーは頬杖をついて片手で本をめくりながら横目でヒロたちを見る。フェナーは急に水を向けられたことに驚いていたが、ちゃんと応対した。


「あ、ううん。ウォーラムに付属のプレップスクールはないよ。僕はロンドンのほうのプレップスクールからこっちに着たんだ」

「……俺もロンドン近郊のプレップからだ。フェナーとは違う学校だけどな」

「ふーん、やっぱ普通そうなのな。俺は家庭教師に教わって、試験受けてステートスクールから入ったよ。親父の知り合いがウォーラム出身者で、推薦受けてな」


 リックの意外な経緯を聞いてフェナーは少し驚いた風を見せた。パブリックスクール、というよりイングランドの私立学校は、普通プレップスクールもしくはその前のプリ・プレップスクールから入ってパブリックスクールでの生活に備える。日本風に言えばほぼ一貫教育のような学校だ。途中から入る人は居ないわけではないが、あまり多くはない。


「そういうヒロは留学する前はどうだったんだ? つかむしろ日本ってどうなんだ?」

「えー、えっとねえ」


 リックに問いかけれられ、ヒロは天井を見上げながら人差し指で顎をなぞり、意味もなく宙を指差した。この類の質問はホームステイしていたときに散々浴びせられ、ヒロにとっては慣れたものだった。


「日本の首都は東京、っていうのは知ってるよね。面積はイギリスの大体1.5倍くらいあって、人口はイギリスの倍くらいあるよ。ただ人口密度は偏ってるんだ、日本は山ばっかりで住める平地が少ないからね。東京だけで人口の10分の1くらいいるんだ。1960年代に高度経済成長期っていうのがあったりして、そういうときに東京に集まってきたからね。政治は議院内閣制なんだけど、詳しいことはまだ英語じゃ説明できないよ。ややこしくて、日本語でもこんがらがっちゃうんだ。ええっとそれから、まだ何か知りたいことある?」


 ヒロが一通りまくし立てたあとにそう質問すると、リックは少し情報を整理するような間の後に挙手した。ヒロは笑って、どうぞ、とばかりに手の平を見せる。


「おかげで国についてはだいたい分かったから、日本での暮らしを教えてくれ。そうだな……こっちに留学する前はどんな学校に行ってたんだ?」

「ええっとね、小学校っていう、こっちのプレップスクールみたいな学校に通ってたよ。6歳から12歳までのあいだ通って、国語……日本語や算数なんかの基礎教科を勉強するんだ。こっちと違って4月に一斉に入学するとか、いろいろ違いはあるけどね」

「へぇ、小学校ねー。具体的にどんな違いがあるんだ?」

「僕はこっちの学校のことをあんまり詳しく知らないし、日本でも私立小学校だと結構違うこともやったりするみたいだけどね、たとえばまず、日本では勉強がメインだから……」


 などと色々ヒロが答えていくとリックが突っ込んだ質問をしたり、納得すると他の話題に移って質疑応答をしたりと随分と話し込んだ。ヒロは、いつの間にかジェレミーとフェナーが話していることにも気づき、この分ならみんなとちゃんと仲良くなれるかもしれないと思い安心する。やがて消灯時間がやってきて、ベッドの割り振りを決めて名残を惜しみつつそれぞれベッドに潜り込み、眠りに就いたのだった。

 最初の日がようやく終わりましたが、まだ序章。

 なんか話の動かし方が不快になってきました。三人称はまだ難しかったかな。もしくは、展開の仕方がまずいのだらうか……。私の中のヒロをうまく描けていません。


 次回、翌日へ。ついでにもう1人の親友カオルが軽く顔見せ。

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