この世で最も大切なもの
私はよく、人から天才と言われる。
最初に言われた記憶は幼稚園児のころ、私が掛け算を理解したから、だったか・・・?無邪気に喜び、周りに自慢していた事だけははっきりと覚えている。
それが原因かはわからないが、私は幼少期から何かを学ぶことに前向き、というか、全力だった。わからない言葉は辞書を引き、疑問に思ったことは徹底的に調べ、貪欲に知識を求めた。だからだろう、現在高校生、私の今までの成績は常にトップだった、トップというのは言葉の通り、すべての教科で学年1位以外を取ったことはない。
しかし、私は天才ではない。
私がこのようになったのは、勉強時間が人生のほとんどを占めているだけだからだ。
私は天才だといわれるのが嫌いだ、私のことを詳しく知っているわけでもあるまいに口から出るのは天才だのなんだのと、馬鹿々々しい。私と全く同じ遺伝子で、全く勉強していない人間がいて、その人間も私と同じように優秀だとでも思っているのか。くだらない。
・・・と、このような考えを持っているが、表面は温和でやさしい人間と見えるように心がけている。敵を作ったところで何のメリットもないからだ。
ん?あぁ、こんなことを考えていたらいつも登校する時間を過ぎていた。何をしているんだ私は。
私としたことがミスを犯すなんて疲れているんだろうか、昨晩寝るのが遅すぎたか、いや、根本的に日頃の疲労が蓄積しているからか。あぁいや、今はこんなことはどうでもいい、さっさと行かなくては――――――――
家を出る前、こんなことを考えていたことを覚えている。
家を出た後は、歩きながらうとうとしていたようなしていなかったような気もするが、確かなのは交通事故にあってしまった原因は現在の生活習慣にあるということ。
少し油断しすぎていたかもしれない。どんな人間でも疲労困憊では注意も散漫になる、その注意の怠りで命を落とす事などいくらでも起こりうるのだ。これからは健康にも気を付けなくてはならない。
よくわからないが様子見だとかなんだとか言われ、入院することになり、昨日、意識が朦朧としていた時に「後遺症は一切残らないし、1か月後には元気に走り回れると医者に言われた」のようなことを母親から聞いた。
部屋は個室、ベットの上、勉強道具は母親に持ってきてもらった。当然今から始めるのは勉強なはずなのだが、利き手である右手首の関節をやってしまった。2週間ほどで治るとのことだが、左腕のみでは本も読みずらいし、字も書けない、まともに勉強ができない。
ふむ、どうしたものか。解決策は・・・・・・・・・・・・
ん?・・・・私は何を考えていたんだ?・・・・怪我をしているからだろうか、思考がうまくまとまらない。
常に寝る寸前のような浮遊感と、妙に不愉快な暖かさが気力を奪ってくる、とても不愉快な感覚だ。
先ほどまで眠っていたが、まだ休んだ方がいいようだ。
・・・・と、私が不愉快な感覚から逃れるため眠ろうとしたと同時に、後ろの扉がゆっくり開かれるのを背中と耳で感じた。
私は何も考えずに、音の方向へと体を向けた。
「えーっと、こんにちは。あっこんばんはですかね?」
私は目の焦点が合わさるまでの間、ただ呆然とし、彼女の発言を何も聞き取れなかった。
私の反応が一切なかったからか彼女は焦り、ジェスチャーをしながら突然な訪問の経緯を説明しだした。
「あの、私、隣の病室の者なんですけど、なんというか、することがなくて暇だな、誰かとお話したいなって思いまして、ですが看護師さんの仕事を邪魔するわけにもいかないですし、隣の部屋にはどんな人がいるんだろうって感じで、興味がわいて、来ました。はい・・・・えっと・・・・・ごめんなさい。」
彼女が謝罪の言葉を言い終える頃、私はようやく状況を認識して思考し始めることができた。
数舜考えたのち、私は初対面用の笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ、謝らなくても。私も暇をしていたところですし、ちょうどよかった、かもしれません。」
「あ、えっと、ありがとうございます。」と、彼女はぎこちなく感謝した。
「えっと、私 って言います。」
「オミさんですか、珍しい苗字ですね。」
「はい、いろんな人からよく言われます。」
「私は、 と言います。」
「ノダさん・・・ですか。」
「どうかしましたか?」
「いえ、失礼かもしれないんですけど、あの、なんか、ノダって語尾みたいで可愛いなって思っちゃいました。」
「あぁ、っはい、おなか減ったのだーみたいなことですか?」
「フヘッ、ごめんなさい、最近笑ってなかったからか、なんだか面白くてッ」
「ハハハ・・・」
「・・・・えっと、なんでしたっけ。」
「お話、したかったんですよね?」
「あ、そうでしたそうだした、じゃあ、えっと・・・・その怪我のこと、聞いても・・・いい・・ですか?」
「これは、車と事故を起こしてしまして。」
「大変でしたね。」
「いえいえ、私が悪いんですよ、あんまり記憶がないのですが、登校中ウトウトしてしまいまして、それで。」
「おっちょこちょい、なんですね。」
「そ、そうですか?おっちょこちょいなんて初めて生で聞きましたよ。」
気付いたら時間がたっていて、ふと窓を見ると空が変色していた。久々に、人と長話をした。
突然、いつの間にか薄れていたあの不愉快な感覚が私を襲ってきたので、彼女に帰ってもらうことにした。
「あぁ、いつの間にやらこんな時間になってしまいましたね。」
「そうですね。」
「えっと、オミさんは大丈夫なんですか?いろいろ。」
「・・・・? 大丈夫ですよ?」
「あーと・・・すみませんが、眠くなってしまったので寝てもよろしいですか?」
「あっごめんなさい、迷惑でしたよね。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
「えっと、楽しかったです・・・・あのノダさん、また今日みたいに、お話してもいいですか?」
「ええ、私もこんな腕で、したい事もできず暇でしたから、いつでもどうぞ。」
「あ、ありがとうございます、では!」
彼女は、長時間座っていたため立ち眩みを起こし、足元がおぼつかないまま出て行った。
ああ、うん、だが、まぁ、なんというのか、なんだ。私の中に、自分が感じたものを否定したいという気持ちがある。
だが、否定する材料も根拠もない。
だから私は離れたところからその感情を認めよう。
可愛いと感じた。一目惚れというのはこのことなのだろう。話したい、関わりたいと思わせてくる。理性が拒否し、本能が求めてくる。
・・・・この感情はだめだ。あまりにも一次的すぎる。
この感情に支配されて行動してはいけない、そうなったらば私は、低俗で有象無象な存在になる。それは嫌だ。
だが、まあ、偶になら、息抜きとしてなら良いのではないだろうか。そしてこの入院期間は私の「偶に」なのだろう。
ああ、頭の奥が痛い。とりあえず今は休む他ないだろう。
翌日、私が苦難しながら小説を読んでいる時に彼女は来た。彼女は、私の反応を窺うように覗きながら部屋にゆっくり入り「あの、こんにちは。」と、恐る恐る言った。
「こんにちは、お話しますか?」と私が促したら、安心したように先日と同じ場所に座った。
私はその時に感じた短絡的な感情に自己嫌悪を抱きつつ、彼女との会話を開始した。
「あの、ノダさんの好きな食べ物ってなんですか?」
「甘いものが好きですね、特に、抹茶のチョコとか。」
「あっ私もです!昔、名前はわからないんですけど、すっごくおいしい抹茶のチョコを食べてから、ずっと抹茶味が好きなんです!でも、最近はただ甘いだけじゃなくて、抹茶の苦みとかがちゃんとあるやつのほうが好きってことに気付いたんですよね。」
「あ、すごく分かります。普通のチョコでもそうですけど、苦みっていいですよね。最近のお菓子は甘いだけの物が多くて、苦味が少なくて物足りないんですよ。」
「そうですよね!あーこの感覚がわかってくれる人がいるなんて嬉しい!」
「私も始めて出会いました、よかったです。」
「ノダさんは趣味とかありますか?」
「強いて言えば・・・勉強だと思います。」
「それは、なんというかすごい、ですね。」
「恥ずかしい話なのですが、いままで勉強以外に熱中したものがあまりないんです。」
「すごく偉いと思います。私なんて全然勉強できなくて。」
引き戻されるような感覚と、頭の芯が冷えていく感覚を同時に感じた。
「そう、なんですね。」
「はい、数学が特に苦手で、わからないところだらけなんです。」
「私でよかったら教えられますよ。」
「良いんですか?」
「・・・」
私は、何と言った?
おかしい、今、無意識で発言していた。これが本能的行動というものなのか?いや、今はそんなことはどうでもいい。何とかしなくては、この、提案をしておいて相手が了承を伺ったら黙りこくっている非常識極まりないこの状況を早くどうにかしなくては。
「えっ、あええもちろんです。」
「あっ、えっと、じゃあ、数学、教えてもらってもいいですか?」
「ええ、なんでも質問していいですよ。」
彼女はおもむろに部屋を出て行き、戻ってきた彼女の手元を見れば、数学のノートと思わしきものが握られていた。
いつのまにか。というか、私が言ったからもちろんなのだが、私が彼女に数学を教える事になってしまった。
「あの、この2次関数の文章問題なんですけど、全然わかんなくて。」
「えーっと、はい。全然とは、どこからですか?」
「・・・・最初からです。」
「式を立てるところってことですか?」
「多分・・・・それです。はい。」
「あーじゃあ、とりあえず何をXとするかを考えてみましょう。」
今日も長話をした。彼女はしっかりと勉強もしていた。良いことだ。
そして今日のことで私は確認した。私は少し壊れている。だがそれもしょうがないだろう、日々の疲労の蓄積に事故の怪我もある、もしかしたら事故の際頭を打っていたのやもしれない。
それならば、一時の感情に動かされ無意識的に発言をしてしまう。などという失態もしょうがない。
とりあえず、退院するまでにしっかりと正常な判断ができるように休まなくては。
翌日も、彼女は私の部屋に来た。案の定、最初の会話を始める際不安そうな彼女を促し、勉強を教え、自己紹介の延長のような当たり障りのない話をした。彼女は可愛かった。
その翌日も、その翌日も、彼女と長話をした。そのたび彼女のことを可愛いと思った。
ある日、一人で、未だに慣れない左手のみの食事をしていたころ。今日読んだ本が影響していたのか、ふと、いつもは考えないようなことを考えた。
可愛いとは何だろう。私は彼女と初めて話した日、率直にただ単純に可愛いと思った。だが、可愛いとは何だろう。
加速しだした私の思考は止まらなかった。
辞書を引いた、小さい、丸井、子供らしさなどで微笑ませる・・・つまり1次的接触により、幸福を感じさせること?よくわからない。ネットで多種多様な意見を調べた。・・・・・・ふむ、わからない。理解できる意見はたくさんある、科学的根拠を交えたものも、だが、納得がいかない。何に納得できないのかもよくわからない。
このような感覚は初めてだった。可愛いと感じるのに、可愛いが何かはわからない。これは、これはいけない、これではだめだ。
明日、この悩みの元凶ともいえる彼女に「可愛い」について聞いてみよう。
――――ところで、昨日ふと疑問に思ったことがありまして、いろいろ考えたんですが結局答えが出なかったんですよ。」
「え、ノダさんがわからなかった事ですか?すごく気になります。」
「あの、可愛い。についてなんですけど。」
「可愛い?」
「可愛いって、なんだと思いますか?」
「えっ・・・・あっと、それは、んーー・・・・」
「・・・・・・」
「守りたいと思わせる、もしくはそれに近い感情を抱かせる物。じゃないですかね?」
「あ・・・と、それは、なぜ?」
「えっと・・・・感情ってそもそも、その種の存続に必要だった、もしくは自然とそうなった、もの、じゃないですか。で、かわいいって男の人が女の人に、とか、小動物に対して感じたりするので、要は守られる必要のあるものが守られるために、相互が感じるように、感じさせるように進化した結果できた概念なんじゃないかなと。って、はい、私は思ってます。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・えっと、ごめんなさい、長々と。」
「いえ、問題ないです。」
自分の考えを語る彼女の姿は、私の理性にとって、とても魅力的に映った。
質問に対する彼女の回答は彼女の印象とかけ離れていて、まるで何かを朗読しているかのように感じたが、時々つっかえる言葉が、彼女が即興で言葉を発していることを表していた。彼女は、すでに答えを自分の中に持っていたのだ。最初に考えたようなそぶりを見せたのは、思い出していたのだろう。
気が弱そうな彼女の根底に、強固な自己の土台が垣間見えたことと、途方もなく彼女の意見に納得した自分に驚いて、私は固まってしまっていた。
「えっと、どうでしたか?」と、彼女は期待や不安が混じった表情で私に感想を求めた。
私は素直に「すごく驚きました。そして納得しました。」と答えた。
彼女は嬉しそうに「アハハ、はい、ありがとうございます。好きなんです、なんというか、定義があいまいな言葉の意味を考えるのが。」と笑顔で言った。
「とても、興味深いです。」と率直に伝えた。
「あの・・・・・・」と、彼女はそのまま言葉を続けることができず、黙ってしまった。
彼女の発言が途中で止まって、どちらも何もできずに10秒ほどの沈黙があたりに漂った。
場に耐えられなくなったのか、それとも心の準備が整ったのか、先ほどの言葉を続けて喋った
「あの、私したい事があって、その、こういうの、今までずっと一人で考えてて、だから、誰かと議論っていうか、討論っていうか、話し合って一緒に考えたいなっていうか。あの・・・」
彼女の意図を汲み「もちろん、いいですよ。私もしてみたいです、話し合い。何か、議題はありますか?」と答えた。
困った様にしながらも、とても嬉しそうな笑顔で「ど、どんなものがいいですかね?」と言った彼女は、とても可愛かった。
それから、私は彼女と語り合った。カッコイイについて、好きについて、楽しいについて、疲れるについて、娯楽について。はたまた、人について、生物について、社会について。時にはとある小説の一文についてやハロウィンやクリスマスなどについて。
私と、彼女がいて、二人で語りあう、ただそれだけをして過ぎていく時間は私が今まで過ごしてきた時間の中で最も甘味で充実したものだった。
彼女を一目見た時に抱いたこの一次的過ぎる好意。最初は、これが生物だからこそ抗えぬ本能という物なのかと忌避していたが、もしかしたらこれが運命という物なのやもしれない。私は彼女と関わっていけば、必ず彼女を理性的に好意を抱くため、一目見たときに可愛いと感じたのかもしれない。
自嘲的な笑いが自然と出てしまうほどに馬鹿らしい。運命などありはしない、あまりにも現実から乖離した考え方だ。だが、そんなことを考えてしまうほど彼女との時間は私にとって特別で、不思議なものだった。
それから、数日がたち、彼女は不治の病だった・・・ということもなく、普通に退院した。連絡先を交換し、後日会う予定を立てた。まだ彼女と語り合いたいことが山ほどある。
それから数か月がたち、私と彼女は週に数度、どこかで会って話をするのが習慣化していた。会わない期間に何を話すか考えておき、いざ会えば時間が許す限り話に花を咲かせた。
それから数か月たったある日、彼女はとても疲れていた、学校のことや家のことやら、とにかく忙しいらしい。それから、彼女の時間がなかなか取れず、黙々と一人で話題を考えるだけの時間が過ぎていく。
彼女と次に会う際どんなこと話そうかと毎日考える日々は今までで最も幸福だった。だからだろう、彼女と長い間会えないと、私は何をすればいいのか分からなくなった。
学校に行き、家にまっすぐ帰り、ある程度勉強してそろそろかというところで彼女のことを考える。すでに次回のための話題はいくつも出来上がっている、さて、どうするか・・・・・
何を考えるか・・・・・
・・・・・私は・・・・何をするべきなんだ?
私は・・・・・何がしたいんだ?
私は最終的に、どうなりたいんだ?
分からない・・・・私は、流れに沿って生きてきただけだ。彼女と出会う前の私は、勉強して勉強して、学力でトップに立ち・・・・その結果、どうしたかったんだ?
・・・・大学に行く?良い職に就く?学を身に着けて、職について何をするんだ?私は、それを目的に、それ自体を目的として生きているのか・・・?いや、とてもそうだと思えない。私は、なぜ生きているんだ?
・・・・・・・次、彼女と会う際に聞いてみよう。彼女は私がそういった類のことを質問したら、私が思いもしなかったアプローチで一つの答えをいつでも示してくれた。
私は、彼女の考える「なぜ生きているのか」を教えてもらい、私はどうするのだろうか。その通りに生きればいい・・・・・のか?
「あ、オミさん久しぶり。」
「あーーー!ノダさんだ、久しぶり!すごく長い間会ってない感じがするけど、本当は1週間ちょっとしか空いてないんだよね。」
「定期的なリズムが崩れると久しぶりに感じたりするのってよくあるよね。名前とか付いているのかな。」
「前に調べてみたけど見つからなかったよ。」
「そっか・・・・ところで、そっちはいろいろ大丈夫なの?」
「うん、頑張って片付けてきたからいくらでも時間取れるよ。」
「そっか、よかったよかった。あ、じゃあいきなりなんだけどさ、ちょっと聞きたいことがあって。」
「お、いきなりだね、何でも聞いちゃってよ!」
「なんだか、こんなこと聞くとちょっと変なんだけどさ。」
「いーよいーよ、どんなに変でもいいよ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・なぜ、私たちは生きているんだ?」
「生きる・・・・理由?」
「そうだね、生きる理由は、なんだ?」
「・・・・・・・それは、どうして疑問に思ったのかによって、答えが変わってくるんだけど。どうして?」
「それは・・・何というんだろう、家でふと、いや、何というか・・・ううん・・・・・・・」
「どうしても言いたくないってほどじゃないなら、正直なことを聞きたいな。ちゃんと答えたいから。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「分かった、言うよ。」
「うん」
「私がちょっと言いたくなかった理由は、単純にこっぱずかしかったからなんだけど・・・・簡単に言うと君と会えない期間があったよね?」
「うん」
「私は暇なとき、次の機会君と会う際に何を話そうかと考えていたのだけど、何というか、何をすればいいか分からなくなったんだ。」
「したい事が無くなったってこと?」
「そうだね・・・・何の意味もなく、ただ天井を眺めることしかできなくて、今まで何をしていたのか分からなくなったんだ。」
「それで、生きる理由、生きている間何をすればいいのか、ってことね。」
「私は、どうすればいい・・・・?」
「んーーと・・・・・」
「・・・・・・」
「私、一時期ずっとこれを考えていた時期がありまして、その時に出た結論はすごく単純明快で、簡単なものです。」
「それは・・・?」
「ノダさん、幸せになってください。」
「え?」
「自分が、自分が幸せに生活できるように行動してください。」
「どうしてなのか、聞かせてほしい。」
「本当に、いろいろ考えたんです。いろんなことを。でも、最終的にはすごく簡単な事でした。ノダさん、水槽の脳ってありますよね。」
「ああ、自分の意識はとある脳が見ている夢に過ぎないという仮説の思考実験だよね。」
「それって否定できないじゃないですか。」
「そうだね、否定も肯定もできない。」
「もし、その水槽の脳が正しいとしたとき、ノダさんはどうすべきだと思いますか?」
「・・・・・どうもすべきじゃないんじゃないか?」
「そうですね、今感じている感覚やらなにやらすべてが幻想で、架空なものに過ぎない時、そこにすべきことなんてものはない、と言えるでしょう。」
「・・・・」
「ですけど、そう結論付けていいんでしょうか?水槽の脳が正しいとしたとき、今感じているものはすべて幻想と言いましたね。では、この世界が現実世界だったとして、私たちの感覚は幻想ではなく、価値があるものなんでしょうか?」
「それはどういう?」
「感情なんてものは結局のところ生物がその生存活動に有利だったから残った機関の一つにすぎません。そこに価値があるんでしょうか?」
「それは、人間そのものに価値がないってことか?」
「そうです。」
「それは・・・・理性で認めてはいけないことだ。それを認めては・・・・死ぬことが最適解となってしまうじゃないか。」
「・・・・それも正しい考えです。」
「え?」
「私は人間に価値がないという考えも、それは生きている人間として認めてはいけないという考えもどちらも正しいと思います。」
「・・・そうか、じゃあ君は、どう結論付けるんだ?」
「足せばいいんです。」
「足す・・・そういか!価値がないとしたとき、人は何もしないべきだ。それを否定するならば、人間は自分の感情を優先するべき、総合して」
「幸せになればいいんです。自分がこうしたら幸せになれる、と思うことをすればいいんです。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「私は、オミさんと出会う前、勉強にしか興味がなかったんだ。」
「はい」
「特に理由も考えず、ただ知識を増やして、ひたすらに・・・」
「はい」
「私は、何の信念もなくただ勉強するだけで、そこに意味なんてなかった。」
「はい」
「君と出会ってから、僕はいろいろなことに興味を持った。でも結局のところ、僕の興味は大まかに一つのことにしか向いていなかったんだ。」
「なんですか?」
「オミさんだよ。」
「えっ?」
「えっ?」
「きゅ、は、急になに告白みたいなことしてるんですか!?というかなんでノダさんが驚いてるんですか!?」
「え、あれ?私今、なんと、え?ん?」
「どうしちゃったんですかノダさん!?バグってますよ!?」
「えっあっえっ?あっはい、え?好きです。出会って結構初めから好きでした。」
「ちょっえっ?これは正式な告白ってことでいいんですか!?」
「ちょ、もう私もよくわかんないです。昨日ずっと考えててあんまり寝てなくて。」
「大丈夫ですか?きょ、今日はいったん休んで、明日ちゃんと話し合いましょ?」
「いや、もういいです。もう言ってしまったものはしょうがないので、好きです。ずっと可愛いって心の中で思ってました。付き合ってください。」
「え、えぇ?あ、いや、まぁはい・・・・・・いいですけど・・・・じゃあ、はい、えっと、付き合いましょう。」
「えっと、はい、これからもよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
やっぱり、まともな思考ができなくなるから健康には気を使った方がいい。
だが、まともな思考をしなかったおかげで、今回素直に気持ちを伝えられたということもあるから一概に悪いとは言えないか・・・・?
翌日、とりあえずオミさんと会い、いろいろ話し合うことにした。
「えーっと、こんにちは、オミさん」
「こんにちは、ノダさん」
「とりあえず・・・なにしましょう?」
「んーと・・・・昨日のことで一つ気になってたんですけど。」
「はい、なんでしょう。」
「ノダさんは私のこと好きなんですよね?」
「まぁはい。」
「アハハ、えっと、それを言ったタイミング的に、明確にしてないことがあるじゃないですか。」
「なんでしたっけ?」
「結局、ノダさんは幸せになるために何をするんですか?えっとあの、解釈的には私と付き合っていろいろするのがノダさんにとって幸せなのかとか何とかあの。はい。考えちゃったりしたんですけど。」
「いやー、あの時の私は支離滅裂と言っていいですから。」
「えっ」
「あいや、好きという気持ちに偽りはないんですけど。」
「はい」
「まぁ私もなんであのタイミングで言ったのかよくわからないというか、まぁ確かに思い返してみたらそういう意図もあったのかもしれないというか。」
「はっきりとお願いします。」
「・・・・えぇまぁ、はい、そうですね、私は、オミさんとの関係が私にとって最も大切です。」
「えっと、大切にしてください。」
「そ、そうします。」
こんな女の子どうですかね?
どんな内容でも構いませんので文章の感想が欲しいです。
よろしくお願いします。