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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第9章 傀儡

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その8

 太郎を捕らえていた糸がぶち切れ、羅刹姫は吹っ飛ばされた。

「うっ!」

 墓石に激突し、醜く顔を歪めながら地面に転がった。


 火の弾と化した琥珀に貫かれた太郎の腹部は、ポッカリ大穴が開いた。土人形なので流血はないただの空洞。

 悲鳴を上げることもなく硬直した太郎の顔を、羅刹姫は切ない瞳で見上げた。

 しかし、太郎の視線は華埜子に向いていた。

 一瞬、華埜子を映した太郎の瞳は、たちまちくすんで色を失った。


 美しい顔の肌の色も土色に変化し、額から顎にかけてピキッ!と亀裂が走った。

 次の瞬間、体は粉々に砕け散った。


 地面に降り立った琥珀は人間の姿に変化し、得意げに腰に手を当てて砕けた土を見下ろした。

「親玉は始末したしな、後片付けはちゃんとしとかな……って」

 まだ抱き合ったままの三人に気付いてキョトンとした。

「どう言う状況なん?」


「琥珀ぅ!」

 新は理煌たちから離れると、琥珀に駆け寄り、両肩を掴んで激しく揺さぶった。

「なんで羅刹姫の方をらへんかったんや!」

 目が回るほど揺さぶられている琥珀は意味が解らず、ただ呆気に取られた。

「ちょ、ちょっとぉ」

 新の目からは滝のように涙が溢れて、真っ赤な鼻からは鼻水も。


「あのセクシーな後姿の女が羅刹姫やったん?」

 羅刹姫が吹っ飛んだ場所を見たが、彼女の姿は既に消えていた。

「うっ、ううっ……、呪いを解くチャンスやったのに」

 新はガックリ膝をついてうなだれた。


「羅刹姫はここにいたんか!」

 後から現れた珠蓮が食いついた。

「どこへ行った!」

 珠蓮は新の胸ぐらを掴み上げて迫ったが、呪い発動中で美少女になっていることを失念していた。巨乳が腕に当たったのに驚いてすぐに手を離した。


「なにすんにゃ」

 尻餅をついた新は恨めしそうに珠蓮を見上げた。

 ちょうどその場所は、太郎が崩れた土の山。

 那由他はその残骸を見て、

「羅刹姫は、傀儡を使ってなにを企んでたんやろな」


 続いて、まだ抱き合ったままの理煌と華埜子に意味ありげな視線を送った。

「で……なにがあったん?」

 ハッとした二人は慌てて離れた。


「那由ちゃん」

 顔を上げた華埜子は、やり切れない面持ちで那由他を見た。

 こちらまで胸が痛むような切ない瞳、真っ赤な目、こんな弱々しい華埜子を見たのはあの時以来だった。


 家族を亡くした時、華埜子はまだ小学生だった。

 でも、必死で堪えていた。死人のような青白い顔、何日も眠らず泣き明かしたのは明白だったが、人前では決して涙を見せずに精一杯の虚勢を張っていた。周囲に心配をかけまいと頑張っていた健気な姿を覚えている。

 見かけによらず芯の強い子なのを那由他は知っていた。


 その子が……。

 ああ、そうか……。

「前世の記憶が甦ってしもたんやな」


 那由他は華埜子の瞳を探った。

「どこまで思い出したん?」


「ほとんど……、あたしのせいで多くの仲間や妖怪たちが死んだことも……」

「ノッコのせいちゃう」

 華埜子は切ない瞳を那由他に向けた。


「やっぱりわかってたんやな、なんで教えてくれへんかったん?」

「今までも転生者と遭遇したことはあったけど、同じ時代に五人同時に現れたことはなかってん、そやし今度も五人揃うかどうかわからへんし……」

 那由他の言い訳は歯切れ悪い。


「じゃあ、五人目が現れなかったら、理煌も森であんな怖い訓練しなくてもいいの?」

 理煌が沈んだムードを変えようと努めて明るく口を挟んだ。

「理煌はヘタレやしな、自分で出した炎にビビッてへっぴり腰やもんな」

 琥珀もすかさず突っ込んだ。

「お嬢様育ちの理煌はキッチンにも入ったことないし、火を扱うのに慣れていないだけよ、ヘタレなんかじゃないわよ」


「ヘタレやんか!」

 続いて参戦した新の目からまた涙が溢れだした。

「あの時、グズグズせんと羅刹姫に一発かましてくれたら、呪いが終わってたのに!」

「悠輪が、ってノッコが止めたから」

「ちょっと待って! 悠輪って!」

 話はすっかり逸れていたが、那由他は〝悠輪〟と言う言葉を聞き逃さなかった。

 同時に華埜子も思い出した。


「そうや……あの土人形、悠輪そっくりやった」

「え……」

 那由他の表情が瞬間冷凍された。

「あたしのせいで犠牲になった悠輪の姿やった」

「な、なんでや……?」

 那由他の唇が強張った。


「どう言うことや? 器にするって言うてたらしいし、てっきり邪悪なモノを解放するつもりで、その時に使うのかと思てたんやけど」

 那由他は困惑していた。羅刹姫が悠輪を知っていると言うことが解せなかったが、

「そうか! 悠輪を悪者にするつもりやな、邪悪なモノを悠輪の姿にして」


「邪悪なモノってなんなの?」

 理煌が出し抜けに聞いた。


「それは……、詳しいことは、知らん……」

 那由他は言いよどんだ。

「戦い時、あたしはただの小雀やってんもん、理解できる脳ミソはなかった、訳もわからず悠輪にくっついて行っただけや」

 しらっとした顔で言った那由他を見て、理煌は大きな溜息をついた。


「羅刹姫が言うてた通りじゃない、元はただの小雀だって」

「戦いが終わって瀕死状態やったあたしに、大銀杏が生命と使命を与えてくれたし今の姿になったんやけど、あの女、あたしが雀やったことも知ってたん?」


「なんか詳しそうだったわよ、勿体つけてたけど、話しそうになってたところを琥珀がいきなり」

 理煌は恨めしそうな眼を琥珀に流した。

「そんなん知らんやん、てっきり襲われてると思て」

「話は途中だったけど、綾小路家に文献が残ってるって言ってたわ、黒歴史って」

「黒歴史?」

 那由他は眉をひそめた。


「綾小路家に行ったらわかるんちゃうか?」

 華埜子の言葉に理煌も同意した。

「そうよね、とにかく行ってみましょ」

「ちょっと待って、お墓参りが……」

「あ、そうね、そのために来たんだったわね」


 那由他はキョロキョロして、

「真琴は?」

 いつも一緒の真琴がいないことに、今頃気付いた。


「すっぽかされてん、てっきり妖怪がらみの事件で那由ちゃん等と一緒やと思てたんやけど……」

「今日は会うてないなぁ」

 那由他と珠蓮は顔を見合わせた。


   つづく


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