その6
「で、こいつはどうするんや?」
那由他は、しおらしく正座している偶仙道を見下ろした。
今にも泣き出しそうな情けない顔を晒しているが、どうも胡散臭い。
その時、ザーザーとなにかを引き摺るような怪しい音が聞こえていた。
「なんだ?」
見ると土小山が波のように盛り上がりながら押し寄せている。
たちまち偶仙道の周囲に集結した。
「やっと戻ったか、我が分身たちよ」
偶仙道はガラリと表情を変え、不敵な笑みを浮かべた。
土の小山はあっという間に偶仙道に吸収され、餅のように白かった体が土色に変化し、同時に巨大化していった。10メートルを超す巨大な人型になった偶仙道が、大岩のような拳を振り下ろした。
同時に飛び退く那由他と珠蓮。
拳は地面に激突し、めり込んだ。
「コイツ! こんな隠し玉持ってたなんて!」
「これが本性なんやろ」
偶仙道は次に大きな足を上げた。
珠蓮は鬼の姿に変化した。眼は赤く煌めき、両手はたちまち黒い毛で覆われ、爪は刃と化した。そしてジャンプいちばん偶仙道の顔面に蹴りを入れた。
「グワッ!」
顔面が崩れてうめき声を上げながらのけ反ったが、顔はすぐに再生した。
一瞬、怯んだ珠蓮だが、今度は腕に鋭い爪を立てて、根元からもぎ落とした。
地面に落ちて土に返った腕は、再び偶仙道の足元から吸収され、程なく腕は再生された。
「きりがない」
いったん木の上に避難した珠蓮は、横で見ている那由他にぼやいた。
「心臓潰さな」
「どこにあるんだよ、そんなもの」
「見えへんなぁ、あんなに巨大化してしもたら」
他人事のように腕組みして見ている那由他。
偶仙道は二人がいる木をなぎ倒した。
珠蓮は地面に転がり、那由他は消えた。
「一人で逃げるなよ!」
偶仙道の大きな足が珠蓮に迫り、転がりながらかろうじて避ける。
その時、二つ目の太陽が上空に出現した。
「なんだ?」
珠蓮は強烈な輝きに目を細めたが、偶仙道の巨体に隠された。
次の瞬間、火の弾が偶仙道の胴体を貫いて噴出した。
爆発!
偶仙道の巨体が木っ端微塵に砕け散った。
破片がバラバラと珠蓮の上に降り注いだ。
不快感に顔を歪めながら、珠蓮はなにが起きたのか見極めようとした。
砕けた偶仙道が再生する気配はなく、土に返っていた。
そして、そこには炎々と燃え盛る炎を翼いっぱいに湛えた火の鳥がいた。
「火の鳥って、ほんとにいるんだ」
あんぐりと口を開けたままの珠蓮に気付いた琥珀は、人間の姿に変化した。
「琥珀ぅ~、エエとこに来てくれたやん」
「琥珀?」
馴れ馴れしい那由他を見て珠蓮は眉をひそめた。
「蓮は初めて会うんやったっけ?」
琥珀は人懐こい笑みを向けた。
「あなたが鬼の珠蓮? 聞いてたより弱いやん」
小バカにしたような琥珀の言葉に珠蓮はカチンときた。
「なんだよコイツは!」
「セリーナの涙って魔石の力で生きているインコや」
「インコって……?」
「それより、なんでこんなとこにいんの?」
まだ聞き足りない珠蓮をサラリとかわして琥珀に向き直った。
「理煌と一緒にノッコちゃんのお墓参りについて来たんやけど、自然に誘われてつい散歩」
「ノッコも来てるんか?」
那由他は不安そうに琥珀が飛んできた方向に心を馳せた。
つづく