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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第9章 傀儡
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その4

 華埜子かのこは犬小屋の杭にふくのリードをしっかり繋ぎ直した。

「もう脱走したらアカンで」

 福は残念そうに華埜子を見上げながら尻尾を振っていた。


 寺務所の入口には貼り紙があった。

『本日は留守にしております。お参りの方はご自由にお使いください』

 その下に手桶と柄杓、用布が用意されており、その横には料金箱と共に仏花が置かれていた。


「とにかく、お参りしよか」

 美少女になったあらたは率先して手桶と柄杓を手に取った。

「こいつのことは、その後で考えよ」

 太郎は無表情で突っ立っている。


 長身で長い手足、整った顔立ち、額にかかるサラサラの髪が微風に靡いている。どこを見ているのかわからないガラス玉のような瞳を見上げた時、華埜子は不思議なデジャヴを感じた。

 いつだったか、こんなふうに彼を見上げたような気がする。


 きっと気のせいだ、こんなイケメン、会っていれば忘れるはずないから……と、華埜子は否定した。


理煌りおちゃん、それまでは見張っといてや」

 新に命令された理煌は不服そうに、

「なんであたしが」

「お嬢様は掃除なんかせえへんやろ?」

 手桶と柄杓で両手がふさがった新と、用布と仏花で同じく両手がふさがっている華埜子を見て溜息をついた。

「しかたないわね」


 新はいちいち文句を言うな! と言う言葉を飲み込んで歩き出した。

 普段は温厚な新だったが、変身するといらちで怒りっぽくなる。これも凶悪な羅刹姫の呪い所以だろうと思い、出来るだけ感情が高ぶらないように努力はしているが……。

「さっさと歩きや!」

 モタモタしている理煌と太郎を一喝した。


「ノッコちゃん、離れたらアカンで」

 そして横にいる華埜子にも厳しい口調、表情もにわかに強張った。

「どうしたん?」

 ただ苛立っているだけではないことに気付いた華埜子の胸に不安が押し寄せた。嫌な感じ、急に周囲の空気が重くなっている。


「わかるか? ノッコちゃんは敏感やしな」

 新は目だけを左右に動かして、周囲に注意を向けた。

「呪い発動中の俺も、敏感になってるんやけど」


 よく晴れた青空の下なのに、なんだか夏夜の肝試し気分、並ぶ墓石の間からヌ~っとお化けでも出て来そうな異様な雰囲気に、華埜子と新は鳥肌を立てながら歩いていた。


「なんでそんなにくっ付いてるの?」

 邪気を感じていない理煌は、必要以上に密着して歩く二人を不自然に感じた。

 すると太郎が前を行く二人の真似をして、理煌にピタッとくっ付いた。

「なんでよ」

「同じようにした方がイイのかと思って」

「しなくてエエわよ!」

 理煌は一歩退いた。すると、

 ドスッ!

 すぐ後ろにいたなにかに背中が当たった。


「あ、すみません」

 人とぶつかった感触だったので、理煌は咄嗟に謝罪しながら振り向いた。

「えっ?」

 一瞬、言葉を失い、目をパチクリさせるだけでリアクションが出来なかった。理由はその人物が、人の形はしているものの、あまりに異様だったから。

 どす黒い顔に白目がない真っ黒な目、衣服から出ている手足は腐敗しているように見える……死体のようだった。


 ゾンビ? ウォーカー? アンデッド?

 理煌の頭に浮かぶ単語、そして口から出たのは、

「キャアァァ!!」

 恐怖の悲鳴だった。


「どうしたん!?」

 驚いて振り返った新と華埜子も動く死体のような物体を見た。それも、一体ではなく墓石の間からうじゃうじゃ湧き出てきた。

 四人は既に包囲されていた。


「なになんや!」

 新が身構えながら叫んだ。

「死人が……蘇ったん?」

 緊張感のない華埜子とは対照的に、

「日本は火葬よ! 死体が埋まってる訳ないでしょ!」

 理煌はパニック。

「じゃあ、これはなに?」


 緩慢な動きではあるが、着実に包囲網は狭められている。

「敵には違いないやろ!」

 新は迫るゾンビの強烈なパンチを見舞った。呪い発動中なので、人並み外れた威力ではあるが、それにしても簡単に頭部が吹っ飛んだ。

 頭部は墓石に当たると砕け散った。その残骸はただの土だった。


「死体(ちゃ)うやん、土の人形や」

 と言いながら新は次々パンチを繰り出し、土人形を破壊していったが、崩れた土は程なく再生し、元の人間の形に戻った。

 理煌も掌から噴射する火の能力ちからを土人形に向けるが、燃えない。

 いったんは崩れ落ちるが、やはり再生して人型に甦った。


「切りがないわ!」

 土人形は両手を伸ばしながら、ゆらゆらと一歩ずつ迫りくる。どこを見ているかわからない黒目だが、伸ばした指が求めているのが太郎であることはわかった。

 しかし太郎は、事態を把握していないのか、無表情のまま突っ立っていた。

 そんな彼を華埜子は盾になって守っていた。と言ってもなんの武器もないのだが……。


 その時、新と理煌の間を縫って、一体が接近した。


   つづく


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