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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第9章 傀儡
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その3

「太郎がいなくなった?」

 突然、呼び出された那由他なゆたは不機嫌な顔を露にした。

「誰やな、それ」


「人じゃなくて、コイツが土で作った傀儡くぐつなんだけど」

 珠蓮じゅれんの足元には、偶仙道じゅせんどうがしょんぼり俯きながら正座していた。


 名前がないと呼びにくいので、珠蓮は傀儡を太郎と命名した。太郎はとても従順だったので、羅刹姫らせつひめをおびき出す為に連れ歩いていたのだが、ちょっと目を離したすきに消えてしまった。


 羅刹姫の気配はなかったので、奪還されたとは思えない。

 遠くへは行けないと思うが、素材が土なので臭いで追うのは不可能な山の中、闇雲に捜しても見つけられないので、那由他に手伝ってもらおうと呼んだのだ。

 その前に、同じく太郎を捜していた偶仙道を発見して捕らえたのだった。


「傀儡は完成していたから動き出しているはずだ。ただ、魂が入っていないから、扱いによっては暴走する危険もある。あの凶暴な羅刹姫の血が入っているのだから、心配になってなぁ」

 聞いてもいないのに偶仙道は語った。


「なんでそんな危険なモノを作ったんだよ」

「脅されたんじゃ」

 偶仙道はオーバーに身震いして見せた。


 那由他は胡散臭そうに偶仙道を見下ろしてから、珠蓮に視線を移した。

「で、その傀儡の太郎を捜せって言うんか?」

「本命は羅刹姫なんだけどな、まだ近くにいると思う」

「また逃がしたんか、学習せえへんなぁ、正面から当たってもアイツは捕まえられへんやろ」

「じゃあ、どうしたらいいんだよ」

「ちょっとは策練らな」

「それが出来ればとっくにやってる、悪知恵では敵わないだろ、年の功で」

ちゃうやろ、頭の出来やろ」

「……」

 言い返す言葉が見つからず珠蓮は唇を噛んだ。


「けど、羅刹姫はなんで傀儡なんか作らせたん?」

「器にするとか言ってたなぁ、1200年ぶりに解放される魂には器が必要だと」

「1200年ぶりやて!」

 那由他はいきなり偶仙道の胸ぐらを掴み上げた。と言っても服を着ていない白い餅のような皮膚を掴んだので、偶仙道は痛みのあまり涙目になった。


「1200年ぶりに解放される魂って言うたんか!」

 偶仙道は縮みあがりながら、震える小声で答えた。

「あ、ああ、確かに」

 那由他が愕然としながら手を離したので、偶仙道はその場に崩れ落ちた。


 尋常でない那由他の様子を見て、珠蓮はハッとした。

「1200年前って言えば、例の……」

 邪悪なモノとの戦いで多くの犠牲が出た話は、那由他から何度も聞かされている。

「羅刹姫の奴、どう関係してるんだ?」


「1200年前の戦いは、強い霊力を持つ六人の高僧と、かすみ白哉びゃくやを筆頭に桁外れの妖力を持つ大妖怪が一丸となって臨んだ激しい戦やった。姑息な小妖怪にすぎひん羅刹姫なんか近づくことすら出来ひん戦場やってんで」

「その戦いなら覚えてる、都が妖気に包まれた、そらぁ恐ろしいもんだったからなぁ」

 偶仙道は寒慄した。


「戦場は幽世かくりよ現世うつしよの間の世界やったにも関わらず、現世にも多大な影響を与えた、その後の飢饉や疫病という形でな」

「それもやむを得ん、強い妖気に当てられた雑魚妖怪が正気を失って暴れたんだからな」

「そやし霞が収拾に当たったんやけどな、お前も暴れた口か?」

「滅相もない、儂は山の洞にうずくまって、ただただ怯えてた」


「前から疑問だったんだけど、邪悪なモノって、いったいなんなんだ?」

 珠蓮の質問に、那由他は溜息を漏らした。

「他の妖怪や霊力のある人間の力を取り込んで巨大化していく邪悪の権化、けど実体は誰も見てへんのや」

「他の妖怪の力を取り込むって、羅刹姫みたいじゃないか」

「羅刹姫が吸収するんは魑魅魍魎ちみもうりょうの類、しょせんは雑魚や、邪悪なモノとはスケールがちゃうんやど……」

 那由他は腕組みしながら考え込んだ。


「やっぱり同類なんかなぁ……、それに、羅刹姫があたしらの前にちょくちょく姿を現すようになったんは最近や、……そう、最初に流風るかが転生者とわかった頃からや、時を同じくしてかすみも長い眠りから覚めたし、偶然やと思えへん、やっぱり動き出してるんや」

 今度こそちゃんと邪悪なモノを消滅させる為に、那由他は生まれ変わりが現れるのを待ち続けたが……。


「封印が破られるってことは、奴を封印している悠輪ゆうりんの魂が取り込まれてしまうってことなんや。それだけは阻止しな! 肉体は滅びてても、魂だけはちゃんと成仏させてあげなアカンのや!」

 溢れだす不安で体が震え出すのを止める為、那由他は自分で自分の両腕を抱きしめた。

 急がなければ!


「なんか、霞が四人目と遭遇したようやねん、本当やったらそっちへ駆け付けたいとこやけど……。羅刹姫がなにか知ってるんやったら」

 それに、珍しく自分を頼ってくれた珠蓮を放っておくわけにもいかないし……。


 那由他と珠蓮は気付かなかった。

 話を聞いている偶仙道が、馬鹿にしたような目で笑いを堪えていることに……。


  つづく


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