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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
番外編 誕生日は彼をディナーに
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後編 恋する乙女は秘密を持つ

「廊下でね、青山くんとぶつかるの、そして、落とした鞄を拾ってくれた時、指先が触れて、お互い全身に電流が流れたような衝撃を受けるの」


 次の日も一日中、妄想を聞かされて、桃花はうんざりしてる様子。わかっていながらやめられないのよね。


「よくまあそんなに次々と妄想できるわね」

「だってぇ、昨日、あんなモノ見てしまったでしょ、楽しいこと考えなきゃ気が滅入っちゃうわ」

「確かに……、あたしも眠れなかったわ」

 桃花は思い出したようで青ざめた。


「最近、ちょくちょくあるらしいのねよ、犬や猫の惨殺が」

「犬も?」

「そう、ペットが盗まれてね」

「酷い!」

 あたしは思わず地団駄を踏んだ。

「野良猫はともかく、犬まで犠牲にするなんて許せないわ」


「おいおい、猫も一緒でしょ」

「あたしは犬好きなの! とにかく、そんなことする奴、許せないわ!」

「そうよね、みんな怖がってるわ、危ない奴が近所にいるってことだし」


「あれ? 静香は?」

 にかわに、いつも一緒の静香がいないことに気付いた。

「先帰るって、なんか急いでたよ」

「そう……、今日はなんか別行動多かったよね」

「あんたの妄想に嫌気がさしたんじゃない?」

「え~~っ、そうなの?」


「心配してるのよ、妄想ハマり過ぎで、ストーカーみたいになってるし」

「嘘ぉ、ストーカーだなんて……」

 さずがにその言葉はショックだった。


「わかった、こうなったら妄想はやめて、自分から告る!」

「そうきたか」

「それでダメだったら、キッパリあきらめるわ!」

 タイムリミットは明日の夕方に迫ってるし、そうするしかない!

 あたしは片手でガッツポーズをとって見せた。

「よく言った!」


 その時、

「キャッ!」

 誰かとぶつかって、鞄を落としてしまった。


「ゴメン! 大丈夫?」

 見上げると、青山くんのカッコイイ顔。

「え……」


 告ると決めた矢先に妄想が現実となったものの、信じられずに固まってしまったあたしをよそに、青山くんは鞄を拾ってくれた。

「はい」

「あ、ありがと」


 緊張しながら震える手で受け取った。

 これは神様が与えてくれたチャンス!


 しかし、青山くんは目も合わさずに、さっさと行ってしまった。


 あたしはただ茫然と立ち尽くしていた。

 こんな時に言葉が出ないなんて、情けない。

「指は触れなかったか」

 桃花がボソッと呟いた。


 だが、奇跡はそれで終わらなかった。

 あたしは手帳が落ちているのを見つけたのだ。

 拾うと思った通り、青山くんの生徒手帳。

 思わず口元が弛んだ。





 あたしは青山くん追って校舎を出た。

 サッカー部の部室に行くのかと思ったら、なぜか人気のない裏庭に向かっている。

 後姿に声をかけようとした時、


 ???

 そこに静香の姿を見つけた。

 あたしは咄嗟に隠れたが、耳だけは研ぎ澄まして会話を傍受した。


「ダメだよ、校内では話をしないって決めただろ」

 青山くんは不機嫌な口調。

「なんで? あたしと付き合ってるのがバレたら困るの?」


 心臓が止まりそうになった。

 どう言うこと? 静香と青山くんが付き合ってるって?

 飛び出して、問い質したい衝動を必死で押さえた。


「これ以上、友達を騙してるのが辛いのよ」

「騙してるんじゃないだろ? 言わないだけだろ」

「同じよ、結音に毎日、あなたの話しばっか聞かされるのよ」


「君の為なんだよ、中学時代、俺と付き合ったせいで彼女がイジメに遭って、耐えきれずに家出したんだ」

「家出?」

「いまだに行方不明」


「そんなことが……」

「だから、心配なんだ」

「でも、このことがバレたら、結音とは友達でいられないかも知れないわ」

「いいじゃないか、君には俺がいる」


 二人が抱き合うのなんか見たくなかった。でも、その場を離れられなかった。足が凍りついてしまったからだ。

 一歩も動けず、しばらく立ち尽くしていた。



   *   *   *



「どうしたのよ、心配したわよ!」

 翌日、登校するなり桃花が詰め寄った。


「昨日、追っかけて行ったまま戻らないんだもん、なにがあったのか聞こうと思ってLINEしたのよ、既読スルーだから電話もかけたのに」

「ごめん、話す気になれなくて」

 目の下に大きなクマを作ったあたしは、どんよりした目で力なく桃花を見た。


「きのう、失恋した……」


「えっ? もしかして告ったの?」

 あたしは力なく首を横に振った。

「じゃあ」


 倒れ込むように席に着き、おでこを机にゴツンと付けた。

「静香は来てる?」

「まだみたいだけど」

「どんな顔して会えばいいんだろ」

「え?」

 桃花は話が見えずに小首を傾げた。


「静香と青山くん、付き合ってたのよ」

「ええっ!!」

 桃花は悲鳴に近い声をあげた。

「声が大きい」

「冗談でしょ」

「ほんとよ、昨日、見ちゃったのよ、二人が……」

 抱き合ってたなんて言葉にしたくなかった。

 

「なんで秘密にしてんのよ」

 桃花の声には怒りと苛立ちがこもっていた。

「青山くんが、そうしたいみたい」

「あたしたちにも秘密だなんて、ショックだわ」


「静香も辛かったと思うよ、言いたくても言えなかったんだもん、それにあたしに知られたことをまだ知らないし」

 あたしは頭を抱えた。

「どうしよう」

「どうしようって言われても……」

 桃花は大きな溜息をついた。


「最低の誕生日だわ……」


 その時、教室内がにわかに騒がしくなったことにあたしたちは気付いた。

 騒がしいを通り越して、パニック状態に陥っていた。

「嘘! 静香が!」

「まさか青山くんが!」


 桃花とあたしは顔を見合わせた。

 二人の交際がバレたにしては、みんなオーバーリアクションだ。

「なんなの?」

 桃花が血相変えている佳乃に聞くと、


「まだ知らないの? 静香が殺されたこと」

「え?」

 桃花とあたしはその言葉に一瞬、思考が停止した。


 キョトンとしているあたしたちに、佳乃はもう一度言った。

「静香が青山くんに殺されたのよ!」


 桃花は青ざめながら、

「やめてよ、そんな冗談」

「こんなこと、冗談で言える? じき全校集会があるわ、そこで説明があるはずだけど」


 よろめいた桃花をあたしは支えた。

「いったい……なにが起きたの……」





 情報通の佳乃の話しによると、

「中学時代、青山くんと付き合ってた女子が失踪したって事件があってね、容疑者としてずっとマークされてたらしいわ、最近、近所で動物の惨殺死体は発見されている事件に、青山くんが関係してるんじゃないかと、昨夜、刑事が訪ねたら、静香を庭に埋めようとしてたんだって」

 と言うことだった。


「行方不明の元カノも、その庭から遺体が発見されたんですって」

「家族は気付いてなかったの?」

「らしいわ、昨日も両親は留守だったらしいし、あと数分早く警察が行ってたら、静香は殺されずにすんだのに」

 あたしは言葉を失った。



   *   *   *



 全校集会の後、その日の授業は中止され、自宅待機となった。

 マスコミも押しかけ、学校は文字通り前代大未聞の大騒ぎになった。


 桃花のショックは半端なく、お母さんが車で迎えに来た。

 静香が殺されたなんて、あたしだってショックよ。そして青山くんが殺人鬼だったなんて……。


「一人か?」

 あたしが家路についていると、後ろから上村が声をかけてきた。

「ええ」

「桃花は?」

「お母さんが車で迎えに来たから……、あたしも送るって言ってくれたんだけど、うちも迎えが来るって嘘ついちゃった」

「なんで?」

「桃花、すごいショック受けてて、一緒にいるのが辛かった」

「大神だってショックだろ、仲良かったし」

「……まだ、ピンとこない、鈍感なんだね、あたしって」


「送っていくよ」

「えっ?」

 はにかむ上村を見て、あたしは思わず笑みを漏らしてしまった。こんな時に不謹慎だけど、心配してくれる彼の気持ちが嬉しかった。

「ありがと、優しいのね」


 もし、桃花が言ってたことが当たってたら……。

「そうだ、今日はあたしの誕生日なの、一緒にお祝いしてくれない?」

「えっ?」

「こんな時になんだけど、我が家のバースディーディナーに招待するわ」


 この際、近場で手を打つのも賢明かも知れない。と言うより、今日、彼氏を連れて帰らなければ、家族に責められるのは間違いないし。





「お邪魔します」

 玄関で出迎えた母は、少し意外そうに上村を見た。


「あら、ちゃんと彼氏を連れて来たのね、昨日の様子じゃ望み薄と思ってたのに」

 彼氏と言う言葉に、上村は顔を赤らめた。


「ちょうど良かったわ、メインディッシュの用意をしようと思ってたとこなのよ」

 母は瞳を輝かせながらあたしに目配せした。

 はいはい、早く済ませって言いたいんでしょ。

 あたしは玄関のドアを閉め、すぐさま行動に出た。


 狙いは首筋の動脈、外さないわ!


 あたしは後ろから上村に襲いかかり、首に噛みついた。


 母が素早くレジャーシートを広げているのが見えた。

「汚れると、掃除が大変だから」

 あたしはその上に、上村を押し倒した。


 上村の首に深く食い込んだ牙を離すと、動脈から血が噴き出した。

 久しぶりの生きた人間の血を口にして、お腹がグルルと鳴った。


 彼はなにが起きたのか分からなかっただろう。声も出せずに、ただ、恐怖に見開いた目をあたしに向けた。


 上村の身体から力が抜け、グッタリした。

 事切れようとしている上村の耳元であたしは打ち明けた。


「ゴメンね、あたし、狼女なのよ」

 我一族は人間の姿に変化へんげし、人間にまぎれ息をひそめて生活しているのよ。

 普段は牛や豚の生肉で我慢してるけど、儀式の時は人間を食べることにしているのよ。人間を食べなければ、人間の姿を維持できないから仕方ないのよ。


 静香が殺されたと聞いてもショックを受けなかったのはそのせいよ。人間はあたしたちにとって異種、学校では仲良くしていても、心を許しているわけじゃないし。


大神おおかみ一族はね、誕生日は彼をディナーに、いただくしきたりなのよ」


  番外編 誕生日は彼をディナーに おしまい


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