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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
番外編 誕生日は彼をディナーに

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前編 恋する乙女は妄想に走る

第8章 青狼で、結音ゆのが登場する少し前の物語です。

「やっぱ、カッコイイよね~」

 胸の前で両手を組み、あたしはグランドを見つめていた。

「瞳にハートが浮かんでるって、こんなのを言うのね」

 となりで桃花ももかの呆れた声が聞こえたけど気にしない。


 あたし、こと大神だいじん結音ゆのの視線を釘付けにしているのは、サッカーボールを追う青山将太(しょうた)くん。

「飛び散る汗が眩しいわ」

「ここから汗なんか見えないでしょ」


 放課後、付き合わされてサッカー部の練習を見に来ている桃花と静香はちょっと迷惑かも知れないけど、帰宅組のあたしたちはどうせ暇なんだからイイじゃない。


「スポーツ万能、成績もトップクラスの秀才、その上眉目秀麗の美少年、非の打ちどころないじゃん、なのに彼女いないのよ、チャンスだと思わない」

「はいはい、ここ一週間、毎日聞かされてるけど、そのチャンスはいつ訪れるのやら」


 一週間前、彼と目が合った瞬間、胸の中でなにかが弾けた。

 そう、運命を感じたのよ!


「きっと彼女がいないのは、あたしと恋に落ちる運命だからだわ」

「違うと思う、青山くんって無口で根暗って話よ、友達も少ないし、きっと一人がいいのよ」

 桃花ったら、酷い言いようじゃない? でもね。


「それはね、彼、一人っ子で、その上、両親は仕事が忙しくて出張も多いから、幼い頃から一人で過ごすことが多かったせいなのは調査済みよ」

「調査って、どうやって調べたのよ」

 静香はビックリしてるようだけど、それくらいすぐ調べはつくわよ。まだまだ情報収集中だけどね。


「あたしが彼を笑顔にしてあげるわ、この愛らしさで」

 笑顔にはちょっと自信があるんだ。

「自分で言うか? そりゃアンタは確かに可愛いけどね、性格には難あり」

 なに? 最後の部分は聞き流すことにするわ。


「きっかけさえあれば、彼はあたしの存在を意識してくれると思うの、たとえば彼が蹴ったボールがあたしに当たるの、それで話をするようになって……」

「そんなこと、起こる訳」


「危ない!」

 その時、ボールがあたしめがけて飛んで来た。

「キャッ!」

 

 バン!


 ? 音だけはしたが、痛みはない。

 あたしはゆっくり目を開けた。

 誰かの大きな手がそこにあった。


「どこ見て蹴ってんだよ!」

 ブロックしたのはクラスメートの上村陽斗(はると)だった。

「わるいー」

 小走りにこちらへ駆けてくる青山くんに、上村はボールを拾って投げ返した。

「サンキュー」

 青山くんは受け取ると、素っ気なく背を向けた。


「……なんで」

 呆然とするあたしに上村は笑顔を向けた。

「危なかったな」


 チャンスだったのに~~。

 あたしはガックリ首をうなだれた。

「えっ?」

 危ないところを助けたつもりの上村は、お礼も言わないあたしの態度に戸惑っただろうが、ほんとなら張り倒してやりたいくらいだ。


「気にしないで、結音は病気だから」

 桃花が上村に言った。

「具合悪いのか? 保健室連れて行こうか?」

「大丈夫、すぐ冷めるし」

「冷める?」

 事情を知らない上村の頭には、クエッションマークが浮かんでいるのだろう。



   *   *   *



「上村の奴、余計なことを!」

 怒り心頭のまま、あたしは家路についていた。


「せっかくのチャンスを台無しにして」

「でも陽斗が止めてくれなかったら当たってたよ、怪我したかも」

 桃花がなだめるように言ったが、

「それこそチャンス到来じゃないの」


 あたしはまた妄想の世界に入った。

「怪我して入院したあたしを、青山くんは見舞ってくれる、そこで愛が芽生えるのよ」

「入院までするか」

「あ、ダメだ、入院なんかしてられないわ、誕生日は明後日だもん」

「誕生日となんの関係が?」


「我が大神家では先祖代々、16歳の誕生日は彼氏、又は彼女をディナーに招待するしきたりなのよ、お父さんもそうしたらしいし、お姉ちゃんもお兄ちゃんも、ちゃんと連れて来たのよ」

 あたしはガックリ肩を落とした。


 そうなのだ、このしきたりがプレッシャーをかけている。

 明後日の誕生日までになんとしても彼氏をゲットしなければ笑いものになる、きっと、事あるごとに話題に上るのは間違いなし、親戚の集まりで責められている叔母さんを見たことあるもん。


「先祖代々って、結音の家って由緒ある家柄なの? 大きな神ってたいそうな苗字だしね」

「本家は千年以上も続く由緒正しき旧家らしいけど、まだ行ったことはないのよ、お父さんは一人前になったら連れて行ってくれるって言うけど、その第一歩が16歳の誕生日なのよ」

「なんか大袈裟ね」


「だからどうしても誕生日までに彼氏を作らなきゃならないのよ」

「じゃ、青山くんはあきらめたほうがイイんじゃない?」

 静香が遠慮がちに言った。

「なんでよ!」


 つい責めるように言ってしまったあたしに、静香は面食らいながらも続けた。

「だ、だってぇ、まだまともに話もしたこともないじゃん、明後日までって無理じゃない? それに……」

「なによ」

「青山くんって、実は彼女いるんじゃないかなと思って……」


「えーっ! 静香、なにか知ってるの?」

 その発言にあたしは衝撃を受けた。この一週間、彼を観察したが、女の影はなかったのに……。

「そう言う訳じゃないけど……」


「静香の言うことも一理あるよ、そんなに急を要するなら、もっと手近で手を打てば?」

「そうよ、結音って可愛いじゃん、他に目を向ければアンタを狙ってる男子って、けっこういると思うんだけどな」


「ほら陽斗、アイツ絶対、結音に気があるよ」

 桃花が茶化すように言った。

「上村くんが?」

「アイツとは中学も同じクラスで、よくしゃべってたから、態度で分かるんだ」


「上村くんねぇ……」

 そう考えれば、さっき近くにいたのは偶然じゃなかったのかも知れない。

 あたしは一瞬考えたが、首を横に振り、

「ダメダメ、あたしの心は青山くんにロックオンしてるんだから」

 

 その時、

「ワァァァ!」

 男の子らしい叫び声が響いた。

 同時に激しく吠える犬の声。


 公園の入口付近で、小学生数人が集まっているのが見えた。

「どうしたのかしら?」

 あたしたちは何事かとそちらへ行った。


「なにかあったの?」

 あたしたちは小学生の輪の中に入った。

 みんなが見ている視線の先に目をやると、


「キャァァァ!」

 桃花が脳天を貫くような悲鳴を上げた。

 

 無理もない……。

 そこには内臓をえぐり出された猫の死骸が横たわっていた。


 どうやら散歩中に犬が、草むらに捨てられていた死骸を引っ張り出してしまったようだ。


 その後、女子高生のけたたましい悲鳴を聞いた近所の人達も駆けつけ、大騒ぎになってしまった。


   つづく


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