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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第8章 青狼
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その9

「どうなってるの……?」

 正門をくぐった結音は愕然と立ち尽くした。


 城のような母屋へ続く石畳を血に染め、狼族の仲間たちが倒れている。

「あたしが出てから15分くらいしか経ってないのよ」

「見てみろ」

 霞は倒れているむくろを指さした。

 背中を刺されている。


「後ろから不意打ちを食らっておる、中からの攻撃だ」

「内通者!」

「それも大勢な」


 結音は不安に満ちた目で母屋を見た。

「じゃあ、もう」

「凌生は中にいるの!」

 駆け出そうとした未空を霞が止めた。

「突っ込んでどうするのだ、既に占拠されておるぞ」

「長老と乃武さんが中にいるのに」

 結音は胸の前でギュッと拳を握った。


「どっちにしろ、確かめに行かなきゃならないでしょ」

 未空は叫んだ。


 その時、

「確かめられるかな」

 不敵な声にそちらを向くと、大勢、20いや30もの人狼を従えた狼族の女、清良きよらが立っていた。結音が仲間と信じていた女だった。


「今頃は凌生に始末されているさ」

「あなたまで裏切っていたなんて……」

「どちらが裏切り者かな? 誇りを捨てたお前たちこそ裏切り者ではないのか? まあいい、いまさら議論してもしょうがない、お前もここで死ぬのだから」


 いつの間にか、入ってきた門の所にも、一目で敵対しているとわかる狼族が牙を剥き、挟まれていた。

「妖気を感じて来てみたら、たった三人とは」


「雑魚相手にはわたし一人でも良かったのだがな」

 霞は余裕の笑みを浮かべながら、振り向きざまに、口笛を吹くようにすぼめた唇から紫の毒液を噴霧した。


 毒の霧に包まれた狼たちは、たちまちバタバタと崩れ落ちた。

「なに!」

 それを見た清良は慄然とし、顔を歪めながら一歩退いた。

「何者だ!」


 その時、薄れた紫の霧をかき分けながら、口を押えて苦しそうな真琴が飛び出した。

「ちょっとぉ! 殺す気か!」


 学校にいた真琴は、休み時間にトイレへ行ったところ、突然現れた貉婆に、連れ去らわれた。誰にも見られていなかったか心配しながら、放り出されたのが霞の毒の霧の中だった。


 霞は悪びれた様子もなく冷笑した。

「出てきた場所が不運だったな、で、婆は?」

「アンタの毒液に気付いたとたん、あたしを見捨てて逃げたわ!」

「そうか、無事なら良い」


「あなたは昨日の! なんでこんなところに来たのよ!」

 真琴を見て、未空は慌てた。

 霞が後方の敵を毒液で倒したものの、まだ清良たちが目前にいる。


「わたしが呼んだのだが」

「ここは狼の巣よ、こんな危険なとこに普通の女子中生呼んでどうするのよ!」

「お前は、なにを言ってるんだ?」

 霞はキョトンとしながら小首を傾げた。


「気付いてないんじゃない?」

 噛み合わない話に結音が口を挟んだ。

「なにをよ」

「知らんのか? 真琴は強いぞ、お前の百倍、いや万倍な」

「えっ?」


「ええい! なにをゴチャゴチャ言ってるんだ! 一人増えたところで関係ない!」

 いつの間にか清良の後ろに控える人狼の数が増えている。いや人狼ばかりでなく、狼族の裏切り者も駆け付けたようだ。


 霞は清良に向き直ると、

「待たせたな、お前ら雑魚の相手は真琴がしてくれる」

「なんであたしが!」

「青狼が気になるのでな」

 言い終わると同時に、霞は白い光の玉となり飛び去った。

「……」

 唖然と見送る真琴。


「自分だけ逃げたか」

 蔑むように笑いながら、清良は手を上げた。

「すぐ追いつくさ、こいつらをさっさと始末してな」

「それはこっちのセリフや」

 真琴がそう言いながら目を煌めかせた途端、金色の光が全身から放出した。

 清良たちは眩しさに一瞬目を閉じた。が、すぐに開けるとそこには美しい獣が出現していた。


 金茶色の毛皮を仄かに輝かせながら牙を剥き出す、体長3メートルの巨大な猫の姿を見た未空は驚きのあまり、魂が抜けたようにポカンと口を開けた。

 結音はそんな未空の肩に手を置き、

「あたしたちの出番はないわ、行きましょ、凌生を逃したくないでしょ」

「え、ええ」


 真琴の前足一振りで、何匹もの狼が鋭い爪の餌食となり吹っ飛ばされるのを見ながら、未空と結音は隙を縫って駆け抜け、母屋に向かった。


   つづく


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