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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第8章 青狼

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その4

 布団に寝ている冴冬さとの額には、護符が貼られていた。

「と言うわけで、とりあえず連れて来てん」

 傍らに座る真琴が、重賢じゅうけんに説明していた。


 とおるに背負わせて、真琴まことは見知らぬ少女を悠輪寺ゆうりんじの庫裡へ運び込んだ。

 その時はもう完全に意識を失っていた。

「なんで病院行かへんのかと思たら、そう言うことやったんか」

 真琴の隣で澄が腕組みして頷いた。


「あんた、おんぶしたのに気ぃ付かへんかったんか?」

「妖怪には見えへんやん、普通の子供やん、あっ、そうやな、真琴ちゃんもかすみさんも那由他なゆたもうまいこと化けてるし、妖怪には見えへんもんな」

 真琴は無言で澄の頬にパンチを繰り出した。

「お前さんは一言多いな」

 重賢は殴り倒された澄に、呆れた一瞥を送った。


「手ぇ取った時にわかった、人間(ちゃ)うって、けど、まだ変異途中やと思う、なんに噛まれたんかはわからんけど、止められへんかな」

 真琴は気の毒そうに少女を見下ろした。

「宮田は助けられへんかったけど……」


「さて、どうするかなぁ、いつまでもお札貼っとく訳にもいかへんしな」

「お札取ったらどうなるん?」

 澄の問いに重賢は答えられず、ただ目を瞑った。


「もうこんな時間や」

 真琴は腕時計を見て言った。時刻は6時半、七瀬家の夕食は7時からなので、

「あたしは帰るさかい、澄はここに泊まって、この子を見張っとき」

「は~い、って、なんで俺が」

「あんたの叔父さんは口うるさないやろ、うちは厳しいんや」


 澄は引きこもりの叔父と二人暮らしで、基本的になにをしても叱られることなく自由な生活をしている。

 真琴は祖父母と暮らしている。祖母のすみれは口達者だが、厳しい人ではないことを澄は知っていた。


「それはないやろ、けっこう自由にしてるやん、一緒に見張っとこうな、一人やったら寂しいし」

「一人(ちゃ)うやろ、重賢さんがいるやん」

 と重賢に視線を送った時、重賢の険しい表情に気付いた。


「なに?」

 そして真琴自身も異変に気付いた。

「結界が破られた」



   *   *   *



 数十匹の人狼が正門を突破した。

 未空みくの目の前を通過して一目散に参道へとなだれ込んで行った。


 なにが起きているのかわからない未空は、愕然と夏惟かいを見た。

「どう言うことなの?」

 夏惟は不気味な笑みを口の端に浮かべた。その顔は未空が今まで見たことのない別人だった。


「お前から連絡を受けた時は驚いたぜ、だってお前たち上野家の人間はみんな死んでるはずだったんだから」

「なにを……言ってるの……?」

「まだわからないのか? 俺が里の結界を破って狼を送り込んだんだ」

 衝撃が未空の全身を走り抜けた。 

「なんで……」

「俺は上野の血筋ではなかった。親と信じていた奴らは、実の親と家族を殺した仇だったと知ったからだよ」

 夏惟の顔は憎悪に満ちていた。


「22年前、上野海忠(ひろただ)は敵対した俺の実父を殺した。掟では勝った方が負けた家族全員を殺して、後々仇討ちなどの面倒が起こらないようにしなければならなかったが、まだ乳児だった俺を殺せずに、連れ帰って育てたんだ。お前の父、空伴あきとももすべてを知っていて隠していたんだ」


「海忠伯父さんは夏惟兄を助けてくれたんでしょ、なのに!」

「掟は破っちゃいけないもんなんだ、だからこんなことになる」

 夏惟は冷ややかに言った。

「まだ子供の空鐘あかね春瑠はるまで」

「いつまでも子供じゃないんだぞ」

 未空は掌に食い込むくらい拳を握り締めた。


「皆殺しが掟、でも俺一人で仇を打つのは無理だ、俺の親のふりをしていた海忠もお前の親父も一流の忍者だからな、だから狼族の凌生りょうせいと手を組んだんだ、お前を逃したのは予定外だったけど、かえって良かった、俺には封印の護符が見えなかったからな」

「最初から寺に人狼を手引きするためだったの」


「この寺には狼族がどうしても手に入れたいものがあるんだ、でも妖怪は入れない、そして俺も結界を破れなかった、お前が代わりにやってくれて助かった」

「てめぇぇ!」

 未空は夏惟に殴り掛かったが、かわされ、代わりに数匹の人狼が未空を囲んだ。


「俺はやることがあるんでな」

 夏惟は本堂の方へ向かった。


 人狼に囲まれた未空は追えない。

 鋭い爪で襲いかかる人狼を、一匹、二匹はかわせた。

 ポケットに忍ばせていた短刀で、すれ違いざまに傷を負わせたが、致命傷ではない。

 未空を休ませることなく、人狼は次々と襲いかかる。

 いつまでかわせるか……同時にかかって来られたら逃げられない。


 その時、人狼たちがなにかに弾き飛ばされた。

 

 水?

 未空はいつの間にかずぶ濡れになっていた。


「ゴメンなぁ、君までかかってしもた」

 澄は面食らっている未空に人懐っこい笑顔を向けた。


 人狼が5体、腹を裂かれて流血し、地面に転がっていた。

 さっきの一撃で?

 未空はどこからか現れた少年に驚愕の目を向けた。


 何者?

 得体の知れない恐怖を感じ、臨戦態勢を取っていた。

 それを見た澄は残念そうに、

「助けたったのに、それはないやろ」

 

 助けてくれたの?

 確かにそのようだが、迂闊に信用できない。

 未空は警戒を解かずに対峙しながらも、人狼が進んだ参道の先を気にしていた。

 その視線に気付いた澄は、

「あっちは大丈夫や、俺より強い子が行ってるし」


 本堂の前に、金色の光が見えた。


   つづく


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