表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第8章 青狼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/148

その2

 連なる山三つがまやかしの障壁で守られていた。

 立ち入ることが出来る人間はいない。ゆえ、手付かずの自然が残る豊かな山だった。


 人ならざる者もしかり、狼族以外は一歩たりとも踏み込めない場所に大神家おおかみけの本家はあった。

 まるでお城のような建物、門番が槍を手にして警備についている。その様子は戦国時代さながら、時が停まっているようだった。


 しかし、数日前から滞在している少女は今時の女子高生……に見える。純粋の狼族である大神だいじん結音ゆのは、無事に成人の儀式を終え、初めて本家を訪れていた。


「まだ目覚めないのか?」

 入室した乃武のぶが、布団に寝かされている未空みくを見下ろした。

 そこは十畳くらいの普通の和室、家具はなく殺風景な部屋だった。


 乃武は和服姿で落ち着いた物腰の男性。本当の年齢はわからないが見た目は三十前後、長く本家の守りについている重鎮だ。


 首の包帯が痛々しい未空だが、穏やかな寝顔で熟睡していた。

「叩き起こす?」

 未空が目覚めるまで見張っているように言われていた結音は、退屈を持て余して限界だった。

「怪我もたいしたことないし」


「寝かせておけ、あれだけの人狼相手に戦ったんだ、消耗は大きいだろう」

「でも、よく生き残れたわね、足跡から察すると10匹以上いたんじゃない?」 

「狼5匹と人狼12匹よ」

 未空がパッチリ目を開けた。


「あら、起きてたの?」

 そう言った結音を見るなり、未空は飛び起きようとしたが、すぐによろめいて膝をついた。


「あたしをどうするつもり!」

 武器もないのに臨戦態勢。

 結音と乃武は呆れ顔で見た。


「そうじゃないでしょ、助けてくれてありがとうございました、でしょ」

 結音の言葉に未空は眉をひそめた。

「助けてくれた?」

 未空は首の包帯に気付き、手を当てた。

「妖怪のお前たちが?」


「なぜ妖怪とわかったの? 見た目では判断できないはずだけど」

「え……」

 なぜだろう、改めて見るとよく化けている、どこから見ても普通の人間だ。

 人狼に襲われたところだから、敏感になっているのだろうかと未空は思った。


「バレるなんて……」

 結音は気にして鏡を覗き込んだ。


「なぜ助けた? お前たちも狼なんでしょ」

「我らは特別な理由がない限り、無闇に人間を殺したりしない」

 理由があれば殺すんだ、と未空は心の中で突っ込んだ。


「やったのは裏切者とはいえ元仲間だからな、放ってはおけなかった」

「裏切り者?」

「襲ったのは凌生と言う狼を頭に行動を共にしている4人だ、禁とされている人狼を生み出しているとわかり、我らも追っていたんだが……」


「その裏切り者の狼が、なぜあたしたちを襲ったの!」

「それはわからん、しかし、あの里には妖怪除けの結界があったはずだ、なぜ破られたんだ? そして、お前だけがどうやって生き延びたんだ?」

 乃武に鋭い眼光を向けられた未空だが、自分でもあの状況でどうやって身を守ったのか思い出せなかった。


「あたしと冴冬は襲撃の時、家にいなかったのよ、帰ったら既にあんなことになっていて……」

「そうか、ちょうどその時、俺たちが到着したから凌生は引いたんだな」

「冴冬って?」

「従妹よ、逃げたはずなんだけど」

「見当たらなかったな、逃げおおせたのか……」

「逃げたわよ、きっと!」

 興奮して叫ぶが、傷が痛んで顔を歪めた。


「で、お前はどうする? 人狼の遺体だけは処分したが、お前の家族の遺体が発見された時、どう説明するんだ?」

 乃武は腕組みして考えを巡らせた。


「まあ、あの殺され方じゃ、人間の仕業と思うものはいないだろう、熊に襲われたってことにおさまるかもしれんな。お前は親戚の家に行ってたことにすればどうだ? 口裏を合わせてくれる者くらいいるだろ」

 乃武の提案に、未空は頷けなかった。


「親戚なんかいないわ、一族はずっと昔に離散したのよ。忍者なんて歴史の遺物だから」

「しかし今でも闇の世界でうごめいてるだろ? 忍者は一流の暗殺者だ」

「そうね、でも組織で活動してる訳じゃない、忍者の技を継承している家ごとに仕事を請け負ってるから、望まぬ再会もあるらしいわ」


「そうか、雇い主が敵同士なら、敵対することになる、そんな時はどうするんだ?」

「任務を全うするだけよ、勝った方は敗れた方の家族全員を始末しなければならない、仇討ちとか厄介事の芽を摘んでおくためにね、だから親戚付き合いはないのよ」


「じゃあ、どうする?」

「もう一人、仕事中で家を空けていた仲間がいるのよ、その夏惟かいと合流するわ」

「現役忍者か」


「冴冬の兄貴よ、無事に逃げおおせていれば、合流しているはずだわ」


   つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ