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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第7章 糸

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その11

「会場で流風ちゃんと会って、出た途端あの変な場所に転送されたと思てたんやけど、体はちゃんと家に帰ってたなんてビックリやわ」

 高熱で寝込んでいた記憶がない華埜子は、納得いかない様子で言った。


「様子見に行った時はグッタリしてて、手遅れかと焦ったわ」

 そう言う真琴を那由他が茶化した。

「半泣きやったもんな」


 呪いの筆を流風の独鈷で浄化し、囚われていた魂は解放されて身体に戻った。

 熱も下がり、すっかり元気になった華埜子は、いつものように真琴と悠輪寺ゆうりんじの庫裡に来ていた。今回の事件を重賢じゅうけんに報告しようとしたのだが、あいにく留守だった。


 そこへ光の玉とともに霞が現れた。

「流風もすっかり元気になった、とたん瑞羽みずはと狩りに出かけおった、つれない奴だ、絵の中でなにがあったのか聞きたかったのに」

 霞は頬を膨らませてむくれた。


「思い出したなかった悲しい記憶を呼び起こされて辛かったんや、そやし、なんかして気を紛らせたいんやと思うで」

 華埜子は寂しそうに視線を落とした。

「お前も見たのだろ? どんな記憶だった?」

「人の心の中なんか、語るもんちゃう」


 霞はそう言う華埜子の顔をじーっと見つめてから、

「お前は不思議な娘だな、流風が言っておったぞ、お前に救われたと」

「あたしが? 逆やで、流風ちゃんが羅刹姫らせつひめを追い払って、呪いを解いたんやし」

「で、なにがあった?」

 霞は目力で訴えたが、華埜子は顔を背けた。

「内緒」

「お前もつれないな、こんなに心配してやったのに」

「しつこい奴やなぁ、話したないってうてるやん」

 真琴が口をはさんだ。

「やっぱ蛇は執念深いんか」


「それは猫だろう、猫を殺せば七代祟ると言うしな」

 霞はすかさず反論した。

 顔を突き合わせる真琴と霞を華埜子は呆れ顔で見ながら話題を変えた。


「桑島くんも無事で良かったわ」

 翌日、桑島友哉はなに食わぬ顔で登校した。羅刹姫に騙されて利用された記憶がないのだから仕方ない。会場から金賞を取った自分の絵が盗まれたと聞き、ショックを受けていた。


「けど、全員が助かった訳じゃなかったんやな、サキ情報によると、学級閉鎖されてた学校では五人が意識不明のまま亡くなったらしいし、他にも犠牲者がいるかも知れんけど、どれが呪いで亡くなったのかは確かめようがないしな」


 那由他は腕組みしながら難しい顔をしていた。

「けど、羅刹姫の動き、最近派手やなぁ、以前はもっと控え目にコソコソしてたのに」

「魂が必要らしい、醜い人間の魂を食らって力をつけたいと言っておったと貉婆むじなばあから聞いたぞ」

「あのお婆さん、羅刹姫と知り合いやったんか?」

 真琴が怪訝そうに言った。

「それやったら、居所わかるんちゃうの」


「いつもフラっと現れてすぐ消えるらしい、決まった住処はないからな」

「なんで今更、力をつける必要があるんや?」

 那由他が首を傾げた。

「なんでも封印が解ける日を待っているとか」

「なんでアイツが?」

「邪悪なモノにくみする妖怪は少なくないからな」


「あのぉ、邪悪なモノってなんなん?」

 華埜子が遠慮がちに尋ねた。生まれ変わりや、封印の話は聞いていたが、那由他の話はいつもあちこち飛んでいてまとまりがない。


「封印が解けたら、どうなんの?」

「邪気が蔓延し、弱い人間は知らず知らずのうちに悪い影響を受ける。魂が汚れて心が荒み、争いの絶えない世の中になるんだ」

 霞が答えると、

「今でも人間はじゅうぶん争ってるけどな」

 真琴がすかさず突っ込んだ。


「今以上に争いが増えたら、世の中どうなってしまうんやろ」

 華埜子は心配そうに言った。

「そやし、絶対、世に放ったらアカン奴なんや」

 那由他はいつになく真剣な表情で言った。


「今度こそ、完全に滅するんや」

 そう言った目には決意の光が宿っていた。


「この時期に生まれ変わりが現れたのは、それだけ危機が迫っていると言うことではないか? わたしが目覚めたのもしかり、危機を回避するため、必然的に転生したのではないかと思うが……」

 霞は眉間に皺を寄せながら腕組みをした。


「風の流風るか、火の理煌りお、水のとおる、三人現れたが、流風はともかく、後の二人はなんとも頼りないのぉ」

「それが問題や……」

 那由他も並んで溜息をつきながら腕組みした。


「あと二人、空と地の能力ちからを持つ者に期待するか」

よ見つかったらエエな」

 無邪気に言う華埜子に、霞は意味ありげな目を向けた。

「もう近くにいるかも知れんぞ、真琴は引きが強いからな」

「あたしかい?」


「そう言えば三人とも真琴がらみやったな」

「……それは偶然やろ」

「ま、そのうち二人も現れるやろ、果報は寝て待て、やし、あたしは休むわ」

 那由他は両手を突き上げて大きく背伸びした。


「使い方、間違ってると思うけど」

 真琴は呆れて溜息をついた。


   第7章 糸 おしまい


第7章 糸を最後まで読んでいただきありがとうございます。

まだまだ続きますので、次章もよろしくお願いします。

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