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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第7章 糸

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その10

「そう言うことだったのね」

 居間の囲炉裏に貉婆むじなばあ羅刹姫らせつひめが向かい合っていた。

 貉婆が住むみすぼらしい小屋に、厚化粧で派手な服装の羅刹姫は場違いだったが、妙に馴染んでくつろいでいた。


かすみが目覚めたのは知ってたけど、あの娘がそうなのか」

 流風るかの風刃で傷ついた肌は痛々しく創痕を刻んでいた。

「また、派手にやられたもんやなぁ」

 全然心配していないのがわかる口調で貉婆は怪我を見た。


「お前が敵う相手(ちゃ)うし、せいぜい近寄らんようにするんやな」

「あっちが絡んでくるのよ、この間の猫娘といい、迷惑だわ」

「猫? 真琴もおたんか」

「知ってるの?」


おたんやったらわかるやろ、真琴も半妖とはいえ血統書付きの大物や、霞様とも意気投合してるみたいやしな」

「あの霞が半妖とつるむなんて、どう言う心境の変化? まだ寝ぼけてるの?」

 羅刹姫は溜息を漏らした。


「妖怪退治屋の綾小路も関係してるし、大人しぃしてた方がエエで、 いっそしばらく京都を離れたらどうや?」

「逃げ出すわけにはいかないわ」

 豊満な胸の前で腕組みしながら、

「ようやく動き出してるんでしょ」

 詮索するように貉婆の顔を見る。


「相変わらず鼻が利くなぁ」

「あの娘、風の能力ちからを持つ智風ちふうの生まれ変わりでしょ、他にも転生した者がいるのね」

「さあな」

 とぼける貉婆に羅刹姫は鋭い視線を放った。

「1200年経って、封印が弱まってきているのは感じていた。いよいよ、解けるのね」

「うちは知らん」

「まあいいわ、そのうちわかるだろうし」


「悪いことは言わん、長生きしたいんやったら首突っ込まへん方が利口やで」

「長生き? もう十分生きたわ、長すぎるほどね」

 羅刹姫の瞳が怪しく煌めいた。

「待っているのよ、封印が解ける日を」


「なにするつもりや」

 羅刹姫は貉婆の質問は無視して、宙を見つめながら言った。

「もっともっと魂が必要なのよ、醜い人間の魂を食らって力をつけなければ、もっと強くならなきゃ」


 羅刹姫は立ち上がり、

「じゃあ、また」

「また? もう来んといてや、なにするつもりか知らんけど、関わりあうのはゴメンやで」

「冷たいわね、長い付き合いなのに」



   *   *   *



「気が付いたか?」

 流風が目を開けると、心配そうな霞の顔が見えた。

 穏やかな優しい表情は、霞をいっそう美しく見せた。前世の記憶で見た霞のようだった。


「ここは……」

「お前の部屋だ、魂が戻ったんだ」

「魂が……」

 まだ頭がすっきしりしない。


「覚えてないのか? お前は羅刹姫の糸で、絵の中に魂を囚われておったんだ」

 流風は悪夢の出来事を思い出した。

「あの糸に囚われると、悲しみの記憶が甦って辛い思いを……」


「なんとまぁ、ひどいことをするもんだ、だから深い悲しみを持っている者だけが糸に囚われたんだな」

「ノッコが助けてくれなかったら、あたしは抜け出せなかった」

「あの娘がお前を助けた? 反対ではないのか?」

「いいえ、本当は強い子なのよ、あたしなんかよりずっと……」

「そうなのか?」

 霞は不思議そうに小首を傾げた。


「あなたも呼んでくれたわね」

「おお、聞こえたか?」

「真琴と喧嘩してるのもね」

「そうか、聞こえていたか」

 霞は嬉しそうに微笑んだ。


「思い出したのは……」

 流風は言いかけてやめた。

 智風だった前世の記憶も少し甦ったことを思い出した。霞の元へ帰りたいと思ったことが死を招いたと知れば霞は……。

 知らない方がいいと流風は口を噤んだ。


「なんだ?」

「別にぃ、なんでもないわよ」

「なんだ、たいそう心配してやったのに、その言い草は」

「心配? 早く死んで男に転生してほしいんじゃなかった?」


 霞はハッと瞳を上げた。

「そうだった、忘れておった」


   つづく


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