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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第7章 糸

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その8

「感じる、ノッコの気配」

 友哉の絵の前に立った真琴が言った。


 那由他はコンクール会場から絵を盗み出して、銀杏の森へと運んだ。

 表面上変わりない風景画だったが、雰囲気が変わっていることに真琴と霞も気付いた。

「確かに、さっきは感じなかったのに、流風とノッコの存在を感じるな、なぜだ?」

 霞は小首を傾げた。


「二人が意識を取り戻したんちゃうか?」

 と那由他が言うなり、霞は、

「流風! いるなら返事をしろ!」

 絵に向かって叫んだ。


「筆を探して! それが呪いの元凶や!」

 続いて真琴も大声を張り上げた。

「筆は中にあると思うのか?」

 霞の問いに、

「そんな気がする」

けものの勘か?」

「獣()うな、自分のこと棚に上げて」


「わたしは獣ではないぞ」

「そうやな、下等な爬虫類やったな、勘も働かへんか?」

「下等とは失礼な! 守り神に向かって」

「疫病神の間違いちゃうか」

「お前、一呑みにされたいか?」

「その前に引き裂いたるわ」



   *   *   *



「聞こえた?」

「うん、真琴と霞さんがいるみたい」

 二人の声だけは聞こえるが、姿は見えない。華埜子と流風は周囲を見渡したが、白い靄の中、視界は数メートルしかなかった。


「なんか、喧嘩してるみたいやな」

 こんな時に……、助ける気はあるのだろうかと流風は眉をしかめた。

「筆ってうてへんかった?」


 二人は改めて周囲を見渡した。

 糸に囚われている人らしきモノ以外見えないが、円網の中心に華埜子は友哉の姿を見つけた。

「桑島君!」

 体は糸に包まれているが、顔はまだ外に出ていた。


 糸の隙間から出ている友哉の右手には筆が握られていた。

「筆って、アレちゃうか?」

 華埜子は確認すべく、そちらに向かおうとしたが、糸のネバネバが足の裏にくっついて、うまく歩けない。


「ほら」

 流風が華埜子の手を取った。

「縦糸は粘りがないのよ」

「そうなんや」


 二人が進もうとした時、前方に立ちはだかる人影が出現した。

「行ってどうするの?」


 派手なセクシー系の女性が、偉そうに腕組みしながら仁王立ちしていた。

 美人だが意地悪そうな笑みに、流風は嫌悪感を覚えた。


「お前たち、悲しみの糸から逃れることが出来たのか?」

「悲しみの糸?」

「そう、これに触れると、一番悲しかった過去の記憶が甦るのよ、そして悲しみに囚われて魂が傷だらけになるの」


「お前は何者だ」

 キッと睨みつけた流風の視線をいなしながら、

「初対面でお前呼ばわりとは、育ちの悪さがよくわかるわ」

 馬鹿にしたように言った。


「確かに失礼かも、あの人かてココに囚われてる人かも知れんやん」

 華埜子は流風に耳打ちした。

「あの好戦的な態度、敵に決まってるじゃない」

 流風は呆れながら言った。


「そっちの子はおつむの弱さがよくわかるわ」

「強くはないけど……」

「なに納得してるのよ、コイツ、人間じゃないわよ」

「あら、わかるの?」

「邪気が全身からにじみ出てるわよ、性根の悪さがよくわかるわ」

「言ってくれるじゃない、この羅刹姫らせつひめの邪気に気付いても、一歩も引かない度胸は認めてあげるわ」


「羅刹姫?」

 華埜子は羅刹姫をマジマジと見直した。

「あんたが沢本家に呪いをかけた陰湿な妖怪?」

「また沢本の知り合いなの? よほど顔が広いのね沢本は」


「いやいや、あんたが登場しすぎなんや、そう言えば、真琴に左腕切り落とされたんちごたん?」

「あんなもの栄養補給すればすぐに生えてくるわよ」

「栄養補給って……」


「何者?」

 話が通じない流風は眉をひそめた。

「那由ちゃんに聞いてんけど、質の悪い妖怪らしい、退屈しのぎに人間の心をいたぶりながら魂を食べるんやて」

「魂を食べる妖怪?」


「よく知ってるじゃない、そう、ただ魂をくらうたげじゃ面白くないでしょ、だから悲しみの記憶を甦らせて、苦痛を熟成させてからいただこうかと計画したのよ、ほら人間が食べる熟成肉と同じよ」


 円網の中心にいる友哉に視線を流した。

「あの子の心は悲しみに濡れているわ、だからあの子が描いた絵は、同じように悲しみを抱えた人間を引き寄せるのよ」


 羅刹姫は蜘蛛の糸の塊に目をやった。

「そしてあたしの糸の中で、悲しい記憶を何度も見ているの」


「なんて酷いことを!」

「あなたたちはなんですぐに出てこられたのかしら、さほど悲しい経験をしてなかったのに、間違って入ってきたの?」


 拳を固く握りしめながら羅刹姫を睨む流風。

「いいわね、その顔、憎しみに震える汚れた魂も好きよ」


 流風はいきなり風刃を繰り出した。


   つづく


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