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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第7章 糸
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その5

「あたしが来た時にはもう……」

 真琴から連絡を受け、先に来ていた那由他なゆたは、ベッドに横たわる華埜子を沈痛な面持ちで見下ろしていた。


 自称銀杏の妖精である那由他は神出鬼没、一瞬にして華埜子の部屋に移動することが出来る。


「ノッコ!」

 真琴は真っ青になりながら、華埜子を抱き起した。

 グッタリしていて反応がない華埜子を、真琴は泣きながら抱きしめた。


「まだ息はあるけどな」

 そんな真琴を見ながら那由他は呑気に言った。

 確かに体は温かいし、呼吸もしている。


「ビックリするやん!」

 真琴は那由他を睨みながら華埜子を戻した。


「けど、意識はないで」

よ救急車呼ばな」

 真琴はスマホを取り出したが、那由他はその手を止めた。

「無駄やで、人間の医者には治せへん」

「どう言うこと?」

「ほら」

 那由他が指差した華埜子の頭を見ると、透明の糸が煌めいて見えた。

「なにコレ?」

「たぶん、呪いの糸」


「呪いやて! こんなもん」

 真琴が糸を切ろうと爪を変化へんげさせた。

「アカンで!」

 那由他は慌てて止めた。

「無闇に切ったら、ノッコの意識が戻って来れんようになるかも知れんし」

「ほな、どうしたら」

「とにかく発生源を突き止めよ」



   *   *   *



“まほろば絵画コンクール”のスタンドボードが置かれた会場。

 まだ開催中だが、平日の午前中なので来客はまばらだった。


「ここ?」

 糸を辿った真琴と那由他は、この会場に辿り着いた。

 金賞を取った桑島友哉の絵の前。

 糸は普通の人間には見えないようで、その絵から無数の糸が出ていることに誰も気づいていない、真琴と那由他だけに見えているようだ。


「この絵が……」

 絵の前に立った真琴は、急に意識が遠のいた。

 目から精気が失せたその時、


 真琴の前に白い光の玉が出現した。


「!?」

 真琴は眩しさに意識を取り戻した。

 光が小さくなったところに、霞がすました顔で立っていた。


「危なかったな」

「いきなり、なんやな」

 突然、光とともに現れた霞を見て、真琴は面食らった。


「礼を言うところだぞ、魂を持っていかれるところだったのだから」

 霞は呆れたように溜息をついた。

「どうやらこの絵には呪いがかけられてるみたいや、見たらアカンで」

「那由他、それは先に言ってやらねば」


「それにしても、なんちゅう派手な登場するんや、誰かに見られたらどうすんの」

 真琴は周囲の様子を窺ったが、目撃されていなかったようなのでホッと息をついた。

「見られても毒液を吹きかけてやればいいことだ」

「あの記憶を消せる便利なヤツ?」

「量を間違えれば、死んでしまうがな」

「アカンやん」


「人とは軟弱な生き物よ、お前も半分は人間なのだから、気をつけるのだぞ」

「これならどう?」

 ムッとした真琴は、目を変化させた。

 縦に伸びた金色の瞳で金賞の絵を確認すると、おぞましい瘴気が湧き出ているのが見えた。


「これは」

「妙な妖術使いか……、この絵の中に、流風が囚われているようだ」

「流風も?」

「高熱で意識がない」


「霞も糸を辿って来たんか?」

 那由他の問いに霞は眉をひそめた。

「糸?」

「ほら、この絵からいっぱい出てるやん」


 霞は目を細め、

「おお、これか」

「今、気づいたん? これが見えへんかったなんて、老眼はいってるんちゃうか、年やしな」

 そう言う那由他に、霞はキツイ半目を流した。


 那由他は気にせず、

「あたしらはノッコから出てる糸を辿って来たんやけど、霞はなんでココへ?」

「雫が鏡の中に筆を見たと言ったから」

「筆?」

「昨日、流風がここのチラシを持っておったことを思い出してな、その時はもう意識朦朧で、その後すぐに倒れたのだ」


「きっとノッコも来てたんや、この絵は同じクラスの桑島友哉が描いたもんやしな」

 誘われたが、断ったことを真琴は思い出した。

「呪いをかけたのは、その桑島なのか?」

「普通の中学生やで、妖気も感じたことないし……」


 三人は改めて桑島の絵を見た。

「これが元凶やったら、燃やしてしもたらエエんちゃうの」

 短絡的な真琴の発言に、霞は、

「馬鹿なことを、魂が囚われているのだぞ、中の魂も焼いてしまうではないか」

「ほな、どうしたらエエの?」


 那由他は一人、周囲を見渡していた。

「変やな、ここに来てる人はみんな金賞の絵を見たはずやろ、土日はもっとぎょうさんの人が見てるはずや、見た人全員が魂を持っていかれてたら、もっと多く人が犠牲になってるはずやのに」

「確かに、クラスメートは他にも来てるはずや」


「この絵、美しい風景なのだが、とても悲しげだな」

 霞は腕組みしながら考え込んだ。

「そうか! 悲しみがツボなんちゃうか? 悲しみに同調して取り込まれるんや」

 那由他がひらめいた。


「悲しみ?」

 霞は真琴を横目で見た。

「お前も取り込まれそうになったな、悲しいことがあったのか? そうは見えんが」

「悪かったな、見えへんで」


「ま、半妖が人間として生活するのは大変だからな。……それにしても、魂を食うならすぐに食らえばよいものを、絵の中に閉じ込めていたぶろうなんて手の込んだやり口……」


「こんな面倒なことする奴は……羅刹姫らせつひめが絡んでるんちゃうかな」

 那由他の言葉に霞は眉間に皺を寄せた。

「羅刹姫とな、あ奴、まだ生きておったのか」

「霞も知ってんの?」


「ああ、あれは元は人間だったのだ。強い怨念から死んでも成仏できなかった魂が魑魅魍魎ちみもうりょうを取り込んで、妖怪として生まれ変わった凄まじい恨みの権化なのだ」

「恨み?」

「なにがあったかは知らん、身の上話をするほどの関りはなかったからな、だが、よほど酷い目に遭ったのだろう」


「酷い目に遭った人間が妖怪になるんやったら、この世は妖怪だらけやで」

 那由他が言うと、真琴は柊家の事件を思い出した。

理煌りおのおじさんみたいやな」

「あれは違う、あの男は魑魅魍魎に食われたのだ、羅刹姫は逆、食って取り込んだのだ」

 霞はすぐに否定した。


「そんなことが出来んの?」

「生まれつき強い霊力を持っていたのだろう、生きている時に気付いて活かせていたなら、違った人生を送れたかも知れんな、1200年以上昔のことだがな」


「1200年もずっと人間を恨み続けてるなんて、すごい執念やな」

「不憫なヤツなのだ」

 霞は憐れんだ表情で目を伏せた。


「けど、放っとけへんやん、よ捜し出さな」

「簡単には見つけられへんで、なりふり構わず逃げ足だけは早いしな」

「それは知ってるけど」

 真琴は一度、羅刹姫と遭遇して逃げられている。


「とにかく雫が見た筆を探そう、この絵はその筆で描かれたモノだろう」

「なら、桑島の家かな、今日は学校休んでたし、家にいるはずや」


   つづく


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