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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第6章 蝉時雨
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その15

 突然、中学校を襲った巨大竜巻は多くの犠牲者を出し、数日はテレビもネットもそのニュースで持ち切りだった。


 死者1名、重軽傷者63名、学校側も対応に追われ大混乱を来した。


 死者は小南である。

 なぜ彼女だけがあんな死に方をしたのか? 他にも不可解な点が多く、竜巻では説明のつかないことも多かったが、ではなにが起きたのか? と問われても、答えられる生徒はいなかった。


 春菜、芽生、久美は軽傷だった。

 ただ一人、命を落とした小南の一番近くにいたが、記憶は飛んでいた。


 もちろん、真琴と華埜子も口を噤んでいた。



   *   *   *



「重賢さん、まだダウンしてんの?」

 華埜子が心配そうに言った。


「年やしな、後始末に体力使い果たしたみたい」

 那由他は真琴を横目で見ながら、

「化け猫や鬼の生霊の存在を、無かったことにしたんやし感謝やろ。重賢がみんなの記憶を法力で改ざんしぃひんかったら、アンタ今頃、化け猫やって気持ち悪がられてるとこやで」

 3人は悠輪寺の庫裡のリビングで、お茶しながらくつろいでいた。


 言われた真琴だが、頬杖をつきながら冷ややかに、

「人間はな、現実離れしたことを受け入れられへん思考回路になってるんや、化け猫を見たなんてうたら、頭変になったって思われるし、怖くて誰も口にせーへん」


「ハッキリ見ても?」

「見間違いやと思い込むねん」

「ほな、記憶消す必要なかったんか?」

「真琴、ここは素直にお礼ゆーとき」

 華埜子が口を挟んだ。


「とっくに言うたわ、フレーヌ・シャトレのモンブランスペシャル手土産に……、あんだけ食べられたら大丈夫や」

「えー、あたしも食べたかったぁ」

 那由他が頬を膨らませた。


「宮田さん、可哀そうやったな」

 華埜子はフッと目を伏せた。


「あの連続殺人の捜査は続いてるみたいやけど、迷宮入り決定やん、誰も宮田が犯人やなんて思わへんやろうし、よかったんちゃうか? 殺人鬼と知られんまま、被害者として惜しまれて死んだんやし」


 あの後、千幸の遺体は家に戻されたので、殺害方法は異なるが、母親と共に被害者に数えられた。

 華埜子は真琴の言葉に頷きながらも、必要以上にティーカップの中でスプーンを回していた。


「宮田さんのお葬式、みんな泣いてたな、彼女を妬んで嫌がらせしてた加藤さんも……」

 華埜子がやるせなさそうに言った。

「あの涙は本物やった、宮田さんの死を本当に悼んでた、自分がした意地悪は綺麗サッパリ忘れて、と言うか、無かったことみたいに」

「人間なんてそんなもんや、そやし蓮もあんな悪さしたんやろな」

 庭で一人、焚火をしている珠蓮を見ながら那由他が言った。


 初夏の太陽は容赦なく照り付ける。銀杏の葉も青々とした葉を枝いっぱいに広げていた。そんな木の下で火を焚くなんて、珠蓮はなにをしているのだろうと思いながらも。


「アレはやり過ぎやったで、加藤さんのお弁当に宮田さんの心臓を入れるなんて」

 華埜子が頬を膨らまた。

「加藤の悲鳴は強烈やったな、学校中に響き渡ったんちゃう?」

「笑いごとやないで真琴、せっかく落ち着きを取り戻して、平和な学校生活に戻りつつあったのに、また大騒ぎや」


「蓮がな、アイツは鬼やし、心臓食いたいやろうと思ってプレゼントしたんやて」

 那由他が付け加えた。


「そもそも加藤久美ってヤツの陰険な嫌がらせがなかったら、あの子の鬼化はなかったかも知れんやろ」

「誰? 那由他と蓮に余計なこと吹き込んだんは」

 華埜子の諌めるような口調に、真琴は、

「蓮もなんかせんと気がすまへんかったんやろ」

 白々しく目を逸らしながら言った。


 そして那由他が続けた。

「本物の鬼や妖怪が、空腹を満たそうと人間に牙を剥いたら、妖怪ハンターが退治する。けど、邪悪な鬼の心を持った人間が、満たされない自分の心を満たそうとして人の心を傷つけても、退治できひんしな」


「加藤さんだけのせいちゃうと思うで、親子関係もうまく行ってなかったみたいやし」

「時間の問題やったんや、加藤みたいな人間はそこいらにゴロゴロいるし、どこの家も親子関係の悩みってあるやろうし」


 真琴は座ったまま両手を上げて、大きく背伸びした。

「しょせん無理やったんや……」


 その時ちょうど、珠蓮が金バサミで焚火の中からアルミホイルを取り出した。

 アルミを剝くと焼き芋が姿を現した。

 それに気づいた華埜子が弾けるように立ち上がり、

「焼き芋!」


「なんや、このくそ暑い時に」

「鬼は気温に鈍感なんやな」

 真琴と那由他は呆れたが、

「暑い時に熱々食べるのもイイもんやん」

 華埜子はそう言いながら窓の方へ向かった。


「そうか? 暑い時はアイスやろ」

「ほな、いらんにゃな」

「食べるに決まってるやん」

 真琴と那由他は声をそろえて立ち上がり、華埜子を追い抜かした。


「あ、ずるーい!」

 3人は先を争って、初夏の日差しとともに蝉時雨がふりそそく庭へ飛び出した。


   第6章 蝉時雨 おしまい


第6章 蝉時雨を最後まで読んでいただきありがとうございます。

まだまだ続きますので、次章もよろしくお願いします。

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