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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第6章 蝉時雨

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その12

「あーあ、また派手に正体さらしてしもて」

 那由他は校舎3階の窓から飛び出す化け猫に変化へんげした真琴の姿を見上げた。


 邪気を辿って学校まで来た那由他と珠蓮、重賢は、ちょうど真琴が黒い塊を追って飛び出すところに遭遇した。


 生徒たちも窓から乗り出すように見る者、グランドへ飛び出して来る者、とにかく大勢の生徒が異様な光景を目撃していることになる。


「遅かったか」

 悔しそうに拳を握る珠蓮と、横で心配そうに見上げる重賢。

「真琴が人目をはばからず変化へんげしてしもたんや、よほどのことやろ」

 那由他が言った。


 しかし、呑気に見上げている場合ではなかった。黒い塊が辺りかまわず放つ風刃が飛来した。

 三人は素早く散った。


 グランドには爆発騒ぎと非常ベルで、校舎から出て来ている生徒も多数いた。その生徒たちが流れ刃を避けられるはずもなく、直撃を受けてバタバタと倒れた。


「マズいんちゃう?」

「とにかく結界を、被害が拡大する前に!」

 重賢の叫びに珠蓮は頷き、二人は同時に両手で印を結んだ。


 二人の印を繋いで、見えない結界が広がり、上空にいる真琴と黒い塊の周囲に張り巡らされた。


 と同時に、


「消えた!」

「なんでー?」


 普通の人間には結界の中が見えなくなった。

 突然、化け物が見えなくなるのもまた恐怖。生徒たちにはなにが起こっているのか解らずパニックに陥っていた。


 重賢と珠蓮は足を踏ん張り全身で、真琴と黒い塊が放つ強烈な妖気を封じていた。

「真琴のヤツ、どれだけ気合入れてるんだ」

 珠蓮の額からは大粒の汗、印をかざす手はワナワナと震えた。


「それだけ強敵ってことやん、アンタもやられやろ?」

 那由他は珠蓮の包帯から血が滲んでいるのをチラリと見た。

「やられたまま引き下がれないぜ、俺も!」

 行こうとする珠蓮に、重賢は慌てて、

「待て~ぃ! 儂一人では無理や!」


「真琴なら大丈夫、強いもん」

 そんな二人の間にひょっこり華埜子が割り込んだ。


「お前、どうやってこの中に!」

 珠蓮は横目で華埜子を見た。


「邪気のカケラもないノッコに、結界なんか通用せーへんよ」

 那由他はニッコリ微笑んだ。

 そんな場合ではないのだが、那由他と華埜子の周囲にはいつもおっとりした空気が流れている。


 上空では真琴が猫らしからぬ雄叫びをあげながら、黒い塊に突進していた。


 黒い塊は未だ本体を現さず、竜巻となって風刃をまき散らしている。しかし、針のような毛皮には歯が立たず、金属音を響かせながら弾き返されていた。それでも黒い竜巻は狂ったように、真琴にまとわりついていた。


「あれが本当にあの子なのか……」

「あの子って?」

「宮田千幸」

 珠蓮の言葉に華埜子は目を丸くした。

「あれって、宮田さんなん? なんでまたあんな姿に」

「ちょっと訳ありでな」


 華埜子は心配そうに見上げた。

「真琴は知ってんの?」


 真琴は鋭い爪を振りかざし、猫パンチを繰り出すが、竜巻となって素早く動き回る黒い塊を捕らえ切れずに空振りの連続、怒りに震え、雷鳴のような雄叫びを上げる真琴の体毛は全身逆立って、縦に伸びた金色の瞳孔が輝きを増した。


「アカン! 真琴!」

 華埜子は思わず声をあげた。


「それ、宮田さんやて!」


 凛と通った声に反応して動きを止めたのは真琴だけではなかった。黒い竜巻もその場で停止した。


 黒い竜巻は力を失くしたように、徐々に縮んでいった。そして、ぼんやりと人型になり、赤い目の光も小さくなった。


「宮田さん! 目ェ覚まして!」

 華埜子は両手を口元に当て、ありったけの声で叫んだ。

「夢(ちゃ)うで!」


 その瞬間、黒い塊はパッと散った。

 

 そして、跡形もなく消えた。


「えぇぇ?」

 呆気なく退散した黒い塊に、拍子抜けした真琴が降りてきた。

 着地すると同時に人間の姿に戻った。


「真琴、大丈夫?」

 華埜子が駆け寄った。


 真琴は胸ポケットから櫛を取り出し、乱れた髪をとかし始めた。

 そんな様子を見て、珠蓮はガックリ膝を折り、印も解いた。

「お前なぁ」


 結界は消えて、グランドの風景が戻った。


 そこにはパトカーや救急車が結集しており、大混乱になっていた。さっきまで真琴がいた上空には、報道関係と思われるヘリが旋回していた。


「あたしの妖力より、ノッコの言葉の方が効いたなんて」

 むくれる真琴を横目に珠蓮は思い詰めた表情で、

「あれは生霊だったんだな、早く彼女の本体のとこへ行かなきゃ」

「行ってどうすんの?」

 華埜子が不安そうに珠蓮を見た。


「俺がカタを着けなきゃならないんだ」


 珠蓮の眼が一瞬赤く煌めいたのを見て、華埜子は胸の前で拳を握りしめた。


「鬼に噛まれたあの子は今、人間と鬼の間を行ったり来たりしてるけど、心を失って本体が鬼化してしまうのも時間の問題だ」

「そういうことか、噛まれてたんや、宮田」

 真琴が腕組みしながら息をついた。


「間もなく、完全な鬼になってしまう」

「蓮は人間のままやん」

 すがるように珠蓮を見上げる華埜子から、珠蓮は視線を外した。


「俺は、ずいぶん厳しい修行を重ねたんだ」

「それと、復讐を果たすまでは、と言う強い意志があるしな」

 那由他が付け加えた。


 そして、

「急いだ方がエエで」


   つづく


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