表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第1章 氷室
6/148

その6

「顔色が悪いわね、まだ傷が痛むの?」

 冴夜は流風の顔を見て小首を傾げた。


 翌朝、起きられるようになった流風は、ダイニングで冴夜と一緒に朝食のテーブルに着いていた。ダイニングは洋式で、メニューもクロワッサンとベーコンエッグが用意された。


「この方がお口に合うんじゃないかと思ったんだけど、食欲ない?」

「お気遣いありがとうございます、でも……」

 空腹だったが、薬を盛られている疑いがある以上、口にする訳にはいかない。

 流風は気持ち悪そうに胸元をさすって見せた。


 冴夜は残念そうに眉を下げた。


「あの……、昨日の家政婦さんは? えっとぉ若い方の」

 食卓は多英がセットしていた。成美の姿はない。


「それがね、今朝から見当たらないらしいの、散歩にでも行ったんだとは思うけど……、彼女、田舎が珍しいみたいで、よく辺りをウロウロしてるらしいから」

 冴夜は心配そうに言った。

「雨で地盤が弛んでるから、事故に遭ってないかと心配で、今、周蔵さんに捜してもらっているの」


 多英がポットを持ってきたついでに、

「仕事が嫌になって逃げ出したんじゃないですか? 近頃の若い人はいい加減だから」

「また、多英さんはそんなことを……」

 冴夜は困った様子。

「林道はまだふさがったままでしょ、降りる道はないわ」


 道はあるはずだ、昨夜、バイクで上がって来た奴らがいたのだから、と流風は心の中で突っ込んだ。


「自動車が通れないってだけですよ、歩いてなら降りられますよ」

「そうなの? でも荷物はそのままなんでしょ」

「もともと荷物と言える私物なんて持ってこなかったじゃないですか、ほとんど身一つで来ましたでしょ」

「そうだったかしら?」


 昨夜、流風は確かに、成美が邸に戻ったのを確認した。

 その後、気が変わって、再び下山したのか?


「ごちそうさまでした」

 流風は申し訳程度にクロワッサンの端をかじっただけで席を立った。

「あら、全然食べてないじゃないの」

「ごめんなさい、やっぱり喉を通らなく」

 残念そうに見送る冴夜の視線を背に、流風は退室した。





 昨日より身体は軽い。

 これなら昨夜の賊たちが押し入っても、対処できるだろうと流風は考えていた。

 成美は彼らと合流したのだろうか?


 ?!


 その時、何かが聞こえた。

 それは、子猫の鳴き声のようだった。


 流風は耳を澄ませた。

 鳴き声は建物の外から聞こえているようだ。

 どこかに猫がいるのか?

 しかし……、猫のようだが猫ではない気がした。


 今、冴夜と多英はダイニングにいる。いつも朝食は時間をかけてゆっくり取ると言っていた。庭師の周蔵は成美を捜しに出かけていると言っていたし、今なら邸内をうろついても気付かれないのでは……。


 流風は踵を返し、声の方に向かった。


   つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ