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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第6章 蝉時雨
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その4

「そんなことやろうと思った」

 大塚はホッと息をついたが、バツ悪そうに苦笑い。


「でも性質たち悪いよな、悪意満載や」

「芽生が調べてくれたんやけど、あっという間に拡散されてて、誰が流したかわからへんって」


「ごめんな、嫌な思いさせて」

「なんで? 大塚君のせいちゃうよ」

「いや、俺のせいやと思う、俺と付き合ってることで、妬んでるヤツの仕業やと思う」

「そんな……」


「加藤から聞いてるんや、俺と付き合いだしてから嫌がらせされてるって」

「久美が?」

「上履きに絵の具、机にゴミ、ノートに落書き、どれも幼稚な小学生レベルやけど、続くと堪えるやろ」


 久美がそんなことをわざわざ大塚に言っていたなんて、千幸は知らなかったし意外だった。でも、それを聞いて不愉快になった。大塚に知られたくなかったのも事実だし、イジメを受けている自分が恥ずかしい気持ちもあったからだ。


「千幸は悩んでるし気遣ってあげてほしいってうてた、心配してるんや、イイ友達やな」

「そうやね」


 否定はしなかったがなんかモヤモヤ。

 そもそも久美とはよく行動を共にしているが、それはみんなと一緒で、一対一の付き合いはないし、特別な友達と言う意識は、芽生や春菜ほどはなかった。

 第一、自分の性格をよく知っている芽生や春菜なら、そんなことはしない。


「自分で言うのもなんやけど、小学校から少々モテてて、小南を中心に勝手にファンクラブとか作ってたらしいし、今回のことは彼女らの仕業かも知れん」

 女の嫉妬は怖いしな、と言った芽生の言葉が思い出された。


「俺のせいや、迷惑やってハッキリした態度を取らへんかったしな、千幸が嫌がらせされてるらしいって聞いても、なにもしなかった、ゴメンな」

 大塚はかしこまった態度で千幸に頭を下げた。


「やめてーな、嫌がらせなんか、そんなに気にしてへんかったし」

 それは嘘だった、強がりだった。

 思い返せば、あの嫌がらせが始まってから悪夢を見るようになった。ダメージはかなりあったのだ。


「でも、これからは俺が守るし」

「大塚君」

 

 千幸を真っ直ぐ見下ろす大塚の瞳は、告白された時と同じ、キラキラ眩しかった。

 彼が傍にいてくれるなら大丈夫、どんなことがあっても耐えられる。そんな気持ちにさせた。





 こっそりサッカー部の練習を見て、と言うより大塚のプレーを見ていると、たちまち時間が経ち、部活も終わり、すっかり陽が傾いていた。

 なんでこんなにコソコソしなければならないのか理不尽に思いながらも、小南たちと遭遇しないように学校を出た。



   *   *   *



「いるのはわかってるねんで! 出てこい!」

 帰宅した千幸は、見知らぬ女性がドアを激しく叩いている最中に遭遇した。


 インターフォンを連打した後、ドアを連打している。

 尋常じゃない般若の形相。


 きっと部屋を間違えているんだ、と思いながら千幸は、恐る恐る声をかけた。

「うちになにか用ですか?」

「誰?」

 誰って、こっちが聞いてるんだけど、千幸は心の中で呟きながら、

「この家の者ですけど」

「宮田良美の娘?」

 女は意地悪な目で、千幸の姿を上から下まで舐めまわすように見た。


「その制服、まさか生徒の母親やったなんて」

 吐き捨てるように言うと、

「高梨、来てるやろ」

「高梨って、高梨先生ですか? そんな予定は聞いてませんが?」

 高梨とは数学の教師で、生活指導も担当している。


「あんたを訪ねてとちゃう、あんたの母親と一緒やろ!」

 確か母とは高校時代の同級生だと聞いていたが、

「母は夜勤で今日は帰りません」

「夜勤? そんなはずないわ、病院に確認したしな」

「えっ?」


 女は一瞬、躊躇したが、

「わたしは高梨の妻や、あんたも中学生やったら、わかるやろ」

「わかるって……なにが」

「アンタの母親は人の道に外れたことをしてるんや、うちの旦那とな、このことが学校知れたらどうなるか、主人はもちろん、あんたも学校に居辛なるやろな」

 まさか……夜勤が増えて疲れたって言ってたのは嘘?


「わたしが来たこと、ちゃんと報告してや、高梨の妻が来たって、離婚なんか絶対しないって言いに来たってな!」


 頭がクラクラして立っているのがやっとだった。

 この女の話が本当なら、母は不倫している。今、自分に嘘をついて不倫相手と会っているのだ。それが千幸もよく知っている高梨先生だとは!


 高梨の妻はハイヒールの踵をカツカツと響かせながら去って行った。


 もし、真実なら、みんなに知られたら、学校へ行けなくなる。

 大塚君に知られたらきっと軽蔑される。


「どうしたらいいの……」


   つづく


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