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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第5章 湖月宮

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その10

 書院造風の建物の屋根を突き破り、束になった蔓が打ち上げ花火のように飛び出した。そして上空でさらに増殖した。


 建物から避難した女官たちは、白い大蛇と化したかすみが蔓を追って昇天していく美しい姿を見上げた。


 巨大な植物の塊となったあやと、空中で絡まり合う霞。

 蔓は針金のように強靭で、霞の表皮を傷つけた。


 しかし、滲んだ血液に触れると、たちまち蔓は腐って蒸発する。そこから毒液を吸い込み、枯れて崩れ落ちた。


 蔓の捕縛から逃れた霞だが、すかさず蔓は槍のようになって、霞を標的とした。

 大きな口を開けて牙を剝き出して噴出した毒液は槍を溶かしたが、藻は攻撃の手を休めない。矢継ぎ早に襲いかかる槍を交わして、霞はさらに昇天した。


 長い体は螺旋を描きながらクルクル回った。

 その中心がバリバリと音を立てて放電し始めた。

 霞が向きを変え、降下を始めると、稲妻が駆け下りた。


 藻に直撃。


 稲妻を受けた藻の体は、たちまち燃え上がった。

 火の粉は屋敷の屋根に散り、それも燃やした。


「無謀なのはわかっていた、あなたに勝てるはずないと……」

 炎に包まれながら、藻は悔しそうに顔を歪めた。


「わたしはただ、自分が築き上げた宮で、静かに暮らしていただけなのに」

「悪かったな、我らと関わってしまったのが、不運だったな」


「ほんと、……今まで平和に暮らしていたのに」

 炎が顔まで迫り、熱せられた空気で藻の顔が揺れる。


「人間の世界より……ずっと平和だったのに……」

 悲痛な表情に変わった藻の顔は炎に包まれた。


 そして、燃え尽きた。


「平和か、嘘で固めた独りよがりの平和だったようだがな」

 地面に降り立つと同時に、霞は人間の姿に戻り、燃え盛る炎を見上げた。


「やり過ぎよ! 牢獄にはまだ拉致された人がいるのよ!」

 流風るかが慌てて駆け寄った。

「大丈夫だろ」

 と霞はなに食わぬ顔で視線を流した。


 その先には、真琴まこととずぶ濡れの一団がいた。


 真琴も流風の視線に気付き、眉をひそめた。

「なんでアンタらがいるねん?」

「それはこっちのセリフよ、その人たちは、拉致された人?」

 みんな水を飲んで、苦しそうに咳き込んでいる。


「危うく生き埋めになるとこやったわ、これ、霞の仕業なん?」

「すまん、手加減できなかったものでな、だが、お前がいるのは分かっていたから、きっと大丈夫だろうと思って」


 霞と流風を見て、とおるは目を輝かせた。

「いや~、美女の友達はやっぱり美女なんや、類は友を呼ぶってヤツ?」


 やけに馴れ馴れしい澄を 流風は胡散臭そうに見たが、霞は満足そうに、

「お前もなかなかイイ男だぞ」

 妖艶な笑みを返した。


「どこかで会ったような気がするが」

 霞は澄の顔をマジマジと見た。澄は照れながら、

「お姉さんみたいな美女、会ってたら忘れませんよ」

「そうか?」


「会ってるかもよ、1200年前に」

 真琴は霞に耳打ちした。

「どうやら水を操れるみたい」

「やはりな、似ておると思った……那由他なゆたが喜ぶな」


 二人のひそひそ話をよそに、澄は流風にくっついていた。

「君、真琴ちゃんの友達? どこの中学?」

 流風は澄を無視して、まだ咳き込んでいる五人を見た。


 霞は歩み寄り、いきなり五人に息を吹きかけた。


 五人はたちまち気を失って倒れ込んだ。

「なにすんの!」

 真琴は驚きの声をあげたが、

「心配するな、死にはせん」

「けど!」


「説明できんだろ? 案ずるな、数時間で目覚める、その時にはここ数日の記憶は消えておるから」

「……そんな便利な毒があんの?」

「わたしを誰だと思っているのだ」

 霞は得意げに、腰に手を当てた。


湖月宮こげつきゅうが……」

 なえは燃え盛る建物を見つめていた。

「これでよかったんじゃよ」

 秧の横に立つ亀市きいちも炎を見上げた。


「しょせんは偽りの都だったんじゃから……」


   つづく


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