その5
怪我のせいか、流風はぐっすり眠った。
妖怪ハンターになるべく厳しい修行を積んだ彼女が、他人の家で熟睡するなんてことはありえなかったが、夕食後、スイッチが切れたように深い眠りに落ちてしまった。
深夜になって、わずかな気配に目覚めた時も、身体は鉛のようだった。
変だ……。
流風は重い頭を振りながら考えた。
薬を盛られたのかも知れない。
でも誰が? 何の為に?
わからないが、明日からは口にするモノに気を付けなければならない。しかし、体力を回復させるために食べ物は必要だ。
流風は秘かに闇の森へ出た。
下山は無理でも、この季節、なにか食べられるものは探せるだろう。
修行の一環としてサバイバルの知識も叩き込まれていた。
しばらく歩くと、真夜中に目覚めた訳がわかった。
木の陰にバイクが停車していた。その傍に、懐中電灯を持った若い家政婦の成美が立っていた。彼女が出かける音を聞いたのだろう。
「わかんないよ、見た目よりずっと大きいのよ、あの家」
「見当もつかないのか?」
「母屋の他に離れが2つ、作業小屋も5つくらいあるし、奥には昔使ってた氷室ってのもあるみたいよ」
「それ、怪しくない?」
ひそひそ話だったが、相手は男、息遣いから人数は三人、成美を入れて四人わかった。
「その氷室ってとこ、調べてみろよ」
「嫌よ、入口からしてめっちゃ不気味なのよ、あんなとこ一人で入れないわ」
「そんな面倒なことしなくても、押し入っちおまおうぜ」
「そうよ、女二人と庭師のジジイだけよ、あ、今は迷子の女の子がいるけど」
「迷子?」
「昨日、庭師のジジイが川で行き倒れてるとこを拾ってきたのよ、まだ中学生くらいのガキよ」
「そいつも運がないな、せっかく命拾いしたのにな」
「やっぱ、やるか?」
「電話線は切ったし、携帯も圏外、外部とは連絡取れないだろ、みんなで乗り込んで探した方が早そうだな」
「締め上げて吐かせるか」
流風は息をひそめて聞いていた。
コイツらが強盗をしようとしていることはわかったが、なぜこんな山奥の一軒家へ?
確かに大きな邸ではあるが、裕福な生活をしているとは思えないし、大金を家に置いているとも思えない。わざわざ仲間を先に潜り込ませるなんて、たいそうな準備までして……。
「でも、どんなお宝が眠ってるんだ?」
「その話、ガセじゃないでしょうね、金持ちには見えないわよ、家も古いし、質素な生活してるし」
「確かな筋からの情報だ、手に入れたら換金してくれる話も着いてるんだから」
「信用できるんでしょうね、その人」
「今さらなに言ってんだよ、宝探しなんて面白そうだって、一番に乗ったくせに」
「そうだけど……」
「とにかく、さっさと済ませちまおう、今日は武器を用意してないし、明日の夜」
タイヤが土の上を転がる音がした。
エンジンはかけていないようだ。音が聞こえない所まで押していくのだろう。
成美の足音だけが、邸に向かって歩き出した。
どうする?
このままバイクの後を追えば、麓まで行けるだろう。
だが明日の夜、襲撃されることを知って、恩人たちを見捨てるか?
流風の脳裏に冴夜の微笑が浮かんだ。
つづく