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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第5章 湖月宮

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その7

「ほう、お前は察しがよいな」

 るいは不敵な笑みを浮かべた。


「どうやらアンタは他の人たちとはちごて、本物の妖怪みたいやしな、妖怪は子供が好物と聞いてるし」

「わかるのか? お前こそ何者だ、名前ではないぞ」

「厄介事に巻き込まれたただの中学生や」

「只者ではないだろ、まあよい、何者でも」


 突然、足元の床から水草が生え出て、みんなの足に絡みついた。

 アッという間に下半身まで伸びて、体の自由を奪った。


「泪様! なにをなさるんです!」

 なえはもがきながら泪を見たが、動けば動くほど水草は体に食い込む。

「言っただろ、ここからは出られんと」


「冥途の土産に教えてやろう、その娘の言う通り、男児はありがたくもあや様の美しさを保つ糧となるのだ」

「そんな……」

 愕然とする秧と青ざめながら聞いていた萌。


「お前たちは家畜だ、人間の王と交わり人間の子を産む、藻様の好物である男児を生むためのな」


「それが湖月宮こげつきゅうの正体か、養殖場みたいやな」

 真琴は吐き捨てるように言った。

 もえとおるに目をやり、

「だから外の世界で出産したさやの息子は、普通に成長できたのね、あなたはやはり、莢の息子」


「ほう、外で育った莢の息子か、ちょうどいい、ここで成長を止めてやる、少々痩せておるのが残念だが」

 捕らえている水草が、澄を宙に持ち上げた。

「なにするんや! 放せ!」

 首に絡みつく水草を取ろうとするが、針金のような強靭さでビクともしない。


 その先で待ち受ける泪の口がガバッと開いた。

 その口は顔より大きくなり、ハエトリグザのように変化した。

 釣り上げた澄を一呑みにしようと引き寄せる。


 真琴の目が金色の猫目に変わった。

 次の瞬間、真琴の体に絡まっていた水草が千切れ飛んだ。

 続いて、澄の水草を、変化させた鋭い爪で断ち切った。


「わっ!」

 澄は床に転がった。


 口を閉じ、驚きに目を見張る泪。

「不思議な術を使いおる、では、これはどうだ」

 しかし、動じることなくその場で手を振り下ろした。


 指先から水が飛び出し、塊となって真琴の体を覆った。

「うっ!」

 まとわりつく水の中で、真琴は息が出来ない。


「真琴ちゃん!」

 澄は駆け寄り、手を水の中に入れた。


「無駄だ、一度取りついたら離れない」

 しかし、水は簡単に、澄の手に吸い付いた。

 そして、水の塊を払いのけた。


「なに?」

 泪は先ほど以上に驚きの目を向けた。


 水の塊から逃れた真琴は、咳き込みながら膝をついた。

「大丈夫か?」

「あんた……」

 真琴は最初水流に呑まれた時、澄が手を伸ばしたことを思い出した。

 あの時も、本当は助けられたのか? と……。


「お前も妙は術を!」

 泪は怒りに震えながら、再び手を掲げた。


 澄はなぜ自分にこんなことが出来るのかわからないようで、愕然と両掌を見つめた。

 なにかが脳裏に浮かんだが、よくわからない。

 しかし体は勝手に動いて、両手で印のような形を作っていた。


 その隙に、泪が振り下ろした手から、今度は槍となった水が澄に襲いかかった。


 澄の瞳が煌めいた。

 同時に、印を組んだ手からも青白い光が溢れ出した。

 それは向日葵ひまわりの形となり、宙に浮かんだ。


 透明な水で出来た向日葵が無数に浮かび、盾となった。

 向かって来る槍をすべて受け止めた。

 水の槍と水の花が激突し、ただの水しぶきとなって散った。


 泪が放った槍に多数は破壊されたが、残った向日葵は中心の管状花を泪に向けた。

 彼の表情はまるで夢遊病者のように茫然としていたが、管状花から機関銃のように水の種が発射された。


「ギャアァァ!」

 直撃を受けた泪は、勢いに吹っ飛んで壁に激突した。

 尖った種が泪の体に食い込んでいた。

 泪は吐血すると、グッタリと横たわった。


 同時に向日葵は消えた。


「俺……今、なにを?」

 自分がしたこととはいえ、そこに意識はなかった。なぜか体が勝手に動いたことに、澄は驚いていた。


 真琴は流風が霞と対峙した時のことを思い出していた。

 あの時、流風も無意識に風の能力ちからを開花させた。では、澄も?


 倒れた泪の体は、緑色の液体となり、床に広がった。

 と同時に、秧と萌を捕らえていた水草も液状化した。


 澄は愕然としながら緑の液体を見下ろした。

「俺が、殺したんか?」


ちゃうで、妖怪退治しただけや」

「……なんであんなことが出来たんやろ」

 澄は再び両手を見つめた。

「でも、なんで向日葵なん?」

 真琴は小首を傾げた。


 萌は泣いている赤ん坊を抱き上げていた。

「お腹が空いているようです」

「こちらへ」

 秧は赤ん坊を受け取ると、胸元を開けて乳房を出した。


 すかさず真琴は澄を目隠しした。

「さっき、赤子の泣き声を聞いた時から、胸が張って痛かったんだ」

 赤ん坊は秧のおっぱいにしゃぶりついた。

「不思議なものだな、半年も経つのにまだ乳がでるとは」


 秧の頬を一筋の涙が伝った。


   つづく


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