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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第5章 湖月宮
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その3

「無茶するなぁ」

 真琴は変化へんげを解いて、人間の姿に戻っていた。


 乱れた髪を櫛でとかしながら、息も絶え絶え座り込んでいる少年を見下ろした。

「君が危ないと思て、助けようと咄嗟に」

「咄嗟に飛び込んで、どうするつもりやったん?」

「それは……」

 真琴は溜息をついた。


「それより、ここはどこやろ?」

 真琴は改めて周囲を見渡した。

 そこは洞窟のようだった。どこから灯りがきているのか、辺りは仄かに明るく、ゴツゴツした岩肌がハッキリ見えた。


 そして、真琴を見つめている少年の顔も、

「……カッコよかったな」

 少年は頬を紅潮させ、真琴に羨望の眼差しを向けている。

 そして立ち上がり、真琴の手を両手で握りしめながら、キラキラした瞳で見下ろした。


 真琴を見下ろせる身長だから170センチ以上はあるのだろう、それになかなかのイケメン、口元から白い歯がこぼれる爽やかな笑顔が素敵な少年だった。 


「あれは君なん? 綺麗な毛並みの大猫?」

 なぜ驚かない? なぜ恐れない? 真琴は少年の神経を疑った。


「いやぁ~、カッコ良かったで」

 真琴は少年の手を振り払い、胸ぐらを掴み上げた。

「そんなもん、見てへんやろ!」

「え……」

「ええな! 見てへんのや!」

「は、はい……」

 少年は察したようで、苦笑しながら頷いた。


「俺は湖月こげつとおる、君は?」

七瀬ななせ真琴まことや」

「真琴ちゃんか、素敵な名前やね」

 馴れ馴れしい口調、女性慣れした軽い態度に真琴は呆れた。


「でも、真琴ちゃん、なんであのタイミングで現れたん?」

「あたしはサキに無理矢理付き合わされたんや」

「サキって、咲子ちゃん? 本間さん家の……そう言えば電話があったみたいやけど」


 澄は真琴を再び見て、

「なんで君だけ濡れてへんの?」

「そこを気にするか?」

 確かに真琴の服は乾いている。


 澄は濡れた前髪をかき上げた。

「俺は水も滴るイイ男になってるのに」

「…………」


「それより、こんな所にいきなり飛ばされたことは不思議に思わへんのか? なんでそんな平然としてられるんや」


「それはこっちのセリフや、女の子が平気な顔してるのに、男の俺がビビってたらカッコ悪いやろ、内心は恐怖と不安が渦巻いてるんやけど、それを表に出したらみっともないやん、男やったらここはドンと構えてなナ! ……ところで真琴ちゃんはいくつ? 俺は中2やけど、同い年くらいかな、どこの中学? 彼氏とかいるんかなぁ」

「男の喋りもみっともないけど」


 真琴はさっさと歩き出した。

 足元がぬかるんでいる。

 ピチャピチャと足音が岩に反射した。

「とにかく、出口探そ」


「出口なんかないわよ」

 突然の声に、真琴はビクッとして足を止めた。


「ここは牢獄なんだから」

 そこには女が立っていた。年の頃は20歳前後、薄汚れた着物は時代劇の貧民街を思わせる。ここが、自分たちがいた現代とは異なる場所だと真琴は覚った。


「牢獄? で、アンタは?」

「あたしはもえ、禁を犯して、一生ここへ閉じ込められる刑を受けているのよ、あなたたちは外の世界から来たのね、ここはあなたたちが住む世界とは違い、争いも貧富の差もない平和な世界、湖月宮こげつきゅうよ」

「湖月宮? けど犯罪者はいるんやな」


「親友が外の世界へ行ったまま帰らなかったので、野蛮な他国者に捕まって酷い目に遭わされてるんじゃないかと心配で、掟を破って捜しに行ったのよ」

「野蛮なって、俺たちのこと?」

「湖月宮以外の世界は鬼畜がはびこる修羅の世界と聞いていたから」

「ま……完全否定は出来ひんけど」


「でも違った、外の世界は聞いていたのと違って、恐ろしい鬼などいなかった、自由で美しい世界だった、彼女はそれに魅せられて帰らなかったことがわかったの」

 萌は寂しそうに目を伏せた。


「でも、あたしたちは見つかって連れ戻され、関わった人間も殺されてしまった。そしてさやは最も重い刑に処せられているの」

「莢!?」

 その名前に反応した澄は、いきなり萌の両肩をガチッと掴んで詰め寄った。

「莢は俺の母さんの名前や! 14年前、行方不明になった」


「なんですって?」

 莢は眉間に皺を寄せながら澄を見た。

「まさか……、莢の子は死んだはず」

 澄は萌の肩を掴んだまま首をうなだれた。

「俺だけ助かったんや」


「信じられない……、湖月宮の女が生んだ男児はみんな死産か、生まれても成長できずに死んでしまうはずなのよ、あなたが莢の息子だとしたら、こんなに成長するなんて変よ」


「どうやら、そのへんにアンタが命を狙われた理由があるんちゃうか?」

 真琴は腕組みしながら言った。


「俺の母さんは、ここにいるんか? 会えばわかるはずや」

 澄が再び萌に迫った。


 萌は答えず、表情を険しくした。

 そして岩に耳をつけた。


「どうやら、追手が来たみたい」


   つづく


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