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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第5章 湖月宮

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その2

「一週間前、母方の遠縁のおじさんが亡くならはってな、その上、10歳の息子さんが行方不明になってるねん」

 咲子はいつになく深刻そうな表情で言った。


「それって、ニュースでやってた……」

 真琴は驚きの目を向けた。

「そやねん、遠縁やし付き合いはあんまりなかったとはいえ、身内がそんな事件に巻き込まれるなんてビックリやわ」

 二人は夕闇迫る住宅街を喋りながら歩いていた。


「おばさんが言うには、ご主人は拉致されそうになった息子を守ろうとして殺されたに違いないって、警察はなにも掴んでないみたいやねんけど、不可解なことにご主人の死因は溺死やったらしい、子供部屋でやで、溺死させるほどの水なんかないとこで……、検死の結果、肺から琵琶湖の水が出たらしい」


「琵琶湖?」

「同じやねん、14年前の、みなとさんの事件と」

「誰?」


「それも母方の親戚やねんけど、湊さんの死因は溺死、肺から出たのは琵琶湖の水やってん。息子のとおるくんは無事やったけど……奥さんのさやさんが行方不明」

「微妙にちゃうけど」


「当時、湊さんの弟のわたるさんは、莢さんと不倫関係のすえ、愛憎の縺れで二人を殺したんちゃうかと疑われて酷い目におうたんや。容疑ははれたけど、それ以来、人間不信に陥って引きこもり状態やねん、引き取った澄くんと二人で暮らしてるけど、付き合いないし……、で、あたしが当時の話を聞きに行くことになってん、ほら、あたしって話し上手やし、なんか聞き出せるんちゃうかって」


「もしかして、その家に向かってんの?」

「そやで」

「なんであたしが一緒に行かなアカンねん」

「一人では心細いし」

 真琴はどこへ行くのか聞かされていなかったが、咲子の様子があまりに深刻そうだったので黙ってついて来ていたのだった。


「ノッコは叔母さんが風邪で寝込んでて、帰るって言うし、真琴だけが頼りなんや」

 咲子は急に歩みが遅くなった真琴の腕を引っ張った。

「え~~っ」


 気乗りしない真琴だったが、目的地に到着してしまった。


 『湖月こげつ』の表札がかかった門は周囲の住宅より一際大きく、高くて中は見えなかったが、豪邸であることは想像できた。

「へー、けっこう大きい家やん」

 咲子は高い門を見上げた。

 真琴はチラッと見て、

「うちに比べたら犬小屋やけどな」

「比べるな」


 咲子はインターフォンを押した。

 しかし、応答がない。

「変やな、お母さん電話はしとくってうてたのに」


 その時、

 ガチャ―ン!!

 ガラスが割れたような音が中からした。

「なに?」


 真琴は音と同時に強烈な殺気を全身で受け止めた。

 なにか只ならぬことが起きているのは間違いない。真琴の本能が直ちに行動せよと言った。


「持ってて」

 真琴は咲子に鞄を押し付けると、高い門をヒョイと乗り越えた。

「え~っ」

 咲子が驚きの声をあげているが、気にしている場合ではない。

 着地と同時に真っ直ぐ玄関に向かった。


 門の外から玄関は見えなかったはず、真琴は迷わず玄関を蹴破った。





 真琴が玄関から入ると、

「お前は誰や!」

 男の大声が聞こえた。しかし真琴に向けられたものではない。

 声がしたリビングに飛び込むと、中年男性が一人、壁際で気絶していた。


 声の主は真琴と同じ年くらいの少年で、目を吊り上げながら怪しい女と対峙していた。


 頭巾をかぶった黒装束の不審人物が女だとわかったのは、短い着物の下から伸びた綺麗な足を見たからだ。肌艶から若い女と推測されるが、顔は頭巾で覆われて人相までは分からなかった。


 女は突然現れた真琴に気付くと、掌を向けた。

「えっ?」

 見えない衝撃波のようなモノが発射され、真琴は不覚にもまともに受けてしまった。


「うっ!」

 かなりのインパクトだったが、真琴は堪え、長い髪が靡いただけで倒れることはなかった。

 気絶している男は、これを食らったのだろう。


 女の目に驚きの色が浮かんだ。

 しかしそれは一瞬で、素早く次の動作に転じた。

 目の前の少年を突き飛ばして、真琴に突進、その動きは俊敏で、人間のままの真琴はかわせず、接近を許してしまった。


 女は真琴の額に人差し指を押し付けた。


「うぐっ」

 とたん真琴は息ができなくなった。

 突然、喉の奥からドクドクと水が溢れ出した。

(なんや、コレは!)

 声も出せない。


 水のないところでの溺死、そのフレーズが真琴の脳裏に浮かんだ。

(特殊な術か!)


 死の恐怖を感じた瞬間、

 金色の光が室内に広がった。


「なんだ!」

 女は眩しさに目を閉じたが、すぐに開けると、そこには美しい獣が出現していた。


 金茶色の毛皮が仄かに光っている。ピンと立った耳、見開いた瞳は盾に伸び黄金に煌めいていた 額から口元にかけては白っぽく、牙はプラチナの輝き、肉球からはみ出した爪も念入りに砥がれた日本刀の切っ先のように青白い輝きを放っていた。


 女に向かって牙をむく口元からは、もう水は溢れていなかった。


「物の怪か!」

 変化へんげした真琴の全身から放たれる妖気に、女の体が硬直した。

 その隙を逃さず、真琴は飛び掛かった。

 女はかろうじて避けたが、真琴の爪が右肩を掠り、血が滲んだ。


 続けざまに飛び掛かる真琴、次の一撃は女の腹をえぐった。

 女の体はくの字に曲がり、血が滴った。


 とどめだ! と真琴が思った瞬間、

 もう一人が現れた。


 うずくまる女を庇うように、真琴との間に立ちはだかった。

 真琴が構わず爪を振り下ろすと、どこに隠し持っていたのが、大きな鎌のような武器で防いだ。


 カキーン!

 響く金属音と同時に、二人は弾かれたように離れた。


 体勢を整え、身構える真琴。


 第二の女は離れたまま鎌を振り下ろした。すると、刃先から滝のような水が噴出し、真琴に襲いかかった。

 その水は生き物のように真琴にまとわりついた。


 たちまち水流が真琴の体を包み込んだ。


「アカン!」

 見ていた少年が叫びながら、水流に突っ込んだ。

 水を掻き分け、真琴に手を伸ばす。

 激しい水圧に押されながらも、必死で真琴に辿り着こうともがいた。


 真琴も水流に圧倒されながら、少年が向かって来るのを見た。

 真琴は咄嗟に、伸ばした少年の手を口にくわえた。


 二人はそのまま、水流に呑みこまれた。


   つづく


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