その8
「真琴ちゃん!」
そこへ新と珠蓮が駆け込んだ。
「無事やったんや、良かったぁ」
新は真琴に抱きついた。
「まあ、今は女の姿やし許すけど……」
真琴は冷ややかに見下ろした。
「この人があのエクトプラズムを出した霊媒師?」
新は倒れている女性に気付いた。
「ただのおばさんや、たまたま霊感が強かったし、反魂香で呼び出した娘の魂を幽物質に出来たんやろう」
真琴はそう言いながら母親の遺体に目をやった。彼女を捕らえていた蜘蛛の糸は消えていた。
「真琴が殺ったんか?」
「まさか、この人はただの人間やで、殺せるわけないやん、死んだ娘に会いたい一心で拝み続けて衰弱死したんやろ」
「初華って子もなんで自殺なんかしたんや、こんなに愛されてたのに」
「アンタらが娘の魂をこの人の体に押し戻したん?」
「あたしがな」
突然、真琴の横に現れた那由他が言った。
「近いっ」
「なに言ってんだ、重賢の灰のおかげだろ」
「持ってきたのはあたしや」
珠蓮はフォトフレームに気付いた。
「これが初華?」
幸せそうに笑っている写真の初華は、美人ではないもののブスと言われるほど醜い容姿ではなかった。
「どんなに醜いのかと思ったら、そうでもないじゃん」
「えっ?」
「その子、ブスって毎日言われて、イジメられてたらしい」
珠蓮は寂しそうに目を伏せた。
「酷い話だ、自殺するまで追い詰めるなんて……」
「人間は残酷な生き物ってことや」
那由他は腕組みしながら偉そうに写真を見下ろした。
「帰ろか」
真琴は乱れた髪を櫛でとかしながら言った。
「この人は? このまま置いて行くの?」
新は言ったが、
「しゃんーないやん、あとで匿名通報しとくわ」
「ちゃんと供養してもらえるかな」
「誰もこの人が今回の事件に関わってたなんて思わへん、娘を亡くした悲しみのあまり衰弱死した可哀そうなお母さんや」
「そうやな」
「羅刹姫に魂を食べられへんかっただけでも良かったわ、ちゃんと成仏できるやろ」
真琴の言葉に、
「羅刹姫!」
新が食いついた。
「ここにいたんか!」
必死の形相で真琴に迫った。
「もうちょっとで退治できたんやけどな、逃がしてしもた」
「そんなぁ」
「糸を引いていたのはアイツだったのか」
珠蓮が目を吊り上げた。
「相変わらず手の込んだゲームが好きやな」
と那由他は呆れ顔。
「ゲーム?」
「羅刹姫にとって、こんなことは退屈しのぎのゲームやねん、長く生き過ぎて暇を持て余してるんやろ」
「許せん奴やな」
「ああ、いつか始末してやる」
「頼むで珠蓮~」
新は涙目で珠蓮の腕にすがりついた。
つづく




