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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第4章 反魂香
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その7

「捕まえた!」

 新がエクトプラズムの腕を掴んだ。


「えっ?」

 エクトプラズムは逃れようとしたが、しっかり掴んだ新の手を振りほどくことが出来ない。


「なんで? あたしを捕まえられるなんて!」

「今の俺の体は呪いやし無敵なんや」

「そんなはず」

「怨念の塊、凄い憎悪が伝わってくる、いったいなにをそんなに怒ってるんや?」


 観念したのか、エクトプラズムが萎んだように見えた。

「醜く生まれたし」

「えっ?」

「あたしは三河初華いちか、一年前に自殺したんや」

「なんでまた」


「だから醜く生まれたしや、学校へ行くと毎日ブスブス、汚いから近寄るなって言われて、何かにつけ嫌がらせ、他のみんなも知らん顔、毎日が辛かった。死んだ方がましやった」

「イジメに遭ってたんか、可哀そうに」

「だからお母さんがあたしの魂を呼び戻してくれたこのチャンスに、新しい体を手に入れようとしてるだけ、誰にもバカにされない完璧な体を」


「それで美少女を狙ったのか?」

「そう、絶世の美女になって甦るためや」

「それにしてもあの殺し方は酷過ぎひんか」

「より良いパーツを選別する為や」

「そんな……パズルみたいに」


「一番にあたしを苦しめた陽奈、美香、文子の体から取ってやろうと思ったんやけど、ちょっとも綺麗じゃないしアカン、せっかく生まれ変わるんやったら、もっと上等の体が欲しいんや、そのためにはもっともっと」

 欲望と共にエクトプラズムは膨れ上がり、新は思わず手を離してしまう。


「最初の三人はいじめっ子やったんか」

 新は初華に同情の目を向けた。

「自業自得で殺されたって訳か、そりゃ、仕方ないな」

 珠蓮は納得したように頷いたが、

「そんな訳ないやろ、どんな理由があっても人を殺したらアカンやろ」

「法で裁けない罪なら、復讐も有りじゃないか?」

「そんなこと、断じてない!」

「お前だって羅刹姫を殺して呪いを解きたいと思ってるだろ」

「それは……」


「そんなことはどうでもエエ、邪魔するんやったら、あの獣みたいに幽世かくりよへ落としたる!」

 初華は二人に襲いかかろうとした。

 が、その時、


「キャッ!」

 どこからか振って来た灰がかかり、避けようとして後退した。

 必死で振り払おうとするが、灰がかかった腕の部分は消えている。


「なに、コレ!?」

重賢じゅうけんが護摩を焚いた残りの灰や」


 新の横に突然現れた那由他が言った。

「幽霊退治にはコレが必要やと思て取りに行ってた」

「浄めの灰か」

 嫌悪感露わに体を引く珠蓮。


「あの世にお帰り」

 那由他は袋に詰めた灰を全部、初華に向かって投げつけた。

 灰が舞い、初華の頭から全身に降りかかる。


「いやぁぁっ!」

 エクトプラズムはたちまち小さくなって呆気なく消えた。



   *   *   *



「キャァ!」

 一心に拝んでいた中年女性が、突然、後ろ向きに倒れた。

 その声に、真琴は思わず振り向いた。


 羅刹姫を捉えていた爪から一瞬力が抜けたところを羅刹姫は逃さなかった。

 スルリと抜け出て立ち上がった。

 真琴は再び襲いかかろうとしたが、

「初華……」

 絞り出すような女性の声の方が気になった。


 仰向けに倒れた女性の口に、エクトプラズムが戻って来た。

「あれは……」

 白い幽物質が女性の口へ入って行く。


(お母さん助けて……戻りたない……)

 か細い声が真琴にも聞こえた。

(お、母さ、ん……)

 すべてのエクトプラズムが吸い込まれた時、母親は咳き込みながら上体を起こした。


「初華ちゃん」

 口を押さえ、そして胸を押さえた。

「行ってしもたんやな」

 落ちくぼんだ目から涙が転がり落ちた。


「でも大丈夫、今度はお母さんも一緒や、独りぼっちにはしぃひんし」

 女性は胸を押さえたまま、今度はうずくまるように前に傾いた。


 額を香炉にぶつけ、燃え尽きた香が零れた。

 その後、横向きに倒れた女性の全身から力が抜け、グッタリと身を投げ出した。

 目は半開きのままだった。


 それを見てから真琴は振り向いたが、もう羅刹姫の姿はなかった。


 切断された左腕だけを残して……。


   つづく


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