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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第4章 反魂香

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その6

(ここはどこや?)

 白い煙に包まれた瞬間、真琴は別の空間に飛ばされていた。


 暗闇の中に浮いていた。

 毒々しい、全身に鳥肌が立つような嫌な感じの空気に包まれているようだった。


(まさか、あたし、ミンチにされたん?)

 闇の中で、変化している真琴の金茶色の毛皮は仄かに光っていた。

 ピンと立った耳が周囲の音を集めようとしたが、何も聞こえない。

(けど、衝撃も痛みもなかったし、このあたしが簡単に餌食にされる訳ないやろ!)

 真琴は自分に言い聞かせた。


 その時、縦に伸び黄金に煌めく瞳が、一筋の白いモノを捉えた。細い煙が立ち昇っているようだ。

 真琴は迷わずそちらへ向かった。


 突然、フッと重力を感じたかと思うと、真琴の足は床を踏んでいた。


 いつの間にか人間の姿に戻った真琴は、教室の中に立っていた。

 真琴が目指した細い煙は、香から立ち昇る煙だった。


 黒板の前、白いシーツを敷いた床に座って香を焚いているのは中年の女性だった。

 頬はコケ、目は落ちくぼんでいる。節くれだった両手を合わせながら、一心に香炉に向かって拝んでいた。

 香炉の後ろに立ててあるフォトフレームには高校生くらいの少女が微笑んでいた。 


「よくあそこから出られたわね、こんなに早く」

 気配もなくした声に振り向くと、そこには派手な女がいた。豊満なバストを強調する胸元の開いたワンピース、もちろんミニで綺麗な足も惜しみなく見せている。ハイヒールをコツコツ響かせながら、真琴にゆっくり近づいた。


 人ではないと直ぐに分かった。美しい姿をしていてもまがまがしい妖気は隠せない。それもとびきり邪悪な悪臭が鼻を突いた。

「何者や?」

「あたしは羅刹姫らせつひめよ、猫のお嬢ちゃん」


「羅刹姫……」

 沢本家に呪いをかけた妖怪だと、名前は聞いていた。

「その顔を見ると、名前は知っててくれてるのね、光栄だわ」

「女子を襲ってるのはアンタか!」

「違うわよ」

 香を焚く中年女性に視線を流した。


「この人が?」

「愚かな母親よ、亡くした娘を戻して欲しいと願ってわたしと取引したのよ。自分の魂と引き換えに娘が甦ることを望んだ」

 真琴ももう一度、中年女性を見た。そして気付いたのだが、白いシーツに見えていたモノは、編まれた蜘蛛の糸のようで、女性はそれに絡み囚われていた。


「でもね、甦ると言っても体は既に火葬されてて無いのよね」

「騙したんか」

 睨み付ける真琴を羅刹姫は嘲笑った。


「魂は戻ったし、約束は果たしたわよ、ただ、反魂香で呼び戻された娘の魂が、体を欲しがってるのよ」

「新しい体を求めて人殺しを?」

「そう、満足する体を求めてね」


「最初からそうなるとわかってたんやろ」

「さあね、でもこの女は娘の望みを叶えるために香を焚き続けてるのよ、呪者はこの女、止められるかしら? 二度も最愛の娘を失うことになるんだから、死ぬまでやめないでしょうね、出来る? 人間を殺せる?」


「陰険な奴やな、沢本家にあんな呪いをかけた奴だけのことはある」

「沢本? なんのことかしら」

「まさか、忘れたん?」

「あっちこっちでやらかしてるから、いちいち覚えてないわよ」

「最低な奴! 醜い妖怪はいっぱい見てるけど、アンタはダントツやな」

「褒め言葉と受け取っておくわ、わたしは人間の醜い魂が大好物で、たくさん食べてきたから」


「この人を殺すなんて出来ひん、それやったら、アンタを!」

 真琴は変化するや否や、羅刹姫に飛び掛かった。


 羅刹姫はヒラリとかわすと、

「凶暴な奴」

 真琴はプラチナのように輝く牙を羅刹姫に向かって剥き出し威嚇した。


 羅刹姫は素早く両掌を広げて真琴に向けた。

 掌から無数の糸が束になって発射し、真琴の前足に絡みついた。

 しかし、真琴が前足を振り上げると、羅刹姫は軽々と引っ張られて、壁に叩き付けられた。

 糸も切れて、羅刹姫は床に落下した。


「なんて馬鹿力、半妖の分際であたしをこんな目に遭わせるなんて」

 口の端から血を垂らしながら、羅刹姫は悔しそうに睨んだ。


 飛び掛かる真琴に、再び掌を向ける羅刹姫。

 今度は大きな網が発射され、空中で真琴を捕らえて包み込んだ。

 と同時に収縮し、真琴の体を締め付けた。


 しかし、真琴が全身の毛を逆立てると、糸は簡単に弾けて、ズタズタに千切れ飛んだ。

 次の動作で真琴は今度こそ、羅刹姫に飛びかかった。

「ギャッ!」

 前足で羅刹姫の両肩を押さえつけて、馬乗りになった。


「口ほどにもない奴!」

 日本刀の切っ先のような鋭い爪が肩に食い込んだ。

「あたしが敵の力を見誤るなんで、ドジを踏んだわ」

 半妖と見くびったのが間違いと羅刹姫は後悔したが遅い。


 真琴が爪に力を入れると、バキバキと骨の砕ける音がした。

 羅刹姫は苦痛に顔を歪めた。


「ギャァァ!」


 羅刹姫の左腕が千切れ飛んだ。


   つづく


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