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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第4章 反魂香

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その2

「銀杏の森はどうやった?」


 小橋から姿を現した流風るかを待っていたように重賢じゅうけんが声をかけた。

 不機嫌だったが、重賢の柔和な微笑を見ると、愛想よくしなければならないと思ってしまう。


「不思議な空間ですね」

「大銀杏は拝んで来たか?」

「えっ? 拝まなきゃダメだったんですか?」

 意味が違うと苦笑しつつも、重賢は聞き流して続けた。


「儂もな、昔、一度だけ入ったことがあるんや」

「えっ?」

 普通の人間は正気を失うと霞が言っていたのを思い出し、この人も普通ではないのか? と流風は聞きたかったが、気が引けて言い出せなかった。


「この寺、悠輪寺の住職に選ばれた時、あの場所へ招かれたんや、ずいぶん昔のことや、次に招かれるのは退く時やけど……、まあ、その日も遠くはないやろう」

 重賢は遠い目をして本堂を見た。いいや、その奥にある銀杏の森に心を馳せた。


「重賢様! こちらでしたか」

 そこへ沢本(あらた)が小走りに駆け寄った。

すみれさんがお待ちです」

「おや、来てたんか」

「流風さん、こんにちは」

「こんにちは……えっと……」


「七瀬家の運転手ですよ、この間、ひいらぎ家までお送りしたでしょ」

「あ……すみません、覚えてなくて」

「いいんです、よくあることやし、俺、印象薄いしな」

 確かに長身だが顔は平凡で地味な感じ、存在感のない青年である。


「やれやれ、今度は何事や」

「菫さんって、真琴のお祖母さん?」

「流風はうたことないんやったな、ちょうどエエ、紹介するわ」


 真琴たちの話を聞く限り、流風には苦手なタイプである。出来れば関わり合いたくないと思ったので、

「和尚さんに話があるんでしょ、邪魔しちゃ悪いし」

「どうもない、超フレンドリーな人やし、会えたら喜ばはるわ、なあ、新くん」

「そうですね」

 苦笑するしかない新。


「行こか」

 重賢はためらう流風の腕を引っ張った。

「あっ」

 不意に引き寄せられた流風は、運悪く足元にあった石に躓いてバランスを崩して、新の方へ倒れ込んでしまう。

 心ならずも新の胸に抱きつくような格好になってしまった。

 その瞬間。


 ボムッ!!


 小さな爆発が起きたような衝撃を感じた。


 そして流風は、男性の胸板に触れたはずの頬に、なにやらやわらかいモノを感じた。それは豊満な女性のバストだった。

「えっ?」

 顔をあげると、そこには流風と同じくらいの少女の顔があった。


 その顔はあきらかに怒っている。額に血管が浮かびヒクヒクと波打っているように見えた。

「あ……ごめんなさい」

 流風は慌てて離れた。


 しかし頭の中は???が渦巻いていた。この子も那由他と同じように突然現れる鳥系妖怪なのか? でもここにいたのは新のはず……。


「重賢様、わざとでしょ」

 少女が怒りに震えながら言った。

ちゃうで、不幸な事故や」

 会話の意味がわからずキョトンとしていた流風だったが、重大な事実に気付いた。 少女が着ているのはブカブカのスーツ、それは新が着ていたモノに違いなかった。


「ええっ?」


「新は女の子に抱きつかれると、女の子になってしまうんや」

 目を丸くしている流風に重賢が言った。

「重賢さん、それは!」

 少女となった新が止めようとしたが、

「どうもない、彼女は綾小路家の人間やし、口外せんわ」

「……」

「もう見られたんやし」


 突然、少女となった新の目から、大粒の涙が溢れだした。

「重賢さんのアホぉ~~!!」


 涙を滝のように流しながら、新は顔を背けて駆け出し、目にも止まらぬ猛スピードで入口の門をくぐり、姿を消した。


 アッと言う間の出来事に流風が唖然としていると、

「沢本家には先祖代々伝わる、世にも恐ろしい呪いがあるんや」

 重賢は全然恐がっていない様子で言った。


「11代前やったか、羅刹姫らせつひめという妖怪の怒りを買って呪いをかけられたんや、陰湿な呪いでなぁ、女性に抱きつかれるとその女性と同じ年の女性に変身してしまうんや、丸一日で元に戻るけどな」


 確かに自分と同じくらいの年齢に見えた。それにしても豊満なバストは確認済のセクシーな肢体に、新の原型を留めぬ美少女ぶりだった。

「女性になるとなんでか超ベッピンさんになるんや、今回もなかなかの美少女っぷりやったなぁ」


「本来はお祖父さんが亡くなった時、お父さんに引き継がれるはずやったんやけど、イレギュラで新に来てしもたんや……、難を逃れたお父さんとお兄さんは小躍りして喜んでたらしい」

「そんな薄情な」

「ま、本音やさかい、しゃーないやろ、けど呪いを受け継いでくれた新には頭が上がらんらしい」


「それで新は刑事の仕事も続けられへんようになって、お祖父さんがしてた七瀬家の運転手を継ぐことになったんや」

 平凡に見えた青年がそんな秘密を抱えていたと知り、流風は気の毒になった。

 それにしても重賢の話し方だと悲劇に聞こえない。


「さぁて、菫さんに謝りに行かな」


   つづく


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