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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第3章 琥珀
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その10

「ほんと、酷い目に遭ったわね、何もかも燃えちゃって、大切な物もあったでしょうに、1つも持ち出せなかったなんて、わたくしだったら発狂しているわ」


 七瀬家のリビングで、菫は理煌にピタッと寄り添いながらしゃべっていた。

 住居を失った理煌は、当面、七瀬家に滞在することになった。

 座り心地がいいはずの高級ソファーも、今の理煌には座っているのが苦痛だった。

 その向かいで真琴は同情半分と、どんな反応を示すか興味半分で眺めていた。


「もしこの家が燃えたらって考えると……、この家には掬真さんとの思い出がいっぱい詰まってるし、わたくしの出演作品コレクションや、衣裳だって、どれもこれも思い入れ深いし、すべて灰になってしまうなんて、想像しただけで失神しそうだわ」


 失神してくれれば、このお喋りから解放されるんだけど、と、理煌は心の中でボヤキながらも、愛想よく聞いていた。


「なにはともあれ、怪我がなくて良かったわ、綺麗な顔にやけどの痕なんか残ったら大変ですもの、それにしてもあの二人、なんて酷い人たちなのかしら、放火して逃げるなんて」


 あの二人、とは、英美と瑛太の親子である。

 焼け跡から遺体は出なかった。理煌の炎で骨まで残らず灰になったのだろう。

 火の気のない地下書庫からの出火だったので、放火が疑われ、直後から行方不明の親子に疑惑の目が向けられていた。


 もちろん事実は違う。

 しかし真実を知っていても、真琴たちは口を噤むしかなかった。


「清宮さんに聞いたけど、今まで散々灯子さんのお世話になってたそうじゃない、まるで寄生虫よね」


 瑛太は心の闇に付け込まれ、魑魅魍魎ちみもうりょうに寄生されて自滅した。

 そのことはまだ菫に説明していなかった。と言うより、話す機会を与えてくれないのだ。


「やっぱり隠し金庫はあったのね、どれだけ盗んだかわからないけど、高飛びしたって、きっとどこかで捕まるわ」


「理煌ちゃん、必要なものがあったら、なんでも言ってね、自分の家だと思って、遠慮なんかしなくていいのよ」

「ありがとうございます」

 理煌は飛び切りの愛想笑いをして見せた。


「あら、もうこんな時間、行かなきゃ、真琴、あとは任せるから」

 菫は慌ただしく退室した。


「いつも、あんな調子?」

 理煌が呆気にとられながら言った。

「すぐ慣れる」

 真琴はそう言ったが、

「いいや、慣れへんで」

 突然現れた那由他が言った。


「ズルいなぁ、いつもお祖母ちゃんの話が終わった頃に現れるんやもんなぁ」

「嫌いやないけど、あのお喋りは苦手や」

「で、誰?」

 火事の時、忽然と消えたので聞けなかったことを理煌は改めて尋ねた。


「あたしは那由他、銀杏の妖精や」

 那由他は誇らしげに答えた。

「妖精? フェアリー?」


「1200年前、邪悪な物の怪により都が、日本が滅亡の危機に陥った時、強力な法力を持って戦った高僧の生まれ変わりを探す為、霊木大銀杏に命を与えられたんや」

「……て、サラリと言われても、全然わからないわ」

 理煌は困り顔で真琴を見た。


「どうもアンタは、火を操る能力を持つ仁炎じんえんの生まれ変わりのようやな」

「理煌が?」


「そうか! あの時、琥珀が見たんは、理煌の前世の記憶やったんか!」

 琥珀が突然、真琴の真横に現れた。

「近い!」

 真琴は顔をのけ反らせた。

「まったく、鳥系妖怪は突然現れるのが十八番おはこか」


 琥珀は気にせず、

「法衣をまとった理煌が、炎を操って戦う姿が見えたんや」

 記憶にない理煌は眉間に皺を寄せて思い出そうとしたが、

「あの時は夢中で、なにも覚えてないわ」


「ま、そのうち思い出すやろ」

「でも、思い出してどうしろと?」

「今はまだ、なにも」


「けど……那由他が待ってた生まれ変わりが、また現れたってことは」

 真琴は表情を曇らせた。

「1200年前に封印した化けもんが、復活する兆しが濃くなったってことか?」


「なんか、よくわからない話だけど、厄介事に巻き込まれるのはゴメンよ」

「それは無理やな、あんたの宿命なんやし」

「宿命……?」

 理煌はその言葉に魂が揺さぶられるような感覚を覚えた。


「大丈夫、何があっても琥珀がついてるし」

 不安そうな理煌に、琥珀はニッコリ微笑みかけた。


   第3章 琥珀 おしまい


第3章 琥珀を最後まで読んでいただきありがとうございます。

まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします。

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