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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第3章 琥珀
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その7

「待って!」

 華埜子は理煌を追って廊下へ出た。


 廊下の真ん中に理煌は佇んでいた。

 逃げた琥珀、追った真琴と流風の姿は消えていた。


「なんなん? あの人たちは……」

 追いついた華埜子は、なにが起こったのか把握できずに呆然としている理煌に駆け寄り、まだ額に貼り付いている護符を取った。

「心配ないよ、理煌さんに取りついていた物の怪は離れたし、二人が退治してくれる」

「琥珀は物の怪(ちゃ)う、友達よ!」

 理煌の叫びに、華埜子は身を竦めた。

「えっ?」

 大きな目をクリクリさせながら、華埜子は両手で口を押さえた。

「大変! そうならそうと、はようてくれな」

「いきなり飛び掛かったのは誰よ」


「真琴はいつも早とちりやし、流風は妖怪退治の専門家なんや、つい反応してしもたんやと思う」

 華埜子は苦笑いで誤魔化すしかなかった。

「凶暴な人たちね!」

「確かに……」


「どこ行ったんやろ」

 二人は周囲を見渡した。

 一方は行き止まりの壁、もう一方は玄関ホール、当然、逃げるとしたら玄関だ。

 理煌は玄関ホールに行こうとしたが、


「あれれ?」

 華埜子は反対の壁に向かって歩き出した。

「そっちは行き止まり……」

 引き寄せられるようにそちらへ向かった華埜子の様子が奇妙だったので、理煌は思わず釣られて後を追った。


 華埜子は突き当りの白い壁に手を伸ばした。

 すると、その手は無いはずのドアノブを掴んだ。


 ガチャッ!

 ノブが回る音とともにドアが現れた。


「えっ?」

 理煌は驚きのあまり、ポカンと口を開けたまま言葉が出なかった。

 華埜子はかまわずドアを開けた。


 ドアの向こうには下りの階段があった。

 躊躇なく入ろうとする華埜子に、

「待ってよ」

 理煌は手首を掴んで止めた。

「こんな所に階段なんて、変よ、14年この家にいて、そのドアに気付なかったのよ、ありえへんでしょ」

「広い家やしな」

「そう言う問題(ちゃ)うけど」


 階段を見下ろすと、微かに灯りが見えた。

「地下室みたい、琥珀ちゃんが隠れてるんかも」

 華埜子は階段に歩を進め、理煌もへっぴり腰でそれに続いた。


「なあ、痛いねんけど」

 いつの間にか、華埜子の手首を握る指に力が入っていたのに気付いた理煌は、

「あ、ごめんなさい」

 慌てて緩めたが、湧きあがる恐怖感から放す気にはなれなかった。


 階段を降り切ると、またドアがあり、灯りが隙間から漏れていた。

「お邪魔しま~す」

 ノックもせずに、華埜子はドアを開けた。


 そこは壁一面本棚が並ぶ書斎だった。

 中央にはテーブルとソファーがあり、くつろげる空間になっていた。


「こんな部屋があったなんて……」

 驚く理煌にかまわず、華埜子はさっさと入って部屋を見渡した。

「難しそうな本ばっかり」

 理煌もようやく華埜子の手を放し、本棚を見上げた。


「もしかしたら、ここに隠し金庫があるのかも」

「そこにセリーナの涙も?」


ちゃうで」

 そう言いながら現れたのは琥珀だった。


「琥珀!」

 理煌は思わず駆け寄った。

「怪我は?」

「大丈夫、けど、ビックリしたなぁ」

 琥珀は苦笑いしながら華埜子に視線を流し、

「アンタの友達、えらい凶暴やな」

「ゴメン、でも無事で良かった」


「それにアンタも、まやかしの壁を見破るなんて……、何モン?」

「何モンって言われても……」

「琥珀が隠してたの、この部屋!」

「うん」

「酷いじゃない! 理煌にも内緒なんて」

「ゴメン、琥哲の秘密部屋やったし……、それに理煌は知らん方が安全やと思て」

 琥珀は一冊のストックブックを広げた。


 そこには切手が整然とコレクションされていた。

「これが隠し財産や」

 華埜子も覗き込んで、

「どういうこと?」

「わからへんの? きっとどれも希少価値の高いモンばかりや、何百万、何千万、億のモノもあるかも」

「え~~~っ、これが?」

 華埜子はさらに顔を近付けて見た。


「切手だけじゃないわ、きっと古書もそうだわ」

 理煌はドサッとソファーに腰を埋めた。

「この部屋そのものが隠し金庫だったのよ……、これらを眺めて、自己満足に浸ってたんでしょうね、お祖父ちゃんは」

「それはちゃうで、琥哲は暇さえあれば琥珀たちが待ってる離れに来てくれてた、いっぱい遊んでくれたんや」


「火事の時かて、琥哲一人なら逃げられたかも知れへんのに、琥珀たちを放っておけへんかったんや」

「あんたはインコさんやの?」

 華埜子の方が小鳥のように小首を傾げた。

「そう、パイドのセキセイインコやったんや、あの時、セリーナの涙のパワーを授かって」


 琥珀はTシャツの襟ぐりを下げて胸元を見せた。

 そこにはルビーがはまっていた。


「あら、ウルトラマンみたい」

 華埜子の言葉に理煌は呆れた。

「あのねぇ」


 同時に、こんな奇妙奇天烈なことをすんなり受け入れている柔軟さにも驚いた。琥珀が理煌の前に現れた時、信じるまでかなりの時間を要したから……。

 この子は単純すぎるのか? それともこの手の怪事件に多々遭遇しているのか? と理煌は判断しかねていた。


「セリーナの涙は呪いの宝石なんかじゃなかった、呪いの話しには続きがあるんや」

 琥珀が話を続けた。


「血の涙が宝石になった、それは美しいルビーだったが不気味で、審問員たちはそれを火に投じた。すると中から火の鳥が現れ、火の粉をまき散らしながら上空を飛び回って町は全焼した。多くの犠牲者を出し、セリーナは復讐を遂げたんや。焼け跡からセリーナの涙は見つかり、今度は呪いを鎮めるために、大司教が祈りをささげて浄化した。だからお守りなんや」


「琥哲はこれを琥珀にくれた。自分の命より、ちっぽけな小鳥が助かることを望んでくれたんや」

 琥珀の目から大粒の涙がいくつも零れ落ちた。それは宝石のようにキラキラと美しかった。


 ズズズっと、鼻を啜る音に横を見た理煌は、琥珀以上に号泣している華埜子を見て、この子は単純バカなんだと確信した。


「琥珀は琥哲の大切なものを守ろうとしたんや、けど、理煌のお父さんは守れへんかった、だから理煌は絶対守る」

 華埜子は目を真っ赤にしながら、

「灯子さん、誤解してたんやな、この家がセリーナの涙に呪われてるなんて」

「そう、呪いなんかじゃない」

 琥珀の目がキラリと光った。

「すべて人間の邪悪な心が引き起こしたんや」

「えっ?」


 その時、階段を下りる足音がした。

「真琴たちやろか?」


ちゃう!!」


   つづく


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