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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第3章 琥珀
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その6

「あれはなんや、えらい逃げ足速かったけど」

 破壊されたドアから飛び出した真琴と流風は、廊下を見渡した。


 すでに琥珀の姿はなかったが、一方は突き当りで壁、もう一方は玄関ホール、逃げるなら当然ホールに決まりだ。真琴は迷わずそちらへ向かった。


 吹き抜けの広い玄関ホールは入って来た時と変わりなかったが、外へ出たのかも知れないと、玄関に向いたその時、言いようのない悪寒が真琴の腕に鳥肌を立たせた。


 真琴はシャンデリアを見上げた。

「なんや?」


 流風の背筋にも冷たいモノが走った。

 二人は顔を見合わせ、階段に方向転換した。


 シャンデリアを取り巻くようにカーブを描いて上へと続く階段を上り切ると、不快感はさらに強まった。

 強烈な妖気を発している部屋はすぐにわかった。

 ドアの隙間から目には見えないが悪臭とともに漏れ出ている。


「さっきの奴とは違うな」

 二人はドアの前で止まった。

「どうなってるんや家? 何匹もの妖怪に巣食われてるんか」

 真琴は問題の部屋のドアに手をかけながら、

「アンタは引っ込んどき、中にいるのは」

 流風を下がらせようとしたが、流風も引かない。

 そんな流風を横目に、真琴はドアを開けた。


「うっ!」

 酷い悪臭に、二人は思わず腕で口と鼻を覆った。

 そして、異様な光景に顔をしかめた。


 瑛太はまだ人間の姿を保っているものの、白目がない真っ黒な目と、頬まで裂けた口はピラニアのようなギザギザの歯が並んでいる。それは肉を食いちぎって血に染まっていた。


 食事の最中だったので、瑛太は二人の入室に気付かなった。

 食べていたのはさっき殺した母親の英美だった。内臓をえぐり取って食べていたので、頭部は残り、真琴と流風にもそれが年配の女性であることがわかった。


 助けるには遅すぎる、でも、このまま食わせておく訳にもいかない。

 今回は流風の手が早かった。

 針剣が瑛太の右目に命中した。


「ぎゃあぁぁ!」

 瑛太は英美の死体を放り出して、激痛に目を押さえた。そして無事な左目で二人を認識した。次の瞬間、瑛太の背中からイカの触腕のようなモノが飛び出し、鋭利な槍となって襲いかかった。


 真琴が変化した爪で切り捨てた。


 しかし2本では済まなかった。

 次から次と触腕が伸びて矢継ぎ早に攻撃してくる。流風も短刀で応戦したが、切っても切っても限がなく、二人はジリジリと後退を余儀なくされた。


 その時、


「あっ!」

 真琴の体が突然、後方に傾いた。

 あるはずの床がなく、足を踏み外したのだった。


 反射的に真琴は流風の手を掴んで助けを求めたが、不意を突かれた流風も堪えきれずに二人揃って落下した。


 なぜこんな所に穴が開いていたのかわからないまま、二人は底の見えない穴に吸い込まれた。



   *   *   *



「キャァァ!」

 思わず少女らしい悲鳴を上げた真琴は変化する間もなく底に着いたようで、背中を強打した。おまけにその腹部に流風のお尻が乗っかってダブルショックに見舞われた。

「うっ……」


「おや、お前たちは」

 聞き覚えのある声に見上げると、

「大事ないか?」

 霞の美しい顔がアップで現れ、真琴は目を丸くした。


 なんでアンタが? と聞きたがったが、その前に、

「どいてぇな」

 流風を退かせるのが先だった。


 そこは何もない真っ白な空間だった。

 白い霧に包まれているようだった。


「お前たち、こんな所で何をしておるのだ?」

 霞のゆったりと呑気そうな様子に、真琴はイラッとし、

「それはこっちが聞きたいわ、落とし穴なんか掘って」

「お前たちが勝手に落ちて来たのだろ、我らの行く手を阻みおって」

 霞はキッと二人が落ちて来た上方を見上げた。


「閉じたのか?」

「はい、悪臭が充満してたんで、霞様が不快に感じはると思いまして」

 貉婆が答えた。

「だが、行かねば成敗できんぞ」

「ごもっともで」


 霞と貉婆の会話に、真琴と流風は顔を見合わせた。

「なんの話?」


「我らは我山の可愛い動物たちを食い散らかしているやからを追って来たのだ」

「動物で飽き足らず、とうとう人間を犠牲にしたんか」

「真琴はそいつを知っておるのか?」

「知ってるもなにも、今、その化け物と一戦交えてた最中やったのに、こんなとこに穴開いてるやもん」


「ではここにおるのだな」

「かなり厄介モンやで」

「わたしを誰だと思ってるのだ」

 霞はツンと顎を上げながら、貉婆に視線を流した。

「では、行くか」

「はい」


 貉婆が宙を両手で観音開きするような仕草をすると、外部の光が差し込んだ。

その向こうに見えたのは、さっきまで真琴と流風がいた部屋だった。そこには化け物と化した瑛太がいるはず。

 真琴と流風は臨戦態勢を取った。


 貉婆は両手をいっぱいに広げ、空間をこじ開けた。





 四人は部屋の中央に出た。

 が、

 そこは無人だった。

 食べかけの死体だけが残されていた。


 霞は英美の死体を見下ろした。手足がもがれ、もはや人間の形を成していない無残なモノだった。

「で、どこにおるのだ?」

 真琴と流風を見るが、二人共首を横に振った。


「逃げたのか?」

「あ……」

 真琴の顔から血の気が引いた。

 そして、部屋から飛び出した。


   つづく


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