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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第3章 琥珀

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その4

「灯子さんから菫さんのお噂はいろいろ伺っていたんですが、予想外の……、なんと言いますか」

 清宮は驚きと困惑が入り交じった様子で、柊家を訪問した三人の少女を出迎えた。


「でしょうね、まさか本人が来ないでこんな子供たちをよこすなんて、非常識だと思われても仕方ないですよね」

 真琴は恥ずかしそうに苦笑した。


 菫に命じられるまま、真琴、流風、華埜子は、朝早く柊家を訪問した。


 柊家は灯子の夫である琥哲が起業して一代で築き上げた、いわゆる成金である。それらしく、屋敷も贅を尽くした派手な外観の洋館だった。

 高い門扉を見上げながら、真琴は重い気分でインターフォンを押した。

 自動で開いた門から豪邸の玄関までは小道が続き、手入れの行き届いた芝生と、美しい花が咲き乱れる花壇に囲まれていた。


 玄関先で出迎えた清宮は、思いもよらぬ訪問者に一瞬、言葉を失った。当然、菫が来ると思っていたのだろう。


「とにかく中へ、理煌さんも待っていますから」

 吹き抜けの玄関には巨大なシャンデリア、高価そうな陶磁器や絵画で飾り立てられたホールを抜け、三人は応接室へ案内された。


 中で待っていた理煌も、入室したのが自分と同じ年頃の少女たちだったのを見て、えっ? と言う顔をした。


「はじめまして、柊理煌です」

 自分が人の心を動かす容姿であることを自負している理煌は、驚きを隠してとびきりの笑顔で三人を迎えた。相手が誰であれ、第一印象は良いにこしたことはない。


「七瀬菫の孫の真琴です。こちらは友人の堤華埜子と綾小路流風です」

 紹介された華埜子はにこやかに、流風は無表情のまま会釈した。


「でも……、今日は菫さんにお会いできるものと思ってたんですけど」

 座るなり、理煌は作り笑いのまま切り出した。

「実は」

 真琴は昨日、菫に言われたことを伝えた。


 黙って話を聞いていた理煌は、突然、堪えきれずに笑い出した。

「まさか呪いなんて、ホントに信じてらっしゃるんか?」

 理煌はつい、バカにしたような眼差しを真琴に向けた。


「なにより、灯子さんがそう思ったはったんやし、祖母に頼んだんちゃうの? こんな厄介事、こっちも迷惑なんやけどな」

 理煌の態度にムッとした真琴は、つい強い口調で本音を口にした。

 止められなかった華埜子は、しまった! と渋い顔をした。


 流風は冷やかに様子を窺っていた。

 おぼろげな危機感が真琴の中に半分流れる妖怪の血を刺激して、苛立たせているのだろうと流風は思っていた。この家に来た時から、確かに存在している得体の知れない恐怖のようなものを、流風も感じていたから。


「無駄足踏ませて申し訳ありませんが、セリーナの涙なんて、この家にはありませんし、お引き取り願いましょうか」

 理煌は愛想笑いも忘れて、冷ややかに言った。


 横柄な態度にカチンときた真琴は、

「そうは行かへん、見つけたるわ」

「だから、そんなモノありませんって、祖父が亡くなった時、一緒に燃えたんです」

 理煌は腹立たしさを堪えながら、努めて声を押さえて言った。


 そんな彼女を見て清宮は少し驚いた。

 理煌が感情を顔に出し、思ったことをそのまま口にするところを見たことがなかったからだ。いつもは本心を隠して笑顔を崩さず、相手の出方を観察してから、やんわりと否定するのがやり方だったから。


「じゃあ、なんで、灯子さんは探してほしいってうてきたんや」

 真琴は引き下がらない。

「病気で鎮痛剤を使ってたし、頭、変になってたんですわ」


「セリーナの涙はあるよ」


 唐突に口を挟んだ華埜子の一声に、一瞬、室内の空気が緊張した。


 華埜子に注目が集まった。

 華埜子は焦点の合わない目で宙を見つめていたが、ハッと我に返って瞬きをした。


「なんでそう思うの?」

 理煌は華埜子を覗き込むようにして見た。

 華埜子は困ったように、ただ小首を傾げた。

「なんでやろ……」

 続く言葉が見つからない。


「話になりませんわ」

 理煌は不快感を露わに立ち上がった。


 流風はそんな理煌を真っ直ぐ見つめた。いいや、理煌の背後に控える何かを見極めようとした。……しかし見えない。

 流風は素早くポケットから出した小さな護符を理煌の額に貼った。


 奇妙な行動に、理煌は一瞬、キョトンとしたが、

「な……なにするの」

 怒りに震える理煌の額から血管が浮き上がり、ヒクヒクと波打った。


 その時、


「あ……」

 華埜子が目を丸くしながら指差した。


 理煌の背後に琥珀が姿を現していた。

 次の瞬間、


 真琴がテーブルを踏み台にして、理煌を飛び越え、琥珀に飛び掛かった。


 琥珀は後方にジャンプ!

 真琴の爪からかろうじて逃れた。


 空振りに終わった真琴は床に着地し、鋭い爪は絨毯を裂いた。琥珀を睨み上げる瞳は金色に煌めき、口から牙がはみ出ていた。


 同時に流風の針剣が琥珀に襲いかかった。バク転で交わしたが、勢い余ってドアをぶち破った。


「なんや?!」

 ようやく異変に気付いた清宮が振り返った。

 真琴と流風の動作があまりに高速だったので、ドアが破壊されるまで見えなかったのだ。


 しかし、清宮がドアの方に振り返った時、すでに琥珀は逃走、真琴と流風も追って行ったので、そこに姿はなかった。


「……」

 訳がわからず、呆然とする清宮と同じく、理煌も事態を把握していなかった。

 残された華埜子が、

「大丈夫、理煌さんに取りついてた呪いは、二人がやっつけてくれるし」

 と、笑みを向けた。


「え……」

 理煌は青ざめ、

「アカン!」

 隣でまだ呆然としている清宮を押しのけ、壊れたドアから飛び出した。


「理煌さん!」

 清宮は追おうとしたが、押されてバランスを崩していた為、足がもつれて倒れ、テーブルで頭を打つ不運に見舞われた。


   つづく


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