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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第2章 霞
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その10

「落雷による山火事で、遺跡は全て焼失した、やて」

 華埜子が新聞を広げながら言った。


 この日も真琴と共に重賢の見舞いと称して悠輪寺の庫裡へ来ていた。


「菫ちゃんショック受けてるんちゃう? もうあそこに別荘建てるのは無理やろ」

「大丈夫、山の別荘はすっかり過去になってる、今度は琵琶湖畔に建てるって、今日も探しに行ってるわ」

「それは良かった」

 ちょうどお茶を運んできた重賢が言った。


「もうすっかりイイんやね」

 重賢もテーブルに着きながら、

「ああ、霞が治してくれたんや、お詫びやって、珠蓮も全快や」


「お詫びって……、何人も殺しといて、それで済ますの?」

「本人もかなり落ち込んでるしなぁ」

「まだ墓の前に?」

「三日間、ずっと立ちっぱなしや」


 あの夜、戦いの末、やっと目を覚まして正気に戻った霞だったが、永い間待ち続けた愛しい人の生まれ変わりが女であることにショックを受けた。


「なんか、わかるような気がするわ、霞ちゃんは乙女やったんや」

 華埜子は同情するように言った。

「乙女? あんな化け物が?」

「外見と中身は違うもんや、一途に智風さんを愛してたんや」

 胸の前で手を組み、いにしえのロマンスに酔っている華埜子を見て、真琴は呆れた。


「人間に多大な害を与えたんやで、さっさと封印してしまいーな」

 重賢に訴えたが、

「そう言う訳にもいかへんのや」

「なんで?」


「那由他の話によると、1200年前、邪悪なモノにより都が、いや日本が滅亡の危機に陥った時、強力な法力を持って戦った高僧たちに協力した妖怪らしい」

「恋しい人の為やろ」

「理由はどうあれ、貢献したことに変わりはない、あのパワーやしな」


「それにしても那由他の奴、そんな大事なこと、なんですぐに思い出さへんねん」

「那由ちゃんらしいやん」

 華埜子は笑った。


 しかし、重賢は厳しい表情。

「けど……那由他が待ってる生まれ変わりが、本当にあの子やったら」

 真琴も眉をひそめた。

「1200年前に封印した化けもんが、復活する兆しってことか?」

「そうでなかったらエエけど……」



   *   *   *



 5つ並んだ墓石の前に、白い着物姿の霞が立っていた。

 伏せたまつ毛は涙に濡れ、哀愁を漂わせた姿は儚く美しかった。


「いつまでそうしてるつもりや」

 横に現れた那由他が声をかけた。

「……何があったのだ、あの後」

 霞は刺すような視線を那由他に向けた。


「勝利はゆるぎないものだった。だからわたしは先に戻ったのだ。都に残る雑魚を一掃するために……、なのになぜ、皆が命を落とすようなことになったのだ」

 那由他は答えず、白々しく視線を逸らした。

「まあよい、流風の記憶が戻ればわかること」


「あの子が智風なんは、確かやんなぁ?」

「わたしが間違えるはずない、お前も見ただろ? 風を操る能力ちからを」

「けど、本人はそんなはずない、って言うんや」

 那由他は残念そうに息をついた。


「前世で徳を積んだ人間は、来世で幸せになれるって言うやん、自分が徳の高い僧の生まれ変わりやったら、こんな身の上は変やって」

「不幸なのか?」

「そうみたい」

「でも、これからは私が守る」

「えっ?」


 振り向いた霞の顔は何かが吹っ切れたように晴れやかで、決意が漲っていた。


「あの子がちゃんと天命を全うすれば、また輪廻の輪に入る、今度、転生する時はきっと男だ、あの凛々しい智風のような」

 霞は幸せそうに微笑んだ。

「その時まで、待つことにする」


「気の長いお話で……」


   第2章 霞 おしまい


第2章 霞 最後までお読みいただきありがとうございます。

第3章へとつづきますので、これからもよろしくお願いします。

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