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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第2章 霞

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その9

 珠蓮はジャンプして木の上に逃れたが、大蛇の牙はその木を噛み砕いて倒した。

 珠蓮は放り出されて地面に転がった。


「重賢さんの話しより、デカない?」

「人食って成長したんちゃうか?」

 真琴と瑞羽は高みの見物。

 真琴の胸にモヤモヤと湧く奇妙な違和感が、助けに行くのを躊躇させた。


「ちぇ、病院の時の倍、いや3倍かよ」

 もちろん珠蓮も大蛇の成長に気付いている。妖気も大きさに伴って倍増していた。その上、大蛇の口からまき散らされる瘴気が珠蓮の動きを鈍らせた。

 大蛇の長い尻尾が珠蓮の足を捉えた。


「くそっ!」

 もがく珠蓮の体は、何度も地面に叩き付けられた。


「ヤバいんちゃう?」

 瑞羽が心配そうに言った。

 あそこまで妖力を取り戻した大蛇に、珠蓮一人では無理だ。このままでは鬼といえども殺されてしまうかも知れない。

「どうしたん真琴! 見殺しにするつもりか!」


 瑞羽の叫びが耳の奥でこだましたが、真琴は動けないでいた。

 大蛇の瘴気に侵されたわけではない、なのに動けない自分が理解できなかった。頭では助けに行かなければならないとわかっていた。

 でも、本能が邪魔をする。今、自分が出てはダメだと……。


「見てられへん!」

 動かない真琴に業を煮やし、瑞羽は木から飛び降りた。

 着地と同時に衝撃を和らげるために前方へ一回転、膝を着いて身を低くしながら体勢を整えた。


 続く動作で護符を掲げた。


 護符から放たれた光が大蛇の目にも入った。


 大蛇は珠蓮を放り投げると、牙を剝きながら護符ごと瑞羽を飲み込む勢いで向かって来た。

 瑞羽は歯を食いしばって恐怖に立ち向かい、護符を投げたが、同時に後ろから回り込んでいた長い尻尾の直撃を受けた。


「キャッ!」

 弾かれた瑞羽の体が宙に舞った。

「瑞羽!」

 人間はあの状態で木に叩き付けられたら即死間違いない。真琴の体がビクッと動いたが、それより早く、瑞羽の体が消えた。


 次の瞬間には、真琴の横に那由他と共に現れた。


 護符は大蛇の胴体に貼り付いていた。


「外してしもた! 頭でないと封じられへん」

 瑞羽は悔しそうに身を乗り出したが、那由他に止められた。


 大蛇は護符を振り払おうとのた打ち回った。

 巨体が地面に、大木に当たる度、地震のような衝撃が、三人が登っている木にも伝わった。このまま暴れ続けたら近くの集落にも被害が及ぶだろう。


 気は乗らないが、自分が行くしかないのか、と真琴は枝を蹴った。


 空中で変化して、着地した時は美しい獣になっていた。

 月明かりを浴び、真琴の毛はいっそう金色に輝いていた。


 大蛇の首を切り落とすべく、真琴は前足を上げ、鋭い刃のような爪を振り下ろそうとした。その時、


「ダメ!」


 凛とした叫びに、真琴は手を止めた。


 そこには流風が立っていた。


 雑魚妖怪の老婆が消えると、流風るか現世うつしよに戻った。

 そして、そこは戦いの真っただ中だった。


 真琴からすれば、どこから現れたのかは知らないが、あと一瞬、手を止めるのが遅かったら、流風の体を真っ二つにしてしまうところだった。


「アホかアンタは!」

 叫ぶ真琴を、流風は鋭い眼で制した。

「……?」

 真琴は訳がわからず固まった。


 なぜか大蛇も動きを止めていた。


 流風はゆっくり大蛇に振り返ると、流風は護符をはずそうと手を差し伸べたが、大蛇は牙を剝いて威嚇した。牙から放出された毒液が流風の手にかかり、皮膚を焦がした。

「うっ」

 流風は顔を歪めたが、手は引っ込めなかった。


「死にたいんか!」

 真琴が一歩踏み出そうとしたが、その前に那由他が立ちはだかった。

「なに?」

「やっと思い出したんや」

 那由他は真琴を見上げた。


「ずーっと喉の奥に骨が引っかかってるみたいで気持ち悪かってんけど、やっと思い出した」

 そして、威嚇を続ける大蛇に向き直った。


 流風は大蛇と対峙して、手を差し伸べていた。

 大蛇を見上げる流風の眼差しは穏やかで優しかった。

 それを見た真琴は、この子にこんな表情が出来るのだ……と意外に思った。


 木の上にいる瑞羽も同様、困惑しながらも見守るしかない。

「あの子はいったい、何者なん?」


 しかし大蛇は混乱しているようだった。

 首を振り、牙を剝きながら夜空に向かって大口を開けた。


 すると上空に稲妻が走った。


 !!

 那由他は一瞬にして姿を消した。

 続いて瑞羽、倒れていた珠蓮じゅれんも姿が消えた。


 間を置かず、巨大な光の玉が轟音と共に落下した。

 周囲は眩い光に包まれた。


 凄まじい爆発が地上で起き、木々はなぎ倒され、雑草と共に石や土が吹き飛ばされた。


 化け猫に変化へんげしていた真琴は身を屈めて衝撃をしのいだ。


 光がおさまった時……。


 大蛇の正面に小さな竜巻があった。


 その中心に流風の姿がわずかに見えた。風のバリアに守られた流風は爆発の影響を受けることなく立っていた。


 現れた那由他は目を凝らしてそれを見た。

 横には消えた瑞羽と珠蓮も戻っていた。


「あの子、いったい……」

 瑞羽の呟きに、

「見―つけた!」

 那由他の顔は喜びにほころんだ。


 しかし、大蛇は再び牙を剝いた。

 竜巻の風が静まり、流風の姿がハッキリした。

 その姿はやわらかな光に包まれているように見えた。


「目を覚ましなさい、かすみ

 流風の声に大蛇の巨体がビクッとした。


 流風はゆっくり近づいて護符を外した。

 大蛇の体から緊張が取れ、その眼から攻撃色が失せた。

「思い出すのよ、約束を」


 霞は口を閉じた。


 霞の目に、流風と智風ちふうが重なって見えた。


 そんな霞の前に、アルビノの雀が飛んできた。

 霞の周りを旋回した後、頭に止まった。


 霞の体は小さくなり、そして白い着物を着た美しい女性に変わった。

 その指には雀に姿を変えた那由他が止まっていた。


「おはよう、那由他」

 霞は那由他に清々しい笑顔を向けた。


 それを見て、流風はガックリ膝をついた。

 霞の毒液を受けた腕をダラリと下げ、苦痛に顔を歪めた。


「流風!」

 人間の姿に戻った真琴が駆け寄った。怪我を見て、

「こりゃ酷い」

 顔をしかめた。毒の直撃を受けた部分から紫色に爛れ、右手全体が腐食し始めているようだった。


 霞はゆっくり近づくと、真琴を押しのけ、流風の傷に手を当てた。

 たちまち流風の顔から苦痛が消えた。

「毒は抜いた、すまなかったな」

 と言いながら、流風の顔見てハッとした。


 白い肌が驚愕の青に染まった。目を見開き、信じられないと言った様子で口を押さえ、ヨロヨロと後ずさりしながら、

「なぜ……?」


「なぜ女なのだ!」


   つづく


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