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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
第2章 霞

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その4

 運動神経とドライブテクニックは比例しないのだと、流風るかは実感した。


 カーブの多い山道で運転しにくいだろうが、何度、ガードレールを突き破って転落すると思ったか……。流風はヒヤヒヤしながら助手席で足を踏ん張っていた。

 目的地に到着する頃には、今にもゲロしそうになっていた。


「あら、車酔いする体質なん? 三半規管鍛えな」

 瑞羽みずはの言葉に、

(いやいや、誰でも気分悪くなるし!)

 流風は心の中で突っ込みながら苦笑いした。


 渋滞で進めなくなり、途中から徒歩になったので、流風は命拾いした気になった。

 遺跡発掘調査が行われている現場のはずが、様子が明らかに違うことに二人はすぐ気付いた。


「何かあったんですか?」

 瑞羽が近くにいた地元民らしい老婆に尋ねた。

「事故で、何人か亡くなったらしいで」

「事故? どんな?」

「さあ……」

 ここからでは状況がわからない。

 ニュースで確認しようにも、スマホは圏外だった。


 瑞羽と流風は顔を見合わせた。

 野次馬とマスコミ関係者が入り乱れて近づけない。パトカーが止まっている所が事故現場なのだろうが、ブルーシートしか見えなかった。

 その時、


 突然、喧騒が消えた。


 横にいる瑞羽が蝋人形のように固まった。

 話の途中で口を開けたまま、もちろん目も開いたまま、瞬きもなし。

「瑞羽さん?」

 声をかけても無反応。


 周囲の人々、全ての動きが止まっている。

 流風は何が起きているのか解らず困惑した。


 音もなく静の世界。


 なぜ、突然?

「遺跡と関係があるの?」


 遺跡発掘現場の方に目をやった。

 止まった人々の隙間にブルーシートが見える。そして、


 華埜子かのこと目が合った。


 静寂の中で発した流風の呟きを聞いた華埜子がこちらを向いたのだ。

「あらら」

 華埜子は小走りで、流風の方に来た。

「アンタも那由ちゃんの魔法にかからへんかったん?」


 流風は警戒して身構えたが、どう見てもただの中学生、不審なところはないようだ。

「ビックリしたやろ、でも怖がらんでもエエで」

「あなたは……」


 その時、華埜子の後方から妖気を感じ取った。

 流風は身を低くしながら、隠し持っていた針剣を投げた。


 それは驚く華埜子をかすめるようにして、後ろから来た那由他なゆたに、

 しかし、那由他が姿を消す方が早かった。

 目標を失った針剣は空を切り、那由他の後ろにいた真琴に。


 !!

 真琴は難なく素手で掴み止めた。


「危ないなぁ、誰かに当たったらどうすんの」

 ぼやく真琴に向かって、流風は短刀を構えていた。

「凶暴なヤツ」

 流風は睨み返して、

「お前はこの間の化け猫」

「お前呼ばわりされる筋合いはないで」

「まあまあ、落ち着いて」

 華埜子が間に入った。


「そんな物騒なモン持ってたら逮捕されるで、警察ウジャウジャいるんやし」

 流風の真横に現れた那由他が言った。

 ギョッとして、流風は身を引いた。

「近いって」

 その様子を見て、真琴は笑った。


 何? このユルイ雰囲気は……と流風は拍子抜けした。


「用は済んだし、戻すで」

 那由他が言い終わると同時に、喧騒が戻った。


 流風は慌てて短刀をポケットに押し込んだ。


「また会うと思ってたけど」

 真琴の言葉に流風は警戒心を露わに、

「なぜ?」

「そんな気がしただけ」


「真琴の予感はよう当たるんや」

 華埜子が真琴の横で人懐っこい笑みを浮かべた。

「あたしは堤華埜子、ノッコって呼んで」

 自己紹介され、流風も反射的に、

「綾小路流風、呼び名は別にないけど」

「じゃ流風ちゃん」


 そこへ瑞羽が駆け寄った。

「やっぱ、来てたんやな」

 四人の様子を見て、

「なんや、もう友達になったん?」

「はい」

 華埜子は迷わず笑みで答えた。


「ノッコは誰とでもすぐ馴染むしな」

 キョトンとしている流風を見て、

うてたやろ、面白い人たちが絡んでるって」

 流風は改めて真琴、華埜子、那由他を見た。


「知り合いなんですか?」

颯志さじお祖父ちゃんと、真琴んちの掬真きくまお祖父ちゃんは従兄弟なんや、そやしあたしらは親戚関係」

 妖怪退治を生業とする綾小路家の血族に妖怪がいるなんて……流風は違和感を覚えた。


「この凶暴な女、ちゃんと躾とかなアカンで」

 言いながら真琴は瑞羽に針剣を渡した。


「え? なんかあったん?」

 瑞羽は受け取って驚き、流風に視線を向けた。

 流風はバツ悪そうに目を逸らした。


「もうエエやん、怪我もなかったんやし」

 華埜子が言った。

「ま、あたしやったしな」

 真琴は横目で那由他を睨んだが、那由他は気にすることなく流風に向かって、

「アンタも気ぃ付けな、命がいくつあっても足りへんで、自分の実力把握しな」

「どう言う意味?」

「わかってるやろ、真琴にはかなわへん」


 流風は拳を固く握りしめた。悔しいが返す言葉はなかった。しかし、今まで無謀と思われる戦いも、なんとか切り抜けてきた自負もあった。


「そのへんで許したって」

 瑞羽が苦笑いした。

「あたし、教育係を仰せつかったし、よーく教えとくわ」


「ところで、何があったん?」

 瑞羽は人だかりの先にあるブルーシートを見た。

「どうやら、厄介なヤツを起こしてしもたようやな」

 那由他が他人事のように言った。


「六人もの人間の精気を吸い取って、逃走したみたい」

しずくおばあちゃんが見たモンかな」

「おばあちゃん、また予見したんか」

「真琴に会いたがってたで、真琴やったら鏡を見れるかも知れんって」

「嫌や、綾小路家とは関わり合いたないし」

「そう言わんと」


 流風は異常事態が起きていると思えるこの場面で、世間話のような会話を繰り広げるこの人たちは何なんだと、イラッとしていた。

「その厄介なヤツはどこへ?」


「あっ……」

 真琴が宙を見た。

重賢じゅうけんさんが危ない」


   つづく


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