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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
最終章 那由他
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その9

 脇目も振らず必死で戦い続けていた結音は、五人の異変に気付かなかったが、邪悪なモノから分離した妖怪の数が異様に増えているのを感じて、やっと周囲に注意を向けた。


 誰もいない。

「なんで! みんななにしてんのよ!」

 ふと、地面に横たわる五人と、人間の姿に戻って傍らに佇む真琴を発見した。

「え……」

 みんなやられたのか? と青ざめた。


(君も下がっていいよ)

 いつの間にか若い僧侶が横にいた。

 どこから湧いて出たのか、悠輪の存在を知らない結音は、警戒して身構えた。

「誰!」


(あとは任せなさい)

「そう言われても……」

 意味が解らす結音は困惑した。しかし、彼から滲み出る霊気が清浄であることはわかった。それも格が違う、強い霊力に当てられて体が震えた。

 本能がそうさせたのか、黙って従わなければならないと悟り、おとなしく距離を取った。


 それを見て、悠輪は穏やかに頷くと、静かに目を閉じた。

 五人の転生者から受け取った霊力が全身に染み渡るのを、五人の能力ちからが漲るのを確認するように拳を握り締めた。


 悠輪の身体が再び虹色の珠になった。

 雫から霊力を託された那由他も、シンクロするように発光して虹色の珠と融合した。

 それは神々しい光を放ちながら、邪悪なモノの本体に向かった。


 分離した妖怪たちが、牙を剥きながら珠に襲いかかるが、光に触れると浄化され、たちまち白い霧状になって飛散した。


 虹色の珠は巨大化を続ける邪悪なモノに接近した。


 理煌の烈火に焼かれてもなお再生し続けた黒と鼠色が混じったグロテスクな軟体物は、虹色の珠を見つけると――目があるかは不明だが、察知すると――さらに膨張して、珠に覆いかぶさった。


 悠輪は邪悪なモノの本体に包み込まれた。


「あっ!」

 状況を注視していた真琴が声をあげた。

 真琴があの中から救出したのに、また飲み込まれてしまうなんて! 震える唇を両手で押さえた。


「アレはなんなの?」

 退いて真琴の横に来た結音が怪訝そうに尋ねた。

 が、真琴に説明している余裕はなかった。五人の転生者の能力を合わせて完全に消滅させると言っていたのに、敵わなかったのか?


 その時、


 グロテスクな表皮を中から突き破って、一筋の光が飛び出した。


 続いて、もう一筋、さらにもう一筋。

 そして何本もの光が、邪悪なモノから続々と飛び出した。

 まるで、内部で爆発が起きたように……。





 人間の姿になった紫凰が雫を抱いて、真琴と結音の横に降りてきた。

 光の筋に、内部からズタズタにされていく邪悪なモノを茫然と見ていた真琴は、血だらけの雫に気付いて愕然とした。

「雫おばあちゃん!」


 雫は真琴の叫びに反応し、うっすらと目を開けた。

「なんでこんなことに!」

「羅刹姫に殺られんたんだよ、雫は油断した」

 紫凰が代わりに答えた。

「そんな……なんでおばあちゃんがこんなとこに入れたんやな」

「禁術を使ったんだよ、来る必要もなかったのにね」

 事情が解らず困惑する真琴に、

「そんなことより、ボーっとしてたらお前たちも浄化されてしまうんだよ」


「えっ?」

 真琴と結音は意味が解らずアホ面を並べた。

「あれは浄化の輝きなんだよ、妖怪はみんなあの光に触れれば浄化されてしまうんだよ」

「えーーっ!!」

 二人は揃って驚きの声をあげた。


「逃げなきゃ!」

「どこへや?」

 慌てふためく二人に、紫凰は小バカにした目を向けた。

「逃げる場所なんかないんだよ、雫にお願いするしか」

「お願いって、おばあちゃん大怪我やんか、そんな無理さしたら……」

「大丈夫や、お前らを護る力くらい、残ってるさかい」

 雫は苦しい息の下から声を絞り出し、口の端をあげた。


 雫は震える手を伸ばして印を結んだ。

 最期の力で結界を張った。





 邪悪なモノは、内部から溢れ出る光の筋に、苦しみ悶えてグニャグニャと変形し、取り込んでいた妖怪を次々吐き出した。

 光の筋は無数に増え、銀杏の森全体が――銀杏の木はすべて倒されて一本も残っていなかったが――光に満たされた。


 邪悪なモノから分離し出口を探して飛び回っていた妖怪たちは、光に触れるとたちまち白い煙になって飛散した。





 やがて輝きが収まった時、邪悪なモノの本体は消滅していた。


 そこには虹色の珠だけが浮かんでいた。


   つづく


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