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金色の絨毯敷きつめられる頃  作者: 弍口 いく
最終章 那由他

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その7

「真琴は……どうしたんや」

 真琴の妖気が突然消えたのを感じた雫は、傷ついた体をよじって下を見ようとした。


「動いちゃダメなんだよ」

 紫凰は慌てて、雫が落ちないようにバランスを取った。

 雫を乗せた紫凰は、少し離れた上空から、邪悪なモノに攻撃するみんなを見下ろしていた。


「真琴は黎子の中に入ったんだよ」

「なんやて! 吸収されたんか」

「大丈夫、真琴の半分は霊力の強い人間だからね、そう簡単に吸収されないんだよ、お前がいちばんよく知ってるだろ」

「ああ、なつめの娘だからね」


「真琴が産まれた時、棗から聞いたことがあるんだよ」

 真琴は紫凰にとって姪、人間との間に生まれた子供が、猫の姿か人間の姿か、興味があって見に行った。


「棗は子供の頃、鏡を見せられたそうだね、父方は綾小路の血筋だから」

「ああ、綾小路家は鏡の継承者を必死で捜してたしな」

 雫が高齢になり、後継者を望む声があがった。霊力の強い子供が次々呼ばれ、鏡の前に座ったが、見える者は未だに現れていない。


「あの子には見えたらしいんだよ」

「なんやて?」

「でも、お前の声も聞こえたらしいんだよ、たとえ見えても、見えると言うなと」

「確かに……、見える者なんか現れるなと願ってた」

 雫はいつも祈っていた。自分のような人生を強いられる子供が現れないようにと……。


「幼かった棗に意味は解らなかったけど、雫の心の叫びがあまりに切実だったから、そうしなければならないと思ったんだって」

 雫はフッと寂しそうに微笑んだ。

「そうか、棗には見えるほど強い霊力があったんか」


「大人になってから解ったらしいんだよ、あの時の意味が……。そして、感謝してたんだよ、もし、自分があの時、見えると言っていたら、真琴は産まれなかっただろうって」

「そうか、棗がそんなことを……」

 鏡を見る者になっていたら、綾小路家に閉じ込められて自由はなかっただろう。白哉と出会って恋に落ちることもなかっただろう。


「繋がっているんだよ」

 紫凰は邪悪なモノを見下ろした。

「お前は明子の転生者として邪悪なモノとなった黎子をなんとかしなければならないと思っていた。その役目を、お前のお陰で産まれた真琴が担ってくれるんだよ」



   *   *   *



 地面が激しく揺れた。

 華埜子が閉じた亀裂が再び開き、瘴気が噴き出した。

「ノッコ!」

 亀裂に飲み込まれそうになった華埜子の手を理煌が握った。

 そのまま空中に持ち上げて避難した。


 理煌の背中には炎の翼が燃え盛っているが、不思議と熱さは感じなかった。

「ありがとう」

「あたしだってこのくらいは」

「なんで攻撃に参加しいひんの?」

「それは……」


 理煌は胃液が逆流してくるような不快感に苛まれながらも、逃げ出したい気持ちと戦っていた。

 逃げると言っても、出入口の本堂が焼失してしまったので、自力では出られないことをまだ知らなかった。


 流風、澄、未空は、噴き出す瘴気を避けながらも攻撃の手を緩めない。

 邪悪なモノは悲鳴を上げるように変形を繰り返しながらも、なお巨大化し続けているように見えた。


「コントロールする自信がないのよ、大銀杏も燃やしてしまうし」

 理煌は視線を落とした。

「もう、イイんちゃう?」

「えっ?」


 華埜子が土を盛り上げて支えていた大銀杏の割れ目が広がった。

 土にヒビが入って崩れ落ちた。

 かろうじて立っていた大銀杏が、今度こそ左右に分かれて大きく傾いた。


 轟音と共に、幹が地面に激突した。

 砕けた枝と土埃が舞った。

 開いた根元から、邪悪なモノがさらに膨張しながら這い出ようとした。


 その瞬間、

 邪悪なモノの中央から、眩い輝きをまといながら獣が躍り出た。


 それは、口に虹色の珠をくわえた真琴だった。


 真琴は首を大きく振って、くわえていた虹色の珠を放り投げた。

 那由他がそれを大事そうにキャッチした。


「一気に出てくるで!」

 真琴が言い終わるや否や、邪悪なモノが急速に膨張し、大銀杏の根元からはみ出た。

 発せられた異様な妖気の圧に、攻撃していた三人は一時後退を余儀なくされた。


「理煌ちゃんの出番やで」

 華埜子が言った。

「え、理煌?」

「大銀杏は倒されたし、もう障害はないで」

 邪悪なモノは倒れた大銀杏を踏んで動き出していた。


「那由ちゃん!」

 華埜子は理煌の手から離れて、那由他にダイブした。

「ちょっとぉ」

 那由他は慌てながらも華埜子の手をキャッチして、紫凰の背中に放り投げた。


 紫凰の背中に着地した華埜子は、すぐに横たわる雫を見つけた。

 黒い毛皮に包まれて、穏やかに眠っているように見えるが、顔は土色だった。

 華埜子はかける言葉を失くして息を呑んだ。


「見せてあげてほしいんだよ、黎子が完全に消滅する瞬間を」

 雫がなぜこんな所にいるのか、誰が彼女をこんな目に遭わせたのか、聞きたいことはあったが、華埜子は紫凰の言う通り、雫の体を少し起こして下が見えるようにした。そして、

「理煌ちゃん! ぜんぶ焼き払え!」

 邪悪なモノを指差した。


 華埜子の叫びを聞いた理煌は炎の翼を大きく広げた。

「それでいいんだったら」

 そして翼を羽ばたかせた。


 大きな火の玉が発射し、邪悪なモノに直撃した。

 火の玉は爆発し、邪悪なモノの体を粉砕した。

 理煌は続けざまに容赦なく火の玉を繰り出した。

 その数だけ次々と爆発は起こり、邪悪なモノの姿が見えなくなるほど、激しい爆発の連続となった。


「ひゃ~、すごいやん」

「あたしたちまで焼き殺す気なの?」

 澄と未空はたまらず避難した。

「でも見て!」

 流風が指差した場所には、爆発で飛び散った欠片がうごめいていた。


「禁術で吸収されていた妖怪が分離したんや、あれもみな始末せな」

 人間の姿に戻った真琴が、いつものように髪を梳かしながら涼しい顔で言った。

「一匹たりとも残したらアカンで」

「ちぇっ、俺たちは雑魚の後始末か?」

「雑魚?」


 巨大な獣が未空の背後から牙を剥いていた。

 妖気を察知した未空は、危機一髪でかぶりつかれるところを回避した。

 すかさず流風が風刃を繰り出して獣を切り裂いた。


 周囲を見渡すと、そんな妖怪が不気味に目を輝かせて、うようよ浮遊していた。


「アレは!」

 結音はその中にひときわ大きな狼を見つけた。

「奴らにもう魂はないで、同族でも話は通じひんで」

 赤狼に気付いた真琴が冷ややかに言った。

「わかってるわよ!」

 結音の目は赤狼の耳に、ピアスのようにくっ付いている指輪に釘付けだった。


「ま、頑張りや」

 真琴は再び猫に変化して、金色の光の筋を残しながら空中に駆け上がった。

 それを見た華埜子は、すかさず真琴の背に飛び移った。


 理煌、流風、未空、澄も、邪悪なモノから解き放たれた魂の無い抜け殻の妖怪経ちと入り乱れて戦いを始めていた。

 華埜子も真琴の背中から、地の能力で地面を引き剥がして、霊力を込めた塊を妖怪に叩きつけた。

 結音も加わって、さながら妖怪大戦争の様相となった。


   つづく


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